自分の欲望に正直に。おいおい。
コツコツと足音をさせて玉座の奥からミラと一緒に現れた男性。
ミラよりも身長は高いが僕らと同じか少し高いくらい。真っ黒のマントを首から足元まで纏って体を隠しているようだ。髪はミラと同じような黒髪で肌はグレー。
姿形は僕らと同い年くらいの印象だがその目は半開きで唇もカサカサ。頬もこけていて、ああ、見るからに病に侵されているな。手も骨が浮き出ている。確かにいつ死んでもおかしくないくらいに弱っているのが目に見える。
しかし目視で確認できるところまで来た魔王様を見た瞬間に感知スキルは最大限にまで反応しだした。
一斉にミラ以外の者たちは片膝をついて頭を下げる。
僕も2人に目で合図し、サッと膝をついて頭を下げた。
「「「「魔王様!!」」」」
「ま・・・・魔王様」
「お父様、あまり無理をなさらずに」
玉座の脇まできた魔王様はその虚ろな目線を一瞬僕達に向けたがそのまま玉座に近い位置にいたペドロイさんの方に向いた。
「ま・・・・魔王様!早く『治癒の血』を」
ペドロイさんの言葉と同時に
ガシャン!!!
と瓶の割れる音がした。
魔王様が『治癒の血』をペドロイさんの目の前に叩き割った。
「お!!お父様!!なんてことを!!!」
ミラが叫ぶ。
「ま!魔王様!!なんたることを!!」
ペドロイさんも声を上げた。
「よくもぬけぬけと」
魔王様が発した言葉は特に低くもない声だったが重く強く感じとれた。
声だけ聴くと若い10代のような声だったがその殺気とともに発せられた言葉に周りの魔族はもちろん、僕達も圧を感じ身動きが取れない感覚だった。
「お父様!!どうして!!どうして!!!」
ミラが割れた瓶に近づいてその目からは涙がこぼれていた。
ドン!!
ズガーーーン!!
急にペドロイさんが壁に吹き飛び石製の壁を抉って叩きつけられた。
「やはり貴様が毒を盛っていたか」
魔王様が声を出す。
「ゴホッ!ゴホッ!」
と、血を吐きながら地面に落下したペドロイさん。
周りの魔族たちは騒然としているが大半は膝をついたまま頭を下げ、顔をペドロイさんか魔王様に向けるのみで誰も動かない。
「ミラ、それには触れるな。毒が盛られている」
魔王様は『治癒の血』の残骸に近づいたミラに一声かけた。
「うそ・・・・・そんな・・・・・・・」
やっぱり勘違いではなかったか。
ミラがペドロイさんに『治癒の血』を手渡したあと、ペドロイさんは何かの魔法を使った。
誰にも気づかれないような小さい動きだったが。ミラでも気づかないくらい巧妙に。
そして僕はペドロイさんのステータスを確認したが、魔法は一通り使えるようだがその中にあったのが『毒魔法』。
そんな魔法もあるのかよ。
今魔王様が言ったようにおそらく毒魔法を使って『治癒の血』を毒に変えたんだろうな。
「ペドロイよ。ここにきて尻尾を出したか。貴様が毒を盛っていたとはな。気づかなかったわ、はっはっは」
その笑い声は本来ならば高らかな声であるところなのだろうが、弱々しい笑い声となっていた。
「ま・・・・・魔王様・・・・・・・・・・・。くく・・・く、くっくっく。あーーーはっはっはっは!!!今更気づいても遅いわい!『治癒の血』をミラネルが持って帰ってきたことには驚いたがそれもこれでおしまいじゃ!!」
口元に血を着けながらペドロイさんは叫ぶ。
「そ・・・・そんな・・・・・・ペドロイ・・・・・」
目に涙を浮かべて悲壮の表情のミラ。
「もうよい。殺せ」
魔王様の言葉と同時に壁の近くに立っていた兵士が2人でペドロイさんを串刺しにした。
その兵士2人の表情は鬼のようで憎い仇に向けるような表情だった。
ゆっくりとミラに近づく魔王様。
ヒッグ、ヒッグ、と子供のように泣きじゃくるミラに
「もうよい。ありがとうミラ。大丈夫、我はそう簡単には死なんよ。我のためにありがとう」
ミラの肩にポンと手を置く魔王様。
「うううううっ、ひっぐ。マ・・・マーシー・・・・・・ごめんなさい」
ミラはここまで一緒にいた時では考えられないような泣き顔で僕の名前を口にした。
なぜ謝ったのか。その真意はわからない。けれどミラは自分が悪かったのだと感じているんだと思う。なにも悪くはないさ。ミラはなにも悪くない。
魔王様は少し表情を険しくし、こちらを見た。
僕は
ここまで一言も発していなかったが
口を開いた。
「ミラネル様。ミラネル様はなにも悪くはございませんよ。魔王様、私ミラネル様のご依頼で『治癒の血』の入手に協力させていただいたマーシーと申します。勝手な発言をお許しください。私がミラネル様より承りました依頼は『治癒の血』の入手から魔王様の回復まで含まれます。そして、依頼の報酬としましては我々3人の身の安全の保障と報酬としまして金貨100枚と少々のアイテムを提示していただいております」
「そうか、残念だったな。依頼は達成されなかったからお前たちの身の安全は保障されないな」
「いえ、そのようなことはございませんよ」
僕はアイテムボックスから『治癒の血』を取り出して目の前に掲げた。
「「「「おおっ!!」」」」
「「「あ、あれは!」」」
周りの魔族からの声が漏れる。
「なにやらそこのペドロイ氏が『治癒の血』に魔法をかけようとしたのに気づきすぐに偽物と交換させていただきました。もちろんどうやって交換したのかは企業秘密ですが」
「マ・・・・・・マー・・・シー・・・・」
ミラは目を開きこちらを見ている。
魔王様の僕を見る目がものすごく疑いの視線なのはどうしたもんかな。
魔王様はチラリと地面に叩きつけられた『治癒の血』に目線を向けてからこちらに向きなおした。
「それで?それを我に渡して依頼を完遂させるということで間違いないのかな?」
「ええ、もちろんです。我々3人の安全はもちろん保障していただけますよね?」
「それは我が回復したらであろう?」
「もちろんです」
僕は捧げるように『治癒の血』を前に出す。
するとミラが近づいて来て僕に抱きついた。
「ありがとう!マーシー!!ありがとう!!」
ゾクッと感じた視線は魔王様からの視線だった。
正直視線で殺されるかと思った。
ミラはその『治癒の血』を受け取って魔王様の元へ。そしてその瓶を魔王様は確認するように眺めてから一気に飲み干した。
ゴクゴクと。疑うことなくいったな。
『治癒の血』を飲み干した魔王様。するとぼんやりとその身体を光が包み込みこけていた頬や不健康そうな肌、骨の形の見えていた手の甲もすっかり良くなりみるみるうちに健康そうな表情をとりもどしていく。
「お・・・・・お父様・・・・・・・・」
「うむ。どうやら本物のようだな全快とはいかないが毒は完全に消えたようだ」
「お父様―――――――!!!!!」
ミラは盛大に魔王様に抱き付き涙を流している。
周りにいる魔族たちも歓声を上げた。
すげーな『治癒の血』。これほどの即効性があるのか。
見るからに病人だった魔王様はすっかり元気な表情でさっきよりももちろん圧力を感じる。
さっきから危機感知が消えねーんだよ。
僕の方に向きなおした魔王様
「大義であった、3人の人族よ。何か褒美をやろう。何が良い?申してみよ」
ここでミラが欲しいって言ったら多分殺されるだろうな。っていうのは冗談だが、なんでもくれるのか・・・・・なにか欲しいものあるかな?安全だけでも僕は全然いいんだが。
「あ、じゃあ俺は美味しいご飯とお酒がいいです」
マサルは正直に自分の欲望を答えた。
「よかろう。すぐに酒宴の用意をしろ!!」
「「「ははっ!」」」
と、数人の魔族が部屋を出て行く。
「あ、じゃあ俺は魔王様とお手合わせ願いたいんやけど」
ブーーーーーー!!!!
タカシは正直に自分の欲望を答えた。
ちなみに噴いたのは僕だけじゃなく周りの魔族も一緒に噴いた。
「ほう」
さっきとは打って変わってハリのある肌を見せている魔王様は口元をニヤリとさせて僕の後ろにいるタカシへと視線を向けた。
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