単独行動、その時マサルは
気づけばタカシは横にはいなかった。
あれ?さっきまでいたのですが。
居酒屋にいきなり現れた貴族くん。
大声をあげる貴族くん。
取り巻きも一緒に襲い掛かってくる。
躱して投げて、居酒屋から出る。
出た時は一緒にいたと思う。
猛スピードで逃走。
それで今に至る・・・・・か。
何処で離れたのだろう?全く、ちゃんと俺について来ないから。
確か明日の朝にはホテルで集合だと言っていたから頃合い見てホテルに戻らないといけませんね。
結構とばしてましたからホテルからは随分と離れていることだろう。さっきまで人通りが多かったような気もしますが気づけば建物もほとんどない森林地帯になっています。
「この世界にはおばけというものがいるんでしょうか?」
ガサガサ
「ヒイッ!ちょっ、やめて!」
風で草が揺れていただけみたいだ。
こちらの方向に進んでもホテルから離れていく一方だが、今から戻っても結局あの貴族くんに遭遇する可能性はあるわけで、どこかで時間を潰すのがいいのだろうか?
少し歩くとぼんやりと明かりが見えてきた。
近づくとそれは建物で、どうやら教会のように見えた。
やだ、この雰囲気の教会はやだ。
その教会を横目になるべく近づかないようにそのまま通り抜けようとする。引き返す選択肢はない。なぜなら負けた気がするから。
おっふ・・・・。
「なんですか、あれは・・・・」
教会の庭に見える人影。
人ではない。薄っすらとした明かりが照らしているその姿は体は大男だが、顔が。
「牛なんですが」
牛男・・・・・・・牛男!?
ここはおばけじゃなかったから良しとすべきか。
俺は気づかないフリをしたまま素通りしようとした。
ん?もうひとつ人影?
牛男が手を伸ばした先にもう1人の人影が見える。
揺れた明かりに一瞬照らされて確認できたその姿は。
「美女だ!」
咄嗟に地面を蹴りその美女と牛男の間に割って入った俺の速度は確実にタカシを凌駕していたに違いない。
「待て待て待て待て!この牛面が!テメーはこの人に今一体何をしようとしてたんだ!!俺の目の黒いうちはこの人に指一本触れさせねーぞ!」
俺は啖呵を切ってそう言い切り、後ろの美女にキランと笑顔を向けた。
美女は無表情だった。
いや、薄暗くて見えなかっただけだろう。
きっと照れた表情をしていたに違いない。
牛男に向きなおすとその牛男は俺の顔を掴めるほどの大きな手を俺に近づけてきたので咄嗟にその大きな体の腹に向かって掌底。
ドン!
と、低い重低音が響くとその牛男は勢いよく10メートルくらい吹き飛んだ。
「大丈夫でしたか?いやあ危ないところでしたね。え?俺の名前ですか?俺はマサル。あなたのような美しい女性の味方です」
俺は後ろに振り向きその女性に声をかけた。
その人は長身で俺よりも少し背は高く、真っ白な肌に真っ赤な唇。長い黒髪が腰まで伸び、白いドレス姿の美しい女性だった。さらに言うならばミレーヌさんよりも胸がでかい!
「危険なヤツでしたね。いきなりあのでかい手を近づけてきて。どうしました?そうか、怖かったんですね?大丈夫です。俺がついていますよ」
「友達」
綺麗な高音の声だ。耳が癒される。
「友達?そうか俺と友達になろうってことですね。もちろんです!俺はそれ以上の関係を考えてもいいと思っていますが」
「いいえ、あの子。友達なの」
あの子・・・・友達・・・・?
あの牛男が・・・・・・友達・・・・・・?
「あの牛男くんとあなたが友達?」
「ええ、友達なの」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・凍りついた。
「ごめんなさーーーーーーーい!!」
俺はすぐさま牛男に近寄って掌底をかました腹部分に持っていたポーションをぶっかけた。
「牛くん!牛くん!!大丈夫か!?息はあるか!?」
「いたたたた。いきなりなにすんだよー」
「すまない牛くん!!本当にすまない!!俺の勘違いだ!!」
おれは今美女と牛くんの前で正座をしている。
「ほんとうにごめんなさい」
素直に謝る。
「もう大丈夫だよ。そんなに謝らないで。僕頑丈だから」
「君は良いヤツだな、牛くん」
「それよりも君はこんなところで何をしていたの?このあたりはあまり人も寄り付かないんだけど」
「いや、まあ、色々ありまして。実は追われる身だったのですが、流れに流れてここまでたどり着いたわけです。はい」
真っ白な肌の黒髪の美女がゆっくりとこちらに近づいてきた。
そして、真っ白な細い手をそっと俺の頭に乗せた。
「大変だったね。いい子いい子」
頭を撫でられた。
頭を撫でられた。
子供みたいに頭を撫でられた。
酒もたばこもいける成人男性が頭を撫でられた。
細い手で俺の頭を撫でるその美女は見た感じ俺より年下だ。17?18?多分10代なのは間違いなさそうだ。ミレーヌさんのように年上の女性に甘やかされるようなナデナデではなく年下の女性にされるこのナデナデはなんて背徳感を感じるのだろう。新手の逆ナンですか?いや、こういうプレイなのか?あれ?ゾクッとした。いやいやいやいや、マーシーじゃあるまいしこの程度で俺の心が折れると思うなよ!こんな年下にナデナデされて喜ぶ俺じゃねーぞ!
「すごく嬉しそうだね、君」
「黙れ牛」
近くの茂みがガサガサと音を立てた。
なにやら数人の気配を感じる。
「お、お嬢、もう居たのか?」
そこから現れたのは犬の顔で2足歩行をする犬男が2人と顔がトカゲで固そうな鱗の肌のトカゲ男だ。さっき冒険者ギルドで会ったトカゲとは違うみたいだ。
「ギャギャギャ、また変なのみつけたな、お嬢」
「なんでもかんでも拾ってくるんじゃないぞ、お嬢」
「俺は決して拾われた変なものではない」
「よく見たら人間じゃねーか。人間を拾ってくるのは初めてだな」
「ギャギャギャ、俺はオークかと思ったよ」
ギャギャギャとわざわざ口にするトカゲくん。なんですかその口癖は?オークって俺のことなの?ねえ?ねえ?
「みんな、この子も友達なの」
お嬢と呼ばれた美女は俺の頭をナデナデしながら答えた。
「どういうことですか?ここにいるのはみんなあなたの友達ってことなんですか?中々変わったパーティーですね?」
「みんなかわいいでしょ?」
そう彼女は答えると、タッタッタとトカゲくんに向かって行きその固そうな鱗の肌に抱き付いた。
「牛くん、牛くん。ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「この集まりは一体?」
「ああ、この教会にはね、街に居られない亜人や獣人が集まっているんだよ」
「確かに街でトカゲの人が貴族に虐げられていましたが」
「うん。そんな人達をお嬢が見つけてここに連れて来るんだよ。優しいでしょ?」
確かにそれだけを聞けば優しい子だと思うわけだけれど。
どうも彼女の表情がなんとも言えない。
楽しいや嬉しいといった感情が見えない。
かといって決して悲しいとか寂しいではない。
表情がない。無表情なんですよね。
心が全然動いていない。
「あのお嬢のお名前は?」
「うーんとね、確か、メイメイって言ってた。みんなはお嬢って呼んでるけどね」
「メイメイちゃんね」
俺は今だ正座していた体勢からすっくと立ちあがりメイメイちゃんの様子を見ていた。
犬くんやトカゲくんと楽しそうに話しているようだが、どうもやっぱり感情の見えない表情に違和感を覚える。
スタスタとこちらに寄ってきたメイメイちゃん。そしておもむろに俺の前掛けに手をかけてバッサバッサと触りだした。
「コレ、かっこいい」
「お!?分かりますか?この前掛けの良さが!収納よし、防寒よし、防御力もあって邪魔にならない!なおかつ見た目もかっこいい!」
「うん、これいい。私も欲しい」
「ええー、じゃあ一枚あげちゃおっかなー。俺予備もあるんだよねー」
「君めちゃめちゃ嬉しそうだね」
「黙れ牛」
「お嬢がこんなにも人間に懐くのは珍しいな」
なに?その、俺が人間っぽくない発言。
その時街の反対側からガタガタと何かが近づいて来る音が聞こえてきた。
なんだ?こんな夜中に?
松明の明かりをとりつけた馬車がこの教会の前の道をこちらに向かってきていた。
いつもお気に入り評価ありがとうございます!
もうちょっとマサル視点。
1話で終わらんかった・・・・・。




