笑顔で「またな」
朝、外はまだ薄暗い時間帯。
ミザリィちゃんに揺り起こされて眠い目を擦りながら僕は目覚めた。
「ありがとうミザリィちゃん。そこの2人に起こされるよりも何倍も目覚めがいいよ」
タカシとマサルはすでに起きてテーブルでお茶をしていた。こいつらよりも早く起きたことがないような気がする。
「マーシーおはよう。なんか昨日マーシーをいじる前に急に寝てもうてんけど、もしかしてスリープ使ったんか?あかんで、先送りにしただけで今日から死ぬほどそのことで辱めるつもりやねんから」
「そうです。あのような貴重な場面今後二度とない!あそこまで学園恋愛青春ドラマが展開されることなどリアルでは考えられません!と、いうことで昨日のネタで後半年くらいはいけると思っているのですが」
「そんなことよりもマサル。大浴場にミラを呼んだらしいな?」
「え・・・・・?なんのことだか・・・・・・」
マサルの目がクロールしている。
「そうか、だからあの時マサルは誘導するように俺がミラのことをどう思っているのか聞いてきたのか。納得いったよ・・・・・・・・・・・・俺を・・・・・・・・・・・・・・ハメたんだな?マサルは俺をハメたってことなんだな?」
僕は冷たい視線をマサルに向けた。
「え?違いますよ?あれ?ハメた?俺がマーシーを?そんなバカな。そんなことするわけないじゃないですか。あ、そんな目で見ないでください。ちょっ、黙ってないで何か言ってくださいよ。ねェねェマーシー。ちょっと、マジで・・・・。ホントごめんなさい。魔が差しました!悪気はなかったんです。本当ですよ!そうだ!タカシが!タカシが呼ぼうって言ったんですよ!俺じゃないんです!全部タカシが悪いんですよ!!ミラちゃんは絶対マーシーのタイプだからここで言質とってやれってタカシが言うものですから!俺じゃないんです!本当ですよ!」
「あ、俺を売りよった。俺がマーシーをハメるなんてありえへんやん。やったら1000倍くらいで返されるの目に見えてるし。しかもめちゃ陰湿なやり方しよるし」
「終わったことをとやかく言うつもりはないが、マサルにはなにかしら食事も喉を通らなくなるような仕返しを考えておくよ」
「や・・・・・やめて・・・・・・。痩せてしまうよ・・・・・・。俺痩せちゃうよ・・・・・・・・」
7時50分か・・・。3人共魔大陸に来てレベルが上がっているし移動速度も十分だから昼くらいには着くかな?
「よし、そろそろ出ようか。2人とも忘れ物はないな?一応ミラ達に挨拶だけはしていかないとな」
「ボチボチいこか。楽しかったなー、魔大陸。夜のお店とか居酒屋とか色々ある帝都もええけど、ここもいいヤツばっかで楽しかったわー」
「マーシー様」
ミザリィちゃんが近寄り、畳んであった布を開いた。
「服?・・・・おお、上下一式。今俺の持ってるのと似た感じだな。あ、そういえば俺の服、魔王様に穴だらけにされてたな」
「サイズ、素材は目視ですので合うかどうかは分かりませんが仕立てました。品質は落ちることはないかと思います」
「いいの?ありがとう。すぐに着替えるよ」
僕は出されたローブやパンツを身に着け少し体を動かしてみる。
うん、問題ない。
「ありがとう、わざわざ色も合わせてくれたんだ。元の服とほとんど変わりはない。素材がいいのか防御力も上がってるし、着心地もいい」
「いえ、不自由なければ幸いです」
ホントにメイドとしてパーフェクトだな。家を買うことになったら雇いたい。いや、旅に連れて行きたくなる。
「マーシーの目がミザリィちゃんを狙ってます」
「ここまで世話してくれるんが1人おったらええけどな」
「流石に引き抜いたりはしないさ。ありがとうミザリィちゃんここまでお世話になりました」
僕は頭を下げた。
「またいつでもお待ちしております」
コンコン
「どうぞ」
「もう出る準備はできているのか」
グルグムさんだ。
「はい。そろそろ出ようかと思ってます」
「そうか」
グルグムさんは一度目を瞑り、大きく目開いた。そして深々と頭を下げて
「本当にありがとう。マーシー殿、タカシ殿、マサル殿。魔王様の件もそう、ミラ様の件もそう。本当に、本当にありがとう。感謝を伝えきれないのが申し訳ない。貴殿達は我々の恩人であり救世主だ。何度でも言おう、ありがとう」
「タカシ」
「おう」
タカシはズイッとグルグムさんに近寄りグルグムさんの肩をガッと掴んだ。
「グルグムさん!何言ってんねん!俺らは一緒に旅した仲間やんか!仲間に何かあったら助けるんが当たり前や!ミラちゃんやミネアさんやグルグムさんが何か困ったことがあったらいつでも頼ってくれてええで!飛んでくるから!」
「正確には超マッハで走ってくることになるわけですが。マーシーなら飛んで来れますね」
「グルグムさん、そういうことです。また一緒に風呂入って酒でも呑みましょう。楽しみにしてますね」
「ありがとう。いつでも来てくれ。次はもっと美味い酒を用意しておこう」
僕達はグルグムさんに案内されて部屋をでた。
部屋に残ったミザリィちゃんに挨拶もし廊下を裏口に向かって歩く。
結局城下町の方には一度も出ることなかったな。あっちはあっちで興味もあったんだけどな。
廊下を抜けると裏門までの庭園もゆっくりと歩く。目の前には門の前に並ぶ20人くらいの兵士の姿。今日はやけに多いな。
「なんや、皆出迎えか?仰々しいなあ。また遊びにくるからな」
「ガッハッハッハ、次来た時はこいつらの相手をまたしてやってくれ!人間ではあるがお前たちは歓迎するぞ!」
ライオン面のおじさんがタカシの背中をバンバン叩いて高笑いしている。
兵士たちもタカシに挨拶をしている。お前はホントに友達作るのうまいよな。
「ミラちゃんがいませんね」
マサルの言う通りミラとミネアさんの姿はない。
「大丈夫だ、準備をしたらすぐに来ると仰っていた。お、来た来た・・・・・・・・・ミ・・・・・・・・ラ・・・・・・・・・様?」
グルグムさんが僕の後方を見てポカンとした顔をしている。
僕は後ろを振り向いた。
「おはよう、マーシー」
「ああ・・・・・・・・・おはよう・・・・・・・・・・・・」
僕はそのミラの姿に驚きを隠せないでいた。
そのミラの・・・・・・・・メイド姿に・・・・・・・・・。
ヒラヒラの袖、胸元は鎖骨が大きく見えるほど開いている。短いスカートに黒い膝上のタイツ。ちゃんとヘッドドレスも完備。
「おお!なんやミラちゃん!めっちゃかわいいやん!ミネアさんと同じメイド服やん!」
「マーシーマーシーマーシーマーシー!ほら!早く!言うことがありますよね!!」
バシバシと僕の背中を叩くマサル。
手を前でモジモジさせて顔を赤らめているミラ。
「マ・・・・・・・・マーシーが・・・・・・・・・メイド服が好きって言っていたから・・・・・・・・・・。ど・・・・どうかしら?」
あ、やばい。めっちゃいい。
「かわいいぞミラ!ものすごく似合ってる!ミネアさんや他のメイドさんもかわいいけど・・・・・ミラが・・・・・・1番かわいい!」
ボッと頬を赤らめるミラ。
「俺はミネアさんが1番だと思っています。ミラちゃんもかわいいです。ミラちゃんもかわいいですが、俺はミネアさん推しです」
マサルがミネアさんに詰め寄った。
「あ・・・・・ありがとうございますマサル様」
ミネアさんは後ずさった。
「ガハハハ!随分とかわいらしい恰好じゃねーか!ミラネル様!」
「ミラ様・・・・・・はぁ、今日だけですよ」
グルグムさんは頭を抱えている。
僕はガッとミラの肩を掴んだ。
「最後にいいもん見せてもらった!ありがとうミラ!」
「う・・・・うん。そこまで真剣な目で言われるとは思っていなかったけど。喜んでもらえて嬉しい」
「ところで魔王様は?流石に来ないか?」
「うん。お父様はいいって」
「そうか」
来ないで良かったと思う。
色んな意味で。
「マーシー、そのかわりお父様から伝言」
「何?」
「『治癒の血をありがとう』」
「・・・・・・・・・・・そっか、分かった。ありがとう」
「それと、意味は分からないのだけれど『分かっているな、マーシー』だって」
怖いぞ魔王。色んな意味で怖いんだよ。
「よし、それじゃあ行こうか」
「せやな。じゃあな皆!またな!!」
「ミネアさん!またお会いしましょう!ミラちゃんも!」
裏門が開門し僕たちは3人外へ。
「ありがとうございました皆様。この御恩は一生忘れません。またいつでもお待ちしております」
「ミネアさんありがとう。また寄らせていただきますね」
「3人共気を付けてな。旅の無事を祈っている」
「グルグムさんもありがとう。すごく楽しかったよ魔大陸。魔王様にもよろしく」
そしてミラが皆の前に一歩出た。
「マーシー、タカシ、マサル、ありがとう。本当に、本当にありがとう。この城にいる全ての者たちを代表してあなたたちに感謝を」
ミラは表情をグッと引き締めて僕達に言葉を伝えて頭を下げた。
「ミラ、改まるなよ。そんな別れの挨拶は俺は好きじゃないよ。俺たち3人はミラ達に感謝されたかったわけじゃない。ミラ達だからこそ助けてやりたいって思ったんだよ。ほんっとーに楽しかったよ!また遊びに来るからな!その時はまたそのメイド服姿でよろしく!じゃあなミラ!!またな!!」
「うん!!またね!!」
満面の輝いた笑顔で僕達にまたね、と言ってくれるミラ。その瞳は光っていたが僕も笑顔を返した。
「ほんだら、また!」
「また来ます!」
そして裏門はドスン、と閉じられた。
「それじゃあ行こう。スピードアップ」
「また来ような、マーシー」
「良かったですね。魔大陸って良い人ばかりでした」
「ああ・・・・・・・・・・・そうだな」
ダッと駆け出した3人。
風を切って草原を走る。
「あれ?マーシー泣いてんの?なぁなぁマーシー?」
「泣いてない!!馬鹿言うな!」
「マーシー・・・・・・・・・ミラちゃん嫁にもらっておけばよかったのに」
泣いてない。
俺は泣いてない。
風で目が乾いただけだ。
猛スピードで風を切り草を揺らしながら走る3人。
後方の城はあっという間に見えなくなった。
門が閉じ、客人たちが去った城内。
「なんとも、変わったものたちでしたね」
グルグムはミラの背に話しかけた。
「うぐ・・・・ひっぐ・・・・・・・・・・・・うわあああああああああああんん!」
「ミ・・・ミラ様?」
「ミラ様」
「ミラネル様」
「ミラネル様!」
大声で泣き出したミラ。膝から崩れ落ちたミラにミネアがすぐに駆け寄った。
「ごめんなさい!ごめんなふぁい!でも・・・ふわあああああああああああん!!」
困った顔をする一同。
ミネアはミラを抱きしめて
「寂しいですか?お辛いですか?今日だけは、今日だけはいいですよ。泣きたい時は泣いていいのですよ」
「うわあああああん!ごめんなさい!ごめんなさい!」
その場にいた兵士たちは俯きながら何も言わずにその場を離れる。
その場には涙を流すミラとミラを抱きしめるミネア。
少し離れたところに立つグルグム。
その肩にポンと手を置いたライオンの顔の将軍
「気丈に振る舞っているが、まだまだ子供なのだな」
「はい。ミラ様は子供ですよ。私たちが支えなければ」
ミラの声はしばらく止まなかったが城にいるものは少し微笑ましい表情だった。
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