女の子をホテルへ連れ込む。下心なんてない
『月の加護』持ちのハーフエルフ、レイファン。
コイツは手持ちにしておくだけで僕の切り札になるような気がする。こんなヤツが自然と寄ってくること自体おかしい。
この世界に来てから起こる事象はそれなりに意味のあることばかりで、きっちりストーリーに乗っ取ったことが多い。
そう考えればレイファンも今回の重要人物の1人と考えてもいいはずだ。
まぁなにもなければなにもなかったでその時はその時。どこかに捨てていこう。
「条件次第ではこの指輪を譲ってやってもいいが」
「本気?それってマジックアイテムでしょ?結構な価値があると思うんだけど?」
「だーかーらー。条件次第だって言ってるんだが」
索敵で近くに誰もいないことを確認しておく。
さっきの情報屋からも結構離れているし、周りには誰もいないな。
「条件?条件って何よ?まさか!私の体が目的なの!!私、胸も小さいから満足なんてできないわよ!はっ!そういうのが好きなヤツなのね!くっ!ぬかったわ。こんなところにこれほどの変態が潜んでいたなんて」
「ひとりで勝手に盛り上がるなよ。そんな条件でコイツを渡すわけないだろう」
「そんな条件ですって!!私の体はスベスベで触り心地満点なんだから!!娼婦になれば一躍トップに躍り出るほどよ!」
「その胸じゃ無理だと思うぞ」
「女は胸じゃないのよ!!男ってホントどいつもこいつも!!」
「おい、話を戻すぞ。俺は冒険者で、今は仕事中だ。その仕事を手伝うっていうならこの指輪を譲ってやっても構わないと言っているんだ」
「仕事?どういう内容なの?」
「それは言わない」
「怪しすぎるわね」
「よし、それじゃあ前金で金貨10枚も出そう」
「え!?金貨10枚!!」
僕は右手に金貨10枚を取り出した。
「ちゃんとした依頼として君を雇おう。君の魔法とそのスピードは期待できると俺は判断している。受けてくれるのならまず金貨10枚を前金で渡す。そして依頼終了時に成功失敗に関わらずこの指輪は君に譲ろう」
「話しが美味すぎるわね。絶対なにか裏がありそう」
そりゃあね。『月の加護』持ちのハーフエルフっていう駒が僕の手元に置けるっていう利があるからね。
「すまない、条件を1つだけ足させてもらおう。君がこの指輪を狙っている理由を教えて欲しいな」
「指輪を狙う理由・・・・・・」
やはり何か理由がありそうだな。お金だけじゃなさそうだ。
「ああ、それと言っておくが。もしもこの話しを断った場合は」
「こ・・・断ったら?」
「とっつかまえて、その頭のヘアバンドをはずして俺の指輪を取ろうとしたことを王族に話してお城に突き出そうかな」
バッと頭の帽子を手で掴むレイファン。やっぱり耳を隠しているのか。ハーフエルフも耳がとがっているんだな。
エルフだってこの国では邪険に扱われる。ハーフエルフだって同じだろう。
「嘘じゃないぞ。王族にはコネがあるんだ。あ、別にここから猛ダッシュで逃げる選択肢もあるな。いいぞ、やってみるか?多分俺の方が速いぞ。逃げれるもんなら逃げてみるか?」
これは嘘じゃない。
「何よそれ・・・。脅し?」
「かなりの好待遇で仕事を手伝って欲しいって言ってるんだぞ。それに、君が指輪を奪おうとしたことは間違ってないだろ?盗人さん」
険しい顔で歯を食いしばっているレイファン。少々気の毒になってきた。
「むむむむむ・・・・・・・・・・・・・・・いいわ。手伝うわ」
「よし、交渉成立だな」
僕は金貨10枚をレイファンに手渡した。
「え!?ほんとにくれるの??」
「そう言っただろ?どこかでゆっくり話せるところに行こうか。お互い聞かれたくない話もあるだろ?こんな道端じゃな」
「ええ・・・。分かったわ」
僕はレイファンを連れて森林地帯から街の方へと向かった。
とりあえず個室のある店か、もしくはホテルにでも戻ろうかと考えた。
森林地帯を抜けて建物が並ぶところまで戻ってきた。
僕の横には白いワンピースに真っ白な帽子をかぶった女の子が並んで歩いている。
まるでデートのようだ。
「どこか良い場所はないか?ゆっくり話のできる場所は?」
「店はダメね。どこに耳があるか分からないし。こんなことなら人目のつかない森とかで良かったかも」
「君の家はどうなんだ?どこに住んでるんだ?」
「教会よ。あそこはダメよ。皆がいるもの」
教会か・・・・・。マサルの居た教会は獣人亜人が居るって言っていたか。そこかな?
「それじゃあ仕方ないな。今日の朝まで俺が居たところにするか」
「何処よそれ?」
「ああ、ここだ」
僕は目の前の豪華なホテルを指さした。
「嘘・・・・・。ここ・・・・・・?」
「ああ、じゃあ入ろうか」
「ちょちょちょちょ!待ってよ!!いきなりすぎるわよ!!」
「ん?ああ、安心しろ。金は俺が払うよもちろん」
「ちっがーーう!!男と女がホテルの1室に泊まるのがおかしいって言ってんのよ!!」
「安心しろよ、泊るわけじゃないから。ちょっと話をするだけなんだから」
「なによその『ちょっとだけ、ちょっとだけだから』みたいな言い方!!」
「うるさいな。前金も渡したんだからとにかく付いて来い」
僕はレイファンの首を掴んでホテルへと入ってチェックイン。カギを受け取った。
そのあいだレイファンはカッチカチに固まりながら何も話さず顔を真っ赤にしていた。
僕は今ソファに座ってレイファンと向き合っている。
テーブルには僕のアイテムボックスから出したオレンジジュースが置いてある。二つのグラスにそれを入れてひとつはレイファンの前に差し出した。
「何顔赤くしてんだよ。襲ったりしねーぞ。歳考えろよ歳を」
「うるさいわね!!男と2人でホテルに入ったことなんてこっちはないのよ!!」
「先に風呂入るか?」
「ヒィッ!!」
なにやら体を隠して身をよじるレイファン。だめだだめだ、からかいすぎたか。
「冗談だ。とりあえず話を始めようか」
「ち・・・近づいたら刺すわよ・・・・」
レイファンはナイフを取り出した。
「先にお互い自己紹介しておこうか。そういえば名前をまだ聞いてなかったよな?俺はマーシーだ。帝都から来た冒険者だ」
「私はレイファン。あんたの予想どおりエルフよ。けれど普通のエルフじゃないわ、ハーフエルフ。人間の父親とエルフの母親から生まれたハーフエルフよ」
「そうか、ハーフエルフか、分かった」
「・・・・・・・・あまり驚かないわね?結構珍しいらしいんだけど」
「そうなのか?居てもおかしくはないと思っていたからな」
むしろ響きがいいと思う。ハーフエルフ・・・・・・。いいな。
「なにか邪なこと考えてない?背筋がゾッとしたんだけれど?」
「そんなわけないだろ。あ、耳はやっぱり尖がってるのか?」
「ええ」
レイファンは帽子を横に置き、頭に巻いていたヘアバンド風の布を取り外した。
おお、エルフの尖がった耳だ。この姿じゃ普通のエルフと変わりないな。
「あ、それじゃあ俺も」
僕は右手の赤い指輪を取り外した。
すると体に纏われていた魔力が指輪へと吸い込まれる。
「え!?金髪が黒髪になった・・・・」
「と、いうわけだ。こっちが本当の俺な。残念だな、イケメンじゃなくて」
「何よそれ?その指輪って姿を変えれるの?」
「なんだ、やっぱり知らなかったか。こいつは『変化の指輪』っていうマジックアイテムだ。周りから見る姿を変えられるんだよ。便利だろ?」
「そ・・・・その指輪・・・・・・・・・・・めちゃくちゃ高いんじゃないの??」
「おそらく売ればスゴイ値になるだろうな。金貨10枚なんて目じゃないくらいには」
「本当にくれるの・・・・・?」
「もちろん、きっちり仕事をしてくれたらな。途中放棄は許さんからな」
「わ・・・・わかったわよ・・・・・。仕事はちゃんとこなすわ」
「それじゃあ、とりあえずこっちから話すぞ。ちなみに話を聞いてからやっぱり抜けたなんて言うなよ。俺は今から結構驚くような話をするぞ」
「いいわよ。金貨10枚簡単に差し出してその変化の指輪もくれるっていうんだからそれなりなことなのは分かってるわ」
「俺は今王位継承争いに首を突っ込んでいる」
「いやーー!!帰りたい帰りたい!!」
ソファにうずくまってレイファンはガクガクと震え出した。
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