やっぱりいじめっ子ってのはどの世界にもいるもので
さて今日はもう街にもどろうかな
「とにかく今日の狩りはこれで終わりにしよう。オークの装備品と討伐報酬で当面の軍資金にはなるだろうし。さぁ街まで戻ろう」
「なぁなぁ競争しようぜ!」
オイオイ、俊敏456が何か言ってるぞ。
「なめんなよ俺とマサルの俊敏は200もねーぞ。勝負になるか!」
「分かってるよ。だから10秒だ!10秒待ってからスタートする!」
チラッと僕はマサルを見る
「いいねぇ、やりましょう。ゴールは森の出口ですね」マサルは意外とやる気だ。
オッケーオッケー、やりましょう。
僕は2人に何も告げず俊敏をLV3に上げた。これで俊敏LV3、数値が3倍になる。それでも僕の俊敏は240なので圧倒的不利だが、10秒だ。駆け足であの速さならダッシュで行けばおそらく20~30秒もあれば森の出口にたどり着けると思う。後は曲がりくねった道や邪魔な木に時間をロスしなければ勝てる。
マサルも何も言わずに俊敏をLV3に上げていた。俊敏の基礎値と格闘家の補正でマサルの方が俊敏が高いため敵はタカシよりもマサルかもしれない。
それにしても僕もマサルも負けず嫌いだな。
「妨害は?」マサルは屈伸をしながら笑顔で聞いてきた。
「禁止なわけがない」
「だな」
僕とタカシが答えた。
それじゃあ行くかと、僕とマサルが横に並ぶ。「10秒な」とタカシに念を押しておく。
タカシがコールする
「それじゃあ行くぞ、テメーら。よーーい」
『ドン!!』
砂煙りを上げて僕とマサルがロケットスタートを決める。ものスゴイ勢いで左右の景色が流れるのを体感する。時速何キロ出てるんだろ?高速道路を目一杯とばしているよりも断然速い。
最初は少し長めの直進だったので俊敏の数値で僕を上回るマサルは徐々に僕を突き放し始める。
左右の木々がバッサバッサと揺れて勢いに勝てない木々は折れて吹き飛んでいるのが分かる。環境破壊反対。
そろそろ曲がり角がくる。勝負に出るぞ。
「突風!!」
僕の身体の下方から一気に上昇気流を巻き起こす。そして自身も大地を踏み込んでジャンプするとひとっ飛びでマンション10階くらいの高さまで飛びあがった。怖い怖い。
風は止めずに今度は真後ろから突風を当てて森の上空を進める。
チラッと砂煙りを上げながら道通りに迂回しているマサルが見えるがそれよりも前方にそのスピードのまま合流。着地時には同じように風を巻き起こしクッション代わりにしたので無傷だ。一気にマサルを置き去りにする。
もう半分は越えたはず。そろそろタカシもスタートだ。
チラッと後方を確認すると遠目にマサルの姿が見えるが、さらにその向こうに僕とマサルのあげる砂煙りとは比較にならないほどのデカい嵐を巻き起こしながら異様なスピードで迫り来るものは僕がショートカットをした森をそのまま直進して森を破壊しながら追いかけてくる。
「迂回するでもなく、飛び越えるでもなくなりふりかまわず直進してきやがったか」
ならこっちもなりふり構わねーぞ。
ダッシュをしながら左右の特に大きな大木に風で切りつける。幅3メートル以上はありそうな大木ばかりだ。斜めに切れ目を入れて道側に倒れてくるようにする。数本大木を倒すと同時に自分が通った地面にありったけの水を垂れ流す。「水、水、水、水、水、水、水ーー」
振り返らずにそのままゴールを目指す。もうすぐのはずだ!!
!?
背後から何か飛んでくる気配がする。
肩越しに背後を確認すると先程僕が倒した大木がものスゴイ勢いで飛んできている。
んなアホな。
「鎌鼬!!」
と、その大木を風で真っ二つにして直撃を避けるとその大木の影から泥だらけのタカシが姿を現した。
そのまま僕の倍くらいのスピードで追い抜かれると前方で「っしゃーー!」という声が聞こえたと同時くらいに僕も森を抜けた。
タカシは止まれずそのまま50メートルくらい滑り転んでいたが勢いがなくなって仰向けで止まると両手を天高く突き上げていたんで元気そうだ。
遅れてタカシよりも泥だらけのマサルが到着したが開口一番
「考えられん!あれだけの大木が襲ってきた時の気持ちがマーシーに分かるか!?」
ああ、思わずやっちまったがタカシもマサルもそれによる怪我とかは無さそうだ。確かにあれだけの大木が襲ってくると思うとゾッとする。
「無事でなにより」と返した。
あ、マサルの目が恐い。
「超圧勝!!!」とタカシが駆け寄って来た。どっろ泥だ。しかしまぁ嬉しそうだ。
完全に勝てると思ったんだが、結果俊敏の差が大きすぎることと。何も考えず障害物を無視して直進してきやがったことが敗因だな。
「はーい2人とも集合!」と、僕はタカシとマサルを並べた。
「今からシャワータイムです」
タカシとマサルはなるほどという顔をした。
つまりこういうことだ。
「みーーず」と唱えるとタカシとマサルの頭上に大きな水の塊が出現した。後はゆっくりとそこから水を垂れ流した。
ジャバジャバジャバジャバ。
誰かのせいで泥だらけになった身体を洗い流し綺麗になったところで。
「ちょっと面白い魔法思いついたんだが」
と、僕は「火」を僕の目の前に出してそれを通過するように「風」を起こした。
バタバタバサバサと2人の着ている服がなびく。
「なるほど、ドライヤーか!!」
その通り。1分くらい当て続けると着ていた服もほぼほぼ乾いたようだ。
「便利やな」
「便利だ」
「乾燥機いらず」
僕達は森の入り口あたりでちょっと休憩しようということになりアイテムボックスに入ってる果物をいくつか取り出した。
「毎日恒例異世界ミーティングーー!」
と、僕は切り出した。
マサルが親指を突き出していたが放置して話を進めよう。
「そろそろ行くか?次の街」
「「冒険!冒険!冒険!」」
手拍子をしながらノってきたな。
「このあたりの魔物のLVはどうやら5までが妥当らしい。このままチマチマとLVあげしてても時間を食うだけだと思うんだ」
「俺、武術大会出たい」
発想が小学生だな。タカシ。
あったら・・・・な。
「馬車だな馬車。ロープレっぽく」
マサルの提案も考えたが。
「いや、馬車は無しだ」却下だ。
「馬車ええやん馬車。冒険っぽい」
タカシも肯定派だよな。
「まず第1に俺達なら走った方が速い。第2に金の面がある。馬車代よりも必要な物が色々あるからな」
「はぁ、現実はそんなもんか」
マサル、俺達の脚力は現実的ではなくなっているぞ。さらに言うとスタミナも現実世界とは段違いにあがっている。これは多分ステータスの体力に関連してるのだと予想しているが、戦闘中でも今走った後でもまったく疲れを感じない。1番体力の少ない僕でも58だが、一般の街人がほとんど一桁だと考えると何キロでも何十キロでも走れそうだ。
「そして最後のが1番重要だ。それは俺が絶対に酔うからだ!!!」
2人とも5秒ほど固まったままだ。いや、ここ大事だよ。馬車は絶対酔うって。
「まぁ最後のはどうでもええとしても、確かに俺らは走った方が速いかもな。なんか走って冒険って笑えるけどな」
「乗り物酔いはどうでもいいってことはないとは言っとくけど、今日中にゲーリーさんにでもここから1番近い街と、後は目的地みたいなのを決めておきたいな。帝都とか魔法都市とか言ってたからそういうところに向かって行ってもいいかと思うし」
なんかそんなことを考えてたら楽しくなってきたな。
!?
人が近づいてくる。
嫌なタイミングだな。もうこの街を離れようって時に。
「おいおいおい。こんなところに居たら猪が出てくるぞ?ルーキーはもっと向こうでウサギとじゃれ合ってろよ」
鉄の胸当てをした目つきの悪い金髪くんが僕達をけなす態度で悪態をついてきた。
タカシとマサルの機嫌が一気に最底辺になったのが分かる。
僕達は立ち上がりその金髪御一行を見据えた。
バランスの良さそうな4人パーティだ。1人は2メートルはありそうな大男。フルアーマーで彼が盾役というやつだな。1人は軽装でグレーのローブを身に付けた茶髪でロン毛。彼は背中に弓を装備している。目つきの悪い金髪と同じような胸当てをした茶髪の短髪の青年2人は腰に細い剣を帯刀している。この2人が前衛ってところか。
金髪くんが1人こちらに近づいて来た。
「おら、邪魔だ目障りなんだよ。装備も買えねえただの平民がこんなところで遊んでんじゃねーよイジメちまうぞ?ははははは」
「あ、あかんわ。俺の中で誰かが今すぐコイツをぶっ飛ばせと言ってるわ」
タカシが1歩前に出た。
タカシの肩に手を置いて僕はそれを制止する。
「駄目だ。ただタカシの気持ちもやぶさかではないからな」
僕は1歩前に踏み出す「俺がやろう」
「いやいやいやいやマーシーがやるんやったら俺が」
「マサル」と、僕は指をパチンと鳴らす。
「イエッサー」とマサルはタカシを後ろから羽交い締めにする。
タカシには駆け引きも手加減もできなさそうだしな。
僕は金髪くんと対峙した。
LV10でステータスはだいたい30前後か。まぁそんなもんだよな。
「えーっと、金髪くん。少々言葉が過ぎると思うんですが。僕らも一介の冒険者なので同じ同胞じゃないですか」
「はぁ?同胞?ふざけんじゃねーぞ。俺達はお前らみたいなゴミとはちがうんだよ。一緒にするんじゃねーよ」
はは、駄目だわこりゃ。どうやったらこんなにひねくれた性格になるんだろうな。仕方がないな、やるか。
「ああ、悪い悪い同胞ってのはないな。テメーらみたいなクズどもと一緒にされたら俺達の評価も下がっちまうわ。こっち見るなよ気分が悪くなる。喋んなよ息が臭ぇんだよ。テメーと同じ空気吸ってるのも嫌なんだよ、視界から消えろよ」
おお、おお、良い顔してるな。
「死にたいらしいな!ルーキーが!」
剣を抜いたな。
「よし、じゃあやろうか」
僕もアイテムボックスからレイピアを取り出して剣先を相手に向ける。
金髪くんの剣は細身のサーベルのようなものだ。片手で構えて剣先を僕に向けている。
ジリジリと摺り足で距離を縮めてくる。両者の剣先が当たるくらいで金髪くんは一気に剣を突き出した。
遅い
僕はその剣を体を反らして躱し、その腕を左手で掴む。
「歯ぁ食い縛れ」
僕はレイピアを持った右手でそのままその金髪くんの顔面に拳をお見舞いした。
ガッ!!
「ぐわっ!」
金髪くんが尻餅をついて転がった。
「感謝しろよ。タカシだったらお前の首から上が吹っ飛んでるところだぞ」
金髪くんが鼻を押さえながらこちらを睨んでいる。
「ガルバラ!!」
「おお!!」
と、フルアーマーの大男が前に出てくるとこちらから、大男、剣士2人、最後方に弓使いの陣形をとった。おいおい今のやりとりで力の差も分からんのか?
「全員ここで殺す!!」
金髪くんが叫ぶと同時にフルアーマーくんが左手に装備した大盾で全身を守りながら「ガード!」と唱える。するとフルアーマーくんを緑色のオーラのようなものが包み込んだ。ガードって魔法だったのか。フルアーマーくんのMPが減ったのでおそらく魔法なんだろう。戦士用の固有魔法か?
タカシを見ると思いっきり悪そうな笑みを浮かべている。多分希望通りの展開になって嬉しいんだろうな。
「やっていいんだよな?」タカシはまだマサルに羽交い締めにされていたが、突っ込んで行きたくてウズウズしてるなあれは。
僕は最後方の弓使いを視線で牽制しながらタカシとマサルの所まで下がった。
「タカシ、あの鎧は好きにしていいぞ。殺すなよ」
マサルの拘束から解放され僕と入れ違いにタカシがフルアーマーくんと対峙した。
「マサル、タカシがあの鎧をぶっ飛ばしたら真ん中の剣士2人頼む。俺は弓使いをやる」
フルアーマーの大男を前にしてタカシはただそのまま近づいていく。近づいてそのまま流れるように右足を前に突き出しただけだ。
ガァン!!!
と、タカシの右足が緑色のオーラをガラスを割ったように破壊しフルアーマーくんの持った大盾に接触するとその大男は後方に吹き飛んだ。3メートルくらい上空を飛んでいる。ガードの意味はあったんだろうか?他の3人が驚愕の顔をしていたが吹き飛んだと思った頃には僕は弓使いの背後に。マサルは剣士2人の前に移動していた。
「ドーーーン!!」
マサルが掛け声と同時に張り手で2人まとめて吹き飛ばした。胸の辺りを張り手で突くと2人とも10メートルくらいは飛んでいった。
今弓使いは全く動けない。僕がファイアを彼の周辺に10個ほど浮遊させているからだ。彼は負けを悟ったようで手に持っていた弓を手放して地面に転がした。
タカシが蹴りを入れてからほんの1秒くらいで決着はついた。
僕はファイアを解除してフルアーマーくんの方に向かう。
大盾にはタカシの足跡がしっかりと凹んで足型になっていた。
「おーい、無事かー?」
構えていた左腕も折れてるかもな。
「ば、、、化物め、、」
確かにこんな大男を蹴り一発でここまでぶっ飛ばせるのは化物だよな。
「君にちょっと聞きたいことがあるんだよ。大丈夫大丈夫、殺したりしないから」
と、僕は仰向けになって倒れているフルアーマーくんの首にレイピアを添えている。
「えーっとねぇ、さっき使っていたガードってのは魔法だよね?あれはどうやって覚えたの?」
「ガードを、、知らないのか、、?」
「知らないから聞いているんだよ(怒)」
「戦士職のものが修練を積むことによって覚える戦士独特のジョブスキルだ。戦士にとって唯一使える魔法でもある。覚え方はこれといって無い。戦士として修練に励めばおのずと身に付けることができるものだ」
戦士のジョブスキルか。欲しいな。1度戦士をとってみるかな。僕はありがとうとお礼を言ってその場を離れた。
剣士の2人は並んでのびていたのでそのまま放置だ。後は弓使いがなんとかしてくれるだろう。
「もういいな、行こうか」
僕はタカシとマサルに声をかけてその場を離れることにした。
「これでこの街でやり残したことは無いな」
「あの金髪もこれで懲りるだろう」
どの世界でもいじめっ子ってのはいるもんだ。今回は相手が悪かったと諦めてもらうしかない。
僕達は草原をひた歩く。




