その時マサルは2
ガタガタと馬車の走る音が近づいてくる。
「お嬢、あれはカスロフの所の馬車だ」
犬くんがメイメイちゃんに話しかけた。
「何人乗ってる?」
メイメイちゃんが返すとスンスンと犬くんは鼻を動かす。
「3人だな。全員獣人だ」
「そう」
メイメイちゃんはゆっくりと前の通りへと足を向けた。
「ミノちゃん、お願い」
「うん」
そう呼ばれた牛くんがたったった、と前の通りへ出て馬車の向かって来る道を遮るように立ちふさがった。
「一体何をするんですか?」
俺は犬くんに尋ねる。
「ああ、お嬢の悪い癖さ」
馬車は前方の牛面の大男を目視で確認すると、キキーッと急停止。御者の横で腰に帯剣しているガラの悪い男が立ち上がり牛くんに言葉をかけた。
「なんだ!モンスターか!?いや、獣人か?なんの用だ!そこをどかねーと痛い思いをするぞ!」
メイメイちゃんが牛くんの横に並んだ。
「女?なんだってんだ?この馬車に何か用か?」
横で御者をしていた小太りの男性がハッとした顔をした。
「待て!お前は手を出すな」
小太りの男性は馬車から降りメイメイちゃんの前に片膝をついた。
「これはこれはメイメイ様。このようなところでどうされましたでしょうか?わたくし商品を運んでいる最中ですのでこの道を進まないといけないのですが」
「獣人が3人かしら?」
「ほう、よくご存じで。獣人の奴隷が3人です」
「3人とも買い取るわ。いくら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・突然そう言われましても」
「言い値でいいわよ」
小太りのおっさんは表情を険しくし、若干笑ったように見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・3人で金貨15枚になりますが」
「なら、金貨30枚出すわ。いい?」
「それはもう、金貨30枚でしたら倍の売り上げが出るわけですから」
多分ふっかけたんでしょうね。15枚の時点で。
小太りの男性は馬車から3人の獣人を外に出し一列に並べた。
「ほら、この女性がお前たちの新しいご主人だ」
「はい、ありがとう」
メイメイちゃんは金貨の入った袋をその小太りの男性に手渡すと、道を塞いでいた牛くんは道を空けた。
「おい、いいのか?カスロフさん」
「いいんだよ。この方はウチのお得意様だ。ではでは、わたくしは失礼させていただきますね。お買い上げありがとうございます」
ソイツはニヤニヤしながら馬車を出し、街の方へと消えていった。
「3人ともこっちにいらっしゃい」
メイメイちゃんは3人の奴隷をこちらに連れてき
「ごめんなさい、また増えちゃった」
そういうと、ペロッと舌を出してかわいらしい表情を見せた。
「お嬢、今のは間違いなくぼったくられてるぞ」
「ギャギャギャ、獣人3人で金貨15枚もするかよ」
「別にいいのよ。この3人をお願いね」
「分かってるよ。いつも通りな」
犬くんは笑みをこぼした。
いつも通り・・・・・ですか。
獣人亜人を見つけたらそれらを解放する・・・・か。メイメイちゃんはよっぽどの物好きであり、相当の大富豪だということですか。
「メイメイちゃんは奴隷の獣人や亜人を見かけたらそうやって買い取っているということですか?」
「奴隷じゃなくても連れてくるわ」
「捨てられた子猫を見つけたら手を差し伸べる・・・・・・・・・・・・・偽善者ですか?」
「なんだと!テメー!このやろう!言うにことかいて!」
犬くんおこ。
「ギャギャギャ、お嬢のおかげで命拾いしたヤツがどれだけいると・・・」
「そうね、ただの自己満足よ」
「お嬢・・・・・」
「お嬢・・・・・・・・・・」
「いくら救っても根本を解決しないことにはなにもなりませんね。手の届く範囲だけ、目の届く範囲だけ」
「言いすぎだよ、オークくん」
「オークじゃねえよ、この牛!」
「いいのよ。私は小さい人間だから、これくらいしかできないことは分かっているから」
「・・・・・・・・・・・・嫌いじゃないですよ。俺も器の小さい人間ですから、俺が幸せにできる人なんて一握りだと分かっていますから。でも、その一握りの中に今、メイメイちゃんも含まれますよ」
「なにそれ?愛の告白?」
「まさか。愛の告白でしたら俺ならもっと情熱的な言葉を使いますよ」
犬くんは買い取った奴隷3人を教会の中へと案内した。
この教会の中には今までメイメイちゃんの集めた獣人亜人が50人近くで共同生活しているようだ。
街で虐げられるよりはこちらの暮らしの方が何倍もいいんでしょうね。
「牛くん、牛くん。君もこの教会に住んでるの?ベッドとか大変そうですね?」
「違うよオークくん。僕はお嬢の護衛でいつもお嬢のそばにいるんだよ」
「オークじゃねえよ」
「あなた名前は?」
「マサルですよ。メイメイちゃん」
「あなた強い?」
「多分現状この街で一番だと思いますが」
「3日くらい護衛お願いできるかしら?」
「3日くらいの間に身の危険が迫ってるのですか?」
「そうね・・・・・・・・・・・・もしかしたら死ぬかも」
「俺は女の子が危険にさらされるというのなら命にかえても守ることのできる男ですよ」
「マサル、重いわよ」
「マサルー、重いよ」
「黙れ牛」
「それじゃあ少しの間護衛お願いしていい?」
「乗り掛かった舟ですね。なんとかしましょう」
3日くらいならなんとかマーシーたちを説得できるかな?死ぬかもしれないって、流石に放っておけないですしね。
「報酬も出すわ。金貨15枚でいい?」
「いりませんよ。さっき俺を友達って言ってたじゃないですか」
「友達でも報酬は出すわよ。何か欲しいものでもあれば用意するわよ」
「なら・・・・・・・・・・・・・・おっぱいを揉ませてください」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「じゃあ、僕のおっぱいでいい?」
「黙れ牛が!!」
「今のが一番きつい言い方だね、マサル」
「いいわよ」
「マジですか!?もう取り消しはできませんよ!成功報酬としてそのお胸を揉みしだきますよ!あ、このことは他の人には内密に!特に俺の知り合いには絶対に言わないでくださいよ!」
「マサルー、なんだかかっこ悪いよ」
「黙っていろ牛」
「それじゃあ私はそろそろ行くわね。さっきの3人のことよろしくね」
メイメイちゃんは犬くんに後のことを任せてトカゲくんにもまたねと挨拶した。
「それじゃあ、ミノちゃんとマサルは一緒に行きましょうか」
「メイメイちゃん、行くとは何処へ?おうちに帰るということですか??」
「ええ。帰るわ」
「ちなみにおウチというのは?この近くなんでしょうか?」
「少し歩くわ。あそこに塔が見えるでしょう?あそこの手前よ」
塔の手前?はて?塔の手前にはお城しかなかったような気がしますが。
「じゃあ行こうかマサルー。僕の背中に乗る?」
「乗らんよ」
「じゃあ肩に乗る?」
「乗らんよ」
「そっかー、じゃあお嬢」
メイメイちゃんは牛くんに担がれて器用に肩に座った。
絵面は怖い。
こんなのが正面から歩いてきたら絶対に目を逸らす。
俺は牛くんのあとをゆっくりとついて行った。
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