え?ラブコメ?
召喚魔法LV5エルム
「んんーー、お酒臭い」
「悪いな。少しの間ボディーガード頼む」
「じゃあ先払いね」
と、エルムは僕の頭に乗っかり魔力を吸い始める。
少し歩いて裏口から外に出ると外はもう真っ暗だ。
城からの明かりの照らされる位置に空を見上げている魔王が1人。
ちょうど周りには人はいない。
「魔王様。夜涼みですか?」
「ああ、少々呑みすぎたのでな」
「すみません、あんな方法とらせてしまって」
「ミラを使うのは正直腹立たしいな」
「こうでもしないと俺たちが殺されちゃいますからね」
「殺されかけたのによく2人で話そうと思えるものだな」
「マジで死ぬと思いましたからね。もうあんなことは金輪際なしでお願いしますね」
しばし無言。
涼しい夜風が頬にあたる。
「妖精王・・・・・・・か」
魔王がボソリと呟いた。
「妖精王?ああ、エルムのことか」
「そうよ。私王様なの」
「ソウダッタナ、オウサマオウサマ」
「妖精王を従え、『神の火』を扱う。さらに最後のアレは・・・・・マーシー貴様あの時何をしようとした?」
そういや最後、助けが入る瞬間『神の火』と『神の光』を同時に発動したっけ。
「奥の手ですよ。使わなくて良かったです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「魔王様、俺はアンタが嫌いですよ」
「そうか、私も貴様が嫌いだな」
「なぜですか?」
「ミラが貴様に惚れているからな」
「俺はミラから一緒にいてくれって言われましたが断ったんですよ」
「貴様が人間であることが問題なのだ」
「人間が・・・・・・・嫌いですか?俺は魔族が他の人間たちが言うほど嫌なヤツには思えない。同じように生活し、泣いたり笑ったり、同じ釜の飯を食って、一緒に騒いで呑んで。同じように感じますよ。だから俺は魔王様のことは好きじゃないが魔族は嫌いじゃない」
しばし魔王は無言に。
「ミラが私の娘だからか」
「どういうことですか?」
「ミラは私と人間の子だ」
!?
あ、衝撃事実。
そんなこと僕に話していいのか?
「ミラが魔族と人間のハーフってことですか?」
「そうだ。昔私が惚れた相手が人間でな。その女との間にできた子だ。ミラは」
「そのことを知っているのは?」
「私と、貴様の目の前で楽しそうに話していたバリアンヌだけだな」
ああ、あのばあさんか。
「ミラ本人すら知らない話を俺と、口の軽い妖精王に話したと?」
「私は人間が嫌いだ。早く死んでしまうからな。せいぜい100年も生きられない。ミラの母親は50歳で亡くなった。愛したものが目の前で死ぬという絶望をミラに味わってほしくないのだよ。ミラも私と同じように長寿であろうからな。できれば末永い間ミラには幸せであって欲しいのだ」
娘の惚れた相手が人間だから。
惚れた相手がすぐに死んでしまうから。
そんな理由で?
そんなつまらない理由で?
「アンタ!ミラちゃんの母親に謝りなさい!!」
エルムが魔王に声を荒げた。
「アンタ今惚れたって言ったわよね!惚れた相手が50年で死んじゃったからって後悔してるってことでしょ!謝れ!たとえ1年だろーが1000年だろーが惚れた相手と一緒に居れた時間を後悔するってことはそれは本当に惚れてたんじゃないのよ!ふざけたこと言ってんじゃないわよ!ミラちゃんの母親に謝れ!」
「魔王様、俺もエルムに1票ですよ。魔王様はその人と一緒に過ごせた時間は楽しかったですか?幸せでしたか?大好きな人と一緒に過ごす時間はどうでしたか?確かに人間は短命かもしれません。幸せな時間が少ないというのも分かります。幸せな時間が50年よりも1000年の方がいいのも分かります。けれど、魔王様の愛した人以外でその幸せな時間を過ごすことができたんですか?ちょっといいなという相手と1000年よりも心底惚れた相手と過ごす50年の方が俺は素晴らしい人生だと思いますよ。愛した人を看取る悲しさも分かりますが、その人と過ごした時間も含めて魔王様は後悔してるんですか?」
魔王は表情をくずさない。
スウッと空を見上げる魔王。
「やはり私は貴様が嫌いだな」
「俺も魔王が嫌いだよ」
ゆっくりとこちらに歩み寄って来る魔王。
そして僕とすれ違う。
「ここに遊びに来るくらいは許そう。しかしミラはやらん」
そうして魔王は城へと戻っていった。
「妖精王様。中々熱弁したな」
「アンタも臭いセリフだったわよ」
「すまない妖精王、強制送還だ」
「え?ちょっ・・」
エルムはポンッと消えた。
僕は魔王の立っていた辺りから魔王の見上げていたように視線を空に向けてみる。
「月・・・・・・・か・・・・・・・・・」
月ではないだろうがまんまるの星が見える。
まぁ、真っ赤なんだがね。
すると人の気配がする。
城の方からきれいなドレス姿のミラが歩み寄ってきた。
「マーシー?」
「どうした?ミラ」
「お父様と何か話していたの?」
「何か聞いたのか?」
「いえ、さっきお父様とすれ違ってここに行ってみろって」
魔王め・・・・・いらぬ世話を・・・・・・。
2人並んで月を見上げる。
綺麗な月だ。地球で見る月よりも大きく真っ赤な月。
「マーシー」
「どうした?」
「ゴメンね」
「それはどれに対しての『ゴメン』なんだ?ミラに謝って欲しいことなんてないんだが」
「お父様のことよ」
「アレはマジで死ぬかと思ったな」
「本当にごめんなさい」
「いや、魔王様は多分本気で殺そうとは思ってなかったと思うよ(そう思いたい)攻撃はしてきたが手加減はしていたし(あれで手加減だとは思いたくないが)魔王様の気持ちも分かるし(俺に娘はいないからあまり分からない)」
「マーシー。大事な話があるの」
ミラは僕に視線を向けた。
「いつでもどうぞ」
僕もミラに視線を返す。
じっと見つめる。
ミラの口は動かない。
少し震えているようだ。
「私・・・・・・・・・・」
ミラの口が小さく動いた。
「私と・・・・・・・・・」
手を胸元でぎゅっと握る
「私と結婚してください!!」
改めてプロポーズか。
「私マーシーのことが好き。ずっと一緒に居たいと思ってる。ここまで旅をしてきて守ってもらって助けてもらってそして戦って(笑)。マーシーの声が好き、笑顔が好き、戦ってる姿が好き、澄ました感じが好き、気遣いのできるところが好き、友達を想う姿が好き、友達から想われているところも好き、タカシとマサルと3人で馬鹿やってるところも好き。全部好き。全部大好き」
駄目だ。多分俺今顔赤いな。
「断られるのは・・・・・・・分かっているの・・・・・・・・。昨日負けちゃったから・・・・・・・仕方がないと思うの。でも・・・・・でも・・・・・・・。それでも改めて言っておきたかったの!私はマーシーが好き!」
随分とド直球に純粋な言葉だ。
飾らない言葉が胸に刺さる。
「ありがとう、素直にうれしい」
「うん」
「ミラ、少し話そうか」
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