蛇が出るか、蛇がでるか
小一時間歩いてお城に戻ってきた。
入るのは正門からかと思っていたが裏門からグルグムさんが門に向かって声をかけてさっきの門番1人がバッサバッサと翼を広げこちらに飛んで来て確認するとあっさり裏門から入ることができた。
さっき見た時は門番には翼が生えているようには見えなかったがどういうことだろう?生やしたのか?すげーな魔族は。
中に入れてもらった僕たちは食堂に熊をまず手渡した後そのまま大浴場へと直行して体の汚れと心の汚れも落としきる。
「はぁーーー、風呂はやっぱええなーーー」
「最高ですね。この後は熊鍋が待ってますし」
「明日も帰る前には朝風呂だな」
グルグムさんは報告を済ませるということで風呂場には僕たち3人だけだった。
「明日にはここともお別れかー。べつにこれといったことはなかったなー。魔王様に会えたことと、呑み友達が増えたくらいかなー?」
「魔族っていうのも別段普通でしたね。魔王様以外は。何故人間と争っているのでしょうか?」
「そうだよなー。俺も結構魔族は普通だって感じたなー。武闘大会で出た蜂人間は人間に危害を加えようとしたから論外だけど」
「あいつはミレーヌさんに傷をつけたのでただのクズでしたが」
「ここの兵士もメイドさんも、ミネアさんやグルグムさん。ミラもそうだしな。まぁ魔王様はちょっと強すぎってだけで特に悪い人には見えなかったしな」
「魔族も人間も楽しくできるんちゃうかと思うな」
「帝都の団長さんが言うには、人間が魔族を見かけたら9割の人間は魔族に対して嫌悪感だったり敵対心を抱くみたいなこと言ってたけどな」
「そうなんや?俺には分からんなー。いっぺん酒を呑みかわしたらええのに。ほんだら皆仲良くできると思うねんけどなー」
「そういう感情を抱くのが普通で俺たちがたまたまそういう感情を抱かないだけかもしれないしな。俺たちはこの世界の人間じゃないし」
「そんな難しい話しはどうでもええわ。人間にもええヤツもおれば悪いヤツもおる。魔族も同じ。ええ魔族もおれば悪い魔族もおるってことやろ?」
「それが正解なんだろうな。人間だからとか魔族だからってのは意味がなさそうだ」
「よし!!熊鍋だ!!いくぞ!!」
マサルは元気よくお風呂を飛び出した。
それに続いて僕とタカシも風呂を出る。
先ほどのメイドさんが風呂場の入り口で待っており再度部屋へと案内された。
部屋で冷たいドリンクをいただいて一息つく。
20分もした頃に他のメイドさんが部屋にやってきて晩御飯をお呼ばれした。
晩御飯も個室に案内されて横長のテーブルにつくと1人に1人づつメイドさんがついてテーブルに料理が運ばれてくる。
マサルの期待に答えた熊鍋だ。
その横には熊の肉のステーキ。
スタートの合図もなくその料理にむさぼりつくマサル。遅れて僕とタカシも料理に手をつけていく。
「美味いな。熊の肉ってもっとクセがあって臭みとかあるんじゃないかと気にしていたが、全然そういうわけじゃなく、ちょっと身の引き締まった牛肉って感じだな」
「せやな、普通に美味いわ。しかも酒に合う」
マサルは一心不乱に料理を減らしていく。
熊料理を食べて腹を満たした僕たちは再度部屋でまったりとしていた。
「グルグムさんに言った通り明日にはここを出るが何かやり残しか、やりたいこととかはないか?」
「俺は別にないかな。魔王様と手合わせもできたし」
「あれは・・・・・マジで勘弁してほしかったけどな・・・・」
「大丈夫やったやん。魔王様もちょっと嬉しそうやったで」
「魔族の思考がタカシ寄りだってことは分かったけどな」
「俺も特にはないですかね。熊も食べたし。早く帝都に帰ってミレーヌさんに会いたいですね」
「リア充爆ぜろ」
「マーシーはどうなんですか?早く帰りたいとは言ってましたが何かやりたいこととかは?」
「俺も特にはないかな。こんなパーフェクトなメイドさんも拝めることができたし。心残りはないかな」
僕は入り口の前に立って無言でこちらを眺めていたメイドさんに視線を向けた。
「ミザリィちゃん逃げろ!!マーシーがエロい視線を向けてキタで!!妊娠させられるで!!」
「ミザリィちゃんは俺が守る!!」
お前たちはホントにいつの間に名前を聞いてるんだよ。
夜もまだ浅い時間帯。
まだ7時くらいかな。
部屋でくつろいでいる僕たちの部屋に来訪者があらわれた。
「少しいいかな?」
グルグムさんだ。
「あ、グルグムさん。どうしました?」
「うむ。3人共、時間はあるか?」
「全然暇やで俺ら。なんなん?なんかあったん?」
「それがな・・・・・・。一緒に来てもらっていいか?」
少し声をつまらせたグルグムさんに若干の違和感を感じる。
何か言いにくいことがあるのかな?
「全然大丈夫ですよ。断る理由もありませんから。どこへでもお供しますよ」
僕は立ち上がり、タカシとマサルもソファから立ち上がった。
「すまない。ああ、お前はいい。お前は部屋で待っていてくれ」
「かしこまりました」
そう言ってミザリィちゃんは頭を下げて扉を開けて僕達を見送ってくれた。
部屋の扉を閉めたミザリィちゃんはそのまま無表情で扉の前に立ちつくした。
おそらく僕達が戻って来るまでそのまま待ち続けるのだろう。
グルグムさんに連れられて僕たちは昼間も利用した裏門へ。
門番の兵士さんに軽く挨拶をしてそのまま外へと出ることになる。
外へ出ると北の森の方へと向かうのではなく東へ真っ直ぐ。広い草原地帯を真っ暗になった道を歩く。
「グルグムさんは夜目が効くんですか?真っ暗ですよ?」
「そうだな、人間よりは暗闇を見通せるとは思うが」
「明るくしてもいいですか?」
「ああ、構わんよ。草原地帯だから特に危険はないがな」
僕は無言で光の玉を3つほど出して周囲を明るく照らした。
一方を照らすライトではなく全方位を照らす光の玉であるため広範囲を明るく照らす。
「夜の草原に連れ出されるなんてドキドキしますね?」
「なんなん?きもだめし的な?それともこっちに・・・・・・・・・女風呂が!?」
「覗き!?そうでしたね!!ここに来てまだやっていないことがありましたね!!女風呂があるということならこのイベントは完遂しておくべきですよね!」
「グルグムさんも人が悪いわー。せやったらそうやと言うてくれたら俺らもノリノリでお供すんのにー」
「いや、こっちに女風呂はないが」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「めっちゃ普通の反応やん。絶対女風呂ちゃうやん」
「グルグムさんは悪くないです。グルグムさんは悪くないです」
「おい、グルグムさんが困ってるだろ。もうやめておけよ」
草原地帯を少し歩くと土と岩の続く場所へとつながる。
「もうそろそろだ」
グルグムさんが声をかけてくれたタイミングくらいで1人の人影が光に照らされた。
「ミネアさんやん」
ミネアさんがこちらを向いて立っていた。真っ暗な中をな。
「マーシー様。お待ちしておりました」
俺を?・・・・・・・・俺だけ?
「この先はマーシー殿だけ進んでください。タカシ殿とマサル殿はここでお待ちください」
グルグムさんが俺に目線を向けて軽く頭を下げる。光の玉が照らしているためこの辺りは明るくなっているが奥はまだ暗い。
俺だけこの先に進めということか。
「分かりました。それじゃあ俺だけで行けばいいんですね?」
僕は照らしていた光の玉3つはそのままここに浮かべておき、新しく3つの光の玉を出してゆっくりと真っ直ぐ歩いて行く。
30メートルくらい進むと人影が見えた。こちらに背を向けているが誰なのかはすぐに分かった。
今はドレス姿ではない。パンツルックでブルーのベスト、そして腰に短剣を帯刀した姿。
「こんばんは」
「やあ、こんばんはミラ」
振り返ったのは魔王の娘ミラ。
待っていたのがミラなのは見当はついていたが理由が分からない。
まぁここは魔王様じゃなかっただけよしとするか。
僕は甘かった
僕はこの時全く気付いていなかった。
僕の命の灯が消えかかっていたことに。
このまますんなり帰れると思ったら大間違いだ!!




