それは知ってる、それも知ってる。
ふと僕は思い出した。
御者の少年にこの国に数日滞在することを伝えていないな。
しかし、今僕には尾行がついてる状態だし・・・。
御者くんと関わると彼の危険にもつながるだろうから接触せずに放置させてもらおう。
チップははずんだからそのままこの国に滞在するもよし。1人で帰っても別に問題はない。新たに馬車を調達すればいいだけだ。
僕は4区と呼ばれる場所へと足を向けている。
尾行は相変わらずついてきていた。
4区は見た感じ商店街のようで店が多い。
飲食店ではなく、鍛冶屋、武器防具屋、道具雑貨屋がズラリと並んでいる。
店の前や路地には露店商も多くアクセサリーやマジックアイテムが並んでいたりする。
しかし、この中のどいつが情報屋なのだろうかと考えてしまう。
まぁ僕には関係ないか。
識別で対象のステータスを確認すると、露天商の何人かは職業が情報屋だったりする。
情報を買う時の合言葉とかあったらどうしよう。
僕は路地を入ってすぐのマジックアイテムを並べた露店の商品を覗き込むようにその情報屋の前に座り込んだ。
「兄ちゃん、何か欲しいものでもあるのか?」
この情報屋にしたのは周りの情報屋に比べて若干目の前の情報屋がレベルが高かったからだ。
「今この国に起きてることを聞きたいんだけど?」
「・・・・・・・・・あんた冒険者か?」
「はい。ちょっと知り合いが厄介ごとに巻き込まれてまして、今この国がどういう状況なのか早急に調べる必要ができたんです」
「いくら払う?」
「あなたの話せる情報全部でいくらですか?」
「・・・・・・・・・・金貨1枚は必要だぜ」
僕は金貨2枚を男の手に握らせた。
「まじか・・・・・どっかのボンボンか?」
「いいや、ただの冒険者です。次からは適正価格を支払うから次回からは足元をみないでくれ。それと、信憑性の高い情報を頼む。こういう商売は信用も大事だろ?」
「分かったよ。なんでも聞いてくれ」
「今起きてるこの国の王位継承争いについてだ」
「そんなもんギルドで聞いてもある程度分かるぞ」
「一般には出回ってないあんたの持ってる情報も聞きたいんだよ」
「・・・・・・・・・分かった。そのまま目線は商品に向けたまま聞け。この国の王が今病気で老い先短い。明日明後日にポックリ逝っちまっても不思議じゃねーくらいだ。この国の王の決め方は簡単だ。王が直々に次の王を決めて継承するか、もしくは王を殺したものが次の王になるパターンだ」
「後者の方は周りが納得しないんじゃないのか?」
「もちろんだ。だから王を殺した場合は周りの人間を自分に従わせるために別の勢力の人間を制圧する必要がある。金、力、もちろん話し合いもありうる。本来ならじっくり時間をかけて自分の配下にするもんだが今は一刻も争う状態だな」
「王が病気で死んだ場合はどうなる?」
「一緒さ。王が死ねばおそらく王子が「俺が王だ」と宣言する。それが複数いれば」
「戦争になる・・・・か」
「そうだ」
「今この国の王位継承権のあるものを全員教えてほしい」
「このあたりはこの国の人間なら大概知ってる情報だが、第一王子ホウリュウ・リーエン、25歳。第二王子シリュウ・リーエン23歳。第一王女メイメイ・リーエン19歳。第二王女リン・リーエン13歳。第三王子ロン・リーエン10歳。5人とも今の王の子供たちだ」
「それぞれの特徴は?」
「第一王子ホウリュウは剣の腕もさることながら頭が良い。この国の政は王に変わってホウリュウが治めていることが多い。あと、常に無表情の2人の女性を付き従えている。第二王子シリュウは暴れ者だ。腕っぷしは兄のホウリュウと並んでこの国のトップ、槍の名手だ。物事を基本暴力で解決するタイプだ。まぁ頭は悪いだろうな。こいつの周りには7人の親衛隊と呼ばれる槍使いがいる。7人のウチ常に誰かと行動を共にしている。第一王女メイメイは兄弟一の変わり者だ。獣人を護衛に連れていたり、噂では獣人亜人の奴隷を買い漁っているらしい。人間嫌いと言われているな。人に対する視線が恐ろしいほど冷たい。第二王女リンは、まぁ子供って感じだな。ホウリュウ、シリュウ、メイメイ、ロンにはそれぞれ担ぐ人間がいるんだが、リンにはそういうのはいない。王位から最も遠い存在だな。最後にロン。こいつもまだまだ子供だが、ホウリュウ、シリュウ、メイメイの3人に比べると人間味があるというのかな?この3人は他人に対して本当に興味を持っていない感じで、呼吸をするように人を殺せるタイプだ。だがロンは周りの人間を尊重し周りの人間のために動けるできた子供さ。だから第三王子ではあるがロンにつくものも多い」
「ホウリュウ、シリュウ、メイメイの3人が人格に問題あるように言っているが、ホウリュウは頭もいいんだろう?まともに聞こえるが?」
「ホウリュウはきな臭い噂が多いんだよ。付き添っている2人は心が壊されているとか、なにやら人間の人格を作り替える研究に手をだしているとかな」
「なるほど。5人の王位継承者たちか」
「ここからはまだ出回っていない情報だ」
そういうの待ってた。
「昨日の夜にロン王子の乗っていた馬車が盗賊に襲われたらしい。護衛が数人死んだらしいが無事城まで戻れて大事には至らなかったということだ」
それは知ってる。
「あと、同じ時間帯にリン王女も盗賊にさらわれたという情報もある。こっちはそういう情報があがったのにも拘わらず夜中にはリン王女は部屋に戻っていたらしかったからデマかもしれないが」
それも知ってるな。
「この2つの誘拐に関与している可能性があると言われているのが、ホウリュウの側近のエンジというヤツだ」
そうそう、そういうのちょうだい。
「このエンジというのは1年くらい前にホウリュウの配下になったヤツなんだが、それまでの経歴が調べても出てこない。しかしホウリュウはエンジを重宝し続け、この1年で側近の1人としてかなり頼られた存在になっている。王が病気に伏せったあたりから各方面にコソコソと手を回しているらしい。あとは秦国の宰相のリャンってじいさんもコソコソ動いてるってことだけは分かっている」
「そのコソコソは何をしているのかは分からないのか?」
「いまいち王位継承と関係あるか分からないが、奴隷を買い付けたり、マジックアイテムを納品したり、侍女を処刑したりとかだな。しかしどれも王が病気に伏せってから慌ただしく動いてる感じだ」
「そうか・・・・・。そのマジックアイテムに封魔錠は入っているか?」
「エンジの買い集めたものの中にあったはずだ」
「そうか・・・・・・・何か他には?」
「そうだな、こちらから提示できる情報はこれくらいだが・・・・・・逆に何か聞きたいことはないか?」
「獣人亜人がこの国で嫌われている理由は?」
「こればかりは昔からそうだとしか言えないな。大昔この国の人間と獣人亜人の国とで戦争があったらしい」
「ちなみに、ハーフエルフってのはこの国にいるか?」
「ハーフエルフ?人間とエルフのハーフだよな?聞かないな。奴隷商にならいるかもしれないが、俺は聞いたことがないな」
「王族や貴族にエルフがいるって話しは?」
「流石にこの国じゃありえねーだろうな」
そうか、それじゃあ。
僕を尾行しているハーフエルフは一体なにものなんだろうか?
『月の加護』を所持しているんだが。
「ありがとう、参考になったよ」
「もういいかい?値段分話せてないが」
「大丈夫。余分に渡した分は何かいい情報が入ったら優先的に話してくれればいい」
「そうかい。けれど、あまり王族の話に首を突っ込まないほうがいいぞ。第一王子、第二王子あたりに目をつけられたら命がいくつあっても足りないぞ。知り合いが巻き込まれてるんならソイツを連れて早いとここの国を離れることを勧めるよ」
「忠告ありがとう。また何かあれば来るよ」
僕は銀貨を一枚置いて目の前のポーションを1本手に取って立ち上がった。
「まいどあり」
情報屋のおじさんは最後にそう声をかけた。
さてと、それじゃあそろそろ尾行されてる理由を聞いてみようかな。
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