旅は道連れ
帝都の西門から帝都を出発してグルリと東側へ回る。そしてあとはひたすら東に真っ直ぐ行けばその港町カムカには着くらしい。特に山があったりはしない道で広い草原と整備された5メートルほどの土の道をただひたすら真っ直ぐ行くだけなので迷うこともない。
グルグムさんは御者をしており広い馬車の中は壁に折り畳み式の椅子が設置されていてそこにミラとミネアさんが座っている。僕達3人は床にそのまま座っていた。
「ミラちゃん、魔王様ってどんな人なん?やっぱり怖かったりすんの?」
タカシの近所のおじさんみたいに聞くスタイルがスゴイ。
「お父様は、優しいわよ。ねぇミネア」
「お、恐れ多くも。魔王様のことを優しいとは口にはできませんが」
「そう?優しいと思うのだけれど」
「娘には優しいパパってことなん?ミネアさんは魔王様のことどう思ってんの?」
「そそそそ、それは。尊敬していますし私なんかがお傍でお仕えさせていただけているだけでも光栄です」
「けれどミネアさんに優しいってわけじゃないんやろ?やっぱりミラちゃんには優しい親バカなんかな?」
「そうなのかしら?考えたこともなかったわ」
「そりゃあ自分の娘なんだから愛してやまないのは当たり前だろうな。けれど魔王って肩書上周りの連中にはそういう一面は見せれないんじゃないのか?威厳を示すみたいな?」
「お優しい人とは思いますが、厳しい人でもあります」
「やっぱり会ってみたいなー。喧嘩とかめっちゃ強いんやろーなー」
「喧嘩が強そうだから会ってみたいってのはやめてくれ。今回は報酬もらえればいいだけだから俺は会わない方向で考えてるぞ」
「強いのは間違いございませんよ。国で、いえ、魔大陸で一番でしょうね」
「ミネアさん、そんなにかー。大陸で一番強いって言われてみたいなー」
「安心しろタカシ。お前は人族で一番強いよ」
「聞き捨てならない。俺が一番、タカシが二番」
「いやー、俺よりもまだ強いヤツはおりそうやけどなー。帝都の団長さんもそうやし、真剣持った十兵衛さんとかもそうやしなー」
珍しく被せていかない発言のタカシにマサルが肩透かしされた。
「魔大陸で暇があったらレベル上げでもしてから帰るか。俺たちはまだまだ伸びしろはあるだろうしな」
「せやな、それもええかも。もっとおもろい技とか覚えたいし」
「ミネアさんって魔大陸出身なん?ミラちゃんとグルグムさんとは種族がちゃうんやろ?」
「私たちダークエルフも魔大陸に住んでるのよ。元々はこっちにも集落はあったらしいけど」
「へー、エルフとダークエルフってどうちゃうん?肌の色くらいしか見分けつかんけど」
自然な流れで質問しているタカシがスゴイ。複雑な事情とかあったらどうするんだ。
「大昔の戦争で人間側についたのがエルフ。魔族側についたのがダークエルフ。だからダークエルフは魔大陸に、エルフはこっちに。ダークエルフは代々エルフよりも魔力が多いのが特徴かしらね、あとはやっぱり見た目かしら。ダークエルフは肌が私みたいに黒いのが多いわね」
「そうなんや。そういえばエルフは肌が白い子ばっかりやったな」
「ふふ、ダークカラーのエルフなんて気味悪いでしょ?」
「え?俺は色黒のほうがタイプやけどな。女性の魅力が滲み出てる感じがしててエロいし。マリーちゃんもそうやし」
「おい、エロいとか言うな。ミネアさんの顔が真っ赤じゃねーか」
「ああ、マーシーは色白エルフがええんやったな。目に入れても痛くないって言うてたもんな」
「ふざけるな!エルフとダークエルフは別もんだ!!色素の薄い肌に尖った耳、そして控えめな胸元の守ってあげたい人外種族NO1のエルフと、女性の色香漂う色黒の肌に同じく尖った耳、そしてその豊満な熟された肉体!罵倒されたい人外種族NO1のダークエルフ!同じなところなんて耳だけだ!!誰がエルフが一番だなんて言った!!俺はエルフもダークエルフも大好きだ!!」
「お・・・・おおう・・・・・なんかゴメン」
ミラが自身の胸をぺたぺた。そしてミネアさんの胸元をチラリと見た。
「ど・・・どうしました?ミラ様?」
「なにも。種族ね、種族の差よね」
「ミラちゃんは若いねんからもうあと数年したらもっと大きくなるって(笑)」
「そんな会話を父である魔王様が聞いたらタカシは消されるんじゃないでしょうか」
「ミラ。胸はな、あってもなくても関係ないんだよ。女性は心だ。その心に男は惹かれるんだよ」
「あ、マーシーがなんか言ってるけどマーシーはエルフってだけで崇拝する対象やってこの前言うてたで」
「と、いうことはマーシーは女性は心ではなく種族だと言いたいということですね?」
「え?なに?その俺の下げ方。ひどすぎない?」
車中は常にタカシとマサルが会話を止めず、無駄話が尽きなかった。
魔王の娘とする会話ではないだろうに、と思われる内容も多々あったがミラとミネアさんの少しの笑顔も見れたため別段気にすることもなかった。
魔王の娘ともこれほどフレンドリーに会話するタカシとマサル。なかなか怖いもの知らずだ。僕も含めてだが。
グルグムさんは力自慢だということを嗅ぎつけて早速タカシが腕相撲を挑んでいたがグルグムさんを一蹴。「もう一回!もう一回だ!」と再挑戦するグルグムさんにミラも呆気をとられていた。
途中視界の広い場所で夜中に一泊。ミネアさんとグルグムさんは順番で見張りに立ってくれるというので僕らは甘えさせてもらった。
食事はマサルのアイテムボックスにたんまり入っているため問題なし。
ミラが馬車で一緒に寝ても構わないと言っていたがミネアさんとグルグムさんの視線も程よく刺さるものだったので馬車はミラに使ってもらって僕たちは手持ちの寝袋で馬車の横で就寝した。
そういえば完全な野宿は初めてだったため最初はウキウキだったタカシとマサルも1時間もせずに「やっぱりホテルがえーなー」ってな感じだった。
翌日の昼過ぎには無事にカムカに到着。
そんなに大きな町ではないが城壁は立派なものが設置されている。
どうやら入国審査的なものはここにはないようで僕たちは笑顔で迎え入れられた。
フランほど大きくもないがスーの村ほど小さくもない。冒険者ギルドはないが道具屋や宿屋、飲食店は揃っている。少し道具屋を覗くと帝都やフランでみたアイテム以外にも変わったアイテムが多く感じる。船で海を渡ればすぐに魔大陸であるためなにかしら珍しいものも入ってくるのかな?
レンタルの馬車は入り口に入ってすぐの馬屋に引き取ってもらった。
「ミネアさん、その荷物僕が持ちましょうか?」
マサルが点数稼ぎに入った。
「あ、じゃあミラちゃんの荷物は俺が持ったるわ」
荷物と言うほど大きなものではないが軽く背負うリュックのような革袋をミラとミネアさんは手に持っている。
「いえ、大丈夫よ」
「ありがとう大丈夫」
2人して断られてやんの。一体どこを目指してるんだ?
潮の匂いがする。海の匂いだ。
この世界に来て初めて嗅いだ匂いに若干テンションも上がってくる。
「船・・・船かぁ。海賊とか出てけーへんかな?きっと気の良いやつらで一緒に酒とか飲んだらすぐ意気投合できそうやねんけどなー」
「タカシ。海賊はただの犯罪者だぞ。普通に考えれば良い海賊なんてのはいない。漫画に影響されすぎだ」
「確かにその通りですね。そういえば山賊と海賊、同じ犯罪者にしては海賊の方がかっこいい感じがするのはコレ如何に」
「「それな」」
「山賊ってなんだか毛深い感じがしますが、海賊はもっとシュッとした感じ。確かに漫画の影響もあるでしょうが」
「マサルは山賊って感じやなー」
「マサルは確かに山賊顔だよな」
「え?何、何?ディスられてる?俺が野蛮って?」
「いやいや登山とか好きだっただろ?海も似合うけど山の似合う男だなぁと」
「せやで、こう、なんていうか。そう、力強い感じが山っぽいっていうかな」
「お、マサル。海が見えてきたぞ。広いなー。まるでマサルの心のようじゃないか」
そして僕達はカムカの街を歩き続けていると街の途切れたところに広い船着き場を発見した。
船は帆船が2隻停泊しており両方とも定員20名くらいの船だ。もっとでかい客船をイメージしていたがまぁこのくらいが妥当だろうな。
ミラが率先してその船の元へと向かい近くにいた髭のおじさんに話しかけている。真っ黒に日焼けした肌に鍛え上げられた筋肉質な体からおそらく船乗りなんじゃないかと思う。
そこに僕らも近づいていく。
「なんだ、今日も客がいないのかと思ってたんだが魔大陸に渡りたい物好きが現れるとは珍しいな」
「今日このまま船に乗れますか?」
「ああもちろんだ。客が居りゃあ乗せてくさ。6人でいいのかい?」
「はい。お願いします」
「食べもんと飲みもんは自分たちで用意してくれ。まぁ片道丸1日で着くから飢えることはないとは思うがな。1人銀貨3枚だ。あと1時間くらいで乗船できるからその時に受け取らせてもらう。あとな、この中で魔法使いはいるかい?」
「腕利きが3人いますが、なにかあるのかしら?」
3人?僕にミラ・・・・・・ああ、ミネアさんか。
「いやあ、人手が足りなくてな。魔物撃退用の銛や火薬はあるんだが魔法使いが居りゃ何かあった時にお願いしようかと思ってね」
「分かりました。私たちも死にたくはありませんので何かあればお手伝いします」
「ああ、ありがたい。それじゃあ1時間くらいしたらここに戻ってきてくれ」
「そういうことらしいので少し街に戻ってみる?」
「買い出しいこーや買い出し」
「航海中に食べ物がなくなるのは生死に関わる。大量にストックしておくべき」
「いや、マサルは十分持ってるだろ?」
「漂流したらどうする!!何も食べるもののない状況で何日も過ごすことになったらどうするんだ!!」
「なぜそんなに真剣な目で訴えてくるんだ?魚でも釣れよ」
「ええやん、そん時は魚釣ろーや」
「じゃあ釣り竿買うからお金!!」
マサルが頬を膨らませて手を差し出した。かわいくねーよ。
少々多めにお金を持たせてタカシとマサルには買い出しをお願いする。
ピューッと元気に街の方へと駆けていった。
僕はミラたちに振り返った。
「あ、食料はこっちで全部用意するから。何か他に必要なものはあるか?」
「いえ大丈夫よ」
「お前たちは仲がいいな」
え?グルグムさん、何?どうしたの?
「仲良く見えましたか?ただマサルが食べ物を買いたいって駄々をこねてただけですよ」
「馬車の中でもずっと喋っていたからな。人族とは皆そうなのか?」
「どうでしょうね?ウチの2人は口数多い方だとは思いますよ。喋って欲しくないときにも無駄に喋りますからね」
「我々3人では無駄な会話はないからな」
「旅は道連れって言いますからね。楽しいに越したことはないですよ」
「あんなに楽しそうにしているミラ様を見るのは珍しいからな」
「どういう意味かしら?私がいつも不貞腐れた表情をしているとでも?」
「いえ、ミラ様。そういったわけではなく」
「グルグムさんがミラは笑っていた方がかわいいってさ」
「そ・・・・・そう」
少し頬を赤らめたミラをみてグルグムさんもミネアさんもクスリと笑った。
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