魔王7人。出会わずにクリアできるゲームってあるかな?
港町を出ておおよそ城までは3日かかる。
俺たちが走ればもっと早いがそういうわけにはいかない。
と、なれば城に着くまでこのまま進むのが最大速力になる。馬も休ませないといけないわけだから2回ほど野宿は仕方ないか。
馬車はガタガタと揺れながら魔大陸を進む。
港町を出たところは深い森だったが決して獣道ではなくちゃんとした道が舗装されており馬車がすれ違うことができるくらいには広い。
最初の1日は丸々森を走っていた。
道中、軽自動車くらいの狼が数回出て来たがグルグムさんが御者をしていて睨むだけで去っていくのが見えた。
タカシがチェッと拗ねていたが無駄に時間をとることもないので戦闘する必要がないのはいいことだ。
森を抜けるとゴツゴツとした岩が立ち並ぶ草原地帯に入る。岩場があるため視界は良くはなかったがここもあるていどの幅の道が続いているためその道沿いに真っ直ぐ進むだけだった。
さらに1日過ぎると今度はかわって視界の広がった湿地帯を駆け抜ける。
もちろんここも道はあるわけだがただの土でできた道なため周りの湿地帯に汚染されて道には水たまりがあったり泥のようにまとわりつくため少々スピードを落としての進行になる。
「もう今日中には着くねんな?」
「ということですが、どうですか?グルグムさん」
「そうだな、このままいけば今日の夕方には着くはずだ。この湿地帯を抜けてあと少し森を抜ければ城に着く」
今は御者はミネアさんが。馬車の中にはグルグムさんがいた。
僕は道中ミラたちに魔族や魔王の話しを中心にしてもらっていた。
今後できればあまり関わることを避けていきたいとは思っているが知識として頭に入れておくべきだと思っている。
魔族の特徴は人族よりも身体能力が高い。あとは異形や変わったスキル持ちもいる。武闘大会のサイモンってのは蜂人間だったしな。毒を吐いたり腕が伸びたりするヤツもいるらしい。まぁ想像はできる。ちなみにエルフは魔法力が高く獣人はだいたい身体能力が高いというのが一般らしい。これも想像通り。
特に肌の色であったり体の大きさはバラバラらしい。そういう特徴で言うと角の生えているものや翼の映えているもの、尻尾があったり爪や牙が人間のそれではなかったりするので身体的特徴で判断できるものも多いとのこと。ちなみにグルグムさんはそういう特徴は特にないためミラの護衛を任されたらしい。2メートル近い大男ってのもどうかと思うが。
あとは7人の魔王。ミラの父親。それに敵対する魔王バーウェン。ミラたちが関わり合いのあるのはあとは獣王と呼ばれている魔王くらいらしい。この獣王はミラの父親と友好関係になるようで会ったこともあるようだ。他の魔王については詳しくはないらしい。魔大陸も広いからね。7人の魔王の集まる魔王会議とかあるのかと思ったよ。
一応簡単な説明だけで他の魔王は竜王、ヴァンパイアの王、死神、そして。
「魔王ディザスター。彼に会ったらなにもしてはダメ。出会うこと自体が災害だったと思うしかないわ。時折フラッと魔大陸や人間界に出没するの。出会っただけで運が悪かったと思うしかない。ただなにもせず息をひそめて通り過ぎるのを待つしかないわ」
ディザスター?そのまま災害とか厄災って意味だったっけ?
「なんなんそいつ、めちゃめちゃ強いん?」
ほら、そういう言い方はタカシの大好物なんだよ。
「魔王ディザスターは強いとかではないわ。目にすればほぼ死ぬ。気まぐれで偶々生存した人が数人いるだけよ。これは魔大陸でも人間界でも共通の合言葉『ディザスターに会ったらなにもするな』息も止めてソレが去るのを待つしかない」
聞いた感じじゃ死神って言われてるヤツの方がそれっぽい感じがするんだがな。じゃあなぜに死神は死神と呼ばれているのだろうか?
「ミラ様の言う通り、小さい頃から誰でも知っている合言葉です。魔王ディザスターは魔王の中で唯一単独で行動し、ごく稀に人の前にも姿を現すことがあるとされています。会えば必ず死ぬとすら言われている存在、それは他の魔王だとしてもです。ほとんど会うことはないと思いますが万が一にも会ってしまった場合はなにもせず去るのを待つだけです。話しかけても目を合わせてもダメです」
「なんや、えらいヤツがおったもんやな!なぁ、マサル!!」
「いやいや、俺は会いたくないですよ。タカシのその会いたそうな目が俺には分からないんですが」
うーーん、もしもこの世界の流れに僕達3人がドップリ流されていると考えるならどこかで会ってしまう可能性は0ではないな。出会って瞬殺される相手とか勘弁勘弁。
「まぁ出会う確率もほぼないとは言われているから大丈夫だろう。故に災害と言われているくらいだからな。だいたい100年に1回どこかで目撃情報が出るくらいらしい」
これは運の勝負か。出てくるなよ、ホント。
ガタガタと揺れる馬車はゆっくりと進んでいる。
キュアをかけつつ外を見てみるが今は4方が広く視界の開けた湿地帯だ。
馬車の前の扉を開けて御者をするミネアさんに水の差し入れをしようと僕は革袋に詰めた水を出しミネアさんの横に座った。
「どうぞミネアさん、水です」
「ありがとうございます。あ、そろそろ森が見えてきましたよ。あれを抜ければ城に着きます」
前方の道の端に緑豊かな木々が薄っすらと見えて来た。それにしてもこの湿地帯もそうだし森もそうだったがきっちりと道が舗装されているのには驚きだ。魔大陸ってのは魔族の掃きだめで弱肉強食の世界。血で血を洗う日常が、みたいなことが本で描かれていたが普通にこういう道が整備されているってことは行商とかが一般的に行われているってことだしな。
森が徐々に近づいてくる。
スーの森ほどではないが背も高く緑の多い木々が端から端まで伸びている。そしてこの道の進む先はその森が割れておりその先にもきっちりと道が存在するようだ。
!?
なにか、見られている感じがする。
僕はキョロキョロと辺りを見回す。視界の開けた湿地帯であるためなにも障害物はない。もちろんこちらを見るものもいない。
索敵。
前後左右全てに広範囲の索敵を広げる。
座った態勢で索敵だけに集中すれば半径1キロ以上は軽く範囲を広げられるが中々なにもヒットしないな。
と、なると前方に見えているまだ索敵の範囲に入らない森・・・・・
森の木が揺れてゆっくりと倒れているのが見えた。
ヒヒーーン!
と綱を引き馬を止めたミネアさん。
「マーシー殿、前方になにか」
「ああ、何かいるな」
いきなり停止した馬車の中からタカシが僕の肩に顔を出した。
「なんやなんや、なにかあったんか?」
「そういえばタカシ、目が良かったよな?あそこに見える森の木が倒れたんだが分かるか?」
「んんーーーーー」目を細めて凝視するタカシ「なんか獣みたいなんがめっちゃおるけど」マジでこの距離で見えてんのか?
「めっちゃ?めっちゃってどのくらいだ?」
「多分100とかは超えてると思うけど」
バサバサバサ!!
ドドドドドドドドドドドドド!!
前方の森の木がさらに倒れたと思ったらそこからなにかの群れが一斉に飛び出してきた。
獣か?いや、1種類じゃない。背の高い巨人やら鳥みたいなのも同時に飛び出してこちらへ向かってきた。
おいおい100じゃきかないじゃねーか。500とかいってねーか?まだまだ出てきてるし。
「まずいな、待ち伏せか」
ドタバタン!とすぐに他のメンバーも馬車から飛び出した。
敵は前方からのみ。後方に逃げようにもその場合は馬車はあきらめないといけないな。
「マーシー殿!!ここは俺に任せてミラ様を守っていただけるか!ここまで来てミラ様と治癒の血を失うわけにはいかん!!」
グルグムさんが大剣を構えて馬の前に出た。
「マーシー殿、後はお任せしました。ミラ様を必ず城へ」
ミネアさんも魔力を練りながら腰にぶら下げていた短いロッドを手にした。
しかしそうは問屋が卸さないんだな、これが。
そう言ってかっこよく前に出て行ったグルグムさんとミネアさんの首根っこをつかんで後ろに引っ張ったのはタカシとマサルだった。
「な、なにを!タカシ殿!」
「マ、マサル殿!」
「逆や逆。ここは俺らがなんとかするから。2人はミラちゃんの護衛やろが。適材適所や!」
タカシ、よくそんな難しい言葉を知っていたな。
「先に言われた。言ってみたかったんです。『ここは俺に任せて先に行け!』って」
マサル。同感だ。
「ミラ、ミネアさん、マジックガードで馬と馬車ごと守っててくれるか?逃げろとは言わない。ここで待ってろ。殲滅戦は俺の得意分野だ」
「そんな!マーシー殿!これだけの数は無謀すぎます!!グルグムと私で時間を稼ぎますのでなんとかミラ様だけでも!!」
叫ぶミネアさんを横目に僕はミラに視線を向けた。
「大丈夫だ。依頼はミラを無事魔王様のところまで運ぶことまで含んでる。俺たちに任せろ」
「私、手伝おうか?」
「いや、いいよミラ。大丈夫」
「そう、それじゃあお願い」
「ああ、行ってくる」
僕はスタスタとタカシとマサルの元へと歩を進めた。
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