魔王様は喧嘩がお好き?
それから数分してすぐにミネアさんから呼ばれて玉座の間へと再び案内された。
扉を開けて中に入るとたくさんのテーブルに豪華な食事。
抱き付きたくなるようなメイドさんが数十人料理を運んでいたりお酒を注いでいる。
僕達3人は玉座から一番離れた角のテーブルの前に陣取って料理を眺めメイドさんからグラスを受け取った。
「ブタの丸焼きや!ブタの丸焼きがあるで!」
絵に描いたような豚の丸焼きがテーブルの上に。
「なにこのでかい肉のブロックは・・・・・・・食いごたえありそうです」
その横には高さ50センチくらいの肉のブロックだ。それをメイドさんがナイフで皿に盛りつけている。
「皆のもの!!」
玉座の前に魔王様とミラが並んで立っている。
全員がそちらに視線を向けて、会場はシーンと物音をたてなくなった。
「今宵は祝いだ!!!呑めるだけ呑んで構わん!私がいない間本当にご苦労だった!ミラも無事戻ってきたし我々はこれで安泰だ!!門番にも城にいる連中全てに酒をまわしてやれ!!今日は朝まで呑み明かすぞーーー!!!!」
「「「おおおおおおお!!!!!」」」
大歓声が響いた。
「「おおーーー!!!」」
タカシとマサルもそれに続いた。
「じゃあ呑もうか」
「よっしゃ、んじゃかんぱーい」
「かんぱーい。美味い!この酒うま!」
メイドさんが皿に盛りつけた肉を口に含む。あ、美味い。なに?この肉?
メイドさんに聞くとどうやらドラゴンの肉らしい。
「ドラゴン美味い。ドラゴン美味い」
「この酒めっちゃうまいやんけ!何?日本酒っぽいけどめちゃめちゃフルーティーや!」
どっかで売ってんの?とタカシはメイドさんに話しかけている。
僕も酒をチビチビいきながらドラゴンの肉を口に運ぶ。ワイバーンとも少し違う。あっちも美味いがこっちも美味い。竜種の肉は絶品であると言っていたがその通りだったか。
周りの魔族たちは流石に僕達に近寄ってこない。一番端のテーブルの前に陣取ったのは正解だったようだ。チラチラと見られているのは分かるが。
僕らの周りにいるのは目の前でドラゴンの肉を切っているメイドさんと壁際に立っている鎧姿の兵士さんの2人だけだ。
タカシとマサルは必死にそのメイドさんに話しかけながら酒と肉を口にしている。
「おねーさん、おねーさん、こっちの豆みたいな赤いのはなんでしょうか?」
「そちらは香辛料ですよ。ドラゴンのお肉と一緒に食べるものです。少々辛いですが」
「バクッモグモグ、ガリッ。おおおおおおお!辛い!!でも美味い!!」
「ねーちゃんねーちゃん、こっちの真っ白なヤツはお酒なん?呑んでええ?」
「どうぞ、乳を発酵させたお酒です。アルコールは強くなく呑みやすいですよ」
「おおおおお!これはこれで美味い!!なんかちょっとマッコリっぽいわ!!なんぼでもいける!」
他も盛り上がっているがここも十分盛り上がっているな。僕はお酒をチビチビいきながら目の前のメイドさんを横から凝視している。
「楽しんでくれているか?マーシー殿、タカシ殿、マサル殿」
「グルグムさん、どうも。ウチの2人は随分楽しんでるようですよ」
「なに言ってんねん、マーシーが一番楽しそうやんけ。ずっとメイドさん見て、いやらしい目やわ」
「いやらしい目では見てない。芸術品を鑑賞する目だ」
「ほら、ジェニスちゃんが怖がってるやんけ」
「ジェニスちゃんが視姦されています」
「おい、いつの間にメイドさんの名前聞いてんだ」
「グルグム隊長!お疲れ様です!」
後ろの兵士さんがグルグムさんに声を掛ける。
「おお、ガスダン。こんな時に護衛任務か、残念だな」
「いえ、後でお酒はいただけますので」
「なぁなぁグルグムさんってここの偉いさんなん?」
「ここの兵士たちを任されているからな。一応隊長ということになっているな」
「貴様、グルグム隊長に馴れ馴れしいぞ、人間」
そのガスダンと呼ばれた兵士は手に持っていた槍をタカシの方へと向けた。
「ん?気―悪くしたか?ゴメンな。一緒に旅してた仲間やったからちょっと馴れ馴れしくしてもーたわ。けど、改めるつもりもないけどな」
「やめておけガスダン、魔王様の御前だぞ」
さっと槍を引きガスダンは不機嫌そうな表情をしたまま
「失礼しました」
そう言って元の位置に戻った。
「なんや、やらへんのか?魔族って強いって聞いてるから楽しみやってんけどな」
「タカシ、煽るなよ。折角のパーティーだぞ」
「もぐもぐ、そうそう、ふぉんなことよりふぉの肉がフゲーふまいぞ」
「お、なんだなんだ?もめてるのか?」
バタバタと足音をさせて走ってきたのは魔王様だった。
何嬉しそうに近づいてきてんだよ。
「なんもあらへんですよ、そこの兵士がグルグムさんに馴れ馴れしいって俺に突っかかってきただけですよ。すぐ引き下がるんやったらいちゃもんつけてくんなって」
ギロリとタカシを睨みつける兵士。
「煽るな煽るな。すみません魔王様。少々酒が入って絡んでただけです。大丈夫です」
「いいぞ、ガスダンやっていいぞ。けれど武器はなしだ」
と、魔王様は口を開いた。
「おい、マジか」
僕はハッとガスダンに目を向けると槍を手放したガスダンは喜々とした表情でタカシに向かって突進していた。対するタカシも避けることも防ぐ様も見せていない。
ドォン!!
と、ガスダンは重心を低くしショルダータックルでタカシの胸に激突。1メートルくらいそのままズズズズッとタカシは態勢を変えずに後退。
その後ろでは先ほどのメイドのジェニスちゃんがひょいっと豚の丸焼きやステーキの乗った5メートルくらいのテーブルを片手で持ち上げて2人に離れるように数歩距離をとった。パワフルだな。
タカシは突進してきたガスダンを背中からそのまま掴んで・・・・・・・持ち上げた。
ガスダンはタカシよりもでかくグルグムさんに近い体格をしているため190くらいはありそうだが今現在そのガスダンは頭と足が逆になったままタカシに持ち上げられている。
「おい、後頭部はしっかり守っとけや。ちょっと痛いで」
そのまま体を反って勢いをつけてからの
ドオオオオォォォォン!!!!
背中から思い切り地面に叩きつけられたガスダン。
そう、通称、パワーボム。
床は絨毯になっていたがおそらくその下は音から察するに石造りなのだろう。ガスダンが叩きつけられた個所は陥没しガスダンの呻き声がかすかに聞こえた。ちゃんと後頭部は守っているな。
気づいた時にはタカシはガスダンに馬乗りに。仰向けのガスダンの胸の部分に腰をつけて膝はしっかりと地面に固定。右拳を振り上げている。マウントポジションだ。
「どうすんねん?続けんのか?」
タカシがドスの効いた言葉を発すると反対側のグルグムさんがゆっくりと2人に近づこうとしているのが見えた。
「いや、すまない。完敗だ」
あっさりとガスダンは負けを認めた。
負けを認めたガスダンに対してタカシは笑顔になって立ち上がり手を差し伸べる。
「いやー、ええタックルやったわ。意識してなかったらぶっ飛ばされてたところやったわ」
その手を掴んで体を起こされたガスダン
「失礼いたしました。私はまだまだ未熟でした」
深く深く頭を下げたガスダン。
「マーシーマーシー、ジェニスちゃんがものすごくパワフルなのですが」
「そうだな、誰も気にも留めていないってことはあれくらい普通ってことだろうな。こうやって宴会場で喧嘩してるのもあたりまえのように全員見ているしな」
魔族はそういうノリだということなのか。随分と暑苦しそうだな。
多分・・・・・・・タカシ、マサルとは合いそうだ。
いつもお気に入り評価ありがとうございます!
こんな時だからこそこういう暇潰しがあればと思い
更新続けさせていただいてます。




