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異世界は最強から  作者: 桜城響
第一章 人生のリスタート
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《5》コード・バルメス

 昨日のこともあり、さらに個人的なアピールが強くなってきた三人を連れ、僕は街を歩いていた。連れて、とは言っても、エレナは肩が当たる程の至近距離で歩いていて、フィリナは腕にしがみついてくる。フレイは定位置を取られたので、流石に諦めると思いきや、肩車をするべく頭に登ってきた。

 と、美少女(エレナ)美女(フィリナ)幼女(フレイ)を連れたモテモテ感が全面に押し出されている(しゅうと)になってしまっているのである。これでは結局街の人達から敵対視されてしまっている。

 今日の朝、僕は街で空き家を探してくると言って出て行こうとしたのだが。


「わ、私もお手伝いしたいです!」

「これはアタシも行くしかないでしょ!」

「外に出るのは危険です!私が守ります!」


 ということで、全員行くことになってしまったのだ。

 そして今に至った訳だが、一向に空き家は見つからず、フィリナは既に服選びの方向を一直線で進んでいた。

 僕はフィリナから貸してもらっている革のレザーベストを着ているのだが、フィリナがもっといいものを選んでくれると言う。ろくな物を選びそうにないが。なので、エレナにも一緒に選んでもらうことにした。

 しばらくすると、服を選びに行ったフィリナとエレナが戻ってきた。手には黒のレザーパーカーとレザーズボンを持っていた。やはり、フィリナにエレナを付けたのは正解だったようだ。それに、意外にいい物を選んできてくれた。

 早速レザーコートを購入して着てみた。


「す、凄いです。とてもよく似合っています」

「これは……想像以上になったな」

「何か、カッコいいです」


 称賛の声も頂いたので、僕らは空き家探しを明日にしようと決めて店を出た。

 

「ん?宗土、あれ見ろよ」


 突然、フィリナが何かを見つけて右方向を指差した。その先には、中央通りを駆け抜けるローブを纏った人がいた。その人はペースを落とすことなく僕らの前を走り去っていった。僕は気付いたが、明かにその人は息を切らしていた。しばらく去っていく背中を見ていると、その人が走ってきた方向から、今度は屈強な男達四人が後を追うようにして走ってきた。

 

「ちょっと先に帰っててくれ。僕は少し寄る所があるから」

「はい?何処に寄るのですか、宗土様」

「うーん……男の話し合い、かな」

「何だそりゃあ……っておい!ったく、帰るぞ!」


 エレナは戦闘が出来ないから、もしさっきの男達と喧嘩になった場合には危ない。かといってエレナだけ帰らせる訳にもいかない。だから全員に宿屋へ戻ってもらうようにした。そうと言えばフィリナは面白がって付いてきそうだし、フレイなんか絶対に守るなどと言い出して聞かないだろう。

 僕は気付かれないように後を追っていった。しかし、流石にバレそうなので僕は一旦路地裏に駆け込んだ。それは、僕の権限の力が見られないようにするため。


「イマジネーション/透明化・浮遊化」


 尾行などしたこともない素人がそのままバレずに後を追っていける気がしない。とりあえず透明化して体を隠して、浮遊化で上空から様子が見えるようにした。そして僕は男達を上から通り越して、その前にいるローブの人を見た。

 その人はこのままでは逃げ切れないと悟ったのか路地裏に駆け込んだ。確かにその選択肢は正しい。だが、運が悪いことにその道は行き止まりだった。後ろを振り向いたときには、既に男達が追い付いてきていた。


「そろそろ諦めたほうが身のためだぜ」

「ま、待ってくれ!何が望みだ!?金か!?」

「そうだなぁ。だが、それにはあんたの首が必要ってことだ」


 透明なまま男達とローブの人の間に降り立ったときにそんな会話が聞こえてきた。首ってことは、このままローブの人は殺されてしまう。そろそろ出たほうがいい。


「そうはさせませんよ。イマジネーション/テレポート:そこの四人」

「あぁ!?何だこりゃぁ!?」

「す、吸い込まれる!?ギャアァァァ!」


 透明化したままだったのでちょっと、いやかなり恐ろしいとは思うが、僕はレードさんの固有魔法テレポートを使って遠い草原にでもテレポートしておいた。


「透明化解除。……あの、大丈夫ですか?」

「あなたは一体……」


 最初の頃のエレナとよく似ている。まだ恐怖心が抜けない状態で突然話しかけられたら当然狼狽える。


「僕は金井宗土。襲ったりはしないので安心してください」

「助かりました、宗土殿。私はコード・バルメスです。ところであの者達はどうなったのですか?」

「僕の固有魔法で遠い草原に転移させました」

「それならば安心ですね。ありがとうございます。このお礼は近いうちに。それでは申し訳ありませんが、私は用事があるのでこれで失礼します」


 頭を下げてお礼を言うと、その人は急いで路地裏を出ていってしまった。





 宿屋では、エレナ達が文句を言っていた。


「宗土さん、男の話し合いとは何でしょう?」

「相手は誰だよ!まさか知らない間に色々あったとか!?」

「そんなぁぁぁ!私がいると言うのに、何故ですか宗土様ぁぁぁ!」


 そんな三人のもとに、話の中心人物であり犯人である僕はテレポートで帰った。

 僕を見た三人にはその後、色々と質問を投げかけられた。僕はもう終わったことだしいいかなと思ったので全て話した。それを聞いた三人は急に落ち着きを取り戻した。全く訳が解らない。


「それにしても、意外と良いものを選んできたな」

「えっへん!」


 僕の言葉に反応したフィリナはどうだ、と言いたげに鼻を鳴らすが、恐らくこれはエレナを付けておいたお陰だと内心思いながらフィリナを見つめる。

 と、僕はこの服がレザーパーカーであるため、パーカーが付いていることを思い出した。


「これなら顔を隠すときに使えるな」

「あ、宗土さん!」


 突然エレナから静止させるためだろう呼び声がかかったが、時は既に遅し。僕はパーカーを試しに被ってしまった。


「うわぁっ!?」


 パーカーを被った途端、僕から突然真っ直ぐに放たれた魔法がエレナに直撃。小さな悲鳴と共にエレナは倒れてしまった。


「エレナ!」

「エレナさん!」


 僕とフレイは咄嗟に名前を叫んで倒れ込んだエレナに駆け寄った。そのタイミングでフィリナもトイレから帰ってきて、倒れているエレナを見つけて駆け寄ってきた。

 何とか起き上がってその場に座り込んだので、僕も安心して改めてエレナを見た。


「うえっ!?ご、ゴメン!」

「はっはは!引っ掛かったな宗土!」

「またフィリナか!?」


 僕が動揺したのには訳がある。エレナは円を描いたようにぽっかりと服が無くなっていて、下着が丸見えになっていたのだ。しかし、それを見たフィリナは声を上げて笑う。やはりコイツ(フィリナ)だったのだ。


「どうなってるんだよ。パーカーを被った瞬間に……」

「それはアタシの固有魔法さ。物に魔法効果を付与するギブっつうやつでな」

「で、何を付与したんだ?」

「ケルベロス戦の時に使った地属性魔法をヒントにしてな。服だけに穴を空けるようにちょっと工夫したんだ」


 ケルベロス戦の時の地属性魔法と言えば、縦穴を空けたやつだろう。しかし、もっと他のことに頭が回らないものなのか。と言うか、ケルベロス戦と言ったときにフレイの耳がピクリと動いたが、何を思っているのだろう。


「すいません、服を修復してくれませんか?とてもスースーします」

「ああゴメン」


 忘れてた。は何とか飲み込んで、権限(固有魔法)発動のため、僕は掌をエレナに向けた。


「イマジネーション/修復」


 毎度お馴染みになりつつある権限での修復で、またしても服を修復するという行為をしてしまった。僕はエレナを見ないように目を瞑りながらやるが、横でフィリナがいちいちおほーだのわぁーだの騒ぐのでとても邪魔である。なので、フレイにこっそり意志疎通をかけた。


『ちょっとフィリナを黙らせてくれないか?』

『承知しました!』


数秒後にフィリナの何すんだよフレイ、という声が聞こえてきたので恐らく成功したのだろう。

 エレナの服の修復を終えて、僕はまだ争っている二人を強制的に(けんげんで)その場で停止させ、フレイを解放する。尚も喚き散らすフィリナは近くの空間に防音効果と空中浮遊を付与して、そのまま放置することにした。だいたい反省していないようだし、丁度良い機会である。恐らくこんなことでは反省しないだろうが。

 と、その時ドアをノックする音が聞こえてきた。丁度黙らせておいて良かった。しかし、ここを訪ねてくる人などいるのだろうか。そう思いつつも僕ははーい、と返事をしてドアを開けた。

 

「あの……どのような御用件でしょうか?」

「我は王宮の衛兵である。こちらに金井宗土様は居られるか?」

「え?僕がそうですが、一体何でしょう?」

「王からの書簡をお持ちいたした」


 そう言うと、衛兵と名乗る鎧の騎士は手に持っていた高級そうな黒い筒を差し出した。疑問に思いながらも僕はそれを貰った。


「それでは、私はこれで失礼する」


 衛兵は一礼して部屋を去っていった。

 部屋の中では、全員ポカンとただ口を開けているしかなかった。だが、やっと話す気力を取り戻したのか、未だに震える声で、エレナが疑問を投げかけてきた。


「い、一体宗土さんは、王様と……な、何の関係があるんです、か?」

「いや別に何も接点なんてないんだけど……ま、まあとにかく書簡を読んでみよう」


 本当に王様と会った覚えなどひとつもないのだが。しかし、まずは王様からの書簡を読んでみればそれも解決するかもしれないと半分願いながら筒を開けた。中には紙が一枚。僕はそれをそっと取り出すと、書かれている内容を読み上げた。


「えーと……突然の挨拶ですまない。金井宗土殿、此度は賊からの救出、誠に感謝する。私は何か礼をしたい。話は王宮でする故、まずは御越し頂きたい。一緒に入れておいた招待状を衛兵に見せれば通してもらえるだろう……」


 賊からの救出とは、僕が知る限り路地裏で追い詰められていたコードさんだ。しかし、あの人が王様だなんて信じられない。

 途端、僕の肩から顔を出して見ていたフレイが僕の思考を断った。


「宗土様、これはどういうことですか?」

「い、いや……な。色々あってさ」


 確かに色々あったことは真実である。それにしてもつい先程のことなのに対応が凄い速さだな。

 

「あの……そろそろお姉ちゃんを解放して頂けませんか?」

「あ、そうだそうだ」


 流石は心優しいエレナさん。フィリナ(あね)の存在を忘れていなかったようで、僕の服の裾を引っ張ってきた。フィリナを見上げると、書簡の話に意外にも真剣に聞いていた様子で静かになっていた。


「解除」


 僕がそう言うと、解放されたフィリナは床の上にドスンと落ちた。けっこう痛そうな音がしたが、表情を変えずに寄ってきた。


「何だかよく解らないけど、取り敢えず行くよ、王宮!」

「お、おう……」

「はい」

「待ってください宗土様!」


 と、斯くして僕らは王宮へと向かうことにした。僕は何故、転移して行かないのか聞いたが、答えはすぐに返ってきた。それは、下手して変な所に飛んだら怪しまれてしまうか、或いは攻撃対象にされては困る、だそうだ。確かに、王様に変な格好を見せる訳にはいかない。ここは大人しく従っておこう。





「待て!貴様、王宮に何の用だ?」


 王宮の前まで来ると、門番と思われる衛兵が二人、長槍を交差させて道を塞いだ。待ってましたとばかりに僕は招待状を衛兵に見せた。衛兵はそれを偽物ではないことを確認すると、道を開けた。

 王宮内は綺麗な装飾品が大量に飾られていた。一体何が通るのか疑問に思いたくなる程、横幅が広い廊下を歩いていくと、厚い扉で閉ざされている部屋の前まで来た。


「よく来た、宗土殿!」

「お、王様!」


 後ろから現れた王様にエレナが瞬時に反応し、それに気付いたフィリナも同時に後ろを向き、片膝を付いて王様の前に頭を下げた。フレイも見よう見まねでその姿勢をとった。


「こ、コードさん!?」


 その王様は、僕が確かに路地裏で助けたコード・バルメスさんだった。



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