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千年少女  作者: 長沢紅音
篠崎陽名莉
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篠崎陽名莉 19


 ひと月に一度の会合にナナフシさんは欠席もせず毎回付き合ってくれた。中学生と過ごすことに苦痛はないのだろうか、という疑問が頭にもたげ、私は疑問の形を繊細に調節して質問する。


「俺はペドフィリアではない! ロリータ・コンプレックスでもない。ちなみにこの二つは微妙に意味が違う」ナナフシさんはどこか楽しそうに怒りを放つ。


 祥子先輩のバイト先で集うことに未だに抵抗をあらわにするのは、時折ウエイトレス姿の祥子先輩が「理屈はできていても形にできなくちゃねえ」と野次を飛ばしながら通り過ぎることに由来する。


「あいつにもいつか限界がくる。限界が来たときに頼れるのが技術だ」そう言って五式清一郎の共感を得ていた。


 休憩と証し、私と香月がケーキの食べ比べをしているときに、ナナフシさんと五色清一郎はそれぞれの荷物を手に表に出て、なにやら秘密の会合を設けている。駐車場の片隅でこちらに背を向けどこか深刻そうな色合いである。


「男同士で気色悪いったらないねえ」と祥子先輩は私服姿で登場する。昼時かと時計を確認すると同時にナナフシさんと五色清一郎は戻ってきた。


 妹の姿を確認するとナナフシさんは逃げるように帰っていった。


「そんなに仲が悪いんですか」といささか心配になったのであろう、香月が問う。


「プライドがそうさせるだけだよ。家では私も兄貴の理論を拝聴することもある」 


 普段と変わらない香月の様子に私は安堵していた。先日の泣き顔が私の脳裏をよぎり、何度も顔色を確認してしまう。そうするたびに香月は屈託の無い笑顔を浮かべ、こっちのケーキの方が美味しいよ、と小さじを向けてくる。祥子先輩もナナフシさんのいた席に座り、兄の悪口を楽しそうに吹聴している。五式清一郎は荷物を胸に抱いたまま、呆然と外の景色を見ていた。女の子たちに囲まれさすがに居心地が悪いのかと横顔を眺めていると、不意に目線を寄越し五式清一郎は頷いた。


 なんのことやら意味がわからず、香月の方へと視線を逃すと、今度は香月が慌てて顔を背ける。最後に祥子先輩へと体ごと向けるや「陽名莉君」と一声発し、「腹減った」と告げた。


「存分に食べてください」


「二人がケーキで私だけカツ丼を食べるのはさすがに乙女としてどうかと思ってな。私の乙女度数のために二人にもおっさん臭い食べ物を注文してもらって平均化を図ろうかと——。ああ、五式君は気にしないでいい。これは乙女の矜持の問題だ」五式清一郎に振り返り、拳を握りこみ力説する。「そうか。君にはチョコレートサンデーを注文してもらおう。男子の乙女度数を上げることで底値に達した我々に」


「”底値に達した我々”に私も入っているんですか」聞き捨てならず、たまらず口を挟む。


「陽名ちゃんはそっちよりだよ」と香月は当然のように言った。「制服以外でスカート持ってないでしょう?」


「そっちとはどっちだ?」と祥子先輩は後ろを確認する。


「どうせ交換できるからいいでしょ。香月もたまにはジャージで過ごしてみればいい。楽すぎて病み付きになる」


「陽名ちゃん、歩いてばかりいるから最近足が逞しくなったよ」


「こっちにはサボると嫌味を連発する、店長のすだれ禿頭が見える。後ろからみると消しゴムみたいだな」と祥子先輩が合いの手を入れるので「逞しさとセクシーは近似値だ。消しゴムと店長のように」と半ばやけくそ気味に私は呟いた。


「セクシー店長と逞しい消しゴムなら、私は後者を選ぶな」と祥子先輩は言った。


「すみません。もう意味が分からないです」と五式清一郎が締めた。



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