格闘家でもいけるか
第二王女リンの部屋をノックする音が響いた。
「はい、どうぞ」
リンがその音に答えて返事をするとバタン!と急に扉は開き、目元から下を黒い布で覆った短剣を二刀流で持つ黒ずくめの男が椅子に座ったリン目掛けて襲い掛かった。
「キャッ!!」と、リンは悲鳴を上げた。
ガキン!!!
その男の短剣がリンに触れる手前で壁のようなものに弾かれる。
「真正面から堂々と襲って来るなんてアンタ馬鹿なの?」
エルムだ。
ガキン!キィン!
と、男の振るう剣はその壁を切りつけるがその刃はリンには届かない。
そしてリンの後ろに立っていた僕とその黒ずくめの男の視線が合った。
「暗殺というよりは、ただの暴漢だな」
パラライズ
男はグッ、と呻き声をあげてその場に倒れ込んだ。
「やるな、エルム。リン、無事か?」
「マーシーさん!!」
「暗殺にしては殺気をまき散らしすぎね。やる気あるのかしら?」
「そうだな、やり方がずさんすぎるな」
リンは僕に抱き付いてきた。
「リン、護衛はどうした?エルムがいなかったらお前は死んでいたぞ」
「そ、そういえばアニーは廊下にいたはず・・・」
僕は扉を開いて廊下をすぐに確認した。
そこにはうつ伏せに倒れているアニーの姿があった。
死んではいない。おそらく頭部を殴られて気絶しているんだろう。
ヒール
アニーにヒールをかけて部屋に戻り目を覚ましたアニーに今の状況を説明した。
「も!!申し訳ございません!!私がいながら!!」
「だ、大丈夫よアニー。無事だったんだから」
「まぁ襲ってきた暴漢は結構腕が立つようだったからな。仕方がない」
僕はパラライズをかけた暴漢に目を向けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・口元から血を流して死んでいる。
毒でも飲んで自害したのか・・・・。
失敗したら迷わず自害するような徹底した賊か。
ドォン、ドォン
と城の各地で爆発音がし、建物がガタガタと揺れた。
「ここに来たヤツは門を入ってそのまま迷わずこの部屋に向かってきていた。他の賊もそれぞれの狙いがあるんだろうな」
「そんな・・・・お父様!お父様は今ずっと寝たきりなの!」
「王様なんだからそれなりの護衛が近くにいるんじゃないのか?」
「見張りの兵は何人か配置されているけれどお父様の近くにはあまり配置されていないの!」
エルムが話しを付け加えてきた
「リンちゃんの言う通りよ。この国では一番強いのはその時の王。王がわざわざ強い護衛をつけたりしないのよ。護衛が0ってわけではないと思うけれど、腕の立つ侵入者が王様まで辿り着いたら危険ね」
第一王子第二王子は聞いた実力的にこれくらいの侵入者なら問題ない。ロンにはタカシが、メイメイにはマサルがついている。
そうなると今この状況下で一番気に掛けることと言えば王様への襲撃か。
「リン、王様の部屋は?」
「お城の一番奥の最上階。月の塔に一番近い建物の一番上!」
チッ、広くていまいち分からん。月の塔に向かって行けばそれらしい建物が分かるか。
「リン、様子を見に行くか?」
「お願いします!連れて行ってください!!」
「アニーちゃんはここで待機な。この辺りにはもう賊はいないから大丈夫だとは思うが、何があるか分からないからここから出るなよ」
「な!お嬢様を危険な目に遭わせられません!」
「ダメだ。俺が1人で行っても俺が逆に賊に間違われるだけだ」
「大丈夫よ、アニーはここに居て!マーシーさん!早く向かいましょう!」
「ああ、悩んでる暇はない」
僕はリンを抱えて窓から外に出て空へと浮かぶ。
月の塔は夜でもぼんやり光っているため目印にはちょうどいい。
突風
真っ直ぐに月の塔へと向かうとお城の数か所から火の手が上がっているのが見えるがチラッと見ただけで素通りし、目標の高い建物を発見した。
「リン!どのあたりが王様の部屋だ?下から入るのは面倒だ、壁に穴を開ける」
「え!?ああああ、あの一番上の窓の部屋です!」
「よし」
風魔法で一気に高度を上げようとしたところ。
ものすごいスピードで迫って来る槍が僕の目の前を通過していった。
その槍の発射地点を見ると城の庭に数人鎧姿の人影が見える。この暗闇の中なのに中々良い腕だ。けれど構っている暇はない。
ダーク
広範囲に薄く壁のようにダークを展開。
真っ黒の壁でこちらは全く見えなくなっただろう。向かった先までダークを伸ばして僕は完全に暗闇に隠れる。
目標の窓に到着。
「先客がいるな」
僕は壁に手を触れ土魔法で大きな穴を開けた。
ギギギギギギッと、石がこすれる音を鳴らして壁の穴から中の絨毯のひかれた部屋に着地した。
なんだ?この部屋違和感がする。
僕はベットに視線を向ける。腰から下は布団に入りベットに掛けている初老の男性。おそらくコイツが王様かな?
そして扉の前に立っている人物。神父のような紺色の礼装の60代くらいの男性だ。
「誰だ?貴様」
「俺はリン王女の護衛だ」
「お父様!!」
「こっちに来るんじゃない!リン!!」
王様が叫んだ。
リンの足は止まる。
「リン王女が王様の身に危険があるかもしれないと、急ぎはせ参じさせていただきました。ご無礼をお許しください」
僕は扉の前に立っている男から視線を外さずに王様へ言葉を伝えた。
「青年、リンを連れて逃げろ。この男は危険だ。今、下で起きている騒ぎもこの男の手引きのはずだ」
そう言われた男はニヤリと笑って口を動かした。
「王よ、まだ続きがあるのですよ」
扉の前の男の周りの床が底が抜けたように真っ黒になった。
するとそこから目の血走った犬型の獣人が5人ゆっくりと這い上がってきた。
荒い息をし、手にはよく切れそうなダガーナイフを握っている。
「ヒィッ!」
リンが声をあげた。
「城内に賊が侵入。城のいたるところを破壊。王子王女にも被害が出る。その最中侵入した賊が王の寝室に忍び込み王を抹殺。この国は新しい王を迎える」
「王は病で死期が近いと聞いていましたが、わざわざこんなことをしてまで王を亡き者にする理由なんてないんじゃないか?」
「次代の王は決まっている。他を指名されるわけにはいかないのでね」
索敵の反応ではここに昇って来るヤツはいない。
この建物の一番下に複数人留まっていることから誰かが下で足止めをしているかもしれない。
「リャン、分かっているのか。ここで儂を殺せると思っているのか?」
リャンってことは・・・・・宰相か。
「王よ、分かっていないのはあなただ。私がここまで考えてあなたの魔法を封じないとお考えか?」
王様の体からバチバチッと紫電が走ったがそれ以外なにも起こらない。
おそらく何か魔法を使おうとしたが魔力が乱されて使えなかったようだ。
「くっ、魔封じか・・・」
さっき部屋に入った時の違和感はこれか。
「ええ。だからこちらは獣人を用意したんですよ。まぁ獣人に罪をなすりつけるためでもあるんですがね」
『エルム、さっきのガードは使えるか?』
『私のは精霊魔法だから大丈夫よ』
『分かった、任せた』
「王よ、あの世でこの国の行く末を見守っていてください」
ニヤッとリャンは口角をあげる。
「殺せ」
「イヤーー!!お父様!!」
「来るな!!リン!!」
「いや、そのまま行け!!リン!!」
僕はリンを抱えて王様の方へ放り投げた。
獣人たちは跳びあがり王様目掛けてダガーナイフを振るう。
ベットに掛ける王様に、飛んできたリンが抱き付くと王様はリンをかばう様に抱きかかえた。目を瞑り覚悟した王様だが、獣人たちのナイフは王様たちの目の前の薄っすらと光った壁に全て遮られた。
「なんだ!」
僕はリャンのすぐ横から
ドン!!
わき腹へミドルキック。
廊下へ吹き飛ばされてうずくまるリャン。
魔力を乱されるってどんな感じなんだろうな?
「サンダーボルト!!!」
僕は魔力を乱される中、抗うように雷魔法を放つ。
バリバリッ!!バチバチッ!!と思ったようには放出できない雷だったが広範囲、出力強めで出したサンダーボルトは部屋の各所を焦がしながらランダムに部屋の絨毯、壁、机を破壊し、焦がし、獣人3人を背後から襲った。
王様とリンはエルムのマジックガードの中にいるため魔法は届いていない。
ギャン!ギャッ!
と3人の獣人は悲鳴をあげ、その場に倒れると同時に僕は1人の獣人の後頭部をハイキックで襲撃し、残る1人は膝をボディに打ち込んだ後、位置の下がった頭部への肘うちで昏倒させた。
中々僕の体術もいけるじゃないか。スピードは999オーバーしているし、力もLV3までしかあげてないが400はあるわけだしな。
僕は廊下に倒れているリャンの元へと向かった。
そこにはすでにリャンの姿は無かった。
「判断が速いじゃないか」
僕はチッと舌打ちした。
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