メイド服は戦闘服
森から城への帰り道。
妖精のエルムは僕の頭の上で僕の魔力を吸っている。
「エルム、スーの森に戻らなくていいのか?」
「大丈夫よ。何かあればすぐに分かるし。犬神もいるしね」
ああ、ヤマトか。
「エルムはスーの森の番人的なものなのか?」
「番人?番人と言えばそうなのかしらね?迷って入って来る生き物を見つけて外に追い出してるわけだし」
「あの森には何かあるのか?魔力濃度の濃い場所ってことくらいは聞いたが」
「スーの森の中心は人の入っていい所ではないわ。だから迷って入らないように見張ってるわけね」
エルムは僕の頭から魔力を吸い上げる。
「ラストダンジョンか、裏ダンジョン的なものがあるのでしょうか?」
なるほど、マサルの言う通り何かあるかもしれないか。しかし行くにしてはまだまだ先の話だろうな。
そろそろ城が見えてくるというところ。
僕はエルムに声をかける。
「じゃあそろそろ帰れエルム。理由は分かるだろ?」
「はーい、ご馳走様―。私も魔王と会うなんて嫌よ」
僕の頭から離れて僕の目の前に飛んできたエルム。
「じゃーねー」
ウィンクして、ポンッ!と微かな光と煙を起こして消え去った。
「召喚魔法LV5でエルムちゃんでしたか。化け物を引くわけではなく、幼女を引いたマーシー。この変態」
「幼女でもなんでもなく、ただの妖精な。そこは間違えるなよ」
「召喚魔法LV5って大したことなかったなー。もっととんでもないもん出てくるんかと思ったけどなー」
「確かにな。アイツ役にたつのかな?」
「ただただマーシーの魔力を貪りつくすだけなんじゃないでしょうか」
「あ、そういえばマジックアイテムを作ったって言ってたか。ヤマトを呼び出す笛がそうだったよな?そういう知識とかはあるか」
しばらくして城の裏門にたどり着いて声をかけると門番の人が門を開けてくれた。
門を抜けるとすぐにメイドのミザリィちゃんが待機しており引き連れられて大浴場経由で部屋へと戻る。
さてさて、夜までの時間潰しタイムに入ったわけだが。
「プハー、うっまいなー!この酒!果実酒みたいやわー!!」
「ミザリィちゃんおかわり。こっちにも注いでください」
2人は風呂上がりの酒を堪能している。
「あまり呑みすぎるなよ。夜もあるんだからな」
「風呂上がりに呑まないという選択肢はないです」
「せや。風呂と酒はセット。飯と酒はセット」
僕らは少量(多分)のお酒を飲んだり雑談をして時間を潰していた。
日も落ち始め涼しい風が部屋に入り出したなという時間帯。
部屋をノックする音にミザリィちゃんが反応した。
ガチャリ
ミザリィちゃんが頭を下げてその客人を通す。
ミラとグルグムさんが部屋に入ってきた。
「そろそろ夕食の準備が整うわ・・・・・・って、もうこんなに呑んでいたの?」
「全然やで。まだ全開の2割くらいしか堪能してない」
「大丈夫です。食前酒程度です」
「大丈夫、俺は。俺はな。俺はほんとに少ししか呑んでない」
「マーシー殿、タカシ殿、マサル殿。それではご案内します。参りましょう」
グルグムさんに促され僕たちは部屋を出てミラとグルグムさんに付き添う。
ミザリィちゃんはそのまま部屋に残ってお留守番だ。
「ここのメイドさんはめっちゃ優秀やなー。さっとお酒注いでぱっとおつまみ出して」
「そうでしょ。気が利くし、強いしね」
「強いのですか。戦うメイドっていいですよね」
「分かってるなマサル。メイドは戦えないとメイドじゃない。あのメイド服で戦うのがいいんだ」
「そうなんや?メイドって強いんや?魔大陸ってかわってるなー。動きにくそうやけどな」
「あの姿で華麗に立ち回り暴漢とかを撃退することにこそ意味があるんだよ」
「その・・・マーシーは・・・・・、ああいう服装が好きなのかしら?」
「ミラちゃん、マーシーを落城させるならメイド服は効果的やで」
「メイド服を着るだけで+50点は堅いです」
「ミラ、鵜呑みにするなよ。嫌いじゃないがな」
「ダメですよミラ様。ミラ様がメイド服なんて」
「うーーーん・・・・・・。分かってるわよ」
ミラのメイド姿か・・・・・。
いいな。
「前みたいに立食で宴会みたいな感じなん?」
「いえ、今日はテーブルについて身内だけの食事会よ」
「どういう形でもタカシとマサルは酒さえ呑めればいいんだろ?」
「お酒とご飯さえあればなにもいりませんね」
「俺は前みたいに大勢で立食とかも結構好きやけどな。みんなでワイワイしながら呑むんもまたそれはそれやし、座って落ち着いて呑むんもそれはそれ」
「そうそう、今日はお父様も一緒だから色んな話を聞かせてあげて。お父様も楽しみにしているわ」
げっ、魔王様も一緒かよ。
緊張して落ち着いて呑めねーよ。
ミラに手を出してないかわざわざ確認してきたんだぞ、昨日のやりとりとか耳に入ってねーだろーな。
僕達は廊下を歩いていた。
ミラとグルグムさんを先頭にタカシとマサルが僕の前に。
そして僕が最後尾を歩く。
豪華な絨毯の床、天井も高くきらびやかな照明。
横に見える絵画や美術品。
他の部屋の扉は大きく豪華だ。
パキン
何かが目の前で割れるような感覚。
刹那
僕を中心にして周囲をガラスが割れるような音と衝撃が走った。
一瞬視界が真っ白になる。
そして僕は一本の通路に立ち尽くしていた。
「マジかよ」
縦も横も5メートルくらいの半円の通路。
真っ直ぐ、真っ直ぐ伸びた一直線の通路だが、先が全く見えないほどに延々と続いている。
僕は後ろを振り返った。
後ろも延々と続いている。
ゾワッと寒気がした。
突如感知スキルの反応がいきなりMAX状態だ。
「最悪だ・・・・・」
目の前に黒い闇が現れそこからゆっくりと姿を現した人物。
魔王だ。
魔王オズワール。
魔王オズワールはゆっくりと地面に降り立ち特に表情を変えずにこちらを見つめていた。
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