ずっと横にいます。ただの口下手なんです
そして昼になりタカシとマサルはホテルを出て店を視察に。僕はミクシリアさんを呼びに行って2人で昨日の闘技場へと向かった。
「ミクシリアさんはネイさんのこと知らないんですよね?」
「そうね。私がミズリーさんの弟子を始めたのは2年くらい前だからそれよりも前のお弟子さんってことかしら?一応顔だけは知ってるくらいね、魔法騎士団の支部長さんだってくらいにはね」
闘技場の入り口には魔法騎士団ではなさそうなスタッフさんが数人。掃除してるのかな?
「ごめんなさいね、今日は闘技場は入れませんよ」
「すみません、おそらく今魔法騎士団が演習で闘技場を利用されていると思うのですが、今日支部長のネイさんとホールドさんに呼ばれてましてここで待ち合わせしているんです」
あ、「昨日の優勝した人」と他のスタッフさんの声が耳に入る。
「これはすみません。伺っております。こちらの通路から闘技場に入れますのでどうぞ」
僕は案内を受けて闘技場の石造りの通路を歩いて中へと入った。
道中通路の側面の窓から闘技場内で騎士団の皆さんが魔法の訓練をしているのが見えた。
壁沿いに休憩しているのも合わせて200人くらいかな?所々エルフも混じっている。
全体的に皆線が細い印象。僕が大会の予選であたったようなムキムキマッチョな人は見当たらない。魔法使いなんだからそりゃそうか。
通路から闘技場につながった扉を見つけソロリと扉を開けて闘技場の隅に僕とミクシリアさんは顔を出した。
こちらに気づいたホールドさんがタッタッタッと駆け足で向かってきた。
「おう、もうそんな時間か。悪いな、あそこの部屋で待っててくれ」
大会の時に予選通過した後に入った扉だ。
「いえ、すみません。ちょっと早かったですかね?急ぎませんのでお待ちしてます」
僕とミクシリアさんは訓練風景を横目にその扉から中の控室へと入って行った。
「大丈夫かしら?私場違いじゃないかしら?」
「そんなこと言ったら俺だってそうですよ」
待つこと数分。
すぐにホールドさんとネイさんが部屋に入ってきた。
「悪い悪い待たせたな」
2人とも白い短目のジャケットに白いパンツ。ジャラジャラとした装飾と胸の勲章のようなものが目立つ。軍人さんって感じ。
「いえ、全然大丈夫ですよお招きいただきありがとうございます」
「あ、改めまして。ミクシリアです」
僕とミクシリアさんは立って2人に頭を下げる。
「そんなかしこまることねーよ。こっちが誘ったんだしな」
2人の後ろから似たような白い制服を着た女性が3人。お盆に乗せられた料理と高そうな一升瓶を持って入って来る。
そのうち1人は尖がった耳をしており色白で綺麗な金髪の映えるエルフだった。
ホエーっと見惚れているとミクシリアさんが足元で僕の足をグニッと踏みつけた。
痛い痛い。
「おうサンキューな。適当に並べてくれ。あと、この部屋には誰も近づかないように言っててくれ」
料理を並べ終えた3人は頭を下げて部屋から出て行った。
「さぁさぁ座ってくれ。とりあえず飯にしようぜ」
僕とミクシリアさんは椅子に座りその対面にホールドさんとネイさんが座る。
「それじゃあ俺からの贈りもんだ。この酒はそんなに度数は高くねーが偉いさんが来た時に出すもんだ。まさか自腹で買うことになるとは思ってなかったがな」
ははは、と笑いながら僕らのグラスに注いでくれる。
「とりあえず乾杯しようか、優勝おめでとう。いいもん見せてもらったよ」
グラスを合わせて一口。あ、コレ美味い。果実酒かな?柚子っぽい。
ネイさんはまだ一言も話さない。
「あ、これはお土産です。手ぶらもどうかと思ったんで。帝都のエシオン酒店のぶどう酒です。2本ありますのでネイさんと1本づつ、家で呑んでください」
「おいおい、気―使わせたか?賭けは俺の負けだったじゃねーか」
「はい、賭けは俺の勝ちでしたけど。これはただの手土産ですよ」
「手土産にしちゃ随分と高級じゃねーか。エシオン酒店の酒っていえば有名店だぞ」
僕達は料理も口にし、美味い酒も合わせて舌鼓。
「改めて、マーシー。大会優勝おめでとう。昨日はゆっくり祝うこともできなかったからな。ミクシリアも本選出場おめでとう。正直相手が悪かったかもな、実力的にはベスト4くらいの実力はあったんだがな」
「いえ、一発勝負ですから文句は言えませんよ。それにマーシーにもミラにも勝てるとは思いませんし」
ミクシリアさんが慎ましく答える姿がなんだか初々しくかんじるんだが。
「まぁ決勝の2人は別格だったな、確かに」
ホールドさんは口元を拭って肘をテーブルについた。
「それでだ、あの魔法のことは話す気はあるのか?」
龍だな。龍のことだな。
「一応聞いておきますが、どの魔法のことを言っているのかお伺いしても?」
僕は一応聞いてみた。
「あのドラゴンだな。正直他は・・・・まぁ・・・・・多少は想像できなくもないが、あのドラゴンだけはどういう魔法なのか見当もつかん。しかもマーシーにミラも使用していたということはそういう魔法の理論がちゃんとあるということだと考えていいとは思うが」
『あれはれっきとした火魔法と水魔法。それは分かるわ。けれど今まで見たことのないものだったわ』
「ネイさん。念話で話しかけるのやめてくれませんか」
「ご・・・・・・・・・・ごめんなさい」
ちゃんとごめんなさいのできたネイさんがかわいすぎる。
「あの火の龍はれっきとした火魔法ですよ。ちなみに俺の切り札ですんで使い方と覚え方はお伝えしません。伝えれることとしてはフレアのさらに上ってことだけ言っておきましょうか」
ミクシリアさんが(言っちゃうの?)みたいな表情で僕を見ていたがこれくらいはまぁ大丈夫だろう。
「上級のさらに上ってことか。そんなもんがあるなんてこの街でも聞いたことがないが実際あんなもの見せられちゃ嘘でもねえってのは分かる。それに常人が簡単に使用できないってこともな。あの魔力量は普通の人間にゃ出せねーだろうな」
「魔力の量は結構自信がありますからね、ミズリー師匠のお墨付きです。そうは言ってもあれだけの魔力を使用するとせいぜい一日1発ですから燃費は悪いので普段使うことなんてそうそうないですけどね」
多分10発くらいならいけそうだが。
「あ、そうそう。ご存じかもしれませんがミクシリアさんもミズリー師匠のお弟子さんなんです」
ミクシリアさんは胸元から青い宝石のついた腕輪を取り出した。
僕は左腕につけたものを。
ネイさんも白いジャケットの胸元から同じものを出した。
「ミズリー様のお弟子さんがここに3人もか。俺も指導を受けたことはあるが弟子とまではしてくれなかったなぁ」
少し寂しい目をしたホールドさん。するとミクシリアさんが口を開いた。
「ミズリーさんが弟子にするのは基準なんてないって仰ってましたよ。ちょっと変わった子ばかりだって」
変わった子か・・・・・。
ネイさんは超コミュ症。
ミクシリアさんはこれだけ図太い性格。
それに僕か。
「はは、変わりものか。そうかもな。ネイはこんなだしマーシーもこんなだしな。ミクシリアはそうでもないと思うが」
「ホールドさん。ミクシリアさんの魔法に対する貪欲さはなかなかですよ」
「貪欲って・・・・女性に向ける言葉じゃないわよ」
「誉め言葉ですよ。そういう人こそ火の龍とか普通の人が思いつかないようなものが創造できると思いますよ」
僕らは出された料理に満足してチビチビとお酒を口にして色んな話をしていた。
「へー、マーシーの一番弟子がロマネちゃんねー」
「ミクシリアさん、俺が弟子なんてとると思いますか?思わないでしょう?だから今後そういうことになったらって話ですよ」
「ああそうだ、マーシーにはキリカの件も話しておこうと思っていたんだった」
あ、そういえばどうなったんだろう。
「あの準決勝でキリカの使った闇魔法について本人に聞こうと試合後に会いにいったんだが試合終了後すぐに姿を消してしまってな。何か心当たりはないか?」
「やっぱり闇魔法を使ってたのがまずかったんですか?」
「まだ確証は得られていないが、キリカが魔族だったんじゃないかという疑いがあがっていてな。あの鞭と最後の黒い球だな。あれは両方とも闇魔法だったからな」
「闇魔法ですか・・・・・・やっぱり使えると魔族の可能性がでてくるんですね?」
キリカが魔族だってのは僕は分かっているが。
「そうだな。それに最後の黒い球を出す瞬間別の何かをしようとしていたしな。あれは魔族の行う擬態の解除にも見てとれたしな」
「俺も闇魔法は使えますけど魔族だと疑いますか?」
ミクシリアさんがバッと僕の顔を見る。
ホールドさんはチラッとネイさんの方を見て言葉を続けた。
「いや。ネイから聞いていたが本当に使えるのか。とりあえずここ以外でそのことは話さないでくれな」
「マーシーなにそれ。私初耳よ」
ここでミクシリアさんがよだれを出しながら食いついてきた。また僕から奪う気マンマンじゃないか。
「言ってませんでしたからね。教えませんよ」
「闇魔法が使えるからといって魔族とは限らない。人間でも使えるものはいるさ。ただ極端に人間にはその才能は出ないんだよ。闇魔法の才能が出るのは基本は魔族に限られる。ただ、まぁ、なんだ。マーシーならあるかもなって思うよ」
「その特別感ありがとうございます。今後は利用は可能な限り控えます」
「ああそうしてくれ。闇魔法を使えるだけで異端審問にかけられるってこともありうるからな」
異端って・・・・信仰論の違いってことね。魔族ってのはそれだけ悪であるってね。
キリカは捕まらずにこの国を出れたのか。まぁどっちでもいいとは思っていたが。キリカが言ってたバーウェン様ってのが今後関わってくるのかが心配だな。
「ああ、ついでだが学院がマーシーとミラの2人を招待していたが」
「適当に断っておいてください」
「適当に断っておいたよ。俺が差し出すわけないだろ」
話が早くて助かる。
「ありがとうございます。明日にはここを発つんでそんな時間はないですからね」
「明日にはもう行くのか。リアに来ることがあったらいつでもウチには顔を出せよ。ネイも喜ぶしな」
ネイさんが顔を赤くしてブンブン首を振っている。
「帝都に戻ったらネイさんのこともホールドさんのこともミズリー師匠に話しておきますね」
「マーシー」
ネイさんが席を立って僕の名前を呼んだ。あれ?そういえば名前呼ばれたことなかったか?
「おめで・・・とう。またいつでもおいで」
と、右手を差し出した。僕は握手をしてニッと笑みがこぼれる。
「ネイ先輩もお元気で。何かあれば頼らせていただきます」
ネイさんは僕の横のミクシリアにも手を差し出した
「ミクシリアも。元気で」
「はい。ありがとうございます。ミズリーさんにもネイさんのこと素敵な人だったって伝えておきます。ものすごい口下手でしたが、って」
「はっはっはっは。ネイがこんなに早く5文字以上も話せるようになるなんてないぞ。後輩は特別ってことか?」
僕らはお礼を言っておいとまする。
手土産にと今日呑んでいたお酒もいただいた。
「良い人だったでしょ?2人とも」
「そうね。ネイさんはずっとモジモジしてたイメージだけどね」
「はははは、そうですね。あの人念話だったらよく喋るんですけどね」
さてと後は夜にミラたちとの打ち合わせか。タカシとマサルは良い店探してくれたかな?
いつも読んでいただきありがとうございます!




