はいはい7人ね。予想できるか!
揺れる馬車に吐き気を感じる度に僕はキュアを行使する。それにしても僕以外は誰も酔ったりしないようだ。結構揺れてるよ。そういえば船も皆大丈夫だったな。乗り物酔いってこの世界ではめずらしいのかな?
ミラは首からぶら下げた瓶を握りしめてその瓶をマジマジと見ている。
「はやくそれで父親を助けてやりたいな」
「ええ」
「ちなみに父親が伏せっているのは呪いが原因とかじゃないよな?」
「それは大丈夫よ。原因は色々と調べたけれど呪いではなくおそらく毒よ」
「毒か。それは解毒魔法とか、解毒薬が効かない毒ってことか?」
「ええ。どんな解毒方法も若干症状を和らぐ程度しか効果がなかったわ。父はどんどん弱っているから一刻も早くこれを渡さないと」
「毒ってことは・・・・・・・誰かに盛られたってことはないのか?」
「・・・・・・・・・分からないわ。どんな毒かも分かっていないわけだし、盛るにしても誰が盛ったかも分からない。別の原因でなにかしら毒にかかった可能性もあるわ」
「そっか。まぁそいつを飲ませてすんなり解決すれば問題ないか」
タカシとマサルはさっきからずっとミネアさんを質問責めだ。
「ダークエルフって魔大陸にはいっぱいおるん?」
「魔大陸には集落もあるからいろんなところで生活しているけれど数はどうかしら?500もいないんじゃないかしら」
「ミネアさんみたいなんが500人かー。男もみんな色黒なん?」
「ダークエルフは9割以上は女性なのよ。男が生まれてくるのは1割以下。もちろん肌は黒いわね」
「ということはミネアさんみたいなんが450人はおるってことかー。みんなそんなおっぱい大きいん?それともミネアさんが特別なん?」
それを社会ではセクハラと言うんだぞ。マサルが横で耳をダンボにしている。
「・・・・・・・・胸は皆私とおなじようなものよ。もちろん子供は違うけれど。そんなこと聞かれたのは初めてよ」
そんなことを聞くヤツが他にいたらこの世界は問題だよ。
「ミネアさんが450人、ミネアさんが450人」
マサルが呪文を唱えだした。
「皆そんなに魅力的なんかー。ぜひとも会ってみたいなー」
「今から行くお城に全員いるわけじゃないわよ。今から行くところにはダークエルフはせいぜい50人。男はいないわ」
「いや、男には別に興味ないからええねんけど」
「ミ・・・ミネアさんはご結婚はされてるんでしょうか?」
マサル、今のその表情をミレーヌさんに見られていたら貴様は八つ裂きにされてしまうぞ。
「ダークエルフで結婚するのはほとんどいないわ。子供は生むけれどね」
「シングルマザーか。大変やねんなー」
汲み取り方が少々違う気がするが。
「ミ・・・・・ミネアさんはお子さんは?」
マサルがさらに一歩踏み出した。お前は男だな。
「まだいないわ。ダークエルフは人間よりも寿命が長いから200歳までに1人か2人できれば良い方よ」
「ミラちゃんは?ミラちゃんは結婚とかしてんの?」
ミラに飛び火が。
「え!?私!私はまだに決まってるでしょ!」
「そっか、そんじゃあ子供は?」
「いないわよ!!」
ミラが珍しく声を荒げた。
「ミラ様も早いウチにお子を授かることができれば魔王様もお喜びになられるとは思うのですが、流石に見合うお相手が今のところございませんので」
ミネアさんがフォローに入ったように見えるがミラは顔を赤くさせて明後日を向いている。
「そっかー、お姫様やから相手はそれなりの相手じゃないとあかんかー。マーシーなんかええんじゃないかと思うねんけどなー。そしたらメッチャすごい魔法使いとか生まれてきそうなもんやけど」
「マ・・ママママ、マーシー!!マーシーとの子供なんて!!まぁ魔法力は申し分ないから子供には期待できるかもだけど!ででででも、私はまだ17歳だし!私は魔族だし!マーシーは人族だし!マーシーと、こ・・・こ・・・ここ・・・子供を作るなんて!」
なんて子供っぽい反応してんだよ。
「なんなんですか、その反応。好きな子言い当てられて照れてる中学生か!」
マサルに1票。あれ?そうなるとミラは俺が好き?な、わけないか。
「オズワール家の血に人間の血が混ざるのは流石に魔王様がお許しになりませんよ」
オズワール家?ああ、魔王様の名前か。
魔王オズワールねェ。そういえば魔術大会でキリカって魔族が口にした名前・・・・・・・確かバーウェンだったか、そいつは何者だったんだろう?人間に危害を加えようとする魔族ってことだろうが。
「すまない、ちょっと話はかわるんだが、ミラかミネアさん、この名前に心当たりはあるか?」
「なななな!なによ!名前って!もう子供の名前を考えたの!早すぎるわよ!まだ結婚もしてないのに!!」
慌てっぷりが板についてきたな。ここまで結構冷めたキャラだったのに。
「いや、『バーウェン』っていうんだが。別の魔族が口にしていたんだ」
馬車内の空気が凍り付いた。
「魔王バーウェンですか。もしかしてあなたたちはバーウェンの手のものですか?」
え?魔王バーウェン?魔王?
明らか分かりやすいようにミネアさんが魔力を使う姿勢に入った。
「マーシー、なぜその名前が出てくるのかしら?ことと次第によってはそれなりの対応をするわよ」
ミラが一転冷たい目を僕に向けてくる。うん、ミラはそっちの方が印象強いよ。
「俺が準決勝で戦ったキリカ、あいつはそのバーウェンってヤツの命令で魔術大会に出ていたらしい。そこで魔術騎士団や名のある魔法使いを始末するように言われていたらしいんだが、俺が追い返したってのが正解かな」
「なぁなぁ、魔王バーウェンって、ミラちゃんのお父さんが魔王なんやろ?ほんだらミラちゃんのお父さんの名前がバーウェンなん?なんか違和感ある感じに聞こえんねんけど」
これはまずい。
これはまずいぞ。
想像していなかった展開の1つが予想される。しまったな、その懸念はしていなかった。
「魔王バーウェン。そしてミラ様の父、魔王オズワール様。2人とも魔王ですよ。そして魔王バーウェンはオズワール様とは昔から敵対している魔王です」
魔王2人説、いや複数説かー。そんなの予想できるか!
「ミラ、ミネアさん。魔王って・・・・・・何人いるんですか?」
「え?昔からずっと7人だけど。知らなかったの?」
知らねーよ!ダレか教えててくれよ!この感じじゃそれが当たり前みたいじゃねーか!しかも7人ってなんだよ!人間側やばいじゃねーか!!
「え??魔王って7人もおんの??マジかー。ほんだら1人くらいやってもうてもええんちゃうん?なぁマーシー!」
「おい、意味のわからないことを言うなよ。ミラ、ミネアさん。俺たちはそのバーウェンってのとは関係ないですよ。耳にしただけで会ったこともないし見たこともない。それに今のタカシの反応で分かるでしょう?俺たちは今の今まで魔王が7人もいるって知らなかったよ」
「魔王7人。これはどうなんでしょうか。ゲームとかだったら1人づつ倒していくパターンですが、特に敵対する意味もないですし」
「倒していくわけないだろバカマサル。ミラの父親治してさっさと魔大陸から離れるのが一番だ。例え1人でも相手してられっか」
「倒すとかそういう話をしているけれど、それは冗談だとして、魔王バーウェンとも関係ないというのはなんとなく分かったわ」
「あ、一応確認しておきたいんだが。魔王が7人っていうのはこっちでも人間の方でも一般常識なのか?」
「大昔から特にかわっていないから皆知っていることのはずだけれど」
マジで初耳だよ。
まぁ、人族の方でわざわざ魔王の話なんて話題にあがることも少ないか。
いや、そういえば古い絵本には確かに魔王が7人ってのってたような気がするな。気にも留めてなかったわ。魔王はデフォで1人だろ、普通。
「それで、ミラの父親の魔王様とバーウェンってのが仲が悪いってことか。それならそのバーウェンってのが毒を盛ったって可能性とかはないのか?」
「お父様にそういうことをする可能性があるとすれば魔王バーウェンである可能性は高いとは思うけれど確たる証拠はないわ」
「まぁそんなところだろうな。けれど今現在魔王オズワールが弱っていると耳にしたらその魔王バーウェンってのが攻め込んで来たりはしないのか?」
「もちろんその可能性はあるわ。だからこそ一刻も早くコレをお父様の元へ届ける必要があるのよ」
弱っているからといって簡単に攻め込んで来たりはしないと。そりゃそうか、魔王が確かに1番強い存在だとしても国っていうくらいだから魔王以外の戦力も十分にあるんだろう。それでも1番強いトップが死んでしまうか弱っているだけでも周りからすれば十分にチャンスだよな。はやいところ届けるのがまぁ一番か。
「もう2~3日で城には着くんやろ?ほんだら俺らが着くまでなんにもないことを祈るしかないな。ここであーだこーだ言うてもなにも始まらんし」
「そういうことですね。ささ、おいしい焼き鳥でもどうぞ」
マサルは皿にのった焼き鳥をいくつか出した。
「俺たちはそんな魔王同士の抗争には一切関係ないしな。ただソイツを届けて無事に報酬もらえればいいだけだよ。もちろんミラの父親が無事に回復ってところまでは許容させてもらうが」
ここでこういう魔王の話が出るっていうのは正直嫌な予感しかしない。
大丈夫だろうな?今魔王なんかに目をつけられたら100%やばいだろ。もっと後半に出てこいよ。




