好きなことに没頭すること。それをオタクと呼ぶ
僕は1から魔法を教わったわけではないためここの学院生よりも魔法の知識ではかなり劣っているはず。そんな彼らに僕から教えれることなんて限られてくるとは思うんだよなー。
ミズリー師匠やミクシリアさんから教わったことでちょっと特殊なことの方がいいかもしれない。
かといってミズリー師匠の教えをそのまま開けっ広げにするのも弟子としてはダメだし色々考えてしまう。
僕はチラリとロマネちゃんに視線を向けて、それから他のメンバーを見渡した。
「それじゃあ少しだけ。何を話せばいいのかな?あ、それじゃあ大会の準決勝でロマネちゃんがダイダルウェイブを使おうとしたときに対戦相手のミラ選手がどうやって妨害したかって分かる?」
「あ、やっぱりあの時のはロマネの魔法の失敗じゃなくて妨害されてたの?」
「いやあ、僕は妨害していたのは気づいていたがどうやってっていうのはいまひとつ回答にまでにはあと一歩、そうあと一歩届いてないのだよ」
僕はチラリとロマネちゃんを見る。
「何かされたのは分かります。多分魔法なのは分かりましたが私にもさっぱりでした」
「それじゃあ今日の授業はその話にしようか」
僕はミクシリアさんにされたようにコップを用意しロマネちゃんにその中に水を入れるように指示をする。そして僕がミクシリアさんにされたように魔法に魔法をぶつけて魔力を乱すと水が安定せずコップに入らず漏れ溢れる。
「これ・・・・・この感じです・・・・」
「という感じで相手の魔法に魔法をぶつけて魔力の流れを乱したことによってロマネちゃんのダイダルウェイブは不発に終わったってことだね」
これにはロマネちゃん以外の4人もかなり食いついてきた。4人とも流石に魔法を専攻しているわけでブツブツと何かを口ずさみ「もう一度」「もう一度」とその現象を理解しようと躍起になる。
「学院では聞いたこともない」
「こんな方法で魔法を乱すなんて・・・」
「すごいな!マーシーくん!これなら魔法使い同士の戦いで重宝すること間違いない!!」
「と、いうことだけどロマネちゃんの考察は?」
僕は他の4人とは違い黙ってその様子を見ていたロマネちゃんに話を振ってみた。
「確かに、魔力を乱すというのは凄い発想だとは思いますが。・・・・・・・・実戦では使い辛いと思います」
「流石だね。これは俺の先輩も言っていたことなんだけどこの現象を起こすことは難しい。まずは相手の魔力の流れそのものにこちらの魔力をぶつけないといけないからその調節が困難であること。こちらから魔力を飛ばして乱すことはできないから接近しないといけないこと。さらには溜めの必要な魔法相手にしか使えないこと」
「ああ、なるほどね。それなら私ならわざわざこんな方法を使わずに直接術者に一発お見舞いするわね」
ミーシアさんも理解がはやいな。
「そういうことだね。あの時はミラ選手がうまかった。ロマネちゃんがダイダルウェイブを使えるのを知っていたし、使うように誘導もしていた。俺でも詠唱を始めたら術者自身を封じるよ」
「それでも面白い手段だね!なにか役に立つ使用方法があってもいいかと思うが!」
「まぁ使える場面としては大型の、詠唱が長い大規模な魔法とかの妨害ならいけなくもないけれどね。こういう魔力の使い方もあるってのを知ってるのと知っていないのとでも違いはあると思うからいい勉強になったでしょ?けれども突き詰めるほどのものではないんだろうけどね」
こういうひとつのことに対してのディスカッションってのは学生時代を思い出すな。ここにいる全員が魔法に関するいわゆるオタクたちなんだろうな。
それぞれが、ああだこうだと自分の意見を口にする。ロマネちゃんもあまり口には出してなかったが全員の意見を耳にし考える姿は好きなことに没頭するソレだった。
僕は皆の中心になってそれぞれの意見を聞き、ロマネちゃんにも発言をさせたりと場をまわして検証したり、時には実際に実演したりと、特に指導ではなかったと思うが自身も討論者の1人として意見を交換し合った。
魔力の乱す方法以外にも足での魔法行使にも皆が食いつき意見が飛ぶ。
「足で魔法か!風魔法とは相性がいいかもしれないな!態勢そのままで風で宙に浮かぶことができそうだ!」
「足で魔法・・・・・・・・。これもさっきのと被るかもしれないけれどあまり意味はないようにも思えるわね。手の届く範囲くらいなら魔法は発動できるわけだし、足元に魔法使えばいいだけじゃないかしら?魔法の・・・・・偽装?メリットとしては使ってないように思わせることくらいかしら?」
「魔法を隠す。ミーシアさんの言った通り魔法を使っていると思わせないことが目的だったんだと思います。私はそれで負けちゃいましたから」
「まぁおおむねその通りだね。彼が言ったように風魔法で空を飛ぶってのも俺も考えたがそれほど有効かと言われたらなんとも言えないね。ただ上空に真っ直ぐ回避くらいはできると思うけど。俺の考えも魔法の隠蔽が一番しっくりくるかな?」
それからディスカッションを続けていたが、時間を忘れて没頭していたため気づけばその場で3時間ほどは話し続けていたらしい。
「よし、それじゃあ今日はここまでな。それぞれ検証するも良し。時間をつかうことでもないと切り離すも良し。それは自分自身で判断すればいい。そして俺はもう帰る!夕方にはリアを出るんでな!」
「え!!マーシーくん!リアを出て行くのか!!こんなに仲良くなれたのに!これからも様々な意見の交換をしようじゃないか!そうだ!!君も学院に入学したまえ!!僕が推薦しようじゃないか!!」
「バカね、そんな簡単な話じゃないでしょ。学院生を差し置いて優勝しちゃって、表彰式の時にあんな公衆の面前で断った人間を学院が受け入れると思っているの?」
「確かにその通り。俺は冒険者だからここにとどまることはないよ。けれどもこの街は結構気に入ったからまた来ることはあるよ。ロマネちゃんもいるし」
ロマネちゃんもいるし
ロマネちゃんもいるし
ロマネちゃんがいるし
ロマネちゃんがいるから
ロマネちゃんに逢いたいから
ん?ロマネちゃんがこちらを見て目をキラキラさせているぞ。
なんだろう?背筋がひんやりした。
特に意味はないが、ふと思った。
脳内変換って怖いよね。
「またいつでも来てくれたまえ!我々は歓迎するぞ!!」
ああ、またなゼアネル。今度会った時もそのままでな。
「それじゃあまたね。一度くらいはアナタと真剣勝負してみたいわね」
「本心を言うとあまり女性とは戦いたくはないんですけどね」
「あらそう。それなら勝ち目もありそう」
フフッとミーシアさんと笑い合った。
「2人も今度の大会には出られるように頑張って。2人共筋が良いからチャンスはあるよ」
金髪の少年と三つ編みの少女にお礼を言われながら握手をせがまれたので笑顔で対応だ。
有名人はつらいぜ。
「それじゃあロマネちゃんいこうか」
「はい!外までお送りします!」
「ありがとう。1人だったら通してくれるか分からないもんね」
僕は4人に見送られながらロマネちゃんと学院を後にし、入ってきた門まで案内された。
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