レベル上げってただただ獲物を狩る単純作業
異世界3日目。
やっぱり夢オチってわけにはいかないか。
椅子に干してあった布の服はすっかり乾いていたのでアイテムボックスにそのまま収納しておこう。お湯の張ってあった桶は昨日帰ってきた時にはすでに無かったので片された後だったのだろう。
メニュー画面を開いて時間を確認するとまだ7時だった。朝食をとろうと1階に降りていくとカウンターではもうすでにタカシとマサルが朝食をとっている。なんでコイツらはこんなに朝が早いんだよ。
「おはよう」
「おはようございます。ミリアさん俺にも同じものを」
今日は卵料理がメインみたいだ。朝食にしては大きめのふんわりとしたオムレツにサラダがたっぷりと盛られている。
カップに透き通った色のスープが入っていてえらく美味そうな匂いをかもしだしていた。
「モァーフィー、昨日ふぁ何処まわってふぁんだ?」マサルがサラダをモリモリと食べながら聞いてきた。
「ああ、なんか高級住宅街って感じだったな。でかい屋敷とか家ばっかりだったよ。ただ人はあんまりいなかったな」
「あら、貴族街の方に行ったの?何もなかった?この街の領主や貴族は冒険者や街の住民を見下してるみたいであまり好かないのよねえ」領主や貴族とは特に絡みはなかったな。領主の娘とはバッティングしたが、まぁ名前も名乗らずにすぐにトンズラしたんでとりあえずは大丈夫だろう。
そういえばあの時の緊急ミッションの報酬がちょっと不安だな。領主の娘の婚約者になれるとかだったよな?僕はログを出して確認してみた。あの後は特にメッセージは増えていないのですぐに確認できた。婚約者か、、。厄介事に巻き込まれなけりゃいいが。
「今日はどうすんだ?狩りに出るか?」
タカシが尋ねてきた。そうだな、この街には特に用事はないし、もうちょっと狩り場を広げてみるのもいいかもしれないしな。
「とりあえずもう少し資金がいるからな。昨日誰かさんがあの人数に酒振舞ったりしたんで出費が多かったしな」
「酒代は必要経費や!」
「そう衣食住酒は生きていく上で絶対必要!」
そこに酒を入れてきたか。
「なら、その酒代くらいは余裕持って稼がないとな」昨日2人に渡した銀貨2枚を含めると昨日だけで酒代に銀貨5枚は使った計算になるな。5万だぞ、1日の酒代だけで。
今日はうさぎは無視して猪を仕留めつつ昨日オークの出たあたりくらいまで行ってみるかな?討伐報酬狙いでオークと、後はスライムは1度是非拝んでみたいな。確かスライムは討伐報酬が銀貨2枚だったはずだ。
その時ドンドンと店の扉がノックされた。
「こんな、朝早くにお客さんなんて来ないのに、誰かしら?」
とミリアちゃんは入り口に向かった。
「朝早くにすまない」
聞き覚えのある声だったので誰かな?と見てみると、昨日タカシとずっと呑みあかしていた顔に火傷のある冒険者だった。
「おお、タカシ。やっぱりここだったか」
「なんだ?ヴィラン。こんな朝早くから」
ヴィランと呼ばれた冒険者はデカイ大剣を帯刀しておりサンドバッグみたいな荷物を背中に担いでいる。今から冒険にでも出ようという格好だな。
「俺たちは、もうここを離れるんでな。その前にタカシに挨拶していこうと思ったんだよ。当分会えねぇと思うしな」
扉からもう1人入ってきた。こっちはタカシよりもでかい坊主頭だ。2人とも厳ついな。いかにも冒険者って感じだな。
タカシは少し残念そうな表情を浮かべた。
「そっか。また呑もうな。ダイアーもな」
「この2人がタカシのメンバーなんだな?」
ヴィランが僕とマサルに視線向ける。
「ああ、2人とも俺と同じくらい強えぞ」
タカシがそう言うとヴィランと2人でハハッと笑い合った。
「3人ともウチに来いよ。俺たちはSランク狙ってるからな。お前たちが居ればすぐに挑戦できそうだ」
「だから昨日断っただろ?別にランクとか俺たち興味ないって」
そういえばタカシは昨日えらく勧誘されてたな。随分とかわれたもんだ。
「なら、ダイアーとタカシをトレードしようか」
「冗談キツイぜヴィランよー(泣)」
ハハハハハッ、タカシとヴィランがダイアーを見ながら高笑いをあげる。
入口から1人の冒険者が入ってきてヴィランに「もう行くぞ」と呼びかけた。どうやら表に仲間を待たせていたみたいだ。
「じゃあまたな、タカシ。また呑もうぜ」
「おう、またな」
ヴィランはミリアさんに軽く頭を下げて「すまない、朝早く失礼した」と言ってダイアーを連れて表に出ていった。
「ちょっと、今のってヴィランよね?知り合いだったの?」ミリアさんが驚いた様子で聞いてきた。
「ああ、昨日一緒に呑んだんだ。おもしろいヤツだろ?」
タカシはそう気さくに答えた。
今のヴィランという冒険者はどうやらドラゴンバスターとして有名人のようだ。ドラゴンバスターってのはドラゴン討伐を1チーム単独で行ったチームに付く称号らしい。本来ドラゴン討伐は何チームも集まって行われるものなので単独で討伐したチームは数えるほどしか無いみたいだ。
先ほどは油断していて帰り間際にレベルしか確認できなかったが、ヴィランっていう冒険者はLV48ともう一人のハゲはLV41だった。ステータスをゆっくり見ておきたかったな。
ヴィランってのはタカシと馬が合ったんだろうな。タカシは敵も多いが味方も多い、はっきりしたヤツだ。知り合いはだいたい親友か敵かといったところだ。誰かれ構わず仲良くなるし、誰かれ構わず喧嘩を売る。以前海外に行った時には英語も話せないくせに現地の黒人と楽しく呑んでやがったな。
まぁそれがタカシの良いところなのかもしれない。
朝食を済ませて部屋に戻ると部屋着から冒険用の服装に着替える。どちらも材質に変わりはないため少し動きやすい程度だ。鎧や盾を装備しているものから見ると舐めてるとしか思えないだろうな。
だってそんなの買えるお金もねーし。
冒険に出る前に少しばかり食べ物を調達しておく。通りの八百屋っぽいところでリンゴ?やバナナ?をいくつか買ってアイテムボックスに入れておく。そんなに長居はしないと思うんで小腹が減ったら口にする程度で十分だな。
タカシとマサルを連れて草原に出る。門を通過する時に門番のモルさんに軽く挨拶しておいた。
昨日と同じように門を出てまっすぐ東へ向かう。
「あ、マサル。焼き鳥食うか?」
僕は昨日実験のためにアイテムボックスに入れておいた焼き鳥を取り出してマサルに差し出した。お、湯気が出てるな。
「お、食う食う」
マサルはそれを受け取って口に運ぶ。
・・・・・・。・・・・・・。
反応を見るからに普通だな。
「マサル、どうだ?美味いか?出来立てか?肉固くなってないか?体調悪いとかないか?」
「なんですか?その意味深な聞き方は?」マサルが、心配になって聞いてくる。
「いやぁ、その焼き鳥は昨日アイテムボックスに入れたヤツでさぁ。保温機能とかあるのかな?と思って入れといたんだ」
「それを俺に毒味させたと、、?」
「マサル、好きな食べ物は?」
「食べ物だ!!」
「で?焼き鳥は美味かったのか?」
「まるで出来立てのようで美味しかったです」
「なら問題はないな」
「問題なし!!」
よしよし、どうやらアイテムボックスは結構つかえるな。保温機能があるというよりはこの中は時間自体が止まってるのかもしれないな。料理を温かいうちに入れておけばいつでも出来立てを食べれそうだ。
森までの道中僕は魔法で遊んでいた
「扇風機~」と、風魔法のウィンドで微力の風をタカシに当てている
「羽なしの扇風機じゃなくて何もなしの扇風機なんて斬新すぎるな」
僕はタッタッタッと前方に走り
「突風」と唱えると背後から追い風を起こしてその風に乗る。
うまく乗れると風の椅子にでも座っているようで20メートルくらい空中を運んでくれた。バランスをとるのが少し難しいが慣れれば空も飛べそうな威力だな。タカシとマサルが俺も俺もと試してみたがやっぱり自身でないと調整が難しいので数メートル吹っ飛ぶだけだった。
森の前に到着。
「とりあえず昨日オークの出たあたりまで一気に行こう。途中のウサギと猪は基本無視で。猪は通行の邪魔をするようなら適当に蹴散らすくらいでいい。昨日は周りに気を配りながら1時間くらいかかったからな」
「走って行くんか?」
「駆け足くらいで行こう。あまり体力使わない程度で。先頭は俺が行くから俺のスピードに合わせるくらいでいい」
「「ラジャ」」
片手にレイピアを抜いて森に出来た道を駆け出した。
索敵を左右と前方だけに集中しながら森の道を駆ける。
早い。
バイクでとばしているようだ。多分50キロくらいは出てるんじゃなかろうか。すげぇな俊敏100オーバー。軽く駆け足でこれほどとは。
タカシもマサルも問題なく付いてくる。
ウサギは見かけても無視。先ほど1匹跳んで向かってきたが、レイピアで一閃して止まらず駆けたままだ。猪が道を塞いでいたが随分と手前で気付いたんで風魔法で頭を吹き飛ばしてすれ違い様にアイテムボックスに放り込んだ。
ものの2~3分で目的の場所までたどり着いた。やっぱり警戒しながらとはわけが違うよな。
ここからはゆっくりと徒歩で進む。
僕は索敵を広げて広範囲で獲物を探す。ウサギや猪の場合は適当にタカシとマサルに狩ってもらい、僕はそれ以外の獲物を探してみる。
オークは数匹で集まっていることが多いようで付近で見つけたオークはだいたい4匹から5匹くらいで1セットだった。1時間ほど歩きまわって3回戦闘した。まずはレベルの低いマサルに棍棒で襲わせてレベルアップさせる。棍棒を持ったマサルと棍棒を持ったオークが対峙した時は不謹慎にも僕とタカシは吹き出していた。
1回目の戦闘でレベルが上がったんで2戦目は僕が遠距離でウィンドを叩き込んで瞬殺。3戦目はタカシとマサルがそれぞれ拳を叩き込むだけで絶命した。僕もタカシもレベルは上がらなかった。
早くもレベルアップに天井が見えてきた感じだな。オークのレベルは3~5。自分よりも下のレベルの相手を倒してもひょっとしたら獲得経験値が減少しているのかもしれないな。流石に0ってことは無いだろうが。
その後3匹組と4匹組のオークを討伐したが、誰一人レベルは上がらなかった。
そう簡単にはいかないなリアルRPG。この辺りでレベルを上げるには地道に何日も狩りを続けなきゃならんらしい。そろそろ12時になりそうなのでかれこれ3時間は歩きまわっているがオークに出くわしたのは合計5回。エンカウント率があまりよろしくない。
「駄目だな。スライムも出ないし、この辺りの森は初心者向きなんだろうな」
RPGとして考えると妥当なのかもしれないな。最初は低レベルのモンスターが出てくる街からスタートして新しい街や国にたどり着く度に徐々にモンスターも強くなる。少しずつ装備を強化したり魔法を覚えていったり。
「そろそろ次の街に行くことも考えなきゃならんかもな」
「旅だな旅!テントと寝袋買おーぜ!」
楽しそうだな、タカシ。




