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転生貴族はオヤジくさい。  作者: 花鶏 交喙
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第2話 酒場『ブルークロウ』

 市場はいい。

特にこの世界の市場では毎日のように、見たこともない魚介類や面白いものが並ぶ。

サイズ感の狂った巨大生物や、古代生物図鑑で出てきそうな生物群、三葉虫が並んでいるのを見た時は、まるでデカいカブトムシを見つけた小学生のようにはしゃいでしまった。

他にも、アグレッシブな食虫植物、宝石を纏った甲虫、材質が分からないダークグリーンのタコの置物や、人の顔から剥いだ皮でできた怪しげな魔導書と、知的好奇心を刺激しまくる様々なもので溢れかえっている。


 「お!ルードの旦那じゃねーか!今日は活きがいいの入ってるぜ!」

 「ルード!珍しいモン入荷したんだが・・・」

 「ヤマトから調味料入荷したよ!」

 なんて、皆が気さくに話しかけてくるのは、俺が領主の弟と知らないからだろう。

別に隠しているわけではないが、影が薄すぎて領主に弟がいる事すら知らない人がほとんどだ。

それと、ルードという名が一般的で平凡な名前だというのもあるだろう。

まぁ、変に気遣われるのは好きじゃないので、物好きなお兄さんポジションを俺は気に入ってたりする。


 市場を一通り周り、これといったものが無かったので、その足で行きつけの酒場に入る。


 『ブルークロウ』

ケンボルドン(罠切り)という甲長だけで1mはある巨大な青い蟹を看板に掲げた酒場だ。

青い鉱石で塗られた巨大蟹の剥製は重量感があり、とても旨そうに見える。

昼から深夜まで営業しており、種類豊富で旨い料理と、店主自ら作った蜂蜜酒ミード果実酒ネクタルを売りにしている。

そして何より、俺が足繁く通うその理由は・・・


 「シーフードピザとハンバーガー・・・・あとサイダーで。」


 ここの店主エイカーはいわゆる転生者であり、この世界には存在しなかった地球産の料理を再現する事に並々ならぬ情熱を注いでいるのだ。


 「よぉルード、何か面白い話はないか?最近平和過ぎて体が鈍っちまってなぁ~」


 俺を見つけて声をかけてきたのは、この店の用心棒兼、雑用係のレイトだ。

彼も転生者であり、その恩恵チートをフルに活かし、面白可笑しい日々を送るがモットーの道楽野郎なのだが・・・


 「ねぇーよ・・・あったら困る。俺は静かで満たされた昼下がりの日向の様な人生がいい。」


 「じーさんくせぇなぁ~・・・・・まぁ、悪くはねぇけど、俺はあと20年後でいいわぁ~そういうの。」


 「俺がお前だったらインゴットで荒稼ぎして、海の見える小さな丘に家を建てて、働かずに静かに暮らすんだがな。」


 「そんなん持って半年だわ!退屈に殺されちまうぞ?いいかルード、楽しい事でも毎日続いたらなぁ、それが楽しい事と気付かない、退屈と変わらなねぇ~毎日になっちまうんだよ。」


 そう、くたびれたコートと無秩序に肩まで伸ばされた髪、無精髭が似合う不敵に歪んだ口元とくわえ煙草、遊び人ダメ男オーラ全開のこの男は・・・・・・意外と真面目なのである。


 「シーフードピザとハンバーガーとサイダーお待たせしましたぁ!」


 十代前半位の、獣耳が可愛い獣人の女の子が一生懸命に料理を運んでくれる。


 「あぁ、ありがとねアリスちゃん。」


 「ごゆっくりどうぞ!」


 ニッコリと微笑むアリスちゃんマジ天使。


 「ニヤニヤしやがって・・・・ロリコン。」


 「俺はボンキュッボンの魅惑的な女性が好きだ。」


 「お前の好みなんて聞いてねぇ~よ。ってか、そんなんばっかり喰ってたら成人病まっしぐらだぜ?この世界の医学は未だオカルトだ。長生きしたけりゃ~ちったぁ節制しろよ。」


 遊び人ダメ男オーラ全開のこの男は・・・・・・意外といい奴だ。






 領館に戻り、残りの書類を片づけていると兄上に呼び出された。

秋祭りの件かと思ったが、その表情は暗く、声のトーンは重い・・・。


 「ドルーソン領にヘイヴァン王国が侵攻してきたそうだ。」


 兄上は中指でこめかみを抑えながら、そうつぶやいた。


 「え?」


 我がヴァイデン領が属するカークライネ連合公国は、どこの国にも属していなかった領主達が他国から身を守り合うために結成した国である。

その歴史は218年と、国がころころ入れ替わるこの世界にしては古株の方で、その理由は所属している6つの領が強い結びつきで助け合い、連携しているからである。つまり・・・・


 「同じ国として纏まっている以上、我が領からも出兵せねばなるまい。」


 「戦争・・・ですか・・・・・」


 「まぁ幸い、我がヴァイデン領は隣国クスルフテンと良好な関係を築けている分、守備に割く人員は多少減らせるが・・・。」


 「問題は指揮官が不足している事、実戦経験者が少ない事ってところですか?」


 「あぁ、政治が絡んでくる以上、隣国の魔導師であるファイア殿に助力を頼むことはできん。傭兵組合から出せる人数も限られている・・・商人の護衛を減らすわけにもいかないからな。」


 「つまり、喧嘩の仲裁やひったくりを捕まえる位しかやったことのない衛兵を引き連れた、不運な指揮官もどきを戦場に送り出すわけですね。こりゃ~未亡人が量産されるなぁ~。そうと決まれば知り合いの吟遊詩人に、これから流行るジャンルは鎮魂歌レクイエムだと教えてやらなければ。」


 もちろん、嫌味だ。

兄上が悪いわけでも、他に手立てがあるわけでもないが、それでも言わずにはいられなかった。


 「そうならないようにルード、お前に頼みたい。」


 「・・・・・・・・何を?」


 「ドールソン領に送る援軍の指揮を、だ。」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「はぁぁぁああああ!?」

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