森に入ってエンカウント待ち
報酬をもらった僕たちは宝物庫から出て廊下を歩いている。
「マーシーたちは今からどうするの?街でも案内しましょうか?」
「ああ、ありがとうミラ。けど今日は北の森でちょっとレベル上げでもしようかと思ってる」
「北の森に?じゃあ私が案内するわ」
「いやいやお姫様。あんたが一緒に来てどうする。って言うか俺たち3人で大丈夫だよ」
「ミラ様。マーシー様のおっしゃる通りですよ。案内でしたら私が行きます」
「だって・・・。マーシーたちのレベル上げって、ちょっと興味湧かない?」
「いやいや、魔物狩るだけだよ。別に人と違うやり方するわけでもないし」
「男3人水入らずでチマチマ魔物狩るだけやからミラちゃんもミネアさんも別にええで」
「そういうわけにはいかないわ。仮にも来賓扱いなのだから森で何かあったらどうするのよ。それならグルグムを護衛につけるわ。道案内も必要でしょう?」
グルグムさんか・・・・。別に今回はなにか僕達で非常識なことをしようとしているわけじゃないから特に問題はないか。それにミラとしては一応監視もつけておきたいだろうしな。
「それじゃあグルグムさんも含めて4人で水入らずにしようか。タカシとマサルもそれでいいか?」
「まぁ俺は別にええけど」
「え?それじゃあミネアさんでもいいんじゃないでしょうか?」
「マサル。それはな。俺たちは今から純粋にレベル上げをするわけだからだ。分かっているな?この意味が」
僕はマサルに冷たい視線を投げかけた。
「イエス、サー。かしこまりました」
「それじゃあ申し訳ないけどグルグムさんに道案内をお願いするよ」
「わかったわ。すぐに出る?」
「もちろんすぐに。食料も水もあるから大丈夫だ。だよな、マサル?」
「食べ物はまだ結構残ってます」
「それじゃあミネア、グルグムを呼んで来てくれる?私は3人を裏門に案内しておくわ」
ミネアさんは軽くお辞儀をして通路の奥へ。
僕達3人はそのままミラに連れられてお城の奥へと案内された。
お城の入り口とは逆の方へと足を向けると大きな庭があり大きな噴水、綺麗な花々が咲いている。本当に魔大陸という名称とはかけ離れた感じだな。
おそらく裏口にあたるのだろう。城壁の一部。2メートル四方ほどのごつい鉄製の扉とその前に立っている鎧姿の兵士2名。
「ミラネル様」
「いかがなさいましたでしょうか?」
「彼らが北の森に用があるから開けてちょうだい」
門番2人はこちらに視線を向けた。
「昨日の人間たちじゃないか」
「ジョークガルンとバッハヨウクジャーやん。ここの門番してんねんや?」
「タカシ、お前のその記憶力はスゴいな。そんな名前よく覚えていたもんだ」
「一緒に呑んだヤツの名前くらいは憶えてるもんやろ?おかしいか?」
俺には無理だな。
少し待つとミネアさんがグルグムさんを連れてやってくる。グルグムさんは軽鎧で腰にはもちろん剣を備えている。
「突然呼ばれて何事かと思ったが、朝言っていた北の森にいくのだな?」
「グルグムさん突然すみません」
「問題ないさ。それではミラ様。ご指示通り彼らの案内をさせていただきます」
グルグムさんはミラに頭を下げて裏門から出る。
それについて僕達も裏門へと向かった。
「それではミラネル様。グルグムさんを少々お借りしますね」
僕はそう言ってミラに視線を向けて外へと出る。
「ええ。いってらっしゃい」
裏門から僕達が出ると門はすぐに内側から閉められた。基本は閉めきりなのか。入るときは正門からか。
「グルグムさん、北の森ってのはどれくらいかかりますか?」
「あちらを真っ直ぐ見れば分かると思うが丘になっているだろう?あそこを越えれば森が見えてくる。歩いても1時間あれば着く」
「ほんだら走って5分ってとこか」
「じゃあ走りましょうか」
「走って行くのか?それなら着くころには体力が減ってしまうと思うんだが」
「大丈夫やろ。マーシーがヒール使えるし」
「グルグムさん、歩いて1時間はもったいないので走って行きましょう。全力じゃなくていいのでなんとかこの2人について行ってください」
「わ・・・分かった。ついて行こう」
「ほんじゃあ、よーい、ドン!!」
タカシとマサルは好スタートを切った。踏み込んだ地面から小石がはじけ飛び僕とグルグムさんを襲った。
「な・・・そんなスピードで??」
「さぁ、俺たちも行きましょう。離されないうちに」
スピードアップ、パワーアップ。
僕は自身とグルグムさんに補助魔法をかけて2人を追った。
5分もかかってないと思う。
「はぁ、はぁ、はぁ。なんてスピードで走り続けるんだ」
ヒール。
「ありがとう、マーシー殿。ヒールというのは疲労にも効果的なのだな」
「うーん、めっちゃ森やな。道もなさそうやし。ここに熊が出んねんな?」
「レッドベアが出るのはもっと奥だ。森の浅いところではユニコーンラビットやキャットウルフが良く出る」
角兎に猫狼?まぁ想像通りのが出てきそうか。
索敵ON
ふむ。角兎と猫狼がそれぞれ群れでいるな。レベルは20台から30台前半。ちょっと奥にはロックスネーク?岩蛇?こいつはレベルが42で他より高いな。
熊はまだ確認できていないか。まぁ順番に狩っていくか。
「よし、それじゃあ俺とグルグムさんはゆっくり後から入るから狩りはタカシとマサル2人でな。こっちの右前方150メートルくらいのところにユニコーンラビットってのが9匹いるからタカシが真っ直ぐ行って仕留めてこい。こっちの左前方250メートル先にキャットウルフが12匹いるからそっちはマサルな。一応その先さらに150メートルくらいのところにロックスネークってヤツがいるから近づいてくるかもしれないから注意な」
「ロックスネークか。皮膚が岩で覆われている蛇だから物理攻撃が効きにくい。魔法の方が効果的だが」
グルグムさんの解説が入る。
「と、いうことらしいがマサル」
「岩よりの俺の拳の方が固いので大丈夫かと」
「よし、じゃあ行ってこい!2人とも!」
ダッ!と駆け出して森へと入って行ったタカシとマサル。
「グルグムさん、なにか毒とかそれ以外の状態異常を起こす魔獣はこの森にはいますか?」
「スネーク種の魔獣は毒を吐くヤツがいるがそれ以外の状態異常は特にないはずだ。だからこそ我々もレベル上げの時にはこの森へくるわけだからな」
「それは安心ですね。じゃあ俺たちもゆっくり向かいましょう」
「それよりも、魔獣の位置は分かったとして、なぜ名前まで分かるんだ?」
あ、しまったな。索敵が優秀すぎる。
「待ち伏せされた時に同じのがいましたから一度見たことあるヤツならだいたい分かりますよ。これくらいならミラもできるんじゃないですか?」
「ううむ、そうか。マーシー殿ならそれくらいはできそうか」
まぁ索敵は帝都の団長さんも使えるってことはスキルとして存在するのは一般的に知られているかもしれないからバレてもいいとは思うんだけど。伏せられるものは伏せていこうか。
僕とグルグムさんはゆっくりと森へと入って行く。
遠くで木がへし折れる音とその音であわてて飛び立つ鳥たち。微かにタカシとマサルの気合いの入った雄たけびも聞こえてくる。
先にタカシの向かった方へと進む。
タカシの足元には角の生えたグレーの毛色の生き物が数匹横たわっていた。
「思ってたよりずいぶんとデカいな、この兎」
ユニコーンラビットと呼ばれていたその生き物は大型犬くらいの大きさの兎だった。
「ほんまそれな。見つけた瞬間はドキッとしたけど躊躇なく角向けて向かってきたから返り討ちにしたけど」
「グルグムさん、この兎は持ち帰った方がいいですか?毛皮使ったり食用になります?」
「ああ、肉はまぁまぁ美味い」
僕は転がっていたユニコーンラビットをアイテムボックスに収納してタカシも連れて今度はマサルの方へと向かう。
ガァン!ガァン!ガァン!ガァン!
何かを叩く音が聞こえてくるな。
マサルの元にたどり着くとマサルはどうやら岩の塊を金属バットでガンガン叩いている。
「あ、マーシー。岩の蛇です、これ」
でかいな。幅1メートルくらいあるじゃないか。体長は前方部分はマサルが叩き潰しているが10メートル以上ある。
「なんなん、この長い岩?蛇なん?」
「そこの狼を仕留めたと同時に俺を食べようと向かってきましたんで胴体を砕いたんですが、頭の部分だけでなおも俺を食べようとしてきたのでコレこの通り。粉砕しております」
「よし、順調だなマサル。どんどん行こう」
グルグムさんは
「一応護衛でついては来たのだが、意味はないようだな」
と頭を掻いている。
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