切り札を切る
ミラの放った大津波はマーシーを呑み込みその後ろの水晶も呑み込んで闘技場のおよそ半分をその大容量の水で埋め尽くしグルグルと渦まき水しぶきを高々と舞い上げた。
30秒、そして1分。
控室で観戦していたネイはふと口を開いた。
「おかしいわ。もう水に呑まれて時間が経つのに試合終了の合図がされない」
「!?確かに。一体どういうことだ」
ホールドが首を傾げる。
ネイとホールドの前で膝をついていたロマネがすくりと立ち上がった。
「スゴイ。あれに呑まれて水晶が全く濁っていない」ロマネはグイッと手で涙をぬぐう「やっぱりスゴイ、マーシーさん。私が決勝にあがっても絶対勝てなかったですよ」
ネイとホールドの目にも薄っすらと全く濁っていない水晶が目に入った。
その大容量の水は濁流によって中はよくは見えないが背丈以上もある水晶はかろうじて目で捉えることができた。
闘技場半分を埋め尽くしたミラのダイダルウェイブ。観客席の大半はこれで終了だと思っていたかもしれない。
しかしマーシーと水晶を大津波が呑み込んで1分もたったころ試合終了の合図がされないことに観客がざわざわとしだした。
控室で観戦しているロマネ、ネイ、ホールド。そしてミクシリアも実際は分からないがなにかしらの方法でダイダルウェイブを防いでいることには気づいていた。そしてもちろん相対するミラも
(準決勝は水に呑まれればすぐに水晶は壊れた。けれど未だに水晶は健在か・・・・・。一体どうやって防いだっていうのよ)
ミラはこれ以上は魔力の無駄だと感じゴーレムの肩の上でかざしていた両手を下ろしゴーレムも地へと還した。
大量の水がスーっと消えていく。そこにはなにもなかったように水晶の前でただ立っているマーシーの姿があった。
大歓声が闘技場を揺らしたのが分かった。
「長いよ。もうちょっと早く解除してくれてもよかったんじゃない?」
「一体どうやって防いだの?流石に・・・・・教えてはくれないわよね」
「魔術大会なんだからもちろん魔法だよ、魔法。俺の切り札だ。反則ではない・・・・・・と思う」
僕は提唱しよう。『ガード』最強説を。
僕は自身と水晶にガードをかけただけだ。
問題はガードを魔法と認識してくれるのか?ってことだな。
ものすごい大事なことだが。
ガードが魔法ではないと判断されたら魔術大会において魔法以外の行為を使用したということで反則負けになるのではないかと考えたが、ガードは魔力判定で強度が変わり、しかもMPが消費されるということは絶対に魔法だ!と僕は断固抗議をするつもりだ。
ダイダルウェイブを防ぐにはこれしかないと思っていた。マジックガードはイメージは盾だから基本は前面しか守れない。形を変えて鎧のようにはできるが360度密閉させるのは難しい。けれどガードは全身を包むような感じだからあの大津波に呑まれてもおそらく平気だろうと考えた。一応戦士が使ったときのような緑色のオーラは出さず無色で展開した。
ちゃんと自分以外にも付与できることは確認済みだったので水晶にもガードをかけて無傷だったわけだ。
ガード・・・・・最強だよな。だってタカシの999オーバーの拳も防げるんだよ。
一応ガード以外で相殺する案もあったんだがどれも状況的にあまり良い案とはいえなかった。
案その1
こちらもダイダルウェイブで相殺。
火の上級魔法フレアを出したことで水魔法のダイダルウェイブも使えるってなるとなんだか嫌な予感がするためなしで考えた。
案その2
準決勝でミラが見せたのと同じように魔力を乱して撃てなくする。
撃つ前に防ぐのはなんだか嫌だった。なので却下。やったことないことなのでうまくいくかどうかも分からないし。
案その3
フレアで相殺。
ダイダルウェイブを突き破って術者もろともフレアでいけるとは思うがミラが多分死んでしまう。
案その4
とりあえず躱す。
相手陣地に逃げ込めばいいだけだからスピードにものを言わせて躱すだけだが、自陣の水晶を置き去りにしてしまうことと根本的に躱すという選択肢はとるつもりはなかった。
「さてと、これで打ち止めかな?それなら優勝は俺がいただくけど?残念だったね、魔法使いとしてはミラよりも俺の方が上だったってことだね。まぁミラはまだまだ若いんだし今後もっと精進すれば良い線いくと思うよ。現段階では俺の方が実力は上だったってことでおしまいだね。ああ、この防御魔法を打ち破れると思うならまだ続けていいよ。ダイダルウェイブの連発でも、水の剣でもなんでも撃ってみていいよ」
僕は相手の心を逆なですることはあまり好きじゃないんだが。
ミラは無表情のままその場で立ち尽くしている。
5秒ほど固まったままこちらを見ていた。
「分かったわ。これで最後よ」
「最後?最後になにかあるのか?」
「今から私の最後の魔法を使うわ。これが防がれたら私の負けよ」
「なるほど。まだ切り札があるってことか」
「そうよ、けれど言っておくわ。防いではダメよ、躱しなさい。絶対に正面から受けてはダメよ」
まさ・・・か・・・・気〇砲なのか・・・・・
ミラは振り返りスタスタと自陣の水晶の方へと歩いていく。
ものすごく無防備なんですけど。
このまま後ろから魔法打ったらものすごい悪役になってしまいそうだ。
しかしミラよ。狙いだというのならいいんだが、僕に「絶対躱せ」「正面から受けてはダメ」と言うのは
逆効果だ。
ミラは自陣の水晶の前でこちらを向きなおし手をこちらにかざして詠唱を始めた。
さてと、何が飛び出るのか?僕の予想は水魔法LV4。ダイダルウェイブのさらに上かな?
僕は腕を組みながら考える。
しかしダイダルウェイブのさらに上級の魔法が飛び出したとして世間的には大丈夫なのだろうか?例えば存在すら認識されていない可能性だってありうる。僕はそんな話は誰にも聞いたことがない。魔法は一番上は上級。
ひょっとしたらミラはなにか別の魔法を使おうとしているのかもしれないしな。例えば闇魔法か。
どうだろうか?
お、ミラの魔力が複雑に体を流れているのが分かるぞ。
あ、これはダイダルウェイブよりもでかい何かが出てくるな。やはりLV4で間違いないか?LV5ってことはないか。
魔力が渦を巻きミラを中心に目に見えるほどの濃度で竜巻のように立ち上がる。
うわぁお。頭に『最終奥義』ってついたものが出てきそうだ。
カッ!とミラは目を見開いた
全身が淡い青色の光を纏い真っ黒だった瞳は青い瞳に変化している。雷のような青い紫電がビリビリと体中を巡り長い真っ黒な髪の毛も青白く光った紫電を纏い逆立つようにユラユラと揺らめきこちらに向けた両手からは溢れんばかりの魔力の波動を感じた。
「顕現せよ蒼き龍!ウオータードラグネア!!!」
龍!?ドラゴンか!?
ミラの突き出した両の手を起点にその前方から光と共に真っ青な光る水で形作られたそれは口を開けば人間を縦に丸呑みできるほどの頭。皮膚には鱗のような模様が浮かび上がり基本は水で構成されているためか半透明の薄青く光ったその胴体。
ミラの両手あたりから出て来たその頭はグルッと右へ、そして左へと旋回してミラの頭上あたりでこちらを見据えて静止した。
頭から右へ左へと伸びた薄青い半透明の2メートルはあるその胴体。起点から伸びた身体は50メートル以上はある。
シェン〇ンかよ。いやいや、突っ込んでる場合ではない。コイツはやばいヤツだ。
ミラの頭上でグルルルと待て状態の青い龍は目は吊り上がり完全に臨戦態勢だぞ。
ミラの・・・・・・まさに切り札か。
躱せと言っていた理由も分かる。あれは魔法とかそんなレベルじゃないような気がする。もう召喚魔法の類なんじゃねーのか?
両手を突き出しこちらを見つめるミラ。
ミラの頭上でフシューーと息を吐き今か今かとこちらを凝視している半透明の真っ青のドラゴン。
それを目の当たりにした僕は
込み上げて来る感情を抑えきれずに無邪気な笑顔をミラに向けていた。
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