校内放送で職員室に呼ばれた気分
ミネアさんに案内されて僕達3人は大きな扉の部屋へ。
中に入るとそこは大きな会議室のような部屋。コの字の大きな机。こちらから見るとUの逆になっている形で僕たちはミネアさんを先頭にそのまま前と左右が机に囲まれた状態で目の前に座った魔王様と対峙する。
先ほどまで病人だった物の風格ではとっくにない。
肩まで真っ直ぐに伸びた艶のある真っ黒の髪にグレーの肌。目は青い。グレーの肌の時点で人間ではないのだろうと思えるがその青い目がより一層その人外っぷりを引き立てている。
机に肘をついて顎に手をあてている姿は若々しく、見た目年齢は僕らとほぼ一緒。背丈もさほどかわらない。グレーの肌が印象的だが顔面偏差値は高い。肌の色が普通ならただのイケメンとして芸能活動でもしていそうだ。
危機感知は反応はしているが、さっきの玉座の間で感じたほどの威圧感はない。
一応敵視していていきなり攻撃してくるようなことはなさそうだ。
「失礼いたします」
ミネアさんは僕達を案内し終えると部屋を出ようとするが、それを魔王様は引き留めた。
「ミネアもそこに。彼らと数日ともにいたのだろう?」
「はっ。かしこまりました」
ミネアさんは僕ら3人の後ろに控えた。
頬杖をついたままの魔王様は口を開いた。
「マーシー。と、言ったか」
「はい。先ほども名乗らせていただきましたが改めまして自己紹介させていただきます。後ろの2人と一緒に冒険者をしておりますマーシーと申します。後ろの2人が」
「タカシです」
「マサルです」
「私はマーシーに話があると言ったのだが、まあそこはいいだろう。少々聞きたいことがあるのだが」
「どうぞ、なんなりと」
「さきほどお前はペドロイが『治癒の血』に魔法をかけることに気づいて取り替えたと言っていたが間違いないか?」
あらー、そこにお気づきになられました?なんとなくスルーしてくれないかなー、と思ってたんですけど。
「あそこではっきり自分の行ったことを話しましたらミラネル様に心配をかけると思いましたので伏せた内容もございますが」
「ふむ。私は真意が聞きたい。話せ」
「全ては話せませんがよろしいでしょうか?」
「納得のいく内容であれば伏せるところは伏せても構わん」
さぁ言い訳大会の始まりだな。
「それでは。あの時ペドロイ氏に『治癒の血』が渡った後、微かな魔力の流れがペドロイ氏から感じました。あの場で魔法なんて使うことはまずありえないと感じたことと、周りに気づかれないように魔法を使用したということを考え、『治癒の血』に良からぬ魔法をかけたのではないかと感じました。合わせてミラネル様とも城内に裏切り者がいる可能性の話をしていましたので、そうかなとは考えました。ただ、確証はありませんでしたのでそこで声を上げるわけにはいかずという感じでしたね。ちなみにここで『治癒の血』をすり替えたというのは嘘です」
「え!?」
後ろからミネアさんの声が漏れた。
「ほう、その時は嘘をついたと?」
「はい。そんな芸当は私にはできませんのですり替えてはいません。おそらく魔王様が気にしてらっしゃるのは何かしら手の加えられた『治癒の血』をなぜ分かっていながら手も出さずそのまま魔王様に渡るのを見過ごしたか?というところでしょうか?それは魔王様の毒殺を見逃したということになってもおかしくありませんからね」
「そうだな、実際私に『治癒の血』を渡し、回復させたことは認めるがあの時毒入りの『治癒の血』を私が飲んでしまっていた可能性はあるからな」
「お答えします。ひとつ、ペドロイ氏が本当に魔法を使ったのか半信半疑だった。周りの誰も気づいておらず、特にそういうことには敏感なミラネル様も反応しておられなかったことから私の勘違いの線はありました。ひとつ、さきほども申し上げた通りその時に声を上げたとしても私の意見など通らないだろうと思いました。ひとつ、魔王様であればそういう異変があれば気づくのではないかと思いました。ひとつ、もしも毒入りを飲んだとしても私の差し出した『治癒の血』で回復できるだろうと思いました。以上です。質問があればお伺いしますが」
「結果論ではあるが、まぁ筋は通っているな」
よし、良い流れだ。
「ならば、聞こう。あの私に渡した『治癒の血』は?」
やっぱり聞いてくるかー。
僕は後ろを振り向きミネアさんを見た。そして魔王様へと向きなおす。
「ミラネル様の耳に入れたくないことですのでミネアさんの前で話すのは遠慮できますでしょうか?」
「大丈夫だ。ミネアはここでの話は一切外には漏らさん。ミラの耳には入れないことは約束しよう」
「分かりました。ミラネル様の持っていた『治癒の血』とは別に私は『治癒の血』を保持していました」
後ろからミネアさんの息をのむ音が聞こえた。
「ようは簡単です。ミラネル様の入手した『治癒の血』は魔法で毒に変えられ使い物にならなくなったので私の持っていた『治癒の血』を魔王様に差し出しただけです。さきに言っておきますが入手方法は話せません。こればかりは相手が魔王様だろうと」
「そうか。ミネア、別で『治癒の血』を持っていることは知っていたか?」
「いえ。存じ上げませんでした」
「そうか、ミラから聞いたがお前たちは『治癒の血』を持っていたにも拘わらずそれを黙ったままミラの手伝いをしていたと?」
「言うはずないでしょう?『治癒の血』ですよ。金貨何枚あろうが手に入らない。加えて魔王様の体を蝕むような毒でさえ完治させてしまう霊薬ですよ。探していると言われて、はいどうぞって出すヤツの方がおかしいでしょう?」
まぁ僕たちの手元にはさらに後2つもあるわけだから余裕はあるんだけどな。
「たしかにな・・・・・・」
「けれどそれをここで魔王様に差し出した私は魔王様に弓引くものではないと判断していただければと思います。まぁ半分以上の理由は魔王様にというよりは旅を共にしてきたミラネル様、ミネアさん、グルグムさんのためっていうのが本心ではありますが」
おや、危機感知がおさまっていくぞ。良い回答ができたか?
「よかろう、真意は分かった。これ以上はこの件は聞かないでおこう。ミネアよ言った通りだ。ミラの耳には入れてくれるなよ。確かに気の許したものが『治癒の血』を隠し持っていたと分かれば思うところもあるだろうからな。まぁ耳に入ったとしても理解のできる内容だとは思うが」
ミネアさんは軽く頭を下げた。
「さて、本題に入ろう」
はて??本題??まだ何か?
「マーシー貴様、ミラに手は出していないだろうな?」
え・・・・!?
えええええええええええええええ!!??
「なななな・・・・・なにをおおっしゃいられますか、ままま魔王様?」
「ミラがな、貴様の話をしている時はそれはそれは嬉しそうに話すのだ。やれこんなことが、やれあんなことが。あそこまで笑顔のミラは見たことがない」
「そそそそそれは、魔王様が回復なされたからでしょう?じじ自分とミラネル様はななにも・・・・なにもないですよ」
『マーシー、マーシー。逆に怪しいで』
『マーシーテメー!ミラちゃんとヤッたのですか!!あのいたいけな少女を傷物に!?』
『やってないわ!お前らもずっと一緒に居ただろーが!!』
「本当に何もないのだろうな?」
うわあああああ危機感知再発―。しかも超絶でかい反応だし。
「ミネアよ、どうだ?」
「魔王様、ワタクシはミラネル様とほとんどご一緒しておりましたが特になにかあったということはございません。ミラネル様がマーシー様に対する態度は友好的ではあったと思いますが私やグルグム、タカシ様やマサル様に対するものと同じようなものだったと思われます」
ナイスフォロー!ミネアさん!!
「心配されているようなことは何もございませんよ魔王様。依頼主と冒険者という立場でございましたので」
「そうか・・・・・・」
目が怖い。
なんだよコイツ、ただの親バカかよ。
スーーッと危機感知がおさまっていく。
「そうか、なら良い。時間を取らせたな。ゆっくりしていけ。珍しい人族の客だからな。歓迎しよう」
「ありがとうございます。宴会も楽しみにしています」
「ああ、最後にひとつ。マーシーよ」
「はい、なんでしょうか?」
「私は賢いものは嫌いじゃない。しかし計算高いものは信用できない」
「自分も同感ですよ。こう見えて自分は計算するよりも感情で動くタイプですから。それでは失礼します」
僕達はミネアさんに誘導されて部屋から出る。
ミネアさんがその大きな扉を閉めた。
「ミネアさんすみません」
僕は軽く頭を下げた。
「いえ、今の話を聞いたとしてもなにも気持ちは変わりませんよ。3人共私の恩人です」
最後にミネアさんの笑顔を見られて僕は晴れた気持ちで部屋へと戻ることができた。
いつもお気に入り評価ありがとうございます!
世間がこんな感じなのでちょっとした暇つぶしに寄っていただければと思います。
数日は僕も時間があるので更新していければと思っています。




