手持ちで一番の切り札をきる
さてとそれじゃあ切り札を切ろう。
「それでは今からレムリちゃんの診察をさせていただきたいんですが、今から行うことは俺たちの切り札中の切り札なのでまずは他言無用をお願いします」
「あんたまだそんなの持ってるの?まぁあれ以上に驚くものなんてもうないとは信じたいけど」
ミクシリアさん、今から出てくるのは火の龍よりも大変なものだと思いますよ。
ミラ達には部屋を出ていてもらうことも考えたが3人共ステータスを覗くようなスキルもないしただの人間が山神様を召喚できるとは考えようもないだろう。
「すみませんがそちらの方には退出していただいてよろしいでしょうか?」
レムリちゃんに回復魔法をし続けている魔法使いの女性には流石に退出願おう。かわりにミクシリアさんに回復魔法を引き継いでもらう。
そして執事のベンジさんに誰もこの部屋には入ってこないように釘を刺す。
「それでは今からある魔獣を召喚します。それは人語を話したりちょっと大きいので皆さまビックリしませんように。俺たちよりも全然博識で呪いに関する情報も持っている可能性が高いので色々聞いてみようかということです。もちろん皆様に被害の及ぶことは一切ございません。そこはご安心ください」
「魔獣?何よ魔獣って?召喚魔法ってこと?あんたそういえば召喚魔法も使えたわね」
「人語を喋る魔獣となると何百年と生きた魔獣が魔力を宿して到達できる域だぞ。霊獣や神獣とかじゃないだろうな?」
「大丈夫ですよダルブさん。そんなに大層なものではないですよ。俺たちの家族です」
ミラは何かを疑う目をしているが、まぁ大丈夫かな。この中でヤマトを見たことがあるヤツがいたとしても別物だと言い切ってやる。こんなところに山神様がいるはずないのだから。
「ほいマサル」
僕はタカシマサルを皆に背を向けるようにしタカシをセンターにして肩を組んだ。
「おお、なるほど」
マサルは逆側から肩を組み後ろからは何をしているのか一応見えないようにする。
「よっしゃ、それじゃあ」
タカシは懐から出した笛を口にくわえて思い切り吹く。
もちろん何も聞こえない。
さっとタカシは笛を懐に戻すと僕達三人の目の前の空間がグニャリと歪んだ。
黒い空間の裂け目からまずは綺麗な白い毛に纏われた前足。ドスンと音を立てて絨毯を踏みつける。
もう片方の前足が出てくるとその上部にその異様な大きさの獣は姿を現す。人を丸呑みにすることができるほどの大きな口をした真っ白なドでかい犬。
僕達以外の人間の姿を目にしたヤマトは牙をむき出しにし
グルルルルルルルル
と威嚇し始めた。
「ヒッ」
「ウオッ」
若干の短い悲鳴が聞こえたが錯乱するような人は流石にいないな。
『すまないヤマト、とりあえずヤマトが山神様であることと治癒の血の話はしないでくれ。言葉は普通に喋っていい』
僕はすぐさまヤマトに念話で指示をする。
『・・・・・・わかった、合わせよう』
流石ヤマト。何も疑わずに念話で返してきた。
そしてタカシはすでにヤマトの首にぶら下がっている。
「ああ、やっぱりええわ。この毛並み」
僕は振り返り皆の方を向いた。
「彼の名前はヤマトです」
「そうヤマトや。俺の家族や」
「よっ、ほっ」
マサルもヤマトの身体の側面にとびついた。
「ちょっ、なによそれ。ホワイトタイガー?いえ、犬よね?見たこともないわよ」
「ミクシリアさん、ヤマトは犬です」
「分かってるわよ!見ればわかるわ!それにしては大きすぎるでしょ!」
チラリとミラの方を見たがミラは目を開いて固まったままだ。後ろの2人の方は口も開いて期待通りの驚き方をしてくれている。
「商人としてはこんなものを見せられたらいくら金を積んでもいいと思うものなんだが、そういうレベルではないなこれは」
「ダープよ、次元が違う。おそらく霊獣や神獣の類だ。見たことはないがおそらくそうなんだろうと思えてしまう」
「ちゃうで、ヤマトは俺の家族やで。昔はもっとちっちゃかってんけどな」
タカシはヤマトの首にぶら下がりながら逆さを向いたまま答えた。
「ミ・・・・ミラ様!」
ミネアさんの声がしたと思ったらミラがゆっくりとこちらに近づいてきた。
「すごい・・・」
「ん?ミラ。触ってみるか?」
「いいのかしら?」
「ヤマト、いいか?」
僕はヤマトに振り返った。
「かまわん」
「「「しゃべった!」」」
ミクシリアさんとダルブさんとダープさんの声がハモる。
ゆっくりとヤマトに近づくミラは恐る恐る手を伸ばしヤマトの首元を撫でた。
「私の国にもこれほど力強く優雅さのあるものはいないわ」
「タカシ言ってやれ」
「おう、俺の家族や」
さてと、本題に入ろう。
「ヤマト、こっちに来てくれ」
僕はヤマトをベッドの脇に誘導する。
ダルブさんとダープさんが咄嗟に道を空けた。
ミクシリアさんはレムリちゃんに回復魔法をかけているため逃げられない。
「ちょっ!近い近い!」
「大丈夫ですよ。絶対に噛みませんから」
まだヤマトの首に下からしがみついていたタカシを足蹴にして叩き落し、ヤマトを回復魔法をかけているミクシリアさんの横へ。
ひきつった顔で回復魔法をかけ続けているミクシリアさん。別にいじめているわけではないですよ。でもちょっと楽しんでいる感はあったりなかったり。
「呪い・・・・か」
ボソリとヤマトは口にした。
「分かるか?ヤマト」
「回復魔法ではいくらかけても治らんだろう?」
「そうなんだよ。俺が全開でヒールとキュアをかけても治らなくてな。呪いであるってのは分かるんだがこれがどういった呪いでどうすれば解除できるか分からないか?」
ヤマトは顔をレムリちゃんに近づけて鼻をスンスン。匂いを嗅ぎ、大きく舌を出しレムリちゃんの顔を軽く舐めた。
「「ひっ」」
悲鳴を上げたのはダープさんとミクシリアさんだ。
レムリちゃんくらいなら軽く一呑みだもんな。大きく開いたら僕でも上半身はもっていかれそうだ。
ヤマトはレムリちゃんから顔を離してベッド、壁、上を見上げながら鼻をスンスンと動かしている。
「最近までここで何か動物を飼っていただろう?」
ヤマトが低い声でそう口にする。
「ダープさん?」
僕はダープさんの方に顔を向けた。
「あ、ああ。兎を・・・・・飼っていた。1カ月くらい前までだ」
「ちょうどレムリちゃんの体調が崩れたのとタイミングは合いますね。ヤマト、それが原因か?」
「名前は忘れたが昔魔大陸にある兎がいた。親子、もしくは夫婦で常に一緒にいる。片方が死んでしまうともう片方も必ず死んでしまう。ひどく寂しがり屋なんだろうな、フッ」
「なんだよその笑えない冗談。ならレムリちゃんが飼っていた兎がその兎で、兎の方が死んじまったから相方のレムリちゃんも道連れにされてるってことか」
「その兎は確か目と鼻としっぽが真っ赤だったはずだ、違うか?」
「ああ、確かにそのとおりだ。おとなしくて人懐っこかったんで娘にプレゼントしたんだ」
「ツガイウサギね。確かにそういう習性があるって聞いたことがあるわ」
「ミラ、聞いたことがあるのか?」
「そういう習性上、数は減る一方でもう生存していることもないと思われていたはずなのだけれど」
「ちなみにその呪いの解除方法なんてのは分からないか?」
「ごめんなさい分からないわ。術者が死んでから発動するパターンは一番厄介ね」
呪いの元が分かっても解除方法が分からないとな。
「ヤマト、なんとかしてこの呪いを解くことはできないか?何かいるものがあれば用意するが」
ヤマトはチラリチラリと僕以外の人達の顔を見回した。
「治していいのか?」
「もちろんだ。今ここにいる人たちは信用できる人達ばかりだ。だからこそヤマトを人前に出した。今日ここであったことは今後一切口外しないと約束している。もし破った場合はヤマトが一噛みしてくれて構わないよ」
「ちょっ、やめてよ。ぞっとするわよ」
「ミクシリアさん口外するんですか?勇気ありますね」
「しないわよ!!するわけないでしょ!!」
ヤマトは周りに目を向けた。必然とミラたちに目を向けて一瞬止まったがまた僕に視線を返す。
「本当にお前たちは変わっているな。よかろう、それがお前たちの望みならもちろん我は手を貸そう」
おっと、ミラたちが魔族だと多分気づいたかな、こりゃ。
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