結婚は人生の墓場というので全力で回避してみる
宴会も落ち着いてゲーリーさんとダイスくんに近隣の街や都市の話を聞かせてもらった。一応出ていくということは伏せておいて僕達は田舎ものなので色々聞かせてくださいとお願いすると得意げに話をしてくれた。
ここを出て西に行けば港町があるようでそこから南に船で数日揺られれば砂漠や熱帯の森に出れるらしい。物好きな冒険者くらいしかこちら方面には行かないらしい。船も月に1度ほどしか出ていない。
東の森を馬車で2日ほど揺られればスーの村に辿り着く。そこを起点に南に行けば魔法都市リア。北に行けば軍事国家ジャマルにあたる。ちなみにスーの村を真っ直ぐ東に進めばスーの大森林という深い森になっているようでそのまま東に抜ければ帝都へと続いているようだ。だが、この森を抜けようとする冒険者は皆無らしい。まず森の深さ故方角が分からなくなること。森の主が出ること。そしていたずらな妖精が出ること。
帝都に向かう場合はリアかジャマルを経由して東に向かうものらしい。
森を抜けれないっと。できれば魔法都市に行ってみたいな。
魔法都市はその名の通り魔法の研究を主とする都市で魔法学校や魔法研究所がありその都市に住む人族の8割は魔法使いなのだそうだ。種族として魔法に特化しているエルフもいるらしい。僕に対して是非行ってみるといいと勧められた。
軍事国家ジャマルは物々しいところらしい。別に隣国に戦争を仕掛けたりはしないようだが武力は帝都に負けないほど有しているようで、戦闘飛空挺や砲弾車など他国ではあまりお目にかかることのできないような物騒なものが平然と存在する。主に戦争をする相手は魔族になるようだ。
魔族と戦争って、そんな血生臭いことがあるのか。
僕の中ではスーの村を経由して魔法都市へ、それから帝都に向かうことで固まったが、さてさてタカシとマサルがごねなければいいが。
ここで面白い情報が入った。
1年に1回帝都では武闘大会が、魔法都市では魔術大会が開催されるようで武術大会の日程が一週間後から予選開始のようだ。話を横で聞いていたタカシが「なにそれなにそれ」と、ここまで黙って聞いていたのに身を乗り出して割り込んできた。正直面倒臭い。
「素手で一角牛を仕留めれるお前たちならいい線いくとは思うが、会場は帝都だからな。1週間では魔法都市くらいまでしかいけんよ。今年は諦めて来年出場するといい」
駄目だな。タカシの目がウキウキしすぎている。
1週間後には帝都に到着できるように考えるか。道中ダッシュで行けばなんとかなるのかな?
ふとゲーリーさんとダイスくんが席から立ち上がり入り口に向かって正対した。僕は何かと体を捻って入り口の方を見ると領主さんが警備兵を2人引き連れて入ってきた。僕もサッと立ち上がり軽くお辞儀をした。
「これはこれは領主様。このような場所に珍しく何かご用でしょうか?」ゲーリーさんが領主さんに尋ねる。
「盛り上がっているところすまないな」こちらに向かってくる「マーシー、と言ったかな。少し時間が取れないだろうか?」
領主さんの呼び出しだ。
「はい。大丈夫ですよ。急用でしょうか?」
ここでは冒険者達の目と耳が届いてしまうということでゲーリーさんが奥の個室に案内してくれた。タカシは残して奥の個室に向かう。マサルはまだ肉の前に陣取っていた。
「私も席を外しましょうか」ゲーリーさんが言うと
「いや、君もいてくれて構わない」
警備兵は表で待機。今僕の前に領主さんが座っていてゲーリーさんは腕を組んで横で立っている状態だ。
「マーシーよ、ウチの娘をどう思う?」
あ、駄目なヤツだ。このままこのイベントは放置して街を出ようと思ってたのにちゃんと逃げる前に発動しやがったか。
「どう?と仰られますと?」
「リザがのぅ。どうやらお主のことを想っておるようなのだ。今しがた『あの人と結婚します』と断言したところでな」
しねーよ。
「僕の住んでいたところでは結婚は16歳になってからです。流石に10歳の娘さんと結婚というのは」
「ああ、流石に今すぐ結婚というのは問題があるが、貴族間では婚約という形で結婚相手を10歳くらいで決めておくこともある。現にそういう話を帝都に持っていったこともあるくらいだ」
政略結婚か。帝都なんかのお偉い方と家族になれればそれなりの見返りは期待できるんだろうな。ただ流石に10歳に結婚は早すぎるようだ。早くても15歳くらいが妥当なようだ。
「それでしたら私は貴族ではありませんし、すぐに結婚をしようとも思っていませんので非常に嬉しいお申し出ではございますが、お断り、、」
ドタン!!
急に扉が開いた。
「お父様!!勝手に何をなさっているのですか!!」
娘登場。
「リザ。いや、これはリザのことを想ってマーシーに先に話しを通しておこうと」
「必要ありません!!これはワタクシの問題です!!」
すごい剣幕で領主さんを怒鳴りつけた後、一息ついてから僕の方に向き直した。
「マ、、マーシー様。少しお話しがございます。ワタクシ、、ワタクシと、、」
急に女の顔になったな。
「リザマイア様、様は必要無いと先程お話ししたでしょう」
「!?そ、、、そうですね。では、マーシー。ワタクシと、、ワタクシと、、、」
僕は座ったままだったのでスッと立ち上がった。リザマイアは目線を上げて僕を見上げながら
「結婚してくらちゃい!!!」
噛んだ、、、。
いきなりブロポーズをした領主の娘。
目の前にはこの街の最高権力者であり父である領主さん。
そして立会い人としてゲーリーさん。
すごい外堀の固め方だが。
「すみませんリザマイア様。残念ながらお受けするわけにはいきません」
「何故!!」
何故も爆ぜもない。
「リザマイア様は貴族の娘。私は一介の冒険者にすぎません。リザマイア様を冒険に連れて行くわけにはいきませんし私が簡単に貴族になれるわけでもありません。それになによりリザマイア様はお若い。これから色んな男性に出会って色んな経験をすることができます。こんなにお若い時に結婚という檻に閉じこもるのは少々判断が過ぎるのではないかと思います」
、、、これでいいか?なるべくやんわりと断ってみたが。
僕はチラッと領主さんとゲーリーさんを見る。2人ともうんうんと頷いてくれている。2人とも流石に結婚に賛成ではなかったようだ。
「大丈夫です。一緒に冒険者になる覚悟はできています」
そいつは無茶だな。
「死にますよ?あの一角牛に勝てるのですか?」
リザマイアは少したじろいだ。
「か、、、勝てます!!それに、マーシー様が守ってくれます!!」
面倒臭いなこの小娘は。
「領主様。女性の結婚は何歳からか決まっているのですか?」
「ううむう、流石に10歳で結婚というのはいささか早すぎる。貴族達や神殿の目を考えたとしたらせめて15になってからが妥当だろう」
「と、いうわけですリザマイア様。今回は諦めてください。結婚は一生モノですよ。まだまだ人生長いのですから色々と見極めてからでも遅くはございませんよ」
「いや!!マーシー様と結婚する!!」涙目で訴えてくる。
このガキ、、。
「分かりました。分かりましたリザマイア様。ただし、やはり今すぐ結婚は早すぎます。後5年です。5年経ったら僕はこの街に戻ってきます。その時にこの話の続きをしましょう」
逃げれるか?これで逃げれるか?
「グスン、グスッ。5年後?5年後に結婚してくれる??」
「リザマイア様がそれまで女を磨いて素敵な女性になられましたらお考えします。それでいいですね?領主様?」
僕は話を領主さんに振った。
「うむ。それでいいなリザ?もっともっと魅力的な女性にならんとな」
よし、逃げ切った。口約束に法的縛りはない。言ったもん勝ちだ。
リザマイアはぐっと涙を拭いて退室していった。領主さんも僕に軽く礼をするとリザマイアの後を追った。
「ゲーリーさん。後よろしくお願いします」
「ハハハ、すぐにでもこの街を出て行きたそうな顔をしているな」
「近々出ていきますよ。僕達は冒険者ですから」
宴会場に戻るとタカシの周りを目つきの悪い金髪くんのパーティが囲んでいた。タカシの機嫌が良さそうなので仲直りでもしたんだろうか?
「あ、マーシーさん!!」
金髪くんがわざわざ席を立って近づいてきた。他の3人も一緒にだ。
「数々のご無礼申し訳ございませんでした。身の程を知らない態度をとってしまって頭があがりません」
お、随分下手に出たな。
金髪くんたちは僕達のあの無双っぷりを見て生意気なルーキーから憧れの冒険者まで一気にランクアップしたようだ。
「マーシーさんと一騎打ちができたなんて自慢にできます」その後掌返して4人で掛かってきたけどな。
もう半数以上の冒険者が飲みつぶれているか、帰路についていたため僕達も宿に戻ることにした。ゲーリーさんにお礼を言って最後までデカい皿と格闘していたマサルを皿から引き剥がし3人でギルドを後にした。
宿に着くと
「おかえり!!」
「おかえりなさい」
と、元気なミリアちゃんとリアちゃんが出迎えてくれた。
「外で一悶着あったみたいだけど大丈夫だったの?」
リアちゃんが心配そうに聞いてきたが、外でのあの出来事はまだ直接見たものくらいにしか伝わってないようだ。
「別に問題はないですよ。いつも通り」
と僕は答えて2階に上がる。
タカシとマサルを僕の部屋に呼びベッドと椅子に座らせて僕も腰をかけた。
「明日この街を出る」
僕は切り出した。
「おう。異論はないわな」
「食い溜め、じゃなかった。買い溜めしとかないとな」
今日は色々あって3人共疲れていたし、酒もかなり回っていたのでそれだけ伝えて準備も行き先も明日ってことにした。
タカシとマサルはフラフラと自分の部屋に向かった。そのまますぐにバタンキューだろうな。
僕も服装を寝巻きにチェンジしてバタンとベッドに横たわった。僕は布団に潜りながらステータスを確認してほくそ笑む。この辺りではもうレベルアップの見込みもあまりなかったが、最後にいいボーナスステージに出くわしたな。僕のレベルは19まで上がっていた。
スキルの振り分けなんかは明日にしよう。もう眠い。
僕は重くなった瞼を閉じてそのまま夢の世界へ堕ちていった。
あれ?家の近くの公園だ。
夢から覚めた!?
ないか、、、目の前にいるタカシが小学生時代の姿をしてる。
お、こいつはヤマトだな、
タカシ(小学生)の持つリードに繋がれた真っ白なフワフワの毛を持つ狩猟犬のような犬だ。
目の前にいるヤマトは10年くらい前のヤマト。ヤマトは今も健在で若い頃に比べて風格が桁違いだ。ヤマトにはサクラという子供がいるので目の前にいるヤマトはサクラによく似ている。サクラも真っ白なフワフワの毛が特徴的だ。
昔はこうやって公園に散歩に連れてきているのによく同行していたよな。
タカシの家の入り口にある犬小屋でいつも昼寝しているヤマトは誰かが入り口に近づくとノソッと起き上がる。そして来客が僕達や身内の人間だとまたペタンと横になる。しかし知らない人間が入ろうとすると鋭い目つきをしながらワンワンと吠えだす。できた番犬だ。子供の方のサクラは誰が近づこうとキャンキャン吠えだしてジャレてくる。番犬としては不合格だがかわいいもんだ。
僕はタカシ(小学生)の連れたヤマトに抱きついてフワフワの毛並みを堪能する。特にジャレてもこず、威風堂々凛とした態度だ。
「抱きつくなよ、暑苦しい」
・・・・・・・・・・ヤマトが喋った。
そこで目が覚めた。
窓から陽が射して眩しい。
「なんちゅう夢だ」
ステータス画面を開いて時間を確認すると8時半。あいつらもそろそろ起きてるだろうな。
僕は服装を無地のロンTとスウェットのズボンに着替えて1階に降りた。
「あら、おはよう。今日も3人共早いわね」
タカシとマサルはすでにカウンターで朝食に舌鼓だ。おっ、今日はサンドイッチか。
「今日この街を出るんですってね。残念ね、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
もう言ってたのか、口が軽い。
「色々ありがとう。また戻って来ますよ。ここは俺達の原点ですから」
「また来てくださいね。待ってます」
と、横からミリアちゃんがコーヒーを差し出してくれた。
んん、うまい。
「マーシー、すぐに出るんか?」
「なるべく早い方がいい。とりあえずギルドで昨日の牛を売っぱらったらすぐに出ようと思ってるよ」
知り合いはほとんどいないから挨拶する人間もいないしな。一応ゲーリーさんにだけは挨拶していくかな。お、このサンドイッチ旨い。
朝食を平らげて部屋に戻って外着に着替える。アイテムボックスからそのまま着替えるだけだから部屋に戻る必要はあったのか謎だ。さて、ギルドに行くか。
タカシとマサルを連れて1階に降りると出向えてくれた。またここに来ることもあるのかな?ひょっとしたら2度と来れないかもな。
「いってらっしゃい」
「怪我には気をつけてね。いってらっしゃい」
また戻って来よう。門番のモルさんもいい宿を紹介してくれたもんだ。ちゃんとモルさんにも挨拶していこう。
「いってきます」
僕達はギルドに足を運んだ。




