俺をなんだと思ってるんだ?
冒険者ギルドを出て宿屋の並ぶ通りまで来た僕たちは一応周りを警戒しながら良さげなホテルを探していた。
「申し訳ない」
タカシが素直に謝ってきた。
「仕方がないです。タカシがいかなければ俺が手を出していたかもしれません」
「いや、あそこにおる全員が我慢しとったから、我慢するべきやったんやと思う」
そっか、ちゃんと考えて、分かってはいるんだな。
「手を出したことはもう仕方がない。それによる影響が俺たちに出る分は仕方ないが、あのギルドになにもないことを祈ろう」
「せやな、ホンマごめん」
通りにある宿屋の中でも一番高そうなホテルを発見。とりあえずここに入ってみるか。
入り口を抜けるとロビーは広く、高価そうなシャンデリアや置物。受付も立派だ。
「すみません、宿をとりたいのですが3人いけますか?」
「3名様ですね?かしこまりました」
「あ、すみません。ちなみにお風呂はついてますか?」
「はい、各部屋にございますよ」
「あ、じゃあ一泊だけお願いします」
僕は一泊分3人の支払いを済ませてカギを受け取り部屋へと向かった。
個々の部屋を確認してとりあえず僕の部屋に集合。
「どういう展開になるのでしょうかね?」
「開口一番、絶対に貴族に手を出すなって言われてていきなり出したわけだしな」
「あれは・・・・・・・俺にはスルーは無理やわ・・・・・」
「ああ、仕方がないさ。確実にこの国は俺たちには合わないってことだけは分かったな」
「殴られていたのがトカゲくんじゃなくエルフだった場合はマーシーが真っ先に手を出していたはずですしね」
「女性だったらマサルが真っ先に手を出してただろ?」
「確かにその通りですね」
「だからタカシが気に病むことはないさ。この国の方がおかしい。それでもこの国で大昔から根付いていることは簡単に否定できるものじゃないから今後俺たちになにかトラブルが舞い込んでくる可能性はあるだろうな」
「顔覚えたってめっちゃ言われたからなー」
「指名手配的なヤツですかね?」
「明日にはすぐにこの国を出るから見逃してくれないかな?」
「もう、そんなん考えんのはやめよ!!呑もーや!!とりあえず呑も!!こんな時こそやで!!」
「賛成です。食べて呑んで。何かあればその時です。けれど一応ギルドから遠い所で」
「そうするか。とりあえずギルドとは反対方向に向かって良さげな店があればそこで呑むか」
「せや!!呑んでひとっ風呂浴びたら、ええようになんねんて!」
やってしまったものはしょうがない。僕たちはホテルを出てギルドとは逆方向に進み、良さげな居酒屋を探して徘徊した。
「ええ感じの店がある」
「本当ですね。ザ・大衆酒場という感じですね」
「ここにするか?なんだか荒くれものが多そうな店だが」
木造の3階建てくらいの古びた建物。
暖簾が店内を隠しているが、窓から見える店内は中央にカウンターの1人呑みの客数人と、周りのテーブルでビールを呑んでいる大柄なヤツが見える。
「ここにしよーや。美味いおでんとか出てきそうやわ」
「こういう店で呑むビールが美味いんですよ」
「じゃあここにしようか」
僕達は店内へと入って3人でテーブル席に案内された。
中は半分くらいの席が埋まっており客は1人呑みの客が多く中央のカウンターはほぼ埋まっている。
「ああいう1人の客の多い店はお値段もお手頃で美味い料理も出すんやで、きっと」
「なに呑む?とりあえず生ビールがいいか?」
「この店でビール以外に何を頼むつもりだったのですか?」
「分かってないな、マーシーは。店に入ったら雰囲気でまず一番に何を呑むかは決まるやん」
「いやいやそんなところでディスられてもな。チューハイとかハイボールとか色々あるだろ?」
「この店で1番にチューハイ!?ぎゃははははは」
「しゃーない、しゃーない。マーシーはカシスオレンジとか頼んどったらええねん」
「カシスオレンジを馬鹿にするなよ。全国のカシオレファンに謝れ」
とりあえず生ビールを3つ頼んで食べるものも適当に注文する。
「よっしゃ、んじゃカンパーイ!!」
「「かんぱーい」」
っぷはーー。美味いな。
「「おかわり」」
早っ!!
ビールのおかわりが運ばれてきて2人は今度はゆっくりと味わいながら口にし、テーブルに並べられた鶏肉の揚げ物やドロドロに煮込んだ豚と野菜の皿をつつく。
「あ、これ美味いわ。なんやろ?どてやき?」
「やっぱりいいですね。こういう居酒屋は」
「まあ確かに静かな場所で呑む酒よりもこういうガヤガヤしたところで呑む酒の方がなぜか美味く感じるな」
「せやろ?な?この店にしてよかったやろ?俺の目利きは抜群やから」
「ここを選んだのは俺ですけどね。ここは酒も飯も美味いと確信してました」
「何ゆーてんねん、俺が先に見つけたやんけ」
「いえ、俺が気づいたのが先でしたね」
「2人共めんどくさいからどっちだっていいよ」
「いいわけあるか!俺の手柄を横取りすんな!」
「酒の味もわかってないくせに何を言ってるんですか?」
「やんのか?」
「やりますか?」
「やらせるか!」
僕は2人の耳を両手でそれぞれ掴んだ。
「お前たちはこんなに美味い飯と酒を前にして喧嘩するのか?この店に失礼だろ?飯と酒に失礼だろ?喧嘩するなら表でしろ」
「確かに。この店に失礼やわ」
「確かに。飯とお酒には罪はない」
「お、ここにも米酒があるようだぞ?呑むか?」
「日本酒か!?呑む!!」
「いただきます!!」
ビールの次に日本酒に手を出す。
「ああー、やっぱええなーポン酒はー」
「こうなると、おでんが食べたくなりますねー」
「マサルー、分かってるやんけー」
「タカシもそう思いますか?」
2人は仲睦まじく米酒に口をつけている。
ガタン
「ん?」
この居酒屋の2階から物音が聞こえてきた。
なんだろう?
索敵で確認すると2階のひとつの部屋に複数の人間がいる。
職業が、盗賊盗賊盗賊盗賊盗賊第二王女
なんだよそれ。
『タカシ、マサル、ここの2階がカオスだ』
僕は念話で話しかけた。
『なになに?なんか盗賊おるやん』
『その中に1人王女様がいますね』
『まさか・・・・・・・6・・・・・・・ピ』
『はいはい、なんだろうな?誘拐とかかな?』
『誘拐かー、ほんだら俺らには関係ないなー』
『ふざけるな!!か弱い王女様が複数の盗賊たちに襲われているんだぞ!!見過ごせるか!!』
マサルの紳士魂に火がついた。
『あ、王女様の年齢13歳なんや』
『それではマーシーお願いします』
マサルのテンションが分かりやすく普通に戻った。
『何その変わり身。マサル欲望に忠実すぎない?』
『ええやん、13歳やねんからマーシーが行ったら』
『そうですね、適材適所』
『お前ら俺をロリコンだと思ってんの?やっちゃうよ?』
『ロリコンやとは思ってへんけど昔からマーシーは小さい子に好かれるやん』
『そうです。幼女キラーマーシー。領主の娘さんしかり』
『ロマネちゃんもそうやし、ミラちゃんは・・・・まぁギリギリセーフにしといたろ』
『マジで俺任せ?』
『どうぞどうぞ』
『はよ行かな13歳の・・・・中1の少女が傷物になるで』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
僕は席を立った。
「大将、トイレはどこ?」
「そこの階段の向こうだ」
「ありがとう」
僕は階段に向かう途中にタカシとマサルに目を向けた。
2人ともニヤニヤとしている。
腹立たしい。
僕は階段まで行き、音をたてないようにゆっくりと階段を上がった。
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