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雷と狼娘  作者: 花千歳
3/12

死の告白

「もう身体はいいのかね?」

 

 テミックたちの家の居間に先日と同じように座る。違いがあるとすれば今日はウルがちらちらと宗司を見ていないことだろう。

 

「ええ。もう大丈夫です」

「まぁそうじゃろうな。わしから見てもお主の回復力は以上じゃったからのぉ」

 

 確かに宗司自身もそれは自覚していた。

 身体を電撃が貫き、ところどころ骨も折れていた気がするがそれが今ではなんともない。むしろ今はこの上なく快調だった。

 

「それがあったから世界を越えれたのか。越えた影響で身に付いたのか。どちらかはわからんがなんにしてもその馬鹿げた回復力はおまけじゃろう」

「馬鹿げたって…でもおまけとは?」

「うむ。あれだけの大怪我を3日で自然治癒するんじゃからそれしか言いようがないじゃろ。普通は魔力の制御を習得したものが意識的に魔力の分配量を増やす、いわゆる強化系の魔法を使っても数週間かかる傷だったんじゃがな…まぁそれは置いておこう。お主のその能力の真価は複数の魔核を持つことによる魔素の変換速度と細胞の魔力適応力にあると考えておる。いや、もっと言えばお主の場合は細胞自体がほぼ魔力で出来ておると言ってもいいかもしれん。こればかりは過去に事例がないからあくまでわしの予測じゃが。さらにおまけで魔力許容量も多い。とはいえこちらは平均からすればかなり多いが同程度の者がいないわけではない。わしも最近は減ったが全盛期はそれくらいあったしの」

 

 マソヘンカン?マリョクキョヨウリョウ?

 やはりわけのわからない言葉ばかりだ。

 

「すみません、そのマソヘンカンとかマリョクキョヨウリョウと言われても…」

「ん、あぁ、そうじゃの。つい自分の知識を基準に考えてしもうた。そうじゃな、では魔力の基本から説明しようかの。その前にお主の世界での話を聞かせてくれんか。何をどのように理解しているのかわからんでは説明のしようがないからの」

 

 宗司はテミックに学生時代の知識をほじくりだして様々なことを話す。

 テミックも異世界の知識に強く興味を示したため質問されては答えるの繰り返しで本当に多くのことを話した。

 

(こうして話しているとほんとうに違う世界に来たのを実感するな)

 

 話の途中にウルは難しい話に飽きたのか外に遊びに行ってしまった。

 

「なるほどの。こんな小さな物に見たものや音を記憶する機能があるのか。わしも浮き世を離れて幾ばくか経つがお主のいた世界ほど便利にはなっておらんと断言出来るわい。おっと、話がだいぶずれてしまったの。ではわしの番じゃな。まずは魔力から説明するとしよう。魔素とはお主の世界になかった世界を構成する元素じゃ。それを呼吸により、取り入れ魔核で自身の魔力へと変換する。そこからは酸素と同じじゃ。血液によって全身を循環し、細胞へと分配される。お主の場合魔核の数が5つもあるからの。その分だけ変換速度も許容量も多いというわけじゃな。回復力が異常なのは傷付いた組織を溢れでる魔力で細胞ごと置き換えたんじゃろう。そう考えればポーションが効かなかったことも納得出来る。なにしろ治癒の方法が根本的に違うんじゃからな」


(ふむふむ、なんとなくはわかってきた。いや、嘘ついた。半分もわからん。)

 

 テミックは宗司の考えを読み取ったのか小さく笑う。

 

「まぁすぐにはわからんじゃろうて。時間はたっぷり…それなりにある。使い方も教えるから、細かいことはおいおい覚えていけば良い。それにこの世界で生きていこうと思ったら戦えるようにならねばならん。特にお主はな」

 

 こうしてテミックによる宗司への魔法教育が決まった。

 まだ、全て納得したわけではないが自分が魔法を使えるようになると考えるとやはり胸が踊る。

 ただ宗司にはどうしても聞いておかなければならないことがある。

 

「それでお聞きしたいのですが…元の世界には戻れますか?」

 

 宗司は元のいた世界、日本のことを思い出すが考えると失って惜しいものはそんなにない。

 未練といえば漫画やアニメの続きが見れないことくらいだろう。

 この退屈な生活が死ぬまで続くのだろうか。

 そう思っていたことは否定出来ない。

 しかし、戻れる可能性があるのかどうかを確認することは今後この世界で生きていく上でも重要だ。

 なにしろ既に一回死にかけている。刺激的で新鮮な生活は望むところではあるがさすがにあんな思いを何度もするのはごめんである。

 まだこの森も出ていないのでなんとも言えないがこの世界か元の世界、どちらも選べるのならそれに越したことはない。

 宗司が顔を伺うとテミックは目を閉じていた。

 

「ふむ、それについては不可能性は0ではない」

 

 え、そうなの?

 思わず口にしそうになるがその前に再度テミックが声を発した。

 

「しかし、限りなく0に近い。仮に世界間を渡る方法を見つけたとしても大きな代償を払うことになるじゃろうし、お主のいた世界、いた国、いた時代に戻れる保証はない」

「そうですよね…」

 

 現代科学をもってしても世界間移動はもちろん星間移動もままならなかったのだ。いかに魔法があるといってもそう簡単ではない。

 

「すまんの。正直お主が異世界から来たという事実がなければ不可能だと言っておった。少し難しい話をすると魔法を越える3つの神法というものがある。名前の通り神が為すがごとき結果をもたらすとされる魔法じゃな」

「3つですか。具体的には?いや1つは想像がつきますけど」

「たぶん合っておる。1つ目はその通り時空の超越。2つ目は時間の操作。3つ目は生命の創造と死の超克。実際には更に細分化されるが、今は省こう。これらは魔法の極致であると同時に禁忌でもある。過去に数多の天才たちが挑んできたおかげで近づいてはいるものの未だ成功例は皆無。そしてなにより挑戦ごとに高い代償を払ってきた。万単位で人が死に、一夜で国が消え去ったという話もある。まぁここらへんは誇張もあるのかもしれんが、わしとしてはあながち嘘ではないと思うておる。そしてお主が元いた世界、時代に戻ろうと思うならこれら全てを使う必要があるじゃろう」

「つまりその神法を全て極めなければならないと」

「まぁそういうことじゃ。故に可能性は0に近い。とにもかくにもまずは基本的な魔力の操作が出来んようでは話になるまいて。明日からでも修業を始めるとしようかの」

「わかりました」

「では話はここまでにしよう。ウルが腹を空かせておるようじゃしな」

 

 窓のほうを見るとまだご飯にしないのかとウルが家の中を覗き込んでいた。

 

「すまんが、肉の解体を手伝ってやってくれんか」 

 

 宗司は頷くと台所にあった包丁を持って出ていった。

 それを見送るとテミックは自身の胸を強く掴む。

 

「もう時間がないのぉ。持って半年といったところか。あの青年がここに現れたのは天啓なのかもしれんの」

 

 テミックは大きく深呼吸をすると席を立って台所へと向かった。

 

 

 

 翌日、まだ日も昇らない時間に宗司は起こされた。まだ閉じようとする瞼をなんとか開き、居間へと向かう。

 ちなみにベッドはウルと一緒だ。ベッドは二つしかないのだが、どうやらウルは宗司の匂いが気に入ったらしく一緒に寝ることを希望した。

 女性と同じベッドで眠ったことがない宗司だがさすがに10歳の娘に欲情したりするほど上級者ではない。

 ちなみに隠れて見えなかったが、ウルには髪と同じ銀色の尻尾が生えていた。くすぐったいようで少ししか触らせてもらえなかったが最高の手触りであったのは言うまでもない。

 

「おはようございます」

「おぉおはよう。朝食は出来ておるぞ」

「にーた…おはよ」

 

 宗司が挨拶をするとウルの耳がピンッと立った。宗司と言葉を交わしたから嬉しいわけではなく、宗司の持ち物、キャンプで使う予定だった焼肉のたれなどの調味料に用があるのだろう。

 その証拠に宗司が席につくと椅子から飛び降りて壁際に置かれていたリュックを宗司に突き出してくる。

 

「はいはい、ちょっとだけだよ?」

 

 そう言うと髪が乱れるほど大きく頷く。

 宗司がこの世界に来て既に5日。さすがにこちらの料理に飽きてきていた。主食は家の裏で栽培しているという芋。それに肉と森で取れた果実などがつくのだが、とにかく味が薄い。それも味付けはわずかばかりの塩とハーブのみ。ここが僻地だからなのかと聞いたところ上流階級を除けばどこもこんなものらしい。とてもではないが耐えられない。

 そうして持ち出したものがウルのお気に入りになったというわけだ。

 とはいえ、量がそこまで多いわけではないのでなるべく節約する必要がある。

 

「いただきます」

「いたきます」

 

 ウルが宗司の真似をして手を合わせる。

 いい慣れない発音のためかしっかり言えていないが別に気になるほどではない。

 こういうものは形も大事だが、しっかり礼をしようという気持ちが最も大事だと宗司は思っている。

 

「さて、食べながら聞きなさい。これからお主がこの世界で生きていく上で様々なことを教えるわけじゃが、まず朝から昼食までは武術の訓練。午後からは魔法実技。夕食後に座学じゃな。」

 

 宗司はついスプーンを止めてしまった。まさか朝から夜までぶっ通しとは思わなかっていなかった。

 

「そんな顔してももう決まったことじゃ。これくらいせんと間に合わんからの」

 

 テミックがそういうとウルは一瞬顔を伏せる。間に合わないとはどういうことだろうか。

 それを聞こうとしたが早く食べるように言われ聞けずじまいに終わった。

 

 


「あ、あのこれは?」

 

 宗司の目の前には50cmほどの木の棒を持ったウルが立っている。

 テミックは傍らの切り株に座り、立つ気配がない。

 

「どうもこうもない。武術の訓練は基本的にウルがする。わしは口を出すだけじゃ。」

「え、ウルちゃんが?」

 

 テミックが医療系魔法を使えるそうだが、さすがに少女を攻撃するのは躊躇するのが普通の感覚だろう。

 だが、次の瞬間脚に鋭い痛みが走った。

 

「ウルちゃん…違う…ウル師匠(センセイ)

 

 ウルは一瞬で距離を詰め、宗司の目の前に立っていた。

 

「い、いやでもウルちゃん…」

 

 宗司が意を唱えようとするとウルが手に持っていた棒を振り上げる。

 

「なんでもないです!よろしくお願いします、ウル師匠!」

 

 宗司は勢い良く頭を下げる。

 ウルは次はないぞとでも言うように腕を組み鼻を鳴らした。

 

(まぁなるべく寸止めにすればいいか)

 

 そう思って始めたが、10分もすると宗司は地面に倒れ込んでいた。

 

「心配することはなかったじゃろう。少なくとも今のお主では本気でやってもウルに攻撃を当てることすら出来んじゃろう。なんせこの子はある種の天才じゃからな。外の世界でもこれだけの才能はそうそうおらん。じゃから余計なことを考えんことじゃ。とりあえずはウルに一発入れれるようになるのが目標じゃな。」

 

 宗司が起き上がるとウルは鼻が伸びるのではないかというほどのどや顔で挑発していた。

 10以上も年下の少女に挑発された挙げ句フルボッコにされる自分を想像すると宗司は泣きたくなった。 

 

 

 

「イタタ。」

 

 待ちに待った昼食だが全身傷だらけな上疲労でスプーンすら重く感じる始末。

 対してウルはピンピンしており息すら切らさないまま午前の修業は終わった。

 そのせいか調味料を求める仕草も小バカにするような態度を見せている。

 多少むかつきはするがそれも心を開いてくれたからだと思えば嬉しくもあった。

 手早く昼食を済ませるとここからは魔法の修業だ。

 

「さてでは始めるかの。まず覚えておかなければならんのは魔法とは技術じゃ。お主の世界でいうカガクなるものに近い。それを用いて生活や戦闘をより便利にあるいは質の高いものにするんじゃ。違いがあるとすればエネルギー源が基本的に自身の中にあるということ。それが魔力じゃ。それを体内で性質に変化を加え現象に還元したものを最もよく使われる事象魔法という。故に魔力を意のままに操ることは魔法の基本であると同時に極意でもある。まずは自分の中にある魔力を感じとるところから始める」

 

 テミックは指を振りながら宗司に説明をする。

 その姿はなんとなく宗司の学生時代の先生に似ていた。

 テミックはおもむろにナイフを取り出すと自身の指先に滑らせる。すると血が流れ出した。

 

「前に魔力は血によって循環すると言ったの。こうして血を流すということは魔力の操作が出来ない者にとってそれだけ魔力が余分に流れ出るということじゃ。そうして強制的に魔力を増減させることで魔力を感じとる。ちと荒療治じゃがこれが1番手っ取り早い。体内に循環する魔力を感じ取れるようになったら次はそれを意識的に操作する。それを習得すると…」

 

 テミックは血の流れ出る指先を宗司の眼前に突き出す。

 宗司が傷があることを確認すると1度軽く手を振り再度指を宗司に見せる。

 そこには既に切り傷はなかった。

 

「このように細胞に刺激を与え治癒を促進させることが出来る。お主ならばこれをマスターすれば今ある傷程度ならば一瞬のうちに消えてなくなるじゃろう。これを発展させ肉体の能力を引き上げるのが強化魔法じゃな。ほれやってみなさい」

 

 

 

 

 それから数ヵ月はおだやかに、宗司にとっては過酷な日々が過ぎていった。

 宗司は驚くほどの速度で魔法を習得していった。テミック曰く、科学の知識のおかげで魔法による現象を具体的にイメージ出来るからだという。

 この世界では日本の義務教育程度の知識も選ばれた者だけが与えられる知識なのだというから驚きだ。

 だが、そうして魔法を習得したことで修業はさらに過酷で過激なものへと変わっていった。

 骨折すら数時間で完治できることがわかると二人の修業は即死しなければ大丈夫だとでも言わんばかりの危険なものになった。

 治るとはいえ痛いものは痛いし、時々本当に殺す気があるんじゃないかと思うほどのことをしてくるので宗司も死に物狂いで力を身につけた。

 最も単純に魔法への興味が強かったことも大きな要因だが。

 

 ドォォォン

 

 爆音と辺り一帯に水煙が立ち込める。

 卒業試験ということでテミックの魔法を相殺するよう言われた結果がこれだ。

 

「ゲホッゲホッ。殺す気ですか!あんなデカイ炎球(ファイアーボール)出して!相殺した爆風で死ぬかと思いましたよ!」

 

 既に来た当初のような余所行きのしゃべりかたはしなくなっていた。

 自分を笑顔で殺そうとするやつに気を使っていられるか。理由はその一点に尽きる。

 

「ふぉっふぉっふぉ。それくらいは予測して(ウォール)系でも使っておくことじゃな。とはいえ、見事に相殺は出来たの。ひとまずは免許皆伝というところじゃな」

 

 この試験の肝は"相殺"というところにある。宗司が本気で魔法を使えばテミックの出した直径1m程の炎球を打ち消すことは容易い。だが常に最大出力では効率が悪すぎる。

 確かに宗司の魔力の回復速度は速い。しかし、いざ戦闘となれば属性魔法を撃ちながら強化系魔法も併用するような状況もある。それを不必要に全力でやっては彼の回復速度を持ってしても消費に追い付かなくなる。

 戦闘中の魔力切れ(ガス欠)は死に直結する。

 故に宗司の課題は最適化だったのだ。

 


 

 

「ソウジ、ちょっと残ってくれんか」 

 

 夕食後の一杯を飲んで部屋に戻ろうとする宗司をテミックが呼び止める。狩りで疲れたのか既にウルは夢の中だ。

 座学に関しては既になくなっている。この世界の言語は単純ですぐに習得出来たため今は空いた時間にテミックの持っている本を読んだりするくらいだ。

 

「わかりました」

 

 空になったコップだけ片付けると座っていた椅子に座り直しテミックと向き合う。いつになく真剣な雰囲気だ。

 

「まずは魔法の習得おめでとう。よく頑張ったの。既に外の世界でも木っ端の者には負けんじゃろう。この短期間でそこまでたどり着ける者はそうおらん」

「まぁじゃないと死にそうだったからだけど」

「ふぉっふぉっふぉ、まぁそう言うでない。お主と同じことをしても同じ結果になる者はまずいないじゃろ。そもそもこんなことは異常な回復力を持つお主しか出来んじゃろうがの。ふぉっふぉっふぉ」

 

 ひとしきり笑うとテミックは真剣な表情に戻った。

 

「お主もなんとなく感じておるじゃろうがわしはもう長くない」

 

 やはりな、というのが宗司の感想だった。最近は突然咳き込むことも多く魔力も明らかに減少していたからだ。


「わしは禁呪を用いて寿命を伸ばしてきたがそれも限界が近い。あの子を拾ったころには薬も聞かなくなり始めておった。じゃがそれで良かったと思っておる。なにが言いたいかと言うと…」

「これ以上の延命はできない」

「そういうことじゃ。かつてのわしは自分に与えられた才に酔いしれ、自分ならば神の領域にも立てる、そう思っておった。そしてわしは第三禁忌に挑んだ。それは成功したように見え、実際こうして命は伸びた。しかしそれは不完全だっただけでなく、言うなれば呪いだったんじゃよ。それも自身を蝕むだけに留まらず周囲にも災厄をばらまく類いのな」

「パンドラの箱だったってわけですか」

「そうじゃな。じゃからわしはここに引きこもり結界の中に自分を閉じ込めることで災いを抑え込んできたがそれももう限界じゃ。もってあと一月といったところじゃの。」

「それで僕に何か出来ることはありますか?こうしてお世話になっているわけだし、出来ることならしますよ」

「今はこれといってはない。しいて言えばこの世界の知識、そして力をつけることじゃ。じわしが死んだあと、あの子をお主に託したいと思っておるからの。わしはあの子に世界を見せてやることが出来んかったから外の世界を見せてやって欲しいんじゃ。それにあの子とおることはお主の安全にも繋がるじゃろう」

「そういうことならもちろんいいですよ。僕にとってももう妹のようなものですから」

「うむ、お主ならそういうてくれると思った。これで安心して逝けるというものよ」

「いやいや、まだ時間はあるでしょう」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃな。お主の魔法の修練も一段落したことじゃし、なにか残せるものでも考えるとするかの。何かしてほしいことはないかの?もちろん出来ることは限られるが」

 

 宗司はいくつかの要望を出す。主に宗司が元の世界から持ってきた物を魔法で代用出来ないかというものだ。

 

「それでこの話はウルには?」

 

 テミックは首を振る。

 

「しておらん。恐らくあの子も気付いておるじゃろうが…なかなかの」

「でも…」

「わかっておる。近いうちに話すことにしよう」

 

 それでその日の話は終わった。宗司はテミックに調べてもらうものを机の上に並べると寝室に向かう。

 扉を開けるとウルがベッドから外を眺めていた。

 

「にーた…」


 宗司が部屋に入ってくるのを感じてウルが振り返る。

 銀色の髪の他にも光るものがあった。

 

「聞いていたのか。まだ時間はある。そんな顔してたらおじいさんが悲しむぞ」

 

 宗司が近付くとウルが抱きついてきた。

 ウルは宗司の服を噛み声を殺している。

 テミックに聞こえないようにしているのだろう。

 それを思うと宗司も胸が締め付けられた。

 


 こうして残りの日々は過ぎ来るべき日は来た。

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