このお守りで我慢して
僕はリンちゃんという王女さんを抱きかかえて一本の木の上に立っていた。
目の前には城の城壁が見えており、リンちゃんはこのお城を指さしている。
「リンちゃんの家はここってことでいいんだね?」
「はい。ごめんなさい」
「別に謝ることではないけどね。とりあえず門番に引き渡せばいいかな?」
「いえ、あそこに見えるベランダ。あそこに下ろしてもらえれば。あそこが私の部屋なんです」
「この城壁を越えたら警報とか鳴ったりしない?」
「大丈夫です。私もたまに勝手に出たり入ったりしてます」
「勝手に・・・・か」
なかなかに、じゃじゃ馬なお姫様なのかな?
この暗闇なら目撃されても僕の特定はされなさそうだし、大丈夫か。
「それじゃあ行くよ。しっかりつかまっててね」
レビテーション
突風
風に乗って城壁を越える。
そのままゆっくりとベランダに着地。
「はい、到着」
リンちゃんをゆっくりと下ろした。
ベランダの窓は足元から2メートルくらいの扉のようになっていて少し隙間があいている。いつでも抜け出せるようになっているのか。
!?
「リンちゃん、襲われた後だし何かあるかもしれないから僕が先に部屋の確認をしてもいいかな?」
「え!?え!?部屋を見るんですか!キャッ!どうしよ!殿方に私の部屋を見られるなんて!綺麗にしてたかな・・・」
真っ赤になってモジモジしているリンちゃんを放置して僕はゆっくりと窓を開けて中に一歩足を踏み入れた。
僕の首元にレイピアのような細い突剣が突き付けられる。
「そのまま動くな。お嬢様をゆっくりこちらに引き渡せ。妙な動きをすれば殺す」
女性の声だ。窓のすぐ脇のカーテンに隠れたところから突剣を突き出して怒気のはらった声で僕に指図してきた。
「アニー!待って待って!その人は助けてくれてここまで送ってくれたの!」
咄嗟にリンちゃんが声をかける。
キッと僕を睨んだアニーと呼ばれた女性は止めに入ったリンちゃんを手で引っ張り中に入れると僕の首に突き付けた突剣は下げずに僕と相対し、自身の後ろにリンちゃんを誘導した。
「お嬢様の部屋に男性を入れるわけにはいきません。お引き取りを」
アニーは茶髪のショートカットで真っ白な胸当てをした綺麗な身なりの女性だった。男性なら騎士と言う言葉が似合いそうだが女性ならなんていえば良いのだろうか?
「一応言い訳をしておくけど、部屋の中から君の殺気がしたから俺が先に入ったんだよ。君が賊の類なら折角救ったリンちゃんがまた襲われるハメになるわけだからね」
「アニー!剣を下げなさい!命令よ!この人は私の命を救ってくれた恩人よ!無礼はゆるしません!」
「お嬢様・・・・・クッ!・・・」
ゆっくりとアニーは剣を下げた。
「君はリンちゃんの護衛かな?」
「そうよ。あなたのような男からお嬢様を守るのが私の役目よ」
「そうか、なら忠告しておく。その子は今さっき5人組の盗賊にさらわれていた。『封魔錠』を用意するくらい周到なやり口だ。殴られて顔には痣ができ、ナイフで顔を切られて重傷だった。君は護衛なのだろう?なぜ一緒にいなかった?護衛失格なんじゃないのか?」
「ごめんなさい、やめてあげてマーシーさん。アニーは悪くはないわ」
「え!?お・・・・・お嬢様」
ボサボサに乱れた髪、泣きはらした顔。衣服もボロボロになっている姿をアニーは見た。
「傷は俺が治した。回復魔法が得意でね」
「も・・・・申し訳ございません!お嬢様!!私が!私がいながら!!申し訳ございません!!」
「ごめんなさいアニー。いつも通り出ていった私も悪いの。マーシーさんもあまりいじめないで。お願い」
「悪い、言い過ぎたかな。それじゃあ俺は行くよ。1人で勝手に出歩かないようにな」
「まままま待って!そそそそうだ!お茶を!お茶を飲んでいって!アニー!すぐにお茶の準備を!」
「はっ、すぐに」
アニーはさっさと部屋を出ていった。
「リンちゃん。攫われたことはすぐに誰かに相談するんだよ?お父さんとかいるんだろ?」
「う・・・・うん」
歯切れが悪いな。
「誰にも相談できない理由でもあるのか?あと、心当たりとかは?」
「今のこのお城の中じゃ外と同じことが起きてもおかしくないから」
随分ときな臭い言葉だな。
「外でもお城の中でも命を狙われる可能性があると?」
「うん。ここの人は今全員ピリピリしてるから。アニー以外信用できない」
「そっか・・・・・」
「マーシーさん!マーシーさんにお願いがあります!!」
「護衛はひきうけないよ」
「・・・・ううううう、そんなぁ」
どうするか?
首を突っ込むべきことなのか?
こんな時に限って選択肢はでてこないし。
一応まだ本人からは王女であるとは聞いていないが、今この城で起きている騒動の要因はおそらく次期王様争いで間違いないと思うんだけど。
一応知り合って助けた仲だから、保険くらいはかけておくべきかな。
知らない間に殺されてましたじゃ寝ざめが悪くなるよな。
「エルム」
「はいはーーい」
僕の目の前にエルムが元気よくでてきた。
「!?嘘!妖精さん!!」
リンちゃんが驚いて・・・・・いや、目を輝かせてエルムに近寄った。
「と、いうわけでエルム任せた」
「なにが、と、いうわけよ」
「リンちゃん。このお城の中は危険だということは分かったから俺からのプレゼントだ。ただ、あげるというわけにはいかないけれど、護衛としては申し分ない。この小ささならポケットにも入るしな」
「よ・・・妖精さんが守ってくれるの・・・?」
『マーシー、この子の魔力・・・』
『ああ、この歳でこの魔力はすごいな。俺の師匠なみだ』
『だから私のことを一目で目視できたのね』
『さっき別の所で確認した時はこんなに魔力の数値は高くはなかったんだがな。おそらくだが、あの塔に近ければ近いほど能力値が上がっているんじゃないかと思う』
『へー、変わってるわねー』
「それじゃあリンちゃん、この妖精はエルムだ。何かあればエルム越しに俺にも状況を伝えることができる。危険があれば俺が飛んでくるよ。もちろんこの妖精も魔法を使えるからリンちゃんを守ってくれるはずだ」
「妖精・・・・エルム・・・・・・ちゃん?」
「はーいエルムちゃんでーーす」
『終わったら・・・・・・いいわよね?』
『ああ、お好きなだけどうぞ』
「それじゃあ俺は行かなきゃならないから。エルム、リンちゃんを任せた。他の人間にはばれないようにな」
「大丈夫よ。可能な限り小さく、それでもってリンちゃんのポケットに入っておくから」
「え・・エルムちゃん・・・・。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げたリンちゃん。
「それじゃあ、また様子を見にくるよ。元気でね、リンちゃん」
「あ・・・・・ありがとうございました!また!またきてください!!」
僕は窓から外に出て風魔法で城壁を越えていった。
「お嬢様お待ちしました。お茶のご用意ができました。あら?あの方は?」
「ごめんなさいアニー、もう帰っちゃったの」
「そうですか・・・・・。でしたらお嬢様、先にお風呂にいたしましょう。随分汚れていらっしゃいますし、服も着替えましょう」
「そうね、お願い」
リンとアニーは部屋を出て通路を歩く。
リンのポケットの中にキラリと光る羽のようなものが見えた。
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そうすりゃよかった!って思うこともよくある。




