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異世界は最強から  作者: 桜城響
第一章 人生のリスタート
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《4》宗土様

 ケルベロスを包み込んだ光は徐々に人間サイズになっていった。そしてもっと小さく……。光が解き放たれてそこに立っていた少女、訂正、人化した裸の幼女は、ひとつくしゃみをした。頭からは犬耳が生えており、犬の尻尾も生えている。黒髪で整っていない髪は肩まで伸び、黒の瞳は不思議そうに僕を見る。

 はい、アウトですね。うん、充分アウトですね。え?幼女?そんな年なの聞いてないし!ってか服忘れてたし僕って異世界来てから罪深いよねぇ!?


「あの、宗土さんは何故顔を隠すのですか?」

「これは、その、健全な男の子的反応でしてね、まず隠そう!うん、隠さないと始まらない!」

「何を慌てているのですか?人間は体を隠すものなのですか?」

「そうそう、だからちょっと待って。イマジネーション/変形:ローブ化」


 ケルベロスがいなくなって集まってきた動物の中から羊の毛を刈り取り、瞬時にローブ化する。この世界の人達が着ているローブを着させれば怪しまれることもない。フレイは、肌に変な感触があって嫌です。脱がせてください。と言い出したが即却下した。


「宗土君!今の光は何だ!?」


 上から聞こえてきた声はレードさんである。縦穴に飛び込んでいった僕を心配してくれているのだ。レードさん達のいる場所までテレポートで飛んだ僕は返事を返した。


「大丈夫です。僕の魔法ですよ」

「そうか。それなら安心だな。……うん?そちらの獣人の子は誰だ?」

「ああ、この子はフレイって名前で、今のケルベロスです」

「な、なんだとぉぉぉ!?」


 まあ、そりゃあ確かに当然の反応だな。

 全員が一歩引いて武器を構えてフレイに向けた。何とか説明して納得して貰ったが、不安が完全に消え去ってはいないようで、フレイから少し距離を置いてしまっている。一応口外禁止だと言ってはおいたので大丈夫だとは思うのだが、この世界に来たときから気になってはいたが、普通に獣人が暮らしているのだ。しかし、魔獣から人化した獣人はいないとエレナから聞いている。


「宗土、エレナに加えアタシがいながらこんな幼い子を連れ帰る何てな……」


 レードさんのテレポートで王都に戻り、フィリナとフレイを連れてエレナが待つ宿に帰る途中、フィリナが横からいきなりそんなことを言ってきた。僕は当然のようにフィリナに聞き返すが、恐らくろくな返事が返ってこないだろう。


「急に何だよ?」

「いやー、浮気される人ってこんな気持ちなんだなってさ」

「人聞きの悪いことを言わないでくれませんかね!」


 戦いから戻ってきた途端にこの調子だ。この姉は、もうちょっと妹を見て学ばんもんかな……。


「お、見えてきたぞ!可愛い妹が帰りを待っている宿が!」

「エレナと言う人もフィリナさんが姉じゃあ苦労しますね……」


 確かに。って言うか、ケルベロスにすら突っ込まれるフィリナって、人としてどうなんだろう?

 そう考えつつも、相当大声で喋っていたのか、二階の窓からエレナがひょこっと顔を出した。僕は挨拶を返して宿屋の中に入っていった。





「……で、この子は一体誰ですか?」

「私はフレイです。これからよろしくお願いします」

「は、はい、こちらこそ。ちなみに私はエレナ・コルネットです」


 ペコリと丁寧に一礼したフレイに驚いて、エレナも丁寧に一礼した。


「ところでな、聞いて驚け我が妹よ!この子こそ、戦ってきたケルベロスであるのだ!」

「え?どう見ても可愛い獣人ちゃんじゃん。お姉ちゃんも嘘ばっか言わないでよ」

「アタシのイメージ何なの!?」

「まあまあ、この子は僕が固有魔法で人化させたんだよ」

「えっ?人化って、えっ?」


 エレナが僕の話に困惑していると、突然フィリナが横からフレイの肩を抱いて部屋から出ていってしまった。ちょっとフレイ借りるな、とは言ったものの何故か心配だ。


「どういうつもりですか、フィリナさん?」

「まあまあ、いつまでもそんなボロいローブなんて着てるのも勿体ないからな。アタシがいーい感じの服を選んでやるよ」


 怪しさが表に出過ぎなフィリナの笑いは普通の人なら内容を聞く前から即拒否するだろう。しかし、不運なことにフレイは人間としての経験は小学生以下である。肩を抱かれたままフィリナに連れていかれてしまった。

 服屋は宿屋から近く、数分で着いた。


「ここだ、ここ。これで宗土もイチコロだ」

「何か言いましたか?」

「ああ、いや、何でもない。さ、さぁ、服選びだ!」

「何を焦っているんでしょう……?」


 そう疑問に思いながらもフレイはフィリナの後に付いていった。その身に何が及ぶかも知らずに……。


 同時刻……宿屋では宗土とエレナが二人っきり。

 宗土はトイレから戻ってくると、部屋のドアを開けた。すると、そこにはもじもじとしているエレナが立っていた。


「わぁっ!?エレナ、どうしたの?」

「え、ええと、その……宗土さんは、ちっちゃい子って好きですか?」

「え!?何で!?」

「だ、だって、ケルベロスをあんな子にしてまで連れてくるなんて……」


 うっ、なかなか痛い所を突いてくる。確かにケルベロスを人化して連れていこうというのは最初どうかと思ってはいたが、意外と可愛いかったから連れてきちゃったし。それでも、人化したらあんな幼女になるなんて想像してなかったし。


「僕だってケルベロスを人化したらあんなちっちゃい子になるなんて想像してなかったよ」

「それならいいですけど……」

「え、何?」

「な、何でもないです!それより、今は二人っきりですよ?」


 僕はさらに前に詰め寄ってくるエレナから逃げようと後退りしたが、後ろはトイレのドア。まずい、完全にはめられた!


「宗土さんは、私のこと嫌いですか?」


 だからそれ反則だってぇ!え?嫌いなところ?あるわけないでしょうが!まずあなた達が美人過ぎてこっちは王都の人達に殺されそうなんですけど!フレイが加わったせいでそろそろ僕の命も危ないんですよ!


「き、嫌いな訳ないじゃないか」

「ふふふ、ありがとうございます、宗土さん」


 笑顔に戻るとエレナはようやく僕から離れた。全くこういう強引な所は姉妹でそっくりなんだから。

 上機嫌なままベッドに座り込むと、エレナは読書を始めた。


「おーい、帰ったぞ!」


 突然フィリナがドアの向こうから大声を出したので、僕は飛び上がってしまった。その後にドアを開けると、小さな人影が飛び込んで抱き付いてきた。びっくりして見下ろすと、そこにはフリフリメイド服を着たフレイがいた。


「え!?フレイ、何してるの!?」

「宗土様、宗土様は私が守ります!」

「…………は?」


 これを、そしてこの状況を理解するには時間が必要だった。しかし、この状況を説明するのには充分な理由がそこに立っていた。様々な事件の犯人である者、フィリナだ。


「フィリナ、何かしただろ。いやしたな。そう言え」

「これ嘘でもアタシだよって言わないといけないパターンじゃない?まあ、アタシだけどさ」

「うんそうだよな、ってかフィリナしか有り得ないしな。フィリナじゃなかったら天変地異起きるなこれ」

「あのさー、変な物食べた?」


 そう、誰の目から見ても犯人はフィリナしか有り得ない。こんなことする筈のないフレイをフィリナが連れて行こうとしたときに止めるべきだったのだ。ゴメン、フレイ。守れなかった……許してくれ。


「何を吹き込んだか知らないけど、フレイもフレイだろ。何やってんだよ」

「フッフッフ。まあ簡単なことさ。まずフレイは人間を知らない。つまりちょっと理由を作って常識だって教えてやれば……この通りさ」

「……例えば、何を?」

「宗土を守りたいならくっついていれば大丈夫だって言っておいたぞ」


 やっぱりだ。フレイは人間を知らないから完全にはめられている。僕の腹に顔を擦り付けてくる仕草は、さっきまでの大人っぽい姿とはかけ離れている。これでは本当にただの幼女ではないか。おまけにメイド服まで着て、いよいよ犯罪の匂いがしてきたぞ。


「やっぱりか。じゃあこの変な呼び方は何だ?」

「それはなー、メイド服を着たらそう呼ぶのが当たり前だって言っただけだぞ。いやー、物覚えが早いなぁ」

「宗土さんは、そう呼ばれるのは好きですか?」


 いつの間にか読書を終えていたエレナが右隣から聞いてきた。それどころかフレイにくっつかれている所に、追い打ちをかけるようにして迫ってくる。突破口を探そうと左を見ると、そこにはフィリナという壁。


「本当はそう呼ばれて嬉しいんじゃない?宗土様っ」

「いや、何言ってるんだよフィリナ!そんなことあるわ……」

「そういえばぁ~、エレナの分も買ってきたけどぉ~、どうする?」

「わ、私も着ます!」


 想定外の反応に僕は一瞬気が遠退くのを感じた。

 まずエレナが積極的過ぎるし、メイド服を着る恥ずかしさが解っていながら何故着ようとするのか。

 フィリナがメイド服を渡すと、エレナは早速、少し待っていてくださいと言って部屋を出ていってしまった。その様子を見ていたフレイは理解出来ないようで、不思議がっている。


「何を慌てているのでしょう?」

「大丈夫さ。我が妹も変わるだろう……」

「勝手に保護者面するなよ。フィリナのせいなんだからな、これ全部」


 僕はエレナを待っている間に昼寝でもしようかとベッドに向かったが、フレイはしがみついたまま離れようとしなかった。その後、何とかフレイを引き剥がしてベッドに寝転がった。僕はフィリナに、エレナが来たら起こしてくれと頼んで目を閉じた。


 




 顔に何か生暖かい風が当たるのを感じて、僕は目を開けた。


「…………は?」


 風の正体。それは何故か隣で寝ていたメイド服姿のエレナ、その寝息だった。こんなエレナの息がかかる程の至近距離で……。あれ?起こしてくれって言ったのに、フィリナは!?


「うえぇっ!?」


 ベッドから出ようと後ろに寝返ると、そこにはフレイが寝ていた。つまり挟まれていたのだ。しかし、まだ足元から抜け出せばいい。僕は膝を曲げて起き上がろうとしたが、


「させるかよっ!」

「うおあっ!?フィリナ!?」


 抜け出そうとした僕を待っていたかのように、起き上がろうとした僕に向かって飛び込んできたのはフィリナだ。しかも、自分の分までちゃっかり買っていたのか、フィリナもメイド服を着ていた。

 ドタンとベッドに押し倒された衝撃で、エレナとフレイは目を覚ましてしまった。

 エレナはフィリナに押し倒されている僕を見て、顔を赤らめたかと思ったら、怒ったのか頬を膨らませる。

 フレイはフィリナに押し倒されている僕を見て、自分の仕事を奪われたと思ったのか、横からしがみついてきた。


「今日はアタシら三人……」

「宗土さんは誰のメイド服姿がお好みですか?」

「宗土様は私がお守りするのです!」


 あれ?この光景前もあったような……。


「って、そういう問題じゃないよぉぉぉ!」


 僕は大声で怒鳴ってしまった。これがまさに悪夢の始まりであった。

 フィリナは嫌われたと思い込んでしまい、またもガチ泣き。

 エレナは自分のメイド服姿はどうでもいいと言われたのだと思い込んでしまい、ベッドに突っ伏してしまった。

 フレイは自分の警護が突き放す程下手くそで嫌われたと思い込んでしまい、号泣。


「何でそうなるのぉぉぉ!」


 僕の悲鳴が部屋全体に響き渡ったが、それで直れば苦労はしない。見た目と正反対のメンタルを持っている三人を宥めなければならないのだ。

 しかし、フィリナは完全に塞ぎ込んでしまって、数時間を要した。

 エレナは、僕の声が届いていなかった。しかも何故かずっと震えていた。これには僕も権限の力で何とかするしかなかった。

 フレイはと言えば、段ボールの箱と、この可哀想な子を拾ってくださいと書かれた紙を持って王都の中央通りにでようとしていた所を、僕が何とか嘘でも警護してくれて嬉しいよと言った。すると、一瞬で元に戻った。

 これが終わったとき、既に日は沈み、丸一日かかっていた。 


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