この子には魔王よりも苦戦する
日も傾き夜の時間へと移っていく。
薄暗くなってきた帝都をゆっくりと南地区へと歩く男が3人。
ウッキウキで夜の街へ繰り出すバカな男3人。
そりゃウッキウキだろう。今からキャバクラ、風俗コースなのだから。
「一応金は渡しておくから無駄には使うなよ」
僕はタカシとマサルに金貨を2枚と銀貨を数枚手渡した。
「これ、金貨ってだいたい100万って言ってましたよね?」
「だいたいそうだな。けれど俺たちの感覚はこの世界とは違うことも多いからな。飯食うのは金額的に同じ感じだが、オアシスは30分何十万とかだったしな。この前の楽園オアシスコースで金貨6枚600万使ってることを忘れるなよ」
「全然いけるやん。ミラちゃんから金貨100枚もらったんやから」
「そういう感覚でいたらすぐに金は底をつくんだよ。今は大丈夫だとしてもな」
「この金貨2枚はミレーヌさんに使っても?」
「ああ、それは構わないよ。何かアクセサリーでも買ってやればいい」
「じゃあ俺はマリーちゃんを釣るために使っても!?」
「金でなびくようなら使えばいいんじゃね?」
「任せろ!!俺の魅力と金の力!両方使ってマリーちゃんを今日は絶対持ち帰るんや!!」
まぁ・・・・・・・がんばれ。
南地区のにぎやかな繁華街にたどり着くと美味そうな匂いと店の前での客引きが僕らの興味を引く。
「お兄さんいらっしゃい!いい子揃ってますよ!」
「お!タカシじゃねーか!!寄ってかねーか!」
「只今サービスタイム中でーーす!」
僕らは黙々とその通りを素通りし、一番奥へと入っていく。
行き止まりの少し前。
『楽園』の扉の前で身なりを急に正すタカシとマサル。
「おら、入るぞ」
僕はそんな2人をしり目に先に扉を開けた。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです」
黒いスーツを着込んだ男性スタッフに声をかけられて中に案内される。
「帰ってきたで!!マリーちゃん!!」
「ミレーヌさん!!ただいま戻りました!!」
「おい、静かにしろよ。迷惑だろ?」
「こちらの席にどうぞ」
案内された席は以前と同じ少し奥に入ったところで周りからの視線があまり入らないところだった。
案内されて僕らは席についた。
「タカシ様とマサル様は以前と同じ、マリーとミレーヌを指名でよろしかったでしょうか?」
「もちろん!マリーちゃんで!」
「俺はミレーヌさんを」
「マーシー様はいかがいたしましょうか?以前お相手させていただいたセラも在籍していますが」
「あ、じゃあ、セラちゃんで」
「じゃあ、ってなんやねん!!セラちゃんに失礼やろが!!やる気あんのか!?」
なんのやる気なんだよ。あれ?デジャヴかな?
「こんばんは、タカシくん。久しぶりー」
「マサルちゃん、お帰りなさい」
マリーちゃんがタカシの横に、ミレーヌさんがマサルの横に座った。
「こんばんはマーシーさん。マーシーさんやる気ないんですかー?」
「いやいやここは楽しく呑む場所だろ?やる気ってなんのやる気なんだよ?」
「そ・れ・は。私を堕とす、ヤ・ル・キ、ですよ。マーシーさんになら簡単に堕とされちゃうのになー」
すでに僕の右腕に絡みつくように接触してくるセラちゃんが少し怖い。
「よっしゃ、皆グラスは持ったな?それじゃあ今日という久々の再会に・・・・・・かんぱーーーい!!」
グラスを合わせてそれぞれグラスに口をつける。料理も運ばれてきて美味い酒と美味い料理に口をつけ始めた。
「ミレーヌさんすみません、忙しくて会いに来れなくて」
「大丈夫よ。こうやってまた会いに来てくれたじゃない」
「ちょっと聞いてよタカシくん。ミレーヌったらマサルくんが店に入った途端すぐにオーナーに早退申請したのよ。ラブラブよねー」
「マリーちゃん!!マリーちゃんも早退したらええねん!この後俺と一緒にどっか行こーや!」
「ええー、タカシくんとかー。どうしよっかなー」
「向こうは盛り上がってるね、セラちゃん。あ、このお酒美味いな」
「マーシーさんはー、私のこと誘ってくれないんですかー?」
「誘って欲しいの?このあと」
「行く行かないの話じゃなくて、誘う誘わないの話ですよー」
ぎゅっと僕の右腕に捕まり低い位置からの上目遣いの破壊力ったらないな。
「この後終わったらどっか行く?」
「えー、どうしよっかなーー」
どないやねん。
「セラちゃん!!そんな男についていったらあかんで!ソイツの本性は超がつくほどのド変態やで!!」
「器が小さいなタカシ。そんなことではマリーちゃんは誘っても来てくれないぞ」
「な・・・・なんやて!!マーシーにマリーちゃんの何が分かんねん!!」
「タカシくん器小さいわね。友人を落とすなんて」
「ママママ、マリーちゃん!そんなつもりはないねんで!俺はセラちゃんを心配して!」
あたふたとマリーちゃんに言い訳し始めるタカシ。
マサルはミレーヌさんとベッタリだ。あまり言葉がないのがタカシとは違って大人の余裕を感じる。
「ねェねェマーシーさん」
「なに?この後一緒にどこか行ってくれるの?」
「うーーん、それは考えておきますけどー。マーシーさんってリアの魔術大会で優勝したんですよね?」
「そっか、言ってなかったか。優勝したね。すごいでしょ」
「すごーい!!」
待ってましたかのように僕を掴む腕がさらに体を巻き込んだ。
「せやで!マーシーはきっちり魔術大会で優勝したんや!流石やで!俺はホンマこいつはやるやつやって思ってたわ。応援した甲斐があるわ!」
あれ?大会中ものすごいヤジを飛ばされてたような気がするが・・・・・。気のせいだったか。
「失礼します、マーシー様。こちら、セラ、マリー、ミレーヌよりお祝いのシャンパンでございます」
黒服の男性スタッフさんがグラスと一本のお酒を運んできた。
「え?そんな、いいんですか?」
「マーシーさんおめでとう!優勝するなんて思ってなかった。ホントすごい!」
セラちゃんがキャッキャとはしゃいでいる。
「あれ?俺ん時はそんなんなかったけど・・・・・」
タカシは気落ちしている。
「タカシ様。もちろんタカシ様も含めてですよ。武闘大会優勝と魔術大会優勝のお祝いでございます」
「そうよタカシくん!この前は言葉でしかお祝いできなかったからここで改めてね!」
「マリーちゃん・・・・・ありがとうマリーちゃん!俺、誰よりもマリーちゃんにそう言われるのがめちゃめちゃ嬉しいわ!」
ぐいっぐいっ、と僕の袖を引くセラちゃん。
「セ・・・セラちゃん。俺、セラちゃんに祝ってもらえてすごく嬉しいよ」
「えへへへ」
怖い。僕はやっぱりこの子が怖い。
「ごめんね、マサルちゃんは私のせいで優勝できなかったもんね」
「いいえミレーヌさん。俺は優勝よりももっと大事なものを手に入れましたから」
(リア充爆発しろ)
(帰りに事故って死んだらええねん)
「はいはい、それじゃあ皆グラス持ってね。もう一度乾杯しましょう!タカシくんとマーシーくん優勝おめでとーー!!」
「ありがとうマリーちゃん!!」
「みんなありがとう。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・セラちゃんありがとう」
セラちゃんは笑顔で僕に抱き付いた。




