表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

キンモクセイの香りと共に

今回は失恋、悲恋をテーマとしたオムニバスです。

花の名前を冠した女性と、花をテーマに書いて行きます。







                第1話 金木犀キンモクセイの香り


 毎年、この季節になるとキンモクセイの香りと共に思い出すことがあった。何てことの無い帰り道。私と彼はゆっくりと秋を感じながら夜道を歩き続けていた。夜の方が同じ香りを楽しむことが出来たから。


 × × ×


「お前は、この先どうするんだ?」


「地元に帰って家事手伝い、あるいは気ままにアルバイトでもいいかな」


「俺はこの街に残る。お前は俺と残るって言わないんだな」


 大学を卒業する彼とわたし。その行き先は別の方を向いていた。彼とはサークルで知り合い、付き合った。でも、私はずっと付き合うなんて思ったことはなかった。もちろん、好きだったしキスも重ねた。でもそれだけだった。


「あなたは好きなの?」


「好きだから一緒にいた。お前は違うのか?」


「どう、かな」


 答える答えなんてわたしには無い。わたしが見てきた幻想は一緒にいて楽しくて毎日のように浮かれることの出来た、学生としての自分だった。それがいざ”卒業”となると、それまで思い浮かべて来た想いが嘘と幻の様に消え失せていた。


 つまり、元から恋や愛だなんて感情はわたしの中には持ち合わせていなかった。学生という時間の中に特別な空間が働いていただけに過ぎなかった。最初から好きじゃなかった。簡単……でしょ。


「俺はすみれと付き合えて、好き合って、一緒にいれた時間は他の誰よりも最高に良くて心の底から居心地の良さを感じていた。それがどうして卒業するだけで心が離れていくんだ? どうしてなんだ……」


「わたしは別にあなたを嫌いになったわけでもないわ。好きでもなかった……それだけのこと」


「俺との4年間の思い出は何だったんだよ! 俺とお前の関係は幻だったとでも言うのか?」


「想い出は思い出に変わるだけ。楽しかった思い出は今日を境に互いの胸にしまい込めばいいだけ。それだけでしょ」


 就職が決まり、社会人としての第一歩を踏み出す彼と共にわたしは一緒に踏み出すことはしたくなかった。学生としての思い出は”卒業”するのだから。


「……そうか。もういい…‥」


 かける言葉を持たないわたしと、納得の行かない表情の彼と最後の帰り道。卒業までまだ数か月ある秋の夜道……わたしと彼は唯一、かける言葉がシンクロした。


「キンモクセイの香りがする……」


 花の香りと共に、彼との想い出は終わりを告げた――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ