夢から醒めた
朝、ホテルのベットで目を覚ます。
昨日は限界まで延長しまくったが、タカシが全然部屋から出てこなかったので金だけ多めに払って先にホテルに戻ってきた。
「マジで夢から醒めた気分だ」
顔を洗って服装チェンジ。
今は9時。きっとマサルの部屋にはまだミレーヌさんもいることだろう。ちなみにマサルの部屋は僕とタカシとは隣にしないようにしている。
理由は言わない。言ったらなんだか負けた気分だから。
「とりあえずタカシと朝飯食べに行くか」
僕は部屋を出てタカシの部屋へと向かった。
「おーい、起きてるかー?」
ガチャリと、扉を開けた。不用心だな、鍵が開いてるじゃないか。
中にはソファで体育座りをして口をポカンと開けたタカシが座っていた。
「うわっ!何してんだ?」
「ああああ、マーシーかあああ」
「何呆けてんだよ?寝てないのか?」
「ちょっと寝て、起きたら、なんか、昨日のことを思い出して、全てが、どうでもよく、なったわー」
「そんなに良かったのか?」
「ありゃ、天国や。天国は、こんな身近にあったんや」
こりゃ重症か。
「飯行くぞ。飯」
「おう。飯行くかー」
呆けたタカシを連れて僕たちはロビーへ。
チェックアウトをしてホテルを出た。
「ギルドは騒がしいだろうからどこか普通の店にでも入るか」
「せやな。あ、なんか喫茶店みたなとこあるやん。あそこ入ろうや」
そこそこ客の入っているカフェのような外見の店がある。表のショーケースにはドリンクや軽食系が並べられているため確かに朝のモーニングでもやっていそうだ。
カランカラン
店内に入ると少し薄暗い昭和の喫茶店のような雰囲気のするいい感じのレイアウト。
「結構入ってんな」
「席空いてるかな?」
ん?なにやら見知った顔が。
4人席の片側に2人で座るカップルがいる。
タカシはまるで決まっていたかのようにドスンとそのカップルの目の前に座った。
「邪魔をするなタカシ」
「あら、タカシくん。おはよう」
マサルとミレーヌさんだ。
「おい、タカシ。邪魔はよくないんじゃないか?」
「いいわよ。タカシくんもマーシーくんもどうぞ。一緒に朝食にしましょう」
「ミ・・・ミレーヌさんがそういうなら・・・・」
マサルが渋々承諾した。
4人でテーブルについて出てきたサンドウィッチやサラダ、コーヒーに口をつける。
「すみませんミレーヌさん、邪魔しちゃって」
「いいのよ。食事は大勢でした方が楽しいでしょ?」
「せやんなー、やっぱミレーヌさんは違うわー。マサルみたいなヤツにはもったいないわー」
「タカシはホント俺やマサルを下げようとするよな?だからマリーちゃんに器が小さいって言われるんだぞ」
「やめて!マリーちゃんのことは言わんとって!」
「結局マリーちゃんとは何もなかったのですね?この敗北者め」
「負けてない!負けてないわ!今回は次のためのステップなんや!ホップ、ステップ、ジャンプのステップの段階や!」
「うるさいぞタカシ。他のお客さんの迷惑だろ」
「マサル、俺たちはこの前と同じように外で馬車で待ってるよ。別に急いでないからゆっくり馬車で行こうと思うんだが構わないか?」
「大丈夫ですよ。ゆっくり馬車で行きましょう」
「俺も馬車でええよ。新しい土地やったら道も分からんしな」
「そうだよな、御者を雇って案内してもらおう。俺たちで買い出しはだいたいしておくからマサルは、そうだな、13時くらいに来てくれたらいい」
「分かりました。じゃあ13時くらいに向かいます」
「ごめんね、それじゃあもうちょっとだけマサルちゃんお借りするね」
「いえいえ、短い時間ですけどゆっくりしてください。タカシ、それじゃあ俺たちは先に買い出しとか行っておこうか」
「え?もうちょっと邪魔しようや。俺らがおらんくなったらマサルがここぞとばかりにイチャイチャしだすやん」
「はいはい」
僕は銀貨を1枚テーブルに置き、タカシを引きずって店を出た。
通りを歩く僕とタカシ。
「それじゃあ酒と食べ物を買っておくか」
「理不尽やわー。俺のどこがマサルに劣ってるんやろー」
「勝ち負けの問題じゃないんじゃないか?ミレーヌさんにとってのマサルが王子様なだけで、タカシはマリーちゃんの王子様にはなれてないだけだろ?」
「どうやったら王子様になれんねやろなー?なぁなぁマーシー。今からオアシス行かへん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。いや、ダメだろ」
「今めっちゃ考えたよな?」
「次のために。次来た時に幸せを倍増させるために今は行かない。そう思おう」
「次はあるんかなー?」
「さあな。それは分からんな。それを言うとこのままマサルとミレーヌさんが二度と会えなくなる可能性もあるわけだからな」
「そっか・・・・」
タカシと2人で買い出し。
酒と食べ物を蓄えて10日くらいは大丈夫なようにはしておこう。
秦の国は馬車で1週間くらいの旅にはなるようだが、道中にいくつかの村もあるようなので最悪食料が底をつくことがあれば現地調達で賄えそうだ。
おや、向こうからやって来るのは見知った顔だな。顔の前に随分と目立つ鎧だが。
「おお!!マーシーじゃないか!!聞いたぞ!!魔術大会で優勝したらしいな!!すごいじゃないか!!」
うるさい。
「こんにちは、レイアガールさん。アルベルトさんも。もう耳に入ってるんですか?」
「武闘大会の優勝者と魔術大会の優勝者とは、なんとも贅沢な取り合わせだな」
「持ち上げても何も出ませんよ、アルベルトさん」
「マーシー!!ぜひ一緒に帝都の平和を守ろう!!君の魔法の腕なら何百人という市民を守ることができるぞ!!」
「それは言い過ぎですよ。俺は俺の周りのヤツくらいしか守れませんよ。レイアガールさんほどの志は持てないですね」
「もったいない!!もったいないぞマーシー!!守れる力があるのにそれを使わずして何が男か!!」
うるさい。
「アルベルトさん、止めてくださいよ」
「はっはっは。レイ、彼は困っているぞ。彼は彼で守るべきものがあるんだ。それは大きさや数で測れないものなんだよ」
「そうか!!マーシーには守るべきものがあるのか!!それはすまなかった!!守るべきものがあるというのは良いことだな!!!」
「えらい熱い人やな。けど、嫌いにはなられへん人やな」
「ああ、俺もそう思う。アルベルトさん、俺たちこの後秦の国へ行こうと思ってるんです。なにかアドバイスとかありますか?」
「秦か・・・・・。そうだな、とにかく揉めないことを強く勧めておこうか。国自体を敵にまわすのは嫌だろう?」
「ミズリー師匠にも同じこと言われましたよ」
「そういう国なんだよ、あの国は」
「わかりました、ありがとうございます。多分俺たちには合わないってことだけは確かですね。あまり長居せずに素通りします」
「目的地は秦ではないということかな?」
「はい、俺たちの故郷であるジパングに向かおうかと」
「そうか、ジパングか。それなら戻ってくるのはまた随分と先になってしまいそうだな」
「そうですね。ゆっくりと里帰りを楽しんできますよ」
「マーシーくん、ちなみにその指にはめている赤い指輪は?」
「え?ああ。マジックアイテムです。ちょっと手に入れる機会がありまして」
「そうか・・・・・。珍しいものを持っているね」
「ご存じですか?」
「変化の指輪だろう?魔大陸の魔王が所持していたと記憶しているが」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・疑っているな。
「ジパングには大和魂という漢気溢れる言葉があるらしいぞ!!実に響きの良い言葉だ!!」
レイアガールさんナイス割り込み。
「それじゃあアルベルトさん、レイアガールさんもそろそろ失礼しますね。また帝都に寄ったときは挨拶させていただきますので」
「待て!!まだ話は終わってない!!大和魂とはな!!・・・」
「まぁいいだろう。それじゃあまた、ほらレイ行くぞ」
僕とタカシはそそくさと立ち去った。
「それが魔大陸の品ってバレてたな」
「あの主人公め。嫌なするどさだ」
僕達は馬屋に到着し馬車と御者をお願いした。
どうやら御者は以前リアに行った時と同じ若い子のようだ。若いが仕事はきっちりしていて地理にも詳しいらしい。
城壁の外に馬車を止めてマサルが来るのをのんびりと待つ。
「今頃マサルは何してんのかな?」
「腕でも組んでお買い物・・・・・・かな?」
「『きゃー、見て見てマサルちゃーん』って寄りかかってミレーヌさんの胸がギュッっと押し付けられるわけやな」
「『マサルちゃん口にクリームがついてるよ』って指でとってペロリとかな」
「殺してまうか」
「そうだな、殺そう」
マサルは13時ピッタリに馬車に姿を現した。ミレーヌさんも連れて。
「お待たせー。待った?」
「何その軽い感じ?彼女待たせた彼氏の感じ?誰が彼女やねん!!」
「なに1人突っ込みしてんだよ。ミレーヌさんわざわざ見送りすみません」
「ううん。いいのよ。皆元気でね。また戻ってきてね」
「ミレーヌさん、マリーちゃんによろしく!また呑みに行くわ!」
「ミレーヌさん。離れていても俺のこころは常にミレーヌさんとともに・・・」
「ありがとうございますミレーヌさん、お元気で。ほらマサル、行くぞ」
御者が馬車を出発させる。
ミレーヌさんは見えなくなるまでこちらをずっと見送ってくれていた。
さて、新しい土地に行くのは新鮮な気持ちになるな。前評判は悪いがなにか楽しいことが起きればいいなと期待してしまう。
馬車はゆっくりと草原をひた走る。
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