只今戻りました。優勝報告させていただきます
部屋に入って僕は手慣れた手つきで風呂にお湯を溜め始めてキセルに火をつけた。
何も汚れていない綺麗な部屋をタバコの煙で汚す行為がなんだか少し背徳的で快感だ。元の世界は喫煙場所も結構限られてて窮屈だしな。以前泊ったホテルは全室禁煙だったし。
風呂に浸かって疲労と汚れを綺麗に落とす。
「はぁーーーーーー。5日ぶりの風呂だーーー」
ミラたちもそろそろこのホテルには着いてるかな?あ、どうやって合流するか決めてないや。まぁギルドで情報収集したらロビーで待ってるか。向こうもそんな感じでどこか分かりやすいところにいてくれるだろうしな。
移動時間に4日ってもったいないよなー。走ったらきっと1日くらいだしな。時間は有限、できればもっと別のことに時間を使いたい。レベル上げもしたいしミズリー師匠にもっと魔法を教わりたいし。
風呂から上がって備え付けのバスタオルで体を拭いて着替えは一瞬だ。
さてとまずは冒険者ギルドか。ミラの依頼はできれば早く解決してしまいたい。
いつもの服装でホテルのロビーへと向かう。そこにはもう2人は待っていた。
いつもコイツら時間だけは早いんだよな。
「お待たせ。行こうか」
「おう、とりあえずメロン師匠やな」
僕達はホテルの並びの冒険者ギルドへと向かった。
中は結構人が溢れている。時間の問題もあるしリアから戻ってきた冒険者が一斉に集まったってところかな?
遠目でカウンターを確認するが今日はミズリー師匠はカウンターには座っていないようだ。とりあえずどこかに並んでミズリー師匠を呼び出してもらうか。
「2人はちょっと待ってろ。ミズリー師匠を呼び出してみるよ」
すると背後で覚えのある声が聞こえてきた。
「ああーー。戻ってきたんだーー。こっちにおいでー。今から尋問ねーー」
「あ、ルビーナさん(31歳)じゃないですか。なんですか?尋問って?」
「ルビーナちゃんねー。とりあえず奥においでーー」
僕は2人も連れてルビーナさんと奥の精算所へと向かった。
ルビーナさんの後ろをついていく僕達に気づいた冒険者はチラチラとこちらを見ているようだった。
「戻ってきてたから連れてきたよーー。ミズリー」
以前利用させてもらっていた訓練場のソファに座ったミズリー師匠。なんだか久しぶりの再会だ。まぁ10日くらいのもんだが。
僕はソファに座るミズリー師匠と相対して頭を下げた。
「只今戻りました」
「ご苦労様。そんなにかしこまらなくていいのに」
「問題なく、無事魔術大会優勝したことを報告させていただきます」
「そう、おめでとう。まぁ知ってたんだけどね」
僕は笑顔で返した。
「だと思ってましたけどね」
僕達3人はすすめられてミズリー師匠の向かいのソファに腰を下ろした。
ルビーナさんはテーブルに人数分のお茶を用意しミズリーさんの横に座る。
「改めておめでとう。リアでの結果はこちらにすぐに連絡は来るようになっているのよ。まぁ名前と結果だけだからどういった内容だったかは少ししか伝わってないけれどね」
「その言い方だと・・・・・・・・何か耳に入りましたか?」
「ええ、入ってきたわね」
「一応説明と弁解させてもらってもいいですか?」
「そうね、お願いしようかしら」
僕は大会のことをできるだけ細かく説明した。
この際使った魔法は全て伝える。雷魔法、氷魔法、闇魔法(一応ばれないように使ったが)火の上級フレアに雷の剣。最後に火の龍だ。
「問題は火の龍ね」
「はい。俺もそう思います」
「誰も見せたことのない魔法を使った。ならそれに着手するものも出てくる。使おうと鍛錬するだけならいいのだけれど、最悪マーシーを誘拐とか考えるものもいるかもしれない」
「まぁ、それは自分でなんとかしますが」
「後は帝都の上層部やらリアの学院のじいさんとかが放っておかないでしょうね」
「リアの学院のじいさんは公衆の面前でお断りしましたよ」
「そう・・・か。それにしても使える人物がいるとはねェ」
「・・・・・・・・・・・・。ご存じだったんですか?火の龍」
「上級の上の魔法は全属性龍の形を成す。私とルビーナは実際に見たこともあるわ」
「私たちがー見たのはー。使ったのが魔族だったからー、闇属性だったよーー」
「闇の龍・・・・・ですか」
「もちろん私は使えないわ。帝都のお抱え賢者様なら使えるかもね」
賢者様か。ミズリー師匠以上の魔法使いってことか。
タカシとマサルは珍しく真剣な目でミズリー師匠を見ていた。違うな、真剣ではあるが邪な視線をミズリー師匠に向けている。
「ミクシリアには会ったのよね?」
「はい。実は初めて帝都に来る前に魔法を教えてくれたのがミクシリアさんでして。リアでの大会参加も事前に話してました。それでリアで合流して色々相談にのってもらってました」
「そう。彼女器用だから魔法の変わった使い方とか操作は色々と勉強になるわね。ネイは優秀だけれど会話がちょっとねェ」
「ははは、ネイさんとはちゃんとした会話はほとんどできなかったですね。念話の時は流暢に話してましたけど」
「私以外に魔法を教わるならミクシリアを推しておくわ。あの子は冒険者としての魔法使いの立ち回りも上手いしね」
「十分理解してます。魔法の上手さなら大会1、2でしたよ」
「それで?準決勝で戦った子は魔族だったの?」
「はい、おそらくは。なにもせずに追い返しましたが」
「うーん、だいたいこっちで受け取った情報と一致はしているわね」
「そりゃそうでしょ。わざわざ嘘はつきませんよ」
「それじゃあ、それ以外に何か隠していることはある?」
「そうですねェ。・・・・・・・・念話を使えるようになりました」
「念話・・・・・・。ネイが使ってたのを覚えたと?」
「はい。真似したら使えるように・・・・」
「よし、そんなことでいちいち驚いてられないわね。他にはなにかある?」
「俺が決勝で戦った相手のことになりますが彼女からある依頼を受けました。これは守秘義務にあたるのでここでは公表できません。それは相手の素性に関しても同義です」
「そう、まぁいいわ。嘘はないわね。冒険者なんだから依頼を受けるのは構わないけれど命に関わる危険なことは避けるように」
魔王絡みは危険なことだよなぁ。
「それにしてもースゴいねーー。Eランクの子が魔術大会優勝なんてーー」
すっとタカシは挙手した。
「そうだねー、君も武闘大会優勝だもんねーー」
「流石に優勝はするとは思っていたわ。あの魔力量と数日だけれど私が教えたんだから。これで負けたら相手が魔王か賢者ってところよ」
「来年はミクシリアさんが優勝するって言ってましたよ」
「そう。なら、もうちょっと鍛えてあげないとね」
「そうだ、ミズリー師匠。お願いがあるんですが」
「なに?優勝祝いになんでも聞いてあげるわよ」
タカシとマサルの目が見開いた。
『おっぱいや!あのおっぱいに触れる権利を!!』
『あれなら!あの乳なら顔が挟めれリュギュッ!!』
僕は左右に座る2人の頬に両手でゲンコツをお見舞いした。
「数日前に依頼で出ていた『治癒の血』の依頼は完遂されましたでしょうか?その依頼の成否と依頼主が誰かをお伺いしたいんですが」
「ああ、あの依頼ね?あなたたちが帝都を発ってすぐくらいに完了でギルド中が騒いでいたわよ。依頼主も掲示板に張り出しされているものだから隠すこともないわ。ダープっていう商人よ。ナイトガードと親交があったと思うわよ」
ダープ・・・・・・。あの色黒でがっしりとしたチョイ悪風の商人さんか。この前ナイトガードと一緒に居た人だ。
「どちらにいらっしゃるか聞いても大丈夫ですか?」
「どこにいるかは分からないけれど貴族街の東地区、南地区よりのところに住んでいたはずよ」
「ありがとうございます」
「なに?『治癒の血』絡みなの?あんまりいい依頼とは言えなさそうね?」
「まぁそうなんですけどね。できるところまではやってあげようかと」
「『治癒の血』が依頼完遂されたのは10年以上ぶりだから簡単に手放すとは思えないわよ」
「それでも話くらいはしてみないと入手できるものも入手できませんしね」
「そう。なにか手助けができることがあれば言ってね」
「あ、それじゃあ。ダープさんについて最近何か話があがったりはしていませんか?『治癒の血』を入手してからの動きとか、その前からでもいいんですが」
「うーん。以前『治癒の血』が世に出た時もそうだったらしいけれど『治癒の血』を入手したことで屋敷に来客者が結構な数来ているわね。それ以外で言うと・・・・・・依頼完了前になるけれど、回復魔法の使い手に声をかけていたわね。私にも話が来たけれど、私は回復魔法は得意じゃないから断ったんだけれどね」
『治癒の血』を譲ってもらおうとするものが訪問するのは分かる。回復魔法?それに治癒の血ってなるとこっちも病人とかが原因なのか?それとも噂に聞く不老不死関係なのか?
「ありがとうございます。十分です」
「これくらいで良かったの?他になにかあれば言いなさいね。それと時間ができたらまた魔法見てあげるからいつでも来なさい」
「はい。ぜひお願いします」
「あ、それと今後火の龍は禁止ね?」
「帝都でってことですよね?」
「帝都に関わらず人前禁止ね」
「了解です。肝に銘じます」
そして僕は2人を連れて冒険者ギルドを発った。ミズリー師匠は話の分かる人でホント助かる。
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