行商準備
今回は短めです。
来週は久々に零から~の更新を考えておりますので次回は再来週。
「おはようございます」
宗司が居間に行くと既にダーマは起きていた。他にもカリナとセリナが朝食を食べている。
「ソージくん、おはよう」
ダーマがコップを掲げてそれに応じた。といっても入っているのはコーヒーではなく出涸らしのお茶だ。宗司は最近気付いたが、この世界には苦味をおいしいと思う文化がない。
「はい、ソウジさん」
「ありがとうございます、サリナさん。頂きます。そういえば、ウルとナガトは?」
「なんだか朝早くにウルちゃんがナガト君を引っ張って出ていっちゃったわ」
(あぁ、特訓か)
仕方ないとは言っていたもののウルも悔しかったのだろうと宗司にはわかった。だとすればどこに行ったかは見当がつく。
「わかりました。たぶんギルドの練習場だと思うので夕方には帰ってくると思います」
「それはそうとソージ君、この後いいかい?品物を見せるついでに馬車への積み込みを手伝ってほしいんだ」
「ええ、もちろん」
「セリナもいいね?」
「うん、お父さん」
「え~、お姉ちゃんも行っちゃうの~。ウルちゃんもいないのに~。じゃああたしもお父さんのお手伝いする~」
「ははは、そうかそうか。カリナは偉いな」
宗司の食事が終わると4人は一緒に家を後にした。
正門から2本目、冒険者ギルドのある通りと魔法ギルドのある通りの間には商人ギルドがある。そこから街壁側の細い路地に入ると、そこにはディープな雰囲気の店が並んでいた。と言っても昼頃には人通りもそこそこあり、特段危険な雰囲気はない。
そこで宗司は立ち止まる。宗司の視線の先にはある店から出てきたローブの人物。
それは以前に裏路地で見たローブに似ていた。
(あのローブ、この前の…それにローブのしたに見えた服、どこかで…)
「ソージお兄ちゃん、置いてっちゃうよ~」
「あぁ、ごめんごめん」
宗司はカリナに急かされ、速足で後を追う。既に視線の先にはローブの人物はいなかった。
宗司はローブの人物の出てきた店が気になり、ダーマに尋ねることにした。
「ダーマさん、あそこの店は何屋なんですか?」
宗司が指差した先をダーマが目を細めて見る。
「あぁ、あそこは魔法薬の原料を売ってる店だね。と言ってもポーションとかそういうのではなくて、もっとマニアックな物を扱ってるはずだよ。私も詳しいわけじゃないけどね。さぁ着いたぞ」
ダーマが指を指した先にあるのはみすぼらしい屋台だ。いや、屋台と言えるかも怪しい。木場箱に錠が付いているだけ。それに屋台の位置も悪い。先程の通りから更に人の少ない路地に入った場所で、とても人通りがあるとは思えない。
「ダーマさん、なんでわざわざこんなところに?」
宗司は当然の疑問を投げかける。
「いや、はは。普段行商をしているもんだから、屋台の場所もこの辺りしか認可がおりなくてね」
宗司は商人ギルドで読んだ決まりを思い出す。確かに常設店舗ではない屋台は他店の営業の邪魔になるような場所に出店出来ないようにギルドである程度場所を指定するというものがあった。
だが、それにしてもおかしい。第一もっと人通りのある場所にも行商の屋台が出ていたからだ。
宗司が納得していないのを悟ってかダーマは再び口を開いた。
「実のところギルドからなんだか睨まれていてね。たぶん怪しげな食べ物を売っているのだと思われているみたいだ」
これにも宗司は疑問が残る。ギルドだって信用がある。見たことのないものなどは毒物や危険なものでないかの調査は行うはず。だというのに、出店の許可自体は出している。
宗司がそれくらい考えることをダーマもわかっているはずだ。だというのに、わざわざ嘘をついた。つまり、それでも宗司に隠したいことなのか。
はたまた…
宗司はセリナとカリナを見やる。
「…わかりました。そういうことにしておきます。でも、困ったことが言ってくださいね」
「ソージ君には敵わないね。と…とにかく、私の扱ってる品物を見せるよ」
ダーマはポケットから鍵を取り出すと、錠を開けた。
箱の中には木の根のようなものが数種類入っている。
それに宗司は見覚えがあった。
「これは、まさか、これも、これも。ダーマさん、いくつかもらっていいですか?」
「え?あ、うん、いいけど、気を付けて。結構臭いが強いのが多いからさ」
宗司はダーマの言葉を待たずにその内の1つを手に取ると腰に下げたナイフで切っていく。切られた破片からは鼻を刺すようなつーんとした臭いがした。
更にそれを細かく刻み、口に含んだ。
「これは…色は違うけど間違いない。わさびだ。こっちはしょうが。これはニンニクだ」
「え?知ってるの?」
「ええ、どれも僕の故郷ではよく使われていました。といっても、そのまま食べるのではなく、すりおろしたりして、調味料にしてですが」
「そんな食べ方が…驚いたなぁ」
「もしかしてそのまま食べるものとして売っていたんですか?」
「うん、そうだよ。僕がこれを見つけたところでは生だったり、ふかしたりとか焼いたりとかで食べてたからてっきりそうやって食べる物なのかと」
「それでは、初めて食べるのにはかなりきついでしょう」
「まぁ、そうなんだけどね」
「お姉ちゃんも食べてたよね~。で、そのあとすっごくお口が臭かった~」
「こ、こら、カリナ、ソウジさんの前で」
女性にとってこれはさすがに恥ずかしいだろう。宗司は努めて聞かなかったふりをした。
「これなら、いくつか食べ方を紹介出来ると思います」
「それは助かる!カリナの言うとおりそのままだと臭いし、辛いしでね。でも、現地の人は体に良いって言ってたんだ。それに食べてると辛さが癖になるって」
「それは、間違ってはいないですが…とにかく運んじゃいましょう」
宗司は箱に手を置くと、呪文を唱える。すると、箱はふわりと浮かび上がった。
それに更に手を加えて、自分の後ろを着いてくるようにした。いつも依頼の帰りに眠りこけるウルを運ぶように。
三人は、おぉー、と口々に関心の声をあげた。
通りに出ると人通りがかなり増えていた。既に4の鐘がなったのだから当たり前だ。
宗司は箱の高さを調整する。当然ながら、人目が集まったため、恥ずかしい。
馬車のある、共通倉庫に着くとダーマとセリナは個数の確認を始めた。
宗司が倉庫内の馬車をぼんやりと眺めていると、服の裾をちょんちょんと引かれる。ウルが戻ってきたのかと思ったが引いていたのはカリナだった。
「カリナちゃん、どうしたの?」
「ソージお兄ちゃん、あの魔法どうやるの?」
「それはね…」
宗司は足元に転がっていた石で実際に見せながら[浮遊]について説明してあげる。[浮遊]は効果は単純だが、魔法的には単純ではない。重力や質量を操る土魔法と気体を操作するう風魔法の複合なのだ。
案の定カリナは宗司の言うことを理解出来なかったようだ。
「う~ん、宗司お兄ちゃんの言うこと、いつも難しい~。もっとウルちゃんみたいに分かりやすく」
宗司もまさかあの口数の少ないウルに負けるとは思ってなかった。そこでカリナにウルの教え方を聞いてみることにした。
なぜなら、カリナは身体強化の魔法をウルに教わり、いつのまにか習得していたのだ。
「え~と、ウルちゃんに足が速くなる魔法を教わった時はね~、足にぎゅーっと力を入れる感じでそれをバーンって爆発させて足がぎゅんって動く感じっtr教わったの。ね、すっごくわかりやすいでしょ~?」
「あ、いや、そうだなぁ。こう、スゥーって軽くなって、ふわって浮く感じかな」
「スゥーでふわっ。あ、出来た。」
宗司は絶句した。ウルの説明の仕方にではない。それは予想の範囲内だ。
宗司が驚いたのは、カリナがそれを理解したことだ。
(まさか、この子も天才か)
魔法は宗司が元いた世界で想像していたほど自由ではない。魔法とは魔力を介して自然現象に干渉するものが大半だ。もちろん人に呪いを与える呪術や結界などの例外はあるが。
つまり、自然法則の理解することが必要。宗司が死に物狂いだったとはいえ半年で多くの魔法を習得出来たのは小中高で基本的な物理法則などを学び、理解していたからだ。
カリナはそれを感覚で理解し、感覚で再現している。それを理解出来ず、魔法をうまく使えない人がどれだけいることか。
(これは、本格的に魔法を教えるほうがいいかな。間違った方向に行く前に)
魔法を誤った方向に習得し、起きた事故の話は数多ある。宗司にも具体的に何が起こるかはわからないが、危険なことだけはわかる。魔法は兵器にもなりうるのだ。銃の扱いを知らない人がなんとなく感覚で使っていると考えればどれ程危険かわかるだろう。
「カリナちゃん。僕が行商から帰ってきたら、もっと魔法を教えてあげようか?」
「え、ソージお兄ちゃん、もっとすごいの教えてくれるの?」
「うん、でもそれには勉強が必要なんだ。あとで本を渡すからまずはそれを読んでごらん」
「え~、難しそう~。う~ん、でも、もっと魔法を使えればウルちゃんみたいに強くなれるよね」
どうやらカリナはウルと一緒に戦いたいようだ。宗司としてはそれは望まないが。
カリナが納得したようなので、宗司はダーマ達の様子を見に行く。
確認作業も終わっていた。
宗司は家に戻るとさっそく料理に取り掛かる。参考にしてもらうためサリナとセリナも一緒だ。
一人暮らしをそこそこしていたとはいえ、別に料理が上手なわけではないので簡単なものだ。
焼いた肉にトマトとすりおろしたにんにくのソースをかけるだけ。
コショウが欲しいがかなりの高級品のため、街の店にはなかった。
それでも味の薄い料理に慣れたダーマ一家には十分衝撃だったようだ。
カリナに魔法の基礎の基礎を教えたり、セリナやサリナと料理の研究する他、調べものをしている内に時間は過ぎていった。




