マジか、ボブ。一体何者だ?
湿地帯を抜けて森を進む馬車。
森の入り口で襲ってきた魔獣たちだったが、森の中ではそんな素振りも見せず特に障害もなく森を進む。
「襲われたのはあの1回だけだったわけですね」
「なぁなぁ、なんであんなに出てきたんやろな?俺らの邪魔しにきたようには感じるけど」
そうだな、その話はしておくべきか。
「ミラ、さっき出てきた魔物の群れはあんな感じで自然発生するものか?」
「流石にないわね。考えたくないけれど間違いなく私たちの邪魔をしに来たんでしょうね」
「やっぱりそうか。そうなるとミラたちが『治癒の血』を持って帰ってくることを心よく思わないヤツがいるってことだよな」
「そうね」
「と、なるとミラの父親の弱体化はやっぱり何者かによる仕業で治すのを妨害しにきたって考えるのが一般的か」
「そう・・・ね」
「さっき出て来た魔物の群れに心当たりは?この辺りに生息してるヤツなのか?例えばバーウェンってヤツのところのなのか分かったりするか?」
「さっきの魔獣はこのあたりでも生息している魔獣ばかりよ。それで言えばこの魔大陸全域に生息しているから一概にこのあたりの魔獣だったかは分からないけれど」
ミネアさんはさっきから僕に引きつった表情を向けている。ごめんなさいね、さっき張り切っちゃったからね。
「魔王バーウェンの可能性は高いと思います。魔王バーウェンの特徴は魔族や魔獣を操ることですので」
「ミネアさんミネアさん。魔族と魔獣の違いは人と獣の違いでよろしいでしょうか?」
「はい、マサル殿の言う通り魔族とは人族、魔獣とは人族の世界の獣で問題ないかと」
魔族を操るか・・・・・。
「ミラ、分かってるとは思うが・・・」
「ええ。私たちの国にバーウェンの手の者が入っている可能性はあるわ。お父様に毒を盛るのもそう。私たちが『治癒の血』を求めて魔大陸を離れたことが知れていることもそう」
「なぁなぁ、ミラちゃんたちが『治癒の血』を持って帰ってきたってことを知ってる魔族ってさぁ、港町のあの馬屋の魔族だけなんちゃうの?っていうことはアイツが情報漏らしたスパイってことちゃう?俺ってすごくない?名推理」
「確かに。タカシ殿の言う通り『治癒の血』を手にしたことを知っているのは限定されるわね・・・」
ミネアさんの漏らした言葉にミラが顔をしかめた
「彼は古くからお父様についていてくれていたものだから、にわかには信じがたいけれど・・・・」
「悪いがその話はここで止めさせてもらうか。タカシの言う通りここに来てミラが『治癒の血』を手に入れたことを知る魔族はその人くらいだろうがその人がスパイである可能性はどうだろう?逆の立場から見てだが、ミラが魔大陸を離れて『治癒の血』を探しに出た。そして見知らぬ人間を連れて戻ってきた。急いで城に向かっている。そうなれば『治癒の血』を持って帰ってきたって考えるのが普通じゃないか?その馬屋の魔族がスパイである可能性はなくはないがそこから漏れたことが原因であることはないだろう?」
「あ、めっちゃ分かるわその説明。周りから見ればミラちゃんが戻ってきてるってだけで『治癒の血』をゲットして帰ってきたって考えられるわけか。せやったらあの人がスパイっていうのは断言でけへんな」
「そ・・・そうですね。失礼しました失言でした。申し訳ございませんミラ様」
「仕方がないわ。多分だけれど、城にバーウェンの手が入っていることは考えていたわ」
「まぁこういう場合は疑ったらキリがないもんだよ。そういう疑心暗鬼にさせることも相手の一手だしな。とにかく魔王様を治すこと。それだけ完遂させれば物事はいい方向に動くと考えよう」
森は入って2時間ほどで抜けて広い草原地帯へと切り替わった。
「お、見えて来た!!城や!!城見えてきたで!!」
馬車の前方のドアから首を出していたタカシが声高らかに叫ぶ。
僕もタカシの上から覗き込むと城壁で囲まれた大きな建物が前方に見えていた。
帝都のような大きさはない。多分僕達が最初に訪れた街フランよりも小規模だな。それでも周りをぐるっと囲む石壁は5メートルくらいはありその周りを掘が囲っている。城塞って感じがするな。
城塞のこちら側に木の橋が架けられておりそこにある大きな門が入り口を閉ざしている。
「着きましたね、ミラ様」
「ええ、このまま城まで行ってすぐにお父様の元に行きましょう」
「じゃあ俺たちはどこかで時間潰しておくよ。人間が城に入るのはまずいだろ?」
「えっ!?魔王様に挨拶せーへんの?どんなヤツか見てみたいんやけど?」
「いやいや、ミラが連れて来たといっても人間はまずいだろ。この辺りで時間潰して待っておいた方がよくねーか?」
魔王とのエンカウント。正直ちょっと遠慮したい。
「マーシーの言うのも分かります。けれどタカシの好奇心も少し共感できますね。ここでお目見えしないなら今後魔王様に会うこともないかもしれませんし」
するとミラが口を開いた。
「3人には来てもらうわ。お礼をしないといけないし以前言った通り恩人なのだからこんなところで放置するわけにはいかないわ。城での安全も私が保証する」
「マーシー、そういうことらしいから魔王様に会っていこうや。魔王やで魔王!どんなんなんやろーなー?ムキムキなんかなー?こう、真っ黒なオーラとか出てんのかなー?」
今のタカシの好奇心を言いくるめるの無理無理。
「ああ、分かったよ。じゃあ城までついていこう。他の魔族とかとは余計な接触はしないほうがいいと思うからこのまま城までいけるなら馬車から出ずにそのまま向かってミラやミネアさんと離れないようにしよう。普通に街中に俺たちがいたら何が起きるか分からないからな」
大きな門の前の橋まで馬車が進むと門番が数人馬車の前を塞ぐ。
そしてミラとミネアさんが馬車から降りると門番は全員片膝をついた。
もちろん僕達3人は馬車から出ない。
「ミラネル様!おかえりなさいませ!!」
「ミラネル様!」
あ、そういやミラネルだっけか。
ずっとミラって呼んでてそのままだったな。
「皆、ご苦労様。このまますぐに父上の元に向かいます。門をお願いします」
鉄製の大きな門はギギギギと音を立てて開門した。
ミラとミネアさんはすぐに馬車に戻りグルグムさんが馬を出発させてそのまま城塞に入って行く。
僕達3人はドアの隙間から外を覗いている。
「おお、結構普通の街って感じやな」
「普通の人間みたいな人も多いですね。あ、あそこの人、角が生えてる。獣人みたいな人もいますね。あ、あ、あれは・・・・・・・ボブの肉屋!!ボブの肉屋魔大陸店発見!!タカシ!タカシ!!」
「ほんまや!!ボブの肉屋や!!!ちょっと寄っていこーや!!あそこの肉は絶品やで!!」
「寄ることはないが、本当に驚きだな。ボブって一体なにものなんだろーな」
門を抜けると一直線に石畳の通りが見えて真っ直ぐ一直線に続いている。その先に大きな城が目視できた。帝都程大きい城ではないが石造りのしっかりしたお城で『ザ・魔王城』って感じでおどろおどろしい感じはしない。いたって普通のお城だな。
「案外普通な感じの街やなー。子供も居るし、おじいちゃんおばあちゃんも居るし。人間と変わらん生活感がするわ」
ああ、けれど全体的にステータスが高い。成人してるヤツはだいたいステータスが100近いしあそこのおばあちゃんは力が120とかあるぞ。フランのゲーリーさんと同じくらいじゃねーか。
「こちらも向こうもあまり変わりはないわ。規模は全体的に人族の方が大きいけれどね」
人口は完全に人族の方が多いが戦闘力で言うと魔族の方が断然上ね。
戦争になったりしたら確かにどう転ぶか分からないか。質か量か。いや、こんなこと考えるのはよそう。
馬車はさらに進み、城を守る大きな鉄格子のような門の前で停止した。今度はミラとミネアさんは下りずにグルグムさんが門番に一声かけるとゆっくりと門は上方に上がっていく。
上がり切ったところをゆっくりと馬車は進み広いホールのようなところで馬車は停止した。
外から馬車の扉が開かれミネアさん、ミラの順番でゆっくりと降りる。
そしてその扉から顔を出したグルグムさんが
「どうぞ、皆様も」
「よっしゃ、行こか」
「ちょっとドキドキ」
「本当に大丈夫か?人間がここまで来たことなんてあるのか?」
「大丈夫ですよ。我々が居ますから」
グルグムさんに促されて僕達3人は馬車から降りた。




