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千年少女  作者: 長沢紅音
篠崎陽名莉
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篠崎陽名莉 22


 密葬にしたのは叔父の配慮である。遺影には香月の写真が飾られているが、名前は陽名莉になっている。歯医者での入れ替えが法的にも認められてしまった。


 祥子先輩は香月の言葉を覚えていた。篠崎陽名莉が自殺した、と救急隊員に告げた。同意を求める視線に私は呆然と頷いたのを覚えている。


 家族全員を失っても私はこの家を離れる気はなかった。その旨を伝えると叔父は香月と二人きりになったときと同様の措置をとってくれた。これからは篠崎香月として生きていく。心労を理由に学期末まで学校をサボった。新たな学年になればクラス替えもあり、香月に成り代わったことに気づかれる心配も減る。まれに香月の友達らしき人から連絡が入るが、こちらが無言を貫くと相手が勝手に気を使い労いの言葉を最期に電話を切る。


 春休みの最中、祥子先輩から呼び出しを受けた。いつものファミリーレストランに赴くと、化身を宿していた少女が病院から消えた、と教えてくれた。色々あって言えなかったがもう大分前の話だ、と。ついでに、という具合で「兄貴の行方もつかめない」と呟いた。私の父の葬儀の後あたりから旅行にいくと言って家を出たきり戻らないのだそうだ。


「行ってみないか」と祥子先輩は言った。「化身がいた山へ」


 予感に苛まれたまま、山へと向かった。化身と病室で会ったあとに思いついた最期の手段を現在講じている。それなのに興奮も恐れもなかった。


 化身と出会った場所には祠の残骸があった。出会ったとき、化身の背後には祠があったのだと初めて気づいた。


 残骸を検分している祥子先輩の背後で、やはり化身はこの山にはいないんだとあらためて感じ入った。


「五式清一郎は生きている」私は自分の両の手のひらを眺めぽつりと呟いた。


「かもしれんな。だが」祥子先輩はこちらに向き直り、躊躇いながら言った。「香月の言ったこと、信じる気かい。言ってはなんだが、荒唐無稽すぎる。それに薬を飲んで身投げする理由も分からない。水中で吐き出してしまうからな。全体的にわけが分からない。不思議だらけだ」


 木漏れ日が足元を斑に染め上げ、梢が風に揺れてざわざわと音を立てる。


「まずは」拳を強く握り締めると爪が手のひらに食い込んだ。「五式清一郎を捜します」

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