商人って儲かるんですね?
ダルブさんとミクシリアさんはエシオンのぶどう酒を持って一時部屋へと戻る。
事情を簡単に説明して戻ってきた2人について僕達とミラ達はホテルを出てダープさんの屋敷へと向かうことになった。
冒険者ギルドは西地区には位置するがほぼ帝都の中央。そこから東地区の貴族街へと入り南東方面へと進んでいけば15分ほどで着くらしい。
貴族街の建物はだいたいでかい。歩いていると途中途中に庭付きの屋敷があり門番まで立っている。
しかし人通りは西地区に比べると少ない。高級そうなお召し物の方がたまにすれ違う程度で冒険者の出で立ちの僕達は場違いに感じてしまう。
周りが建物よりも緑が多くなってきたなと感じたところでダルブさんが立ち止まった。
「あそこがそうだ」
目の前には2人の門番。
鉄の柵に守られた奥にはでかい屋敷が建っている。ルガーの所と同じくらいかな。
遠目で見る限り三階建てで建物の一辺は50メートルくらいはありそうだ。門から建物までの庭も広くそこに別の大きな蔵みたいなもの。商人なのだからおそらく蔵で間違いないかな。
建物の入り口には小奇麗な服装の人がドアの前で対応されている。
「それじゃあ僕とミラ、それとダルブさんミクシリアさんの4人で行きましょうか。護衛のお2人は申し訳ないですがここで待っててもらいます。お前たちもな」
「それじゃあ行こうか。話は私がするので君たちはついてきてくれればいいから」
ダルブさんについて門番のところへと歩いていく。
門番はこちらに気づいたようで体をこちらに向けた。
「こんにちは、ダープ殿はいらっしゃるかな?」
「お久しぶりですダルブさん。ダープ様にご用ですか?今日は特に予定は入ってらっしゃらないと思いますが」
「ああ、今日は急用で来たんだ。取りついではもらえないかな?」
「えっと、ちょっとお待ちくださいね。先にあの商人さんが追い返されると思いますので」
スタスタと身なりの良い小太りのおじさんと後ろに帯剣している男性とローブを着た魔法使いっぽい女性。プンスカと怒りながら屋敷の入り口の方からこちらに歩いてくる。
「あれだけの金額を提示して何が不満なんだ!まったく儂を誰だと思っておる!」
3人は僕らの横を過ぎ去り歩いていった。
「ここ最近あんなのばっかりなんですよね」
「ああ聞いているよ。我々も通してはくれないのかな?」
「少々お待ちくださいね。おい!ダルブさんが来たと伝えて来い!」
するともう一人の門番が屋敷の方へと駆けていった。
こりゃあダルブさんに来てもらってマジ助かりました。僕達だけじゃ門前払い一択でしたね。
少しすると先ほどの門番と燕尾服の白髪の似合う執事さんがこちらに歩いてくる。そして深々と礼だ。
「ダルブ様お久しぶりでございます。ミクシリア様も魔術大会のお話はお伺いいたしました」
「あらベンジさん、ということは私が準々決勝敗退ってのは知られてるってことね?」
「ミクシリア様、魔術大会は予選を通過されるだけで大変名誉のあることでございますよ。去年はその予選も通過できなかったことを考えるとこの1年でさぞ努力をなされたのでしょう。ということは来年には優勝争いができるくらいまで成長される予定でございましょう?」
ニヤリと笑う初老の男性。
「い・・言ってくれるわね。はいはい来年は優勝しますよ。弟弟子に追い抜かれたままじゃ終われないしね」
チラリとこちらを見るミクシリアさん。
「どうぞ皆さま、主がお待ちしております。そちらの方々もどうぞご一緒に。最近は無粋な来客しかなく誰かをおもてなしする機会がなく従業員がやる気をなくしていたところでございます。ダルブ様たちが来ていただいて皆はりきっていますよ」
クスクスと笑みを浮かべる。
この人はできる執事だ。
「ありがとうベンジ殿。さぁ皆行こう」
ベンジさんについていき両開きの大きな扉をくぐる。
「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」
うおっと、左右に分かれてこちらに深々と頭を下げるメイドさんたち。もちろんコスプレのような衣装ではなくエプロンのような衣装にひざ下のスカートの古風のあるメイドさんたちだ。その後ろには鎧姿の兵士が左右に2人づつ。さらにローブ姿の魔法使いも2名。
ずいぶんと警備は厳重なようだ。
「どうぞこちらからお2階へ。ご案内いたします」
入り口を入って目の前の幅のある階段を上がり2階へ。そして豪華な両開きの扉の前に案内された。
ここにも鎧姿の兵士が2人。警備が多く感じるな。
「ダープ様。ダルブ様をお連れいたしました」
「ああ、入ってくれ」
中から男性の低い声が聞こえてきた。
ギーーーッと開かれた扉。奥には仕事用なのか書類の積まれた机。手前にはおそらく来客用であろうテーブルとソファ。もちろんホテルにあるのよりも高級そうな宝石のちりばめられたテーブルに本革仕様っぽいソファだ。
スタスタとこちらに歩いてくる整えられた髭に色黒のガッチリとした男性。ダープさんだ。
「ダープ殿お忙しいところ時間をつくっていただき申し訳ない」
「そうかしこまるなよ、ダルブ。ここではいつも通りでいいぞ。今日戻ってきたのか?」
「ああ今さっきさ。ダープ、一階がものものしく感じたぞ」
ガシッとダルブさんとダープさんは握手をした。
「流石に警備を増やしたんだよ。ミクシリアはベスト8だってな。頑張ったじゃないか、はははは」
「ははははって!さっきはベンジさんには褒められたんですけどね!どうせ中途半端ですよ!」
おや?思っていたよりも仲がいいのか?ものすごいフランクなのだが。
「マーシー。そうか、あの時のルーキーくんか。名前が一緒だったからもしやとは思ったが。君が優勝したのか。ミクシリア残念だったな、あの時魔法を教えてやった弟子に先越されたのか?はははは」
「お久しぶりですダープさん。先日はお世話になりました」
僕は差し出された手を掴み返した。
「ダープさん、彼は弟子ではなくて弟弟子ですから」
「弟弟子?君もミズリー様のお弟子さんか?なるほどねェ。優勝するわけだ」
僕達はソファへと案内されてそれぞれ腰を下ろした。対面にダープさん。僕とミラは隣同士。右手のソファにはダルブさんとミクシリアさんだ。
メイドさんが洗練された動きで皆の前に紅茶とマフィンのようなものを用意していきスッと去って行った。
「それで、そちらの女性を紹介してくれるかな?」
「彼女は・・」
さっと席を立ち深々と頭を下げるミラ
「ミラと申します。お初にお目にかかります」
「ミラ?おっと準優勝の子か?それにしても礼儀正しいのはもちろん嫌いじゃないが、今日はそんなにかしこまらなくていいよ。こっちもこんな感じだしな。コイツと居る時はだいたいこんな感じだ」
ダルブさんをコイツ呼ばわりか。
「失礼ですが、ダルブさんとダープさんは古くからのお知り合いなのでしょうか?」
「ああ、俺が小さい規模の行商をやっていたころからの付き合いでな。腐れ縁ってところだな」
「お互い駆け出しの頃からの仲でな。小さい馬車に荷物詰め込んで商売やってたヤツがこんなでかい屋敷まで持つとはな」
「何言ってるんだダルブ。『ナイトガード』って言えばここいらじゃそこそこ名の通った冒険者チームだ。そこのリーダーやってるお前もお前だよ」
そうか、良い関係なんだな。30、40になってそういう話ができれば酒が美味しく呑めそうだ。
「っと、世間話もこれくらいにしておこうか。それで俺に用があるんだろ?用があるのは・・・・・・そこのお嬢ちゃんかな?」
チラリと僕はミラに視線を向けた。
礼儀正しく背筋の伸びた態勢で直立しているミラは口を開いた。
「厚かましいと思われるかもしれませんがお話させていただきます。私の父が病床に伏せています。魔法、薬、全て試しましたが病状は回復せず。今も故郷で療養中です。このままでは後1年も生きられないような状態でしてその時耳にした『治癒の血』を手に入れようとはるばる故郷からこの地へと私は参りました。聞いた話しではダープ様がそれを最近入手されたということ。もしもできることならば私にお譲りいただくことはできませんでしょうか」
「そうか、大変だな。けれどその話はこれでおしまいだな。ダルブの顔を立てて話は聞いてやった。しかしそれだけだ。残念だな、お嬢ちゃん」
そりゃそうだ。情に訴えて手に入れれるのなら役者が億万長者になるわ。
「という話を踏まえてですね、取引をしましょう」
僕は話に割り込んでいく。
いつも読んでいただきありがとうございます!




