『神の水』『神の火』
「蒼き龍ウォータードラグネア」
ミラはそう呟いた。
なんだ、水の龍か。芸がないじゃないか。まぁちまちまと初級中級魔法を繰り出すよりは選択としては良いとは言っておくが。
しかし大会の時とは何かが違うんだよなぁ。とびっきりデカかったりするのかな?
「蒼き龍ウオータードラグネア」
さらにミラは言葉を発した。
「なるほど、2匹か」
天にかざしたミラの両手から2つの渦巻くドラゴンがグルグルと絡みながら空に昇っていく。
その龍は上空で視線ををこちらに向けて痺れるような咆哮をあげた。
「ギャアギャアうるさいな。火龍!!」
僕はミラよりも大きな火の龍を手をかざして打ち上げる。大きさは水龍の1.5倍くらい。しかしミラは2匹だ。
「ミラ!!これがミラの切り札か!?」
「1匹でダメなら!こうするしかないでしょ!!」
2匹の水龍は大きな口を開けながら僕の火龍へと向かって来る。
1匹の水龍が火龍に噛みつこうとするがそれよりも大きな口を開いて僕の火龍が1匹の水龍の頭ごと噛みついた。
火龍と水龍の接触で一気に水蒸気がまみれて視界は一気に悪くなる。
同時にもう1匹の水龍は火龍の首元に噛みつき火龍の動きを封じた。
「よし、動きは止まったな。フレア!!」
僕は火龍に噛みついていた水龍に特大のレーザービームを打ち込んでその水龍を消し飛ばした。
火龍は首元を噛みつかれてその部分はちぎれ落ちそうになっており弱っっているのが目にみえた。
「サンキューな。十分仕事はしたよ」
ミラは水龍を放った後にすぐ後方に離れてこちらから距離をとっていた。
土魔法を使って足場を作り高い位置からこちらを狙っている。こちらは火龍と水龍の接触で水蒸気にまみれているため視界は悪いが索敵と魔力の流れである程度ミラの位置は把握できる。
「なるほど、水龍の詠唱中にすでに別の魔法の詠唱をしていたのか。さっきの違和感はそれか」
少しづつ視界が晴れていくと岩場の高所からこちらに狙いを定めるミラの姿が見えてきた。
僕の危機感知が想像以上に反応を示しだした。魔王様と対峙した時に近い。
「ミラ様!!それはダメです!!ミラ様!!」
遠くからミネアさんの声が聞こえてきた。
「マーシー!!」
ミラの叫ぶような声が聞こえてくる。
「どうした?諦めたか?」
「負けを認めなさい!!マーシーなら分かるでしょう!今から使う魔法がどういうものか!!」
「ミラ。ミラなら分かるだろう。俺が諦めるのかどうかが」
ミラの姿がはっきりと見えた。
ミラは左手は前に。右手は胸元に。
あれは・・・・・・・弓か。
青白い光を放つ弓をミラが引いているのが分かる。危機感知は反応を止めない。あれを喰らったら命の危険があるということだ。
「マーシー様!!降参してください!!アレを使えばミラ様かマーシー様のどちらか!最悪2人とも死んでしまいます!!」
「マーシー殿お願いします!!アレは一度使うだけでも術者が死んでしまう可能性もあるものです!!」
ミネアさんとグルグムさんがこちらに声をかけるが僕は視線をミラのままかえない。
おそらくミラが使うのは『神の水』というやつだろう。
僕は右手を前に差し出した。
火魔法LV5。『神の火』発動
右手に何かが宿りそこから吹き荒れる真っ白な炎。それは僕の右手を覆い、形にならずにメラメラと蠢いているだけだ。
発動した瞬間コレがどういったものか感覚で理解することができた。
コイツに形はない
自分の思ったように形作ることができそうだ。
一気にMPが持って行かれた感覚。
ステータスを見ると今までほとんど減った記憶のないMP欄が半分近く減っている。
「マー・・・・・シー・・・・・・・それは・・・!?」
「どうしたミラ?撃たないのか?」
ぐっと一度目を瞑ったミラ。
開いた目には決意した覚悟が見てとれた。
「いくわよ、マーシー」
死なないで
『ア・ク・ア』
ミラの手から放たれる青白い一閃。
僕の右手には自然と大きな刀と化した白い炎。
僕は真っ直ぐ向かって来るものに対してその刃を縦に打ち当てた。
ドオオオオオオオオオオオオ!!!!!
『神の水』と『神の火』の激突による衝撃と『神の火』で切り裂いた後も僕の脇をかすめて進む『神の水』の衝撃で大地が揺れ動く。
『神の水』を正面から真っ二つに切り裂き続ける白い炎は折れることも、消えることもなくその一閃を防ぎ続けた。
そして
途切れる。
『神の水』の一撃を防ぎ切った僕の手の白い炎は刀を形どったまま凛としてその手元に存在していた。
ミラの方へと視線を向ける。
ミラがいない。
!?
上空だ!!
僕の真上からさっきと同じように弓を引き絞るミラが見えた。
ミラと視線が合う。
なぜだろう、お互い笑っているような気がした。
1度でも打てば死の可能性のある魔法を今目の前で2発目を放とうとしているミラ。
打てば必ず相手を死に至らしめる魔法を放ってそれが防がれると予想し2発目の準備をしていたミラ。
「命懸けかよ」
僕はそう呟いた。
『アクア!!』
ミラの手から放たれる青白い閃光。
直撃すれば100死ぬな。
僕の手元の白い炎は自然と形を別の物へと変えていく。
僕はその形を変えた炎を上空にかざしその閃光と激突。
衝撃を感じたと同時に足元の地面も崩壊を始めて爆音と破壊音を同時に打ち鳴らし僕の体ごと大地が下がっていくのが分かる。
その衝撃も徐々に弱くなり。
終了を迎える。
青白く光る水のシャワーが消え去るのと同時に僕はすぐにミラを目で追いかけた。
意識がないのか無防備に落下しているミラを見つけるとすぐに僕は駆け出し落下地点までいく。
僕は丸い盾の形に変えていた白い炎を振り消して駆ける。
レビテーション
「よっと」
ミラをうまくお姫様だっこでキャッチすると遠くで声が聞こえてきた。
「「ミラ様―――!!」」
ミネアさんとグルグムさんが駆け寄ってくる。
その後ろをえっちらほっちらタカシとマサルもこちらに近づいて来ていた。
「ミラ、ミラ、おーい。意識はあるかー?」
へんじはない。ただのしか・・・・・・。
「ヒール!」
僕はすぐにミラを地面に横たわせミラの胸元に耳を当てる。
心臓が動いてない。
「ああーー!!なんやマーシー!!ミラちゃんになんてことすんねん!!」
「黙れ!!!!」
僕は思わず叫んだ。
「ヒール!!」
駄目だ。ヒールじゃ無理か。
「ミラ様!!ミラ様!!」
ミネアさんがミラを抱えて叫ぶが反応はない。
僕はすぐさまアイテムボックスから『治癒の血』を取り出してミラの口へと運ぶ。
「飲め!ミラ!!」
ミラはもちろん反応はしない。
僕はすぐにその『治癒の血』を自身の口に含んだ。
そして、ミラの口に自身の口を重ねて強引に『治癒の血』を飲み込ませる。
『治癒の血』を含んだミラの体が薄っすらと光輝くとビクッと体が痙攣したように動く。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
胸に耳をあてると心臓はゆっくりと動き出しているのが確認できた。
「ふぅ」
僕は一息ついて固まって動かなかったミネアさんとグルグムさんを見た。
「おそらく、もう大丈夫です。おーい、ミラー。いけるかー?」
ペシペシと僕はミラの頬を軽く叩いた。
「う・・・うぅーーん・・・」
顔をしかめて反応し、ゆっくりとミラは目を開いた。
「「ミラ様!!」」
ミネアさんとグルグムさんはミラに抱き付き安堵の表情を見せた。
僕はゆっくりと立ち上がると、タカシとマサルに近づく。
「ゴメンマーシー。さっきのはマジやったな」
「ああ、すまんすまん。もう大丈夫だよ」
「やりましたねマーシー。マウストゥマウス。ミラちゃんのファーストキスはマーシーのものだ」
「あんなのキスのカウントには入らねーよ」
「ホンマごめん、マーシー。さっきのマーシーは怖かった(涙)」
「いやいや、もう怒ってないよ。大丈夫だよ」
ミネアさんとグルグムさんに抱えられて地面に座り意識を取り戻したミラ。
「あれ?勝負は・・・・?」
「お疲れさん、ミラ。中々やるな。2連発とはな」
「そっか・・・・・・・・負けちゃったんだ・・・・・・」
「ああ。俺の勝ちな。残念だったな」
「なんだか・・・・血の味がする・・・・」
ミラは口を触り、口の中を切ったのかな?と呟いている。
それを見てタカシとマサルはニヤニヤ。
ミネアさんとグルグムさんもニヤニヤしていた。
「と・・・とりあえず今日は帰って風呂入ってゆっくりしよう!そうだな!そうしよう!」
僕は無理やりタカシとマサルを掴んで城の方へと歩き出した。
「ミネア、ミラ様を頼む。私は彼らを送って行く」
グルグムさんは僕らについてきてその場にミネアさんとミラが残った。
まぁ俺たちとは別の方がいいか。
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