私!一番弟子ですから!
僕とロマネちゃんはグラウンドの方に出て来た。
「あまり人は居ないんだね?いつもこんな感じなの?」
遠目に4人ほどのグループが魔法の練習をしているのが見えるだけでグラウンドはほぼ貸し切り状態だった。
「時間帯もありますが、魔術大会の日程に合わせて今は休暇期間中ですから学院の中にもほとんど人はいないですよ」
「そっか、それじゃあどうしよっか?なにか教えて欲しいこととかあるかな?知識的な話は多分ロマネちゃんの方が詳しいとは思うんだけど」
「贅沢かもしれませんがあの、ドラゴン。私も使えるようになりますか?」
やっぱり皆この話しだよなー。
「大会の時にミラが使っていたヤツってことだね。水龍。もちろんロマネちゃんも使える可能性はあるよ。けれどそもそもある程度の魔力がないとおそらく発動すらしないと思う。けど、まあ認識から変えるとすればあれは水の龍を召喚する魔法ではなく水魔法の上級のさらにひとつ上の魔法ってこと。そう考えればいままで初級、中級、上級と覚えてきたロマネちゃんならさらに上のあの水の龍も使えるようになってもおかしくないよね?」
「上級のさらに上?・・・・・・・そんなことが?」
「そう、まさにそれ。今思っていることが固定観念として頭にある限りは覚えることはできないよ」
「・・・・・・・・・・・・いえ、分かりました。上級のさらに上。マーシーさんが言うのならそれは間違いないと確信しています」
あれ?大丈夫かな?俺の言ったことなんでも呑み込みそうな感じがするんだけど。なんだか背筋がひんやりとしたぞ。
「けれど残念なことにこの魔法の詠唱文は俺にも分からない。けれど詠唱が分からなければ覚えられないわけではない。そもそも魔法の詠唱ってのはその魔法の精度、調整をするものであって必ず必要なものではない。ロマネちゃんも初級とかなら無詠唱で使えるだろ?魔法はイメージが大事だ。幸いにも一度目にする機会があったわけだしイメージはしやすいはず。あとはそのイメージに合わせて自身の魔力を繋げて、操作する。そもそも中級も上級も初めて魔法を使った人はどうやって魔法を放ったんだろう?答えは簡単。イメージして詠唱なしに使ったはずだ」
ちなみに8割はミズリー師匠の言葉だ。
「分かり・・・・・・ました。大丈夫です。学院の教えとは全く違いますが、私はマーシーさんの言葉を信じます」
うん。僕は心配です。この子はこんな胡散臭い高卒の男の言葉を丸のみにしています。
「魔法はイメージ力。想像することが大事。これは俺の師匠の受け売りだけどね」
「魔法はイメージ力。魔法はイメージ力。使える。私は使える。ダイダルウェイブよりも上。ダイダルウェイブよりもさらに上」
大丈夫?僕洗脳とかしてないよな?
「それじゃあ水の龍を使うための魔力向上の練習をしようか。魔力を上げるためにすることはなんだか分かる?」
「レベル上げ?ですか?」
「うーん、それも正解だけどね。もっと簡単にできることがある。それは、魔力を使うこと」
「授業のある日は毎日魔法は使ってます」
「よし、それじゃあ常日頃、日常生活でも常に魔法を使うようにしようか」
「え!?」
「ロマネちゃんは水魔法使いで良かったね。火魔法を常に使っていたら大火事になっちゃうからね」
「魔法を常に使い続ける?ってどういうことでしょうか?」
「そのままの意味なんだけどね。ロマネちゃん、俺が今魔法使ってるって分かる?」
「!?」
ロマネちゃんは分かりやすいように驚いている。
「もちろんばれないように使ってるんだけどね。俺が使っているのは『ガード』だよ」
「マジックガードではなくガードなんですね?大会でダイダルウェイブに呑まれた時に使っていた」
「うん、理解が早くて助かるよ。俺は1日中ガードを使い続けているんだよ。理由は2つ。1つはもちろん防衛のため。面と向かっての戦闘をする場合は色々対処法はあるけれど、暗殺闇討ちは正直勘弁してほしいからね。大会で優勝もしたし目立っているのは分かっているから何かあってもって思い、常にガードで身を守っている」
そうです、ただのチキンですよ。だってマジでいきなり刺されるとか怖いんだもん。
「常にって、魔力を使い切ってしまうじゃないですか」
ところがどっこい、僕の魔力、MP量は半端ないわけで自然回復で増える量もでかい。ガードくらいなら使っていても減少と自然回復がどっこいどっこいだ。
「そうだね、それでもうひとつの理由が魔力を使用することによる魔力の向上のため。授業で使用しているとか毎日練習しているとかじゃなく日常生活で常に使い続けるようにしようか」
魔力使用による魔力の向上は検証済みだ。自身の話になるがだいたい丸3日ガードを発動し続けて魔力が5上昇している。ステータス補正で5倍になっているから単純に3日使い続ければ魔力が1増える計算だ。これは自分だからこそなのか分からないがミズリー師匠も同じ考察をしていたため信憑性は高いはず。僕は大会前からガードは常に発動状態にしている。魔法を使っているという魔力の流れをばれないように偽装したり色も無色にしたりと最初は難しかったが今は四六時中ほとんど意識せずにガードを纏っていられる。
「水魔法を使い続ける・・・・」
「それじゃあこういうのにしようか」
僕は水魔法でパチンコ玉くらいの水の玉を3つ作り出し掌の上に浮かせる。それをクルクルと自身の周りを旋回させた。
「どう?できる?流石に水を出し続けるのはマズいからね。かといってただ水の玉を作り出すだけならその後に魔力の消費はほとんどない。けれどこうやって魔法を操るって行為は若干だけど魔力を使っているわけだからね。魔力を使い続けるというよりは魔力を消費し続けるってことかな」
「分かりました。大丈夫です。ウオーター」
ロマネちゃんもパチンコ玉ほどの水の玉を3つ作り出し自身の周りをグルグルと旋回させる。
「うん、この前みたいに綺麗に小さくはできるみたいだね」
「は・・・・・はい・・・・・・・」
おっとロマネちゃんが苦しそうだぞ。かなり集中力がいるようだ。
「ちょっときついみたいだね。それじゃあ1つに減らそう。こういうのは無理に使う必要は絶対にない。常に使い続けることの方が大事だから最初は1つ。それに大きく旋回させるのが大変ならこうやって小さくクルクル回すだけでもいい」
僕は3つの水の玉を掌の上でクルクルと旋回させた。
「は・・・はい。それじゃあ1つに」
ロマネちゃんは水の玉を1つに減らして自身の手首の周りを回るようにクルクルと回している。
「うん、それで十分。流石に魔力が切れるのは問題があるから限界手前くらいになれば解除して、魔力が回復したらまた1つだしてクルクル回そう。目標は起きてる間1日は常に出し続けれるようにすることで、それができたら2つ3つと増やしていこう」
「これを毎日・・・・。分かりました、マーシーさんもやってるってことですもんね?」
「もちろん、俺の場合はガードだけどね。大丈夫、すぐに効果の出るものでもないけど魔力アップには繋がるし、魔力の操作も上手くなるはずだよ」
まぁ多分。おそらく。
「じゃあそれは毎日のトレーニングメニューとして、他になにか・・・・」
「おおーーい!!誰かと思えばマーシーくんじゃないかー!」
なにやら聞き覚えのある声だが。
なんだ、風のナルシストくんか。
「やあ、マーシーくんにロマネくん!魔法の訓練ならぜひ一緒にどうだい?」
遠目で訓練していたのはお前だったのか。疾風のゼアネルだったっけか?後ろからついてくるのは
「確かあなたは紅蓮炎舞ミーシアさんでしたっけ?」
「その呼び名やめていただける?そこの馬鹿が勝手に言ってるだけだから」
あとの2人は知らないな。金髪短髪の線の細い男の子と眼鏡に三つ編みのあだ名が『委員長』っぽい女の子だ。
「すごいマーシーだ」
「え?あの優勝した人だ」
ボソッと漏れた一言。聞こえているぞ、サインでも欲しいのか?
「2人で細々と練習するのならぜひ僕達と一緒にお互いを高め合おうじゃないか!風魔法のことならなんでも聞いてくれたまえ!」
ゼアネルうるさいな。
「あなた、大会の優勝者相手によく言えたものね?逆にこっちが教えてほしいくらいよ」
金髪の男の子と三つ編みの女の子が首をブンブンと縦に振っている。
「むむ、確かに!風魔法では僕に分があるがそれ以外の魔法なら確かにマーシーくんのほうが少しばかり使えるわけだしね!!」
ゼアネルがうるさい。
「どうかしらマーシーさん、少しばかりご指導いただけるとうれしいんだけれど」
ミーシアさんはゼアネルをはねのけて僕の前に躍り出た。
後ろで他2名もブンブンと首を縦に振っている。
「うむ!ロマネくんだけ特別扱いはどうかと思う!しかたない、僕も風魔法を教える代わりに指導をうけようじゃないか!」
ゼアネル・・・・・嫌いじゃないな。ここまでくると。
「そうね、ロマネだけ特別扱いはないんじゃないかしら?」
まぁ僕は特別扱いしているわけでもないんだが。
「わ・・・・私は!」
ロマネちゃんが珍しく前に出た。
「私は!・・・・マーシーさんの一番弟子ですから!」
おっと、ぶっ込んできたな。ロマネちゃん。
「え?そうなの?学院の先生じゃなくて彼の弟子になったの?」
「なんと!!そうなのか、ロマネくん!!魔法の教えならマーシーくんでなくても僕がいくらでもゴガッ!」
ミーシアさんがゼアネルを再度はねのけた。
「別に誰の教えを乞うのかは問題はないけれど、学院には言わない方がよさそうね。現在学院生で一番の魔法使いが学院以外の人の弟子になっちゃったって聞いたら先生たち全員落ち込みそう」
「と、いうことだからロマネちゃんのことは学院には内緒でお願いしておくよ。まぁ俺も師匠らしいことは何もできないからはっきりと明確に師匠弟子って関係ではないかもしれないけどね」
そういう意味では僕とミズリー師匠も似たような感じか。
え?ロマネちゃん何故そんなにウルウルした目で僕を見てくるんだ?
「それでも教えを乞うのは誰だっていいとは私は思うわけなんだけれど?」
そうですねミーシアさん。誰が誰の弟子で師匠かなんてのは関係ないよね。
「もちろんなんでも教えれることは教えるけれど、俺の場合は魔法も我流って感じで俺の魔法論は俺の師匠のミズリー流って感じになるよ」
「全然問題ないわよ。ミズリー様の教えならむしろ願ったりよ」
そっか、そういうもんだよな。
けれどそういう魔法使いの理論的なのはあまり口外しない方がいいのかな?ロマネちゃんには少し話しはしたが。
まぁ当たり障りのない程度なら大丈夫か。
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