もちろん・・・・・・分かっていたさ。
大きな扉をギギギギっと開けて僕たちは冒険者ギルドに入る。
中はある程度予想できた内装で木造でできた作り。入ってすぐに広がる飲食スペースと奥にはカウンターが5つあり大柄な冒険者が飲食スペースで酒を呑んで楽しそうにしている。
髭に眼帯のフック船長みたいなヤツや坊主頭の強面なヤツ。
おや、軽鎧に身を包んだ鱗のある肌に蛇のような顔。なんだろ?トカゲ人間かな?
「とりあえずカウンターに行ってみるか」
僕達は空いているカウンターに足を向けた。
「いらっしゃいませ。こちらは初めてですか?」
眼鏡のキリッとした女性だ。
「はい。今日ここに着いたばかりでして。依頼を受けるわけではないんですが、泊るところを探してましてどこかいい所はありますか?できればお風呂付だったらなお良いんですが」
チラリとその受付の人は僕の腕の冒険者の契約紋に目がいった。
まぁ僕達はEランクだから何言ってんだ?と思われているんだろうな。
「このギルドを出て真っ直ぐ左に行けば宿はいくつか並んでいます。金額もグレードも様々ですのでそこでお探しになってください」
「分かりましたありがとうございます。出て左ですね」
ここの用件はこれだけだ。特に何かすることもない。
ガシャーーーーン!!!
ガラスの割れる音がギルド内に響き渡った。
タカシか!!!
いや、違った。タカシは僕の後ろにいる。音を起こした方に目を向ける。
テーブルにいるさっきのフック船長みたいな人、そしてトカゲマン。その横に小奇麗な身なりをした3人が立っている。
小奇麗な身なりの1人がそのトカゲマンにグラスの中身をバシャバシャとかけている姿が目に留まる。
「おい、トカゲが私の視界に入るな。気分が悪くなるじゃないか」
その貴族風の男はグラスの中身をトカゲマンに注いだ後にそのグラスを足元に叩きつけた。
「すみませんダンナ、気分を悪くされたみたいで。すぐに出て行きますんで」
トカゲマンと同じテーブルについていた眼帯に髭のフック船長がその貴族に頭を下げている。
「ああん?頭を下げたくらいで私の気分が良くなると思っているのか?」
その貴族は腰に携えていた突剣のようなものを鞘ごと振りかぶった。
バシッ!
ガンッ!
ゴッ!
その剣でトカゲマンを、そしてフック船長にも打撃を加えた。
「この!!化け物め!化け物が!!人間の世界に貴様のようなものが!!汚らわしい!!」
ガン!ガン!
とトカゲマンを何度も叩きつける。
貴族の後ろの2人はニヤニヤとしながらその姿を眺めていた。
「すまねェダンナ!!もう許してやってくれ!!すぐに消えるからよう!!」
フック船長は殴られるトカゲマンを助けるようにその貴族に声を掛ける。
「私に意見をするな!私を誰だと思っているんだ!?」
その貴族は鞘に納まった剣を大きく振りかぶった。
しかしその剣は振り下ろされることはなかった。
いや、分かってたんだよ。
僕もね、こうなるんじゃないかと思ってたんだよ。
正直僕だって嫌な感情が芽生えてたし。
僕の後ろに居たはずのタカシはもうその場にはいなかった。
貴族の振りかぶった剣をがっしりと掴んでいる。つまらないものを見るような冷たい目をしながら。
「やりすぎやろーが」
「なんだ貴様?私が誰だか分かって・・・」
ガン!!!
ガラガッシャーーーン!!!
ほらね、こうなる。
その貴族はタカシの左拳を顔面に受けてテーブルをなぎ倒しながら数メートル吹っ飛んだ。
「クエン様!!」
「貴様!!」
スリープ
ふにゃっと取り巻きの2人はその場にバタンと倒れて眠りについた。
「流石タカシ。期待を裏切らない」
「マサル、そういうのやめて。後始末するのは俺なんだから」
ガタン!!と、さっき吹き飛ばされた貴族くんが鼻血を出しながらタカシをスゴイ形相で睨んでいる。
周りにいる冒険者たちは随分怯えた様子でタカシを見ていた。
なるほどね、貴族には絶対手を出すなって言ってたからこういう反応になるわけね。
貴族のステータス確認。
なるほどね、確かに強いか。ここの冒険者がだいたいステータス100から200くらいに対してこの貴族は力、スピード、魔力も300前後だ。こんな鍛えてもいないようなヤツにしては確かに高スペックだな。
スキル欄に変わったもの発見『月の加護』
眠ってるヤツにも『月の加護』がついているな。
「おい、たかが冒険者が私に手を出してただで済むと思っているのか?」
「そうか、そんなら今すぐに俺をタダで済まんようにしてみろや」
「私はリーエンの一族である、クエン・リーエンであるぞ!!」
「名乗りはええからこいや。お前が俺より強いんならそれを証明せえや」
「貴様!!リーエンの一族に歯向かうのか!!」
「は?俺は今お前を殴っただけやろーが。単純にお前のことがむかついただけや。ほら、やり返さんのか?こいや」
「いいのか?本当にいいのか?リーエン一族を敵にまわすのだぞ!貴様なんぞあっと言う間に消されてしまうのだぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・もうええわ、なんか萎えたわ。とっとと失せろ。他人の名前出さな喧嘩もでけへんヤツの相手なんかやってられんわ」
「お・・・・覚えておけよ!!顔は覚えたからな!!」
鼻血を出しながらその貴族はギルドを出ていった。
眠った2人はそのままにして。
その場はシーーンと静まりかえっている。
僕はタカシに近寄った。
「この、おバカ」
「えーー、しゃあないやん」
まぁタカシの正義は今に始まったことじゃないけどな。
ツカツカと先ほどの受付の人が近寄ってきた。
「この国のことは知っていますか?」
「王族、貴族に手を出すなってやつですよね?すみません」
「申し訳ございませんが、あなたたちが今後どのような結末に至るのかは我々には手出しできません」
「分かってますよ。手を出したのはウチのやつなので俺たちの責任です」
「ですが・・・・・・・ありがとうございます。少しスッとしました」
フック船長がタカシの肩をガッと抱いた。
「すまねえアンタ!!ありがとう!アイツをぶちのめしてくれて!!けど、早くここから逃げるんだ。アイツが他の連中を連れてくるかもしれねえ」
頭から血を流しているフック船長に僕は近寄った。
「ヒール」
フック船長とトカゲマンにヒールをかけて傷を癒す。
トカゲマンも立ち上がり僕らの前に立った。
「すまん。巻き添えにしてしまったな」
トカゲマンは律義に頭を下げた。
「いや、こっちこそごめん。我慢してんのは分かったんやけど、俺の正義が止められへんかったわ」
受付の人が眠っている貴族の取り巻きに近づいた。
「こっちは眠っているだけですね。あなたたちはすぐにここを離れてください。後始末は我々でなんとかします」
「兄ちゃんたち!すぐにここから離れるんだ」
「スカッとしたぜ兄ちゃん!」
「あのやろー、いつもいつもふざけやがって!」
一気に不満を吐き出すその場の冒険者たち。皆同じことを思っていたようだ。
しかし全員で我慢していたところをタカシが邪魔したのは間違いない。本当に申し訳ない。
「いくぞタカシ、俺たちが残っても騒ぎを大きくするだけだ」
「あ、おお。ゴメンなみんな!!今度はゆっくりみんなで呑みたいわ!」
僕はタカシとマサルを連れてそそくさとギルドを出て何食わぬ顔で人通りの多い通りに紛れ宿の並ぶ通りまで歩いた。
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