やっぱりここはダイダルウェイブ
ロマネちゃんとミラの試合が開始された。
先手はロマネちゃんだ。手に持った杖をかざし「水よ」と声を発するとロマネちゃんの目の前には水でできた矢が15本ほど。
ウォーターアローか。とりあえずは様子見で牽制かな?
「ウオーターアロー!!」
その水の矢は左右と前方に広く分かれて放たれた。
真っ直ぐミラの方へ向かう5本、大きく右回りに水晶を狙う矢と左回りに水晶を狙う矢に分けてきた。シンプルだが良い考えだな。
ミラは表情を変えずに一歩前に踏み出る。
魔力を練っているな。口元が動いているから詠唱しているようだ。
ダン!!と地面を蹴り自身に向かってきている水の矢に自ら向かって行くミラ。
すると両手から2本の水でできた鞭のようなものがニョキっと伸びると目の前の5本の矢はその水の鞭のしなやかな動きで消滅。そのままロマネちゃんに向かって行くミラ。剣ではなく鞭か。
「ランス!!」
走りながら5本の水の槍を作り出しミラはそれをロマネちゃんの背後に見える水晶へと放つ。
「くっ!ウオーターウォール!!」
ロマネちゃんはそれを防ごうと水の壁を目の前に設置。それと同時ぐらいでミラ側の水晶にロマネちゃんの放った水の矢が到達した。
バシュバシュバシュッと水晶に水の矢が吸い込まれると水晶は少し濁りを見せた。それでもまだ全然色は濁ったようでもなく同じものが後10回吸われてもまだ大丈夫な感じだ。
あれくらいの魔法なら大丈夫と踏んで放置か。ミラも割と考えているな。昨日話した感じじゃおバカキャラなのかと思っていたが。
ロマネちゃんの設置した水の壁にミラの放った水の槍が接触・・・・・の前にミラが両手を振るう。
スパン!と水の壁は綺麗に切り込みを入れられ、ただの水となって地面に落ちた。
壁がなくなったところを水の槍はそのまま通過しさらにロマネちゃんの頭上を通過する。
ロマネちゃんはその通過する槍には目を向けずに別の詠唱を開始している。ロマネちゃんはなおも突進してくるミラに視線を合わせていた。
ミラは接近戦希望か。魔法使いは流石に接近戦は苦手だろうからな。ロマネちゃんももちろんそうだろう。
さきほどミラが放った水の槍はロマネちゃん側の水晶に吸収されると水晶は少し濁る。
「トルネード!!」
ロマネちゃんの目の前からミラに向かって2メートルくらいの渦を巻く水が放水される。
咄嗟にミラは手元の鞭でそれを攻撃するが水の鞭はさきほど切り裂いた壁のようにはいかず鞭の方が弾けてしまう。
直進を諦めてロマネから離れるように右方向へ向きを変えてそのまま走り続けるミラ。ロマネちゃんはトルネードをもうひとつ繰り出しミラを追い詰めるように壁の方へと誘導していく。
あの水の鞭はただの水の壁なら切り裂けるがあの渦巻は無理なのか。ジャイロか?ジャイロ効果なのか?
ミラは中々良い動きで二つのトルネードを華麗に躱しながら走りまわる。
今度は逆側へとそのトルネードに誘導されて駆けまわっていた。トルネードは地面を削り、常にロマネちゃんから離れるように誘導していてまるで生きているかのようにミラを追い詰めていく。
その時ミラの視線がロマネちゃんに向く。
トルネードとトルネードの間から視線を合わせた2人。
ミラはその二つのトルネードの間を強引に抜けた。
ミラの右肩から血しぶきが舞う。
少しかすめただけだがその威力は直撃すれば命に関わるものだと容易に予測できた。
一直線にロマネちゃんに向かって行くミラ。
その後ろに迫るトルネード。
「ウオーターカーテン」
ロマネちゃんはトルネードを操っているであろう右手をかざしながらさらに左手で目の前に水の薄い膜を作り出した。
なんだろう?水の壁よりも薄い。さっきの水の壁よりも脆いんじゃないか?
ミラはその薄い膜の前で急ストップ。ロマネちゃんとの距離は1メートルまで接近できたがそのままそのウオーターカーテンから離れるように右方向へと流れていく。それをそのまま追いかけていくトルネード。
「あのカーテンは頑丈なのか?」
ぼそっと口にした僕の言葉をホールドさんが拾ってくれた。
「ウオーターウォールのような壁にはならないが切れにくいのさ。足止めにはなる。それに視界も塞がないしな」
「なるほど。考えてますね」
離れていくミラをよそ目にロマネちゃんが動く。
目の前に出したカーテンを取り除き詠唱を始めている。
「あのミラっていうのは良い動きしているな。あれだけ動ける魔法使いはネイ以外に見たことないな」
ホールドさんは感心していた。「しかし防戦一方で魔法を使う素振りが見えないな。なにか企んでいるようにも見える」
魔法を使う素振りが見えない?
いや、使っている。
しかし器用な魔法の使い方をしているもんだな。僕も真似をしてみた。
パシャン
と僕の足元に水がこぼれ出た。
結構いけるもんかな?
「お、なんだ?水か?漏らしたのか?」
「そんな訳ないでしょう?いやぁ、足で魔法を撃つことができるのかな?って」
「足で魔法を?足元に、なら分かるが足で魔法なんて使えないだろう?足で使う必要もないしな」
確かにその通りなんだよな。わざわざ足で使わなくても足元に魔法を使えばいい話なんだが、間違いなくミラは今足で魔法を使っている。
手や全身には魔力の流れが全く見えない。地面に接触している足元だけに微かに魔力が流れて足を離せばその痕跡もほとんど残っていない。ホールドさんの口ぶりからこの人は気づいていない。ネイさんは・・・・・も、気づいてなさそうだ。この会場で僕以外に気づいているものがいるのだろうか?
魔法を使っていることを隠してなにかの準備をしているようだ。一体なにをしようとしているのか?
期待せずにはいられないじゃないか。
トルネードに追われてセンターの位置まで戻されたミラ。
ここでロマネちゃんの目が見開いた。勝負に来る目だ。
「これで終わりです。私はあなたに勝ってマーシーさんの待つ決勝に行きます!」
僕を引き合いに出されても困るんだが。
ロマネちゃんはトルネードを操作する右手はかざしたまま。左手を天へとかざした。
「ダイダルウェイブ!!」
ロマネちゃんの身体から魔力が放出されるとロマネちゃんの周囲の何もない空間におびただしい量の魔力が溢れ出す。その何もない空間から突如として大量の水が生まれ一気に放出し始めた。
「水の剣」
ミラは足を止めると右手に水の剣を作り出し左右に振るう。
ズバン!ズバン!!と今まで追いかけて来たトルネードを細切れにすると表情を崩さずにゆっくりとロマネに向かい歩を進める。
その姿は何メートルもある大きな津波に身を投じる自殺者のようにも見えた。
「はっはっは!マーシー、これで決まりだな。ロマネのダイダルウェイブは流石に防ぎようがないからな」
笑顔で賭けに勝った気になっているホールドさん。それはフラグって言うんですよ。
ここでダイダルウェイブを放ったロマネに異変が起こる。
本来、放ったダイダルウェイブは全てを呑み込みながら対象に向かって行くはずなのだが、一向に水が放たれない。
バシューー!!と漏れるような感じになっていたり空中で静止していたり地面に溢れ漏れていたりする。
そう、乱れている。
魔力が乱れている感じがする。
「なに??何が!?」
ロマネちゃんは慌てていた。
その姿を当たり前のように表情を崩さずに近づいていくミラ。
「な!?どういうことだ!!ロマネが魔法を失敗!?」
ホールドさんも今どういう状況かわかってはいない。
ミラがさっきから足で地面に使用していた魔法だな。今この状況になって地面に設置されていた何かの魔法が一瞬発動したように感じた。おそらくダイダルウェイブを誘っていたのだろう。
「何か地面から魔力が流れている?あなたが何かしたのですか・・・・?一体どんな魔法で??」
「私も同じように魔法を使っているだけよ。特別な魔法は使っていないわ」
「くっ!ウオーターランス!!」
ミラに向かって3本の水の槍が飛んでいくがミラは右手に持った水の剣で3本とも綺麗に粉砕する。
「流石にダイダルウェイブの連発は無理でしょう?」
今度はミラが詠唱しながらロマネちゃんに近づいていく。あからさまに全身に魔力が流れているのが分かる。意地の悪いヤツだな、あてつけのようにそれでいくのか。おそらくこの状況でミラが使うのは
「「ダイダルウェイブ」」
ロマネの周囲の放ちきれないダイダルウェイブの残骸を呑み込みミラの周囲から大量の水が大津波の如くロマネを、そしてその背後の水晶へと溢れ出す。勢いよく壁まで到達するとドンっと闘技場を大きな揺れが襲った。
その激流はロマネの背後の水晶の色を徐々に真っ黒へとかえて粉々に砕け散ると勢いを弱めてその水は一体どこへいったのかというように綺麗すっきりなくなっていた。
ここで試合終了の合図。
観客席からの歓声が一気にあふれだした。
1年以上の投稿の末やっとこさ今回で100話に到達しました。
拙い文章ではありますが読み手にさくっと読んでもらえることをモットーに
今後も粛々と書き進めていきたいと思います。
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そういった目に見えるもので投稿も気合が入ります。
感想や激励もありがたくいただいております。
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