そして僕は呑みこまれた
「いいのか?このまま放っておいて」
僕はミラに正対し、親指をミラの陣地の水晶へと向けて目配せした。
ミラはハッした顔で自身の陣地の水晶へと目を向けるとその水晶は徐々に濁り始めているのが見える。
今ミラはこちらの陣地で攻防しているとはいえ壁の方に移動して、僕とミラの水晶との間には障害物がなにもない状態だ。
僕は視認できないくらいの大きさ(パチンコ玉くらい)の風の球を高速で数発今のやりとりの最中に打ち込んでやったところだ。守りも考えなきゃだめだよ。
「ちっ」
と舌打ちをしたミラは僕とは距離は取りながらも僕と自身の水晶の間に立った。
僕は手にあった雷の剣は消し、右手をミラに向けた
「俺の得意魔法をプレゼントするよ」
ズズズズッと僕の目の前に火の球が現れる。
「ファイアボール」
大きさはおよそ5メートルってところだ。全力ではないが十分だろう。
僕がこの特大の火の球を出すと観客がおおっと声を上げたのが聞こえた。
さて、どうやって防ぐのかな?
「行け!!」
その特大の火の球は地面を焼き削りながらミラの、そしてその背後の水晶へと向かって飛ぶ。
顔をしかめたミラが僕の視界に入る。死ぬなよ。
ダンッ!!と先ほどと同じように地面を蹴りつけるとミラの前には先ほどのゴーレムが2体。ミラ自身は後ろにバックステップで距離をとり両手を前に突き出した。
ゴーレム2体が僕のファイアボールに接触すると触れた部分から真っ赤になりボロボロと崩れ半身になったゴーレム2体はあえなく地面に崩れ落ちる。
「ウオーターボール!!!」
ミラは先ほど出したものよりも大きなウオーターボールを放ち僕のファイアボールに当ててくるが大きさは近いもののミラのウオーターボールは僕のファイアボールに当たると水蒸気をまき散らし飲み込まれて消滅していく。
「水の剣」
その先でミラは水の剣を上段に構えて僕のファイアボールと相対した。
スパンッ!!
そのまま上段から打ち下ろした水の剣は一瞬長く伸びたように見えファイアボールを一閃。縦に真っ二つに切り裂くと左右に分かれたファイアボールはそれぞれ壁に向かって行き壁に激突して爆発を起こした。壁に張られた結界のおかげで観客にも壁にも被害は出なかった。
「おみごと」
僕はボソッとそう言った。
ミラは水の剣を握りながらこちらをじっと見据えている。次はどうする?ゴーレムも水の鞭もウオーターボールもダメってなると今手にしている水の剣でくるか?それともそろそろアレを出してくるか?
ミラは手にした水の剣を左から右に振るった。
「うおっ!!」
マジックガード!
キィン!!
僕は目の前に咄嗟にマジックガードを展開する。鉄の盾に鉄の剣が振るわれた金属音がした。
「危ない危ない。切り殺されるところだった」
10メートルは離れているんだがここまで届くのか。そういえばミクシリアさんとやった時は氷柱まとめて切り裂いていたっけな。
ミラは表情をかえずにそのまま右へ左へとその水の剣を振るう。
キン!!キィン!!
「よっ、ほっ」
あくまで魔法で良かった。魔力が見えるから防げているが魔法じゃなけりゃこんなの防ぎようがないぞ。
ミラは手にしていた水の剣を納めてこちらを見ながらピタリと動きを止めた。
さて、水の剣も僕には届かないって分かっただろう。なら次は。
ダンッ!!と三度ミラは地に足を叩きつけて今度は3体のゴーレムが地面から這い出てきた。
「今度は3体か」
這い出て来たゴーレムのうち2体は真っ直ぐこちらにむかってくるが1体はそのままミラの前で待機している。
と、ここでミラが何かの詠唱を始めた。
「やっとか」
僕はそう呟くと
「氷の槍」
4本の氷の槍を発現。向かってきたゴーレムの足それぞれに向けて放つと槍は足に触れると同時に地面とゴーレムの足を氷漬けにしてその動きを止める。
「ウィンドボール」
ズガァン!!
1体のゴーレムの胸から上が消し飛び前のめりに崩れ落ちる。
1体は残しておき僕はバックステップで後方へと下がる。自身の水晶の前まで下がるとミラはフワリと飛び上がり待機させていたゴーレムの肩に飛び乗った。
今の位置はミラがセンターラインよりややこちら側の中央。僕は自陣の水晶前まで下がってきたから30~40メートルは離れている。
「これはどう防いでくれるのかしら?あなたが躱しても水晶は躱せないわよ」
ミラの周囲におびただしい量の魔力が溢れ出す。
そんなミラと目が合うと僕は口角を上げて相手を目一杯見下したような笑みを返してやった。
「防げるものなら防いでみなさい。ダイダルウェイブ!!」
ミラの周囲から一斉に水の壁が押し寄せてくる。僕と僕の後ろにある水晶を覆うように迫ってくる大津波にゾクッと僕は身を震わせた。
1体残したゴーレムはその水の壁にぶつかると軽々と砕け散りその圧力が尋常ではないということを物語った。
左右前方、そして上空からも迫って来る水の壁。
うおおぉ、凄い凄い。津波に呑まれる体験なんて一生に一度だろうな。すっげぇ光景だ。
観客席で見ていたマサルが津波に呑まれそうなマーシーの姿を見て声をあげた
「うおおおお!呑まれる呑まれる!!マーシー!!」
「あんのバカ!!魔法打つ前に止めないでどうすんのよ!!」
隣でミクシリアも声を上げた。
「あー、あれは大丈夫な顔やわ」
タカシがボソリと口を開く。
「だってマーシー。めっちゃええ笑顔やもんな」
そこにいたもの全員マーシーの笑顔をみてゾッとした
「マジか」
「大津波に呑まれそうなのに楽しそうに」
グラブルさんとダルブさんは若干ひいた。
「ほんまドMやな」
「ビンタや鞭では物足りない。ダイダルウェイブじゃなきゃ。ということか」
タカシとマサルは流石マーシーと思った。
(確実にダイダルウェイブを誘ってた。防ぐ方法なんてあるの?相殺しようともしていない。さっきのフレアとかなら穴を開けるくらいできるはずなのに)
ミクシリアはギュッと拳を握り大津波に飲み込まれるマーシーを見ていた。
「いやああああ!!マーシーさん!!!」
控室で決勝戦を見ていたロマネは大津波に呑まれたマーシーを見て口を手で覆い涙目で叫んだ。
「おいおいまともに喰らっちまったぞ。ダイダルウェイブを使うのは分かっていただろうに」
ホールドも驚いた目で闘技場を埋め尽くす大津波を見ていた。
「マーシーのあの目」ネイは大津波に呑まれる寸前のマーシーの表情を見ていた「全然諦めていないし、むしろ楽しんでいるように見えた」
ネイは目の前で膝をついて崩れ落ちているロマネの後ろで並んで観戦していたホールドに声をかけた。
「そりゃあ無茶だろ?ダイダルウェイブを攻略するなら打つ前に術者を止めるか、一点突破で魔法の範囲外に逃げるしかないだろ。マーシーのヤツ水晶ごと呑まれちまったんだぞ」
(ダイダルウェイブは全方位から襲ってくる大量の水。防ぐ方法なんて考えられない。それに、襲ってきたゴーレムを足止めだけしてすぐに後ろに後退したのは何故?あの時ミラが魔法の詠唱をしていたのは分かっていたはずなのに。ミラの前には1体ゴーレムが居たけど接近すればどうとでもできたはず。・・・・・・・・・・もしかして誘った?わざとダイダルウェイブを誘った?なぜ?)
ネイには分からない。マーシーの思考が。とうの本人が冗談ではなく心から楽しんでいることをもちろん知らないからだ。
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