願いをひとつ叶えてやろう
僕達は風呂から上がりミザリィちゃんに連れられて1つの大きな部屋へと案内された。
扉を開くと長く用意されたテーブルに豪華な料理が並べられて上座には2席。
1つは空席で1つにはミラが座っている。
ミラのすぐ目の前に僕、タカシ、マサルと並び僕らの前には小奇麗な格好をした魔族が数人。
席の後ろにはメイドさんたちがスタンバっておりミラの脇にはグルグムさんも立っていた。
メイドさんがグラスにお酒を注ぎ、綺麗に一列に並んで待機。
少しすると奥の扉が開き魔王が別のメイドさんを引き連れて入室してきた。
僕達の向かいの魔族とミラは席を立ちその魔王を迎える。僕達も釣られて席を立ち魔王を見る。
魔王が席に着くと他の全員席についたので僕達も席に着き夕食が始まった。
向かいの魔族はこの城の偉い人物にあたるらしく古くからここに仕えているらしい。
ライオンのような顔をした豪華な鎧のゴツいおじさんがタカシに話しかけていた。
「ガッハッハ!先日ウチの部下が何人かやられていたがそんな細腕で大したもんだ!」
「皆結構強かったけどグルグムさんくらいじゃないと俺の相手にはならへんで」
「グルグムほどの部下はウチにはおらんわ。どうだ?俺の部下にならんか?俺は強いヤツは大好きだ」
「俺も強いヤツは好きやけど、女の子に誘われたんならまだしもおっちゃんに誘われてもなー」
「はっはっはっは!ムサい俺に誘われてもか。そうだな、俺でも断るな!はっはっはっは!」
「マーシー殿の魔法はミラネル様よりも勝るとお伺いいたしましたが」
僕の向かいの小柄のおばあちゃんが話しかけて来た。
「そうなのよ!大会でも完敗だったわ!人間とは思えない魔力よ!」
ミラが横から割って入って来る。
「左様でございますか。よほど高名な方に魔法を教わったのでしょうか?」
「俺の師匠は帝都のミズリー大魔法使いですよ。向こうじゃ有名人です」
「なるほど・・・・・ミズリー殿か・・・・・・。どおりで・・・・・・。1度あったことがありますよ。すばらしい魔法使いでした」
魔族と人間の魔法使いが出会うってことは・・・・・・・そういうことなのかな?深くは追及しない。
マサルはガツガツとご飯に夢中。
魔王からの殺気はとくにない。感知スキルも特には反応していない。
ここでことを荒立てることはなさそうだ。
「こうやって人間と共に食事をするなんて思ってもいませんでしたね?魔王様」
目の前のおばあちゃんが魔王様に声をかけた。
「そうだな」
機嫌はあまり良くはなさそうだな。
「お父様!そのようなお顔で食べていたら皆が気まずいでしょう!」
「ああ、すまない」
随分と尻に敷かれているな、魔王。
「そうか!!もう明日帰ってしまうのか!!残念だな!タカシに決闘で負けた連中がぜひリベンジしたいと言っておったのだがな!!」
「そうなんや?帰るまでやったらなんぼでも受けてたったるんやけど。あ、そういえばマーシーとミラちゃんも決闘してマーシーが勝ったけどミラちゃんに何をお願いしたん??」
ブーーーーー!!
ブーーーーー!!
僕とミラはお酒を噴いた。
タカシの爆弾投下で場が急に凍りついた。
「なんと、ミラネル様が決闘で負けたと・・・・・・」
おばあちゃんが驚いている。
急に魔王が機嫌悪くなりだしたじゃねーか!
脇でグルグムさんも頭を抱えていた。
「そそそそ、そうなのよ。なんとかリベンジしたかったのだけれど残念ながら負けてしまって」
「ミラネル様。魔王様の娘たるものが軽々しく決闘など行うべきではございません。しかしながら決闘で負けたのでしたら誰であろうと勝者には従うべきです。マーシー殿、一体どのようなことをミラネル様になさったのですか?」
ニヤニヤしたおばあちゃん。ものすごく興味津々じゃねーか。僕はなにもなさっちゃいねーぞ。
「いえ、実はまだ何もお願いをしていないのですよ」
「左様ですか。では帰るまでに考えないとですね」
キュピーンという効果音が聞こえてくる。
「ガッハッハッハ!そうか!ミラネル様が決闘か!よっぽど負けたのが悔しかったのですな!しかしミラネル様はこの国でも1番の魔法使い。それに勝るとはマーシー殿はさぞ優秀なのだな!」
ここらで動いておこうか。この食事会に来た理由もこれのためだったしな。
「えっと、それでしたらそのお願いを今ここで行使させていただいてもいいでしょうか?」
「なんと、ここで?どうぞどうぞ一体どのような」
さっきからババアのニヤニヤが止まらないな。
「え?ここで!?マママママーシー!変なことはやめてよ!せめて2人の時に!」
顔を真っ赤にさせたミラ。魔王の視線が痛いんだよ。
「それでは。今後魔王様が僕達に危害を加えるのを一切禁じることをミラネル様からお願いしたいのですが」
さきほどのやりとりを知るミラとグルグムさんの顔は険しくなる。魔王は表情をかえなかった。
「なんとそのようなことでよろしいのかな、マーシー殿?寛大な魔王様は客人に危害を加えることはありませんぞ」
「ガッハッハ!なんとも命令と言えない命令だな!」
「分かりました」
ミラは立ち上がった。
「私、ミラネルは、魔王オズワールがあなたたちに一切の危害を加えないことを約束させていただきます。今後永遠に友好関係を築くことを誓いましょう。もし違えた場合は私の命をもって償わせていただきます。これでよろしいですよね?お父様」
スッと目を瞑りグッと唇を噛みしめた表情になった魔王。
「もちろん構わん。彼らははるばるここを訪れた友人であり恩人だ。私が今後危害を加えることは絶対にない」
「ありがとう!お父様!!」
ヒシッと魔王に抱き着いたミラ。
ふぅ。これだけの面前でこの約束をとりつけられればそうそう魔王も手を出せないだろう。しかもミラが約束を違えたら命を払うとまで言っているしな。
「ガッハッハッハ!!女が男に負けた時はもっとドロッドロの話になるもんだがな!!随分と紳士的な願いじゃねーか!!マーシー呑め呑め!!ほら!タカシも呑め!!」
お酒を注がれて僕はそれに口をつける。
脇にはホッとした顔のグルグムさん。
目の前には、チッと舌打ちしているババアが目に入った。
1時間ほど食事とお酒を堪能。話もやけに弾む。中心はタカシとライオン面のおじさんだった。
魔王様は少し風に当たると外に出て行って僕はミラと話をしていた。
「すまないな、あんなことをお願いして」
「いいえ。あれで良かったと思うわ。これだけの前でした宣言なのだから破ることは無いと思う」
「流石にミラの命をかけてまで俺たちを殺そうとはしないとは思いたいしな」
マサルは1人のメイドさんがついて空いた皿を下げて追加の料理を目の前に並べる、ひとりだけわんこそば状態だ。
タカシは楽しそうに喋りながら呑んでいるな。メイドさんや警護の兵士さんまで巻き込んでいる。
「ちょっと風にあたってくる」
そう言って僕は席を立ち扉を出た。
静かな廊下をひとりゆっくりと歩く。
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