イカだよ、イカ。
港近くにお茶のできる店があったため僕たちはそこで時間を潰すことに。
30分もすればタカシとマサルも合流して予定の時間までお茶をして無駄な話しをしていた。
魔術大会が終わったころの険悪な雰囲気はもう全く残ってはいなかった。
当初はこちらを疑う視線でみていたグルグムさんミネアさんもこの数日で警戒は解けていた。『治癒の血』を事実手に入れたことと、本来魔族に対して向ける人族の視線を僕たちが持たないことが要因ではあると思う。
こっちとしても魔族にも普通の人たちがいるんだということが分かったわけだし。武闘大会のサイモンってヤツみたいなのばかりだったらどうしようもないし。
予定の時間になり僕たちは船の元へと向かう。
船の横にはさっきの髭に筋肉質のおじさんと他の乗組員らしき青年が3人。
「おお、お待たせ。準備はいいか?いつでもいけるぞ」
「よろしくお願いします」
僕は6人分の費用、銀貨を18枚渡した。僕がまとめて払うことは事前に決めていた。
そして1人づつ船へとあがって船室を案内される。
船の甲板にはロープや銛、そして小型のボートが設置されており、ちょっと大きめの漁船ってイメージだ。中央のドアを開けると狭い階段を下り左右に扉がある。全部で6部屋。船長室、乗組員室、倉庫。そして客用に3部屋。それ以外にも一応トイレと簡易キッチンも備えてあった。
部屋にはなにもないが床は絨毯が敷かれていて布団だけが用意されている雑魚寝のできる6畳くらいの部屋だ。3部屋使う必要もないので2部屋に3人づつということで僕らはくつろいだ。
全員乗り終わると船はすぐに出航。揺れは思ったよりも軽度ではあったが乗って3分で乗り物酔いの症状が自身に出始めたので間髪容れずにキュアを連続行使する。
「ここから24時間くらいかかんねんな?暇やな。マーシーなんかものまねでもしてーや」
「わたしーー、ルビーナちゃんー、31さいーー。趣味はーーーゴブリンちゃんと遊ぶことーーーー」
「ルビーナさんに言ってやろ」
「マジか!!俺の渾身のものまねだぞ」
「ちょっと似てただけにウザイと思います」
「せや、マーシー。召喚魔法使ってなんか出そうや」
「無理だな。ヤマトみたいなのが出てきたら船が沈むだろ?」
「そっかー、何出てくるか分からんかったか」
「とりあえず何もすることないなら俺がスリープで寝かしつけてやるよ。マサルはその前に食べるもん出しておけな」
乗船中あまりミラたちとは関わらないようにしていた。周りの目もあることから会話に注意をしないといけないため自然に関わるのをためらった形になった。
僕達の部屋では内容のない無駄な話しがダラダラと流れていたが部屋に散乱している酒瓶と食事の残骸を見て分かる通り、今はタカシもマサルも食べ疲れて呑み疲れていびきをかいている。
ミラたちの部屋にも食事とお酒は置いてきたが少し口にしただけでゆっくり部屋でくつろいでいるようだ。
そろそろ日付の変わる時刻くらいになるので僕はゴミや空瓶をとりあえずパパパパッとアイテムボックスに放り込んで寝床を確保して横になる。
布団だけ被って目を瞑るとすぐに睡魔に襲われ眠りの世界へ。船は揺れに揺れていたがそんなことはお構いなしだった。
ガクン!!と大きな縦揺れで目が覚める。
目を擦って時間を確認すると深夜の3時半だった。
横ではタカシとマサルはまだスヤスヤと眠っている。
「今のは随分と揺れたな」
揺れによる体の不快感もあったためキュアを行使し少し風にでもあたろうかと部屋を出て甲板に出てみる。
ガチャリとドアを開けると慌ただしく船員さんが右往左往している。
「どうだ!!仕留めたか!!」
「分かりません!!命中はしました!!」
「ロープが止まりません!!!」
「ギリギリになったら切り離せ!船ごともっていかれるぞ!!」
船員が2人海を監視していて1人はロープの巻き付いた機械のレバーを必死に支えているがカラカラカラカラとロープはどんどんと海へとさらわれている。
「何かあったんですか?」
「おう兄ちゃん、出やがった。船の端には立つなよ、攫われるぞ」
「何が出たんですか?サメとかですか?」
「いいや。クラーケンだ」
イカか。
船の明かりしかないので周りの海は真っ暗だ。甲板しか見えていない。
「船長さん、明るい方がいいですか?」
「魔法使いかあんた?お願いしていいか」
「では、ライト!」
光の玉を上空に3つほど浮かべて船の上部から下を照らすように設置させる。
小さい光の玉は広い範囲を眩い光で包み、船の周囲は昼間のように明るくなった。
「おお、すげーな。ありがたい!」
「船長!ロープが半分までいきました!」
「ばかやろう!なんとかして止めろ!!安くはねェんだぞ!」
「船長さん、船長さん。クラーケンってイカですよね?食べれますか?」
「そんなことよりヤツが上昇してきたら魔法で攻撃してくれよ!」
「攻撃はもちろんしますが、めちゃくちゃ大事なところなんですよ。クラーケンっておいしいですか?」
「有名な高級食材だ!めちゃくちゃ美味いよ!けれどこのままじゃ逆に海に連れ込まれてこっちが食材になりかねないんだよ!」
そこですかさず念話
『マサル、マサル。旨いイカが食えるぞ。すぐに来い』
ドン!バタバタ!!
「イカ!!どこにイカ!!どこ!?どこ!?」
「流石に早いな。マサルあのガンガン引っ張られているロープを止めろ。このままじゃイカに逃げられてしまう」
「まっかせろー!!!」
マサルは船員の抑えているレバーの元へと駆けつけた。
バキンッ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
レバーはあっさりと折れた。
「テメー!!なにしてくれてんだ!!」
船長の叫び。
マサルは目が点だ。
「マサル。レバーは別にいい」
「よくねーよ!!!」船長の叫び。良く叫ぶ人だな。
「マサル、そのロープを止めろ。イカと綱引きだ」
カラカラカラカラと止まらず海に引きずりこまれているロープをマサルが見た。
「これって・・・・・手、ズル剥けになりませんか?」
「大丈夫だ。自分の握力と腕力を信じろ」僕なら絶対にやらないけどな「いいのか?早くしないと高級食材が逃げてしまうぞ?」
「逃がすかーーーー!!!」
ガシッ!!とロープを掴んだマサル。
甲板を踏みしめる足に力が入り船がガクンッと揺れた。そして見事にロープの流れを止めて両手でロープを握りしめ船の淵に足を掛けて海を覗き込む前掛け姿のマサル。まんま漁師に見えるな。
「すげーな前掛けのにーちゃん!!よし、逃がすなよ!すぐに銛の準備だ!逃げれなくなったらこっちに向かってくるぞ!!」
「船長!クラーケンはどうやって仕留めるのがいい?」
「火はダメだ!鮮度が落ちちまう!感電させれればいいが雷の魔法石は今無いんだ!切断できればそれでもいい!」
「俺雷魔法使えるんで感電でいきましょう!マサル!引っ張れ!!船に取りつかせないように考えろよ!」
「おっしゃーー!!任せろ!!」
ぐいっぐいっ、とロープをジリジリと引っ張り出すマサル。
「あんたすげーな、クラーケンよりパワーがあるってのか」
船員さんがマサルに驚きながら海の様子を窺っていた。
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