とりあえず無双しておこう
何故かタカシは上半身裸だ。
「アホかアイツは」
マサルはそれに今気づいたようで今になってアセアセと自分もシャツを脱ぎ捨てた。
「アホが2人」
上半身裸にスウェットと手袋の馬鹿と
上半身裸に前掛け姿の馬鹿
楽しそうだなオイ。
上半身裸は嫌なんでとりあえず腕だけまくっておこう。
僕はメニュー画面を開いて知力を2段階アップさせてとりあえず2倍だ。これでいかほどか。
さてと、思いっきり試し打ちさせてもらうよ。
期待8割不安が2割。
テンション上がってきた。
今の僕が思い切り魔法使うとどれくらいのものなのか。
両手のひらを左右に広げて
「ファイアーボール!!!」
ズズズズズッと僕の左右にどデカイ火の玉が生成される。
「なぁ!!」
「なんだありゃ!?」
壁の下からゲーリーさんと金髪くんの声が聞こえた。
うーんこりゃデカイ。直径10メートルくらいの火の玉っていうか燃え盛った隕石みたいだ。
さて、悠長なことも言ってられない。牛達に恨みはないが、この世は弱肉強食。僕達の糧になってくれ。
「行け!」
火の玉の1つがゴウッと風を切る音を立てて扇状の陣形でこちらに向かってくる牛達の左翼に向かっていく。
この火の玉予想以上に速い!
野球の速球よりも速いスピードでその大群の左翼に襲い掛かる。
ドッパーーーン!!
牛が数匹燃え上がりながら宙を舞った。漫画で見るような円形の大爆発を起こしてその一帯を燃え散らかす。その周辺と直撃をくらった牛達のHPはみるみるうちに0になっていく。メッセージウインドウには複数回のレベルアップが確認できたが次だ。
「もう一発!」
僕はもう一つの火の玉を今度は逆の右翼に放つ。こちらも同じように辺りを燃え上がらせて数十匹の牛が絶命した。
メッセージウインドウにはさらにレベルアップが確認された。「キタ!」僕は魔法使いの職業レベルがアップされたのを確認すると即座に職業を戦士に切り替えた。
さてとラスト!
扇状の陣形を敷いていた牛達は左翼右翼を蹴散らされてほぼ中央にひとかたまりとなっている。それでも牛達の速度は落ちない。先頭を走る高レベルに馬鹿でかい体の牛2頭を筆頭にただひたすら突進する牛達の中央を狙う。目印に僕は人差し指をその中央やや後方を指す。
「ファイアストーム!!」
地面が赤くボンヤリと光る。次の瞬間。
ドオオオオオオオーーーーーーン
直径50メートルはある恐ろしく巨大な火柱が牛の大群のほぼ中央に立ち上がった。
高さは幅の倍以上はあるんで100メートルはあるな。眩しい。
範囲は上手く調整できた。もっと広範囲もいけそうだったが先頭の2匹も巻き込んだら2人がうるさいだろうしな。
メニュー画面にさらにレベルアップの表示が複数回出ているが、確認は後だ。
横でダイスくんの開いた口が塞がらない。
「アッチ、アッチ熱いぞマーシー!!」
離れたところでタカシが何か叫んでいるが服を着てないタカシが悪い。
ファイアストームの放った跡には真っ黒の円形の大地が残っており、そこに50匹以上の真っ黒の物体が横たわっている。あれは牛ですね。ウェルダンってレベルではないな。
「残り任せたぞ!!先頭の2匹はレベル30オーバーだから気をつけろよ!!」
ここでバトンタッチだ。僕のファイアボールとファイアストームで8割程は仕留めれたのは確認できたが先頭の2匹と射程外で業火に焼かれなかった牛が何匹かいるんで残りは任せよう。仕留めすぎた感じはするがボスは残したんで言い訳にはなるだろう。
「っしゃーー!!」とタカシが叫ぶと100メートルくらい前方に瞬時に移動した。相変わらず速いな。
「ここは通行止めだ!!止まれオラ!!」
先頭を行く1頭がタカシに気づいたようで前傾姿勢でスピードを上げた。2メートルはあるデカくて太い角をタカシに向けて5メートルはありそうな身体ごと突進してくる。
「スピード上げてきやがったな!ハハッ!!」
突進してくる牛に対してゆっくりと歩み寄るタカシ。角がタカシを捉えた瞬間。
ガシッッッッ!!!
止めた、、、、。マジか、、。
タカシは脇で角をガッシリホールドしていた。牛はピタリと動きを止められている。
そしてそのまま渾身のアッパーカット。
あ、5メートル級の牛が空を飛んだ。
こっちに向かって飛んできた5メートル級の牛はズドンドドーン!と壁から10メートルくらいのところに落ちた。ビクビクと痙攣している。死んだな。
マサルももう1匹のボスと対峙していた。右手には棍棒だ。マサルと対峙していた牛も前傾姿勢でマサルに突っ込んできたがマサルはヒラリと躱すと棍棒でその牛の左頬にスマッシュした。
グジャアッ!!
潰れたのは棍棒の方だった。
「ああっ!!俺のステータスが!!」
あ、結構気にいってたのか。
あの木の塊を喰らってものともしない牛の頑丈さもフルスイングであれを破壊できるマサルのパワーも双方尋常じゃないな。
あ、マサルが角を掴んだ。
「オイオイそいつは凄い絵だぞ」
マサルはその角を支点に5メートルはある牛を真上に持ち上げている。
「よーい、しょっ!!」
ズドン!!!!
叩きつけた。超光速で叩きつけた。
頭上にある状態から叩きつけられて地面にひれ伏されるまでの過程が目で追いかけられないくらいのスピードで地面に叩きつけている。2度、3度。
もう牛はグッタリしている。
そのままその牛で他の突進してくる2メートルくらいの牛共を薙ぎ払いだした。
「オラ!!次だ次!!」
タカシは変わらず素手で牛達をぶちのめす。スピードを活かして突進してくる牛の側面からハイキック。同じように側面から牛の胴体に右フックを入れると牛は30メートルくらいは吹っ飛んでいる。
僕は壁の下に飛び降りた。着地の瞬間風で落下速度を落としてフワリと着地する。
もう大丈夫そうだ。残りの牛達もタカシとマサルがキッチリと後始末をしていてこちらへの進軍は1匹たりとも無い。
先程タカシが吹っ飛ばした5メートル級のHPがグングン減っていっている。まだ死んでなかったのか。
僕はふとリザマイアを連れてその5メートル級の牛に近づいた。
「はい、おいでおいで。はい、剣構えて」
「え、あ、はい」
プスッとリザマイアはその牛を刺した。
同時くらいにその牛は息を引き取った。
リザマイアのレベルを確認するとレベル9になっている。おお、上がるねぇ。
僕はその牛をアイテムボックスに納め、
「はい、撤収」
僕とリザマイアは壁際まで戻る。
牛の残党は全て片付けたようだ。タカシがこちらに戻って来た。
マサルは5メートル級の牛の角を掴みながらズルズルと引きずってこちらに来た。
「とりあえずお前達は服を着ろよ。特にマサルの裸は見てられん」
ボンと出た腹。さらに毛深い。
終始あっけにとられていたゲーリーさんが口を開いた。
「お前達、何者なんだ?」
「冒険者ですよ。ちょっと人より魔法力が大きくて、ちょっと人より腕力のある新米冒険者です」
「そうだな、何者でも構わんな。それよりも。ありがとう」
ゲーリーさんは深々とツルツルの頭を下げた。そして脇でポカンと呆気にとられている金髪くんたちの首根っこを掴み僕達に頭を下げさせた。
その後領主さんとリザマイアからもお礼の言葉をいただいた。領主さんは年甲斐もなく興奮していて「あの牛を持ち上げるなんて」「あれは上位魔法かね?あんな火魔法は初めて見た」と、そして「是非うちの屋敷で働かないか?」と勧誘されたが明日には冒険に出ますのでと断っておいた。
タカシとマサルには黒焦げになっていない牛の回収にいかせる。
僕は皆を連れて街へ戻ることにした。道中ゲーリーさんにどこで魔法の訓練をしていたのか?と聞かれたが、適当に故郷でと返した。魔法を覚えて1日2日とは言えないよな。
金髪くんたちの視線が険しい視線から憧れの視線に変わっていることにも気づいた。「あの剣技に加えてあんな大魔法が使えるなんて、魔法剣士様だったのですね」と急に敬語になってる。
魔法剣士って職業もあるのか。いいこと聞いたな。
領主さんは終始スゴイスゴイと連呼していた。リザマイアはほとんど何も喋らなかったが目が完全に王子様を見る目だった。早くこの街を離れよう。おかしなイベントが始まる前に。
南門には数人鎧を着た兵士がいた。皆領主さんの姿を見てすぐに駆け寄ってきた。東の草原に大きな火柱が立ったのを見て何事かと門に集まったようだ。領主さんがまるで自分のことかのように牛達を退治した話しをしているのでゲーリーさんを連れて冒険者ギルドにそそくさと逃げていった。
道端では先程の火柱の話題で持ちきりだった。「何事もありません。ただの火魔法の演習です。驚かせてすみません」と、ゲーリーさんは道行く街人に説明している。
一角牛の話なんて解決しているのでわざわざ話して不安がらせることもない。
タカシとマサルも足早に追いついた。大半はまっ黒焦げだったので回収できたのも20くらいだったようだ。
ギルドに着くとゲーリーさんが入ってすぐ右手にあるラウンジのような場所に居た職員さんに「今すぐ酒を用意してくれ。ダービーに料理も用意するよう言ってくれ」「俺の奢りだ。お前達は命の恩人だからな。いや、この街の恩人だな」
ありがとうございます。いただきます。
「それならこの牛を使ってください。もちろん食べれるんでしょう?」
一角牛のステーキは絶品だぞと言ってすぐにそれは調理場に運ばれていった。中は大騒ぎになっていたがゲーリーさんがうむを言わさず調理され、お酒もどんどん運ばれてきた。こんなに誰が呑むんだと思っていたら、ステーキの匂いに誘われてゾロゾロと冒険者達が集まってきたので端から端まで善意にお酒を振舞っている。
気付いたら50人くらいで大宴会が始まっていた。大半はなんの集まりか分からずにタダ酒を頂いていたようだが、まぁ気にしない、気にしない。
タカシとマサルも気にせず酒を呑み続けている。
ゲーリーさんが1メートルはある大きな皿にどっさりと分厚いステーキを並べて運んできた。自然にヨダレが出てきた。
「オラ食え食え。お前達が狩った肉だ。他のヤツらに取られちまうぞ」
『おおおおおお!』
周りから歓声が上がる。
そこからはもう戦場だった。
ビール片手にその肉をフォークでぶっ刺して口の中に運ぶとジュワッと肉汁が出て口一杯にこれぞ肉だ!!と暴れまわる。うさぎや猪とは全然違う。やはり肉は牛肉だな。
2皿3皿と運ばれてくるが、テーブルに置かれた瞬間皆が奪い合う。先頭きって他の冒険者達を薙ぎ払いながら肉にがっついているのはマサルだった。皿の前を陣取って他を寄せ付けない。デカイ皿にはデカイ肉が盛られていてむさい男達が肉の奪い合いをしているが、小さい皿に一口サイズで盛られたサイコロステーキのようなものも各テーブルに多少運ばれていたので一応皆には渡っているようだ。スゴイ勢いで肉が消えていくのでタカシにもう1匹一角牛を厨房に運ばせた。
小一時間肉戦争は続いたが、徐々に満足した冒険者たちは各々テーブルでビール片手にご満悦だった。先頭きって肉にがっついていたマサルは今だにデカイ皿の前で1枚1枚肉を堪能中だ。まだいけるまだいけると呟いている。
タカシもご満悦で今は僕の横でサイコロステーキをつまみに透明の水みたいなお酒をチビチビやっている。匂いからして日本酒みたいな酒だな。
ゲーリーさんがビール片手に僕の前の席についた。
「どうだ?美味かったか?牛なんて高級な肉そうそう食べれないからな」
「ありがとうございますゲーリーさん。それにしてもこんなにお酒振舞って大丈夫なんですか?皆相当呑んでますよ?」
「構わん構わん。嬉しい時は皆で祝う。楽しい時は皆で呑む。それが冒険者だ」
「気が合いますねぇゲーリーさん。ガハハハハハハ。呑みましょう呑みましょう」
タカシがゲーリーさんに乾杯を勧めた。
「おお、ダイス。お前も座れ座れ」
ゲーリーに呼び止められてダイスと呼ばれた青年はゲーリーさんの横の席についた。僕が魔法をぶっ放した時に横で目を丸くしていた人だ。茶髪の短髪でソフトモヒカンみたいな頭をしている。年は僕らと同じくらいだろうか。
「あんたらさっきのは凄かったな。何処の出だい?帝都か?魔法都市か?」
いえいえ、田舎から出てきたんですよと軽く返したが嘘をつけと言い返された。魔法使いは代々家系に受け継ぐものが大半で、才能がなければ中級、上級の魔法使いにはなれないようだ。魔法使いの修練を積んで使える魔法は基本初級まででそれ以上はそれなりの才能と努力が必要みたいだ。まぁ確かに知力の数値の低いタカシやマサルが魔法を覚えて訓練してもたいしたことはなさそうだ。
何処の血筋のもんだ?と聞かれたがどうもこうもない。ただの日本人なんだが。
タカシやマサルにしてもあのパワーは普通の人族の限界を超えていると疑っていた。ドワーフの血でも混ざっているのか?としつこく聞いてきた。
ちょっとヤンチャし過ぎたようだ。やっぱり明日にはこの街を出よう。




