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異世界は最強から  作者: 桜城響
第一章 人生のリスタート
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《1》生まれ変わりの神様権限

 机の向かい側に座る老人はみかんを頬張っている。部屋にはテレビやタンス、冷蔵庫などといった家具が置いてあり、普通の家的な雰囲気なのは否定しない。しかし、この六畳半の畳の部屋はごくごく普通の和室なのだが、少し開きっぱなしの襖から外を見てみる。

 なんと、眼下に浮かんでいるのは雲海だ。ここは上空、雲より上にあることになる。


「まあ、お疲れ様、と言うことかのう……金井宗土(かないしゅうと)君」

「は、はぁ。そうですね……」


 この老人は自分が神様だと言っている。それを全て信じている訳ではない。だいたい十七で交通事故に巻き込まれて死んだのに、目を覚ましたら目の前に老人がいて、神様だと言うこの状況に直面した者の気持ち知ってるか、と聞いてやりたい。よく考えれば、神様なのだから死ぬこともないのだが。


「そういえば一度聞きたかったんですが、神様って普段どんな生活をしているんですか?」

「何かと言えば……テレビでドラマ見たり、人間のフリをしてショッピングしたりしておるが?」


 神様の話を聞く限り、普通の人間と変わらぬ生活をしていた。これでは、本当に死なないのかどうか怪しくなってくる。下界にいるときに、何かしらの事故に巻き込まれたりして。


「ワシは死なんぞ?事故に巻き込まれても消えて戻ってくるだけじゃからの」

「それ行方不明扱いになって警察の人がすごい苦労するんですが……」


 自慢気に語ってみかんをもうひとつ食べ始めた神様に、僕は完璧な突っ込みを声に出してしまったが、聞いているように見えなかったので少し安心した。

 神様に進められて、僕もみかんをひとつ貰った。味はなかなか良いものだった。


「あの、僕って天国ですか?それとも……」


 何かそこから言うのが怖くなってモジモジしていたら、神様が口を開いた。


「何を言うておる。それは違うぞ」

「ええぇぇぇ!僕、何か悪いことやらかしましたか!?地獄は嫌です神様助けて!」

「じゃ、じゃから違うと言うておるじゃろうが」

「え?天国でもなく地獄でもないなら何なんですか?」


 神様は一息吐くと、笑みを浮かべて言った。


「宗土君のいた世界とはまた別の世界に行ってもらうのじゃ」

「べ、別の世界あるんですか?」

「と言ってもふたつだけじゃがな」


 僕の住んでいた世界以外にふたつの世界があるのか。

 そこまで言うと、神様は肩を落として溜め息を吐いた。何か悪い事情があるのだろう。神様にも何かしら悩み事があると思われる。


「二度、三度と死なれると、別の世界に生き返らせたときに『生まれ変わり』などと呼ばれるのじゃが、科学が発展するとバレそうでのう……」

「確かにそうですね」

「そこで、じゃ!!」


 バン、と机を叩いて今度は叫ぶ。落ち込んでいたと思ったら叫ぶ。本当にコロコロと感情の変わる神様だ。


「宗土君!君にその世界の神様権限を与える!」

「な、何故でしょうか?」

「聞いたら呆れるじゃろうから言わぬ」

 

 僕が聞いても理由は絶対に言おうとしない。先程までの異常な量の溜め息で面倒くさいから、っていうのがバレバレだけど。


「これから向かって貰う世界は怪物がおっての、特に死にやすいのじゃよ」

「それ、地獄じゃないですか」

「その力で怪物どもを綺麗になくして貰いたいのじゃよ。人間の救出も兼ねての」

「いやいや何で僕が?それに神様権限ってほぼ最強じゃないですか。僕がまだどんな人かも知らずにそんな重要なものを与えてしまうなんて、ちょっと危ないんじゃないですか?」

「ならば権限なしで生まれ変わるかの?そうなると一般人と同じ扱いになって、怪物どもに襲われて死んでしまうかもしれんぞ」


 神様の脅し。これでは頼まれているのではなく、強制的にやらされている。

 神様とは、世界の如何なる法則も無視の絶対的存在である。世界を壊しかねない力を与えてしまえば、ちょっと暴れただけで世界崩壊も有り得る。


「大丈夫じゃ。君がそんなことをしない人間だと知っておる。それに、怪物や魔物以外の者に傷をつけることには使えん。それと、無から物を造り出すことは不可能じゃからのう。よく覚えておくのじゃぞ」

「要するに、人間などを傷つける悪い魔物には力を使っていいと言う訳ですか?」

「そうじゃ。あと、神様の力だと他者に知られてはならんからの」

「皆さん神様の力だなんて言っても信用しないと思いますがね」


 それでは、と言って神様は立ち上がった。いよいよ異世界転生の時だ。神様によると、転生の際記憶をリセットしているらしい。でも、僕は神様権限によってそれは行わないらしい。


「それじゃあの。頑張っとくれい!」

「はあ……頑張ります」


 直後、視界は光に飲まれて真っ白く塗り潰された。音は無く、上も下もない。意識も徐々に遠退いて行き、遂に彼方へと消えた。





 鳥の鳴く音が微かに聞こえる。カサカサと木の葉を揺らす音も混じって聞こえてくる。体に意識が繋がった感覚を覚えて目を開く。

 草花が風に揺らされて踊る。花のいい香りが漂ってきてもおかしくはなさそうなザ・平和を見せ付けられて。怪物や魔物がいるという話を聞いた後に平和な風景を見せられて、僕は自分の使命がとても小さく感じられた。あ、記憶ある。


「っと、看板?『この先、王都ウィンディーまで四百キロ』だって?うーん、遠いな。あれ、何で知らない文字が読めるんだ?そうか!流石は神様権限」


 人生で一度も見たことのない文字を感覚で読み取ったのだ。これも神様がくれた権限の力。

 それはさておき、王都まではかなりの距離がある。徒歩なんかでは食料不足で餓死してしまう。

 

「そうだ!権限の力で脚力を強くしてみよう」


 せっかく神様から貰った力。まずは身体強化からどれくらいか試してみる。


「体制を屈めて、とうっ!」


 軽く前に跳んだ瞬間、驚異のスピードが発動した。通った道に咲いていた草花は跡形もなく裂かれ、土だけの道になった。驚いて急ブレーキをかけたら、風だけが衝撃の壁となって前方の草花が舞い上がった。移動だけで周りに危害を加えてしまうため、人の前では使えない。

 移動した距離は約三四○メートル。王都まではまだ遥かに長い距離があるが、それでも音速という超スピード。そして本当に驚くべきなのは、疲れていないことである。


「うわー、本当何でもありだな神様権限」


 神様権限のほぼ不正(チキン)能力で迎えた第二の人生。いや、ほぼ神様だから神生なのか。それはさておき、これを繰り返せば王都には着くが、大規模な地形破壊を繰り返すだけの邪魔者にしかならない。世界を救いにやって来た勇者様が怪物扱いされてはたまったもんじゃない。


「ってことは……地に足をつかなければいいんだ」


 そう、つまり飛んでしまえば全て解決、と言う訳だ。それには、再び神様権限を発動させる必要がある。


「まずは浮いてっと」


 権限があれば何でもあり。別に歩かなければいけない訳ではない。十メートル程浮き、足の裏に空気を圧縮。


「一気に、放つ!!」


 圧縮された空気を後方に解き放つ。すると、爆発的に発生した風に乗ることが出来る。結果、人間砲弾と化した宗土は空中を高速移動した。そして体を前に倒して風の受ける影響を減らす。それによって勢いは長続きする。


「そろそろかな?……あ、これどうやって止まるんだ?」


 先程のように急停止すれば、今度こそ爆風の壁が王都の民家を破壊しかねない。

 こうして、後先考えずに行動した僕は、止まる術を見失った。

 

 



 路地裏。連れ出されたそこで、緋色のツーサイドアップに結んだ髪から膝までと、黒いローブで全身を隠している少女、エレナ・コルネットはピンチに陥っていた。

 眼前の男三人に詰め寄られていたのだ。手にはキラリと鋭く光るナイフ。

 絶体絶命のピンチに救いの手、否。救いの頭突きは突っ込まれる。リーダー的存在感を放っていた男は、横っ腹にクリティカルヒット。そのまま隣の民家の壁にめり込んだ。仲間のチンピラ二人は、いきなりのリーダー撃破に動揺して、尻餅をついてしまった。

 飛んできた正体不明の謎の物体、いや謎には謎、むしろ謎だらけの人間は、衝突したお陰で急停止。その場に降り立った。


「あ、スマン。止まり方知らなくてさ」

「て、テメェ何者だ!?」

「え、僕?僕は金井宗土って名前だけど、何か?」

「親分を倒した罪、償わせてやる!」


 この二人はそう言うといきなりナイフで突いてきた。僕は咄嗟に反応して体を硬化。

 体にナイフの先が触れた瞬間、代わりに男の持ってたナイフが真っ二つに折れてしまった。いくらなんでも皮膚、硬すぎない?


「あぁぁん!?何で刺さらねぇんだ!?もしやテメェ、固有魔法の持ち主か!?」


 僕にはこの男が言っていることがイマイチ解らない。固有魔法って何だろう。でもまあ、権限を隠す為のいい材料になりそうだからそう言うことにしておこう。


「ああ、そうさ。解ったらさっさと失せな」

「ぎ、ギャアアァァァ!」

「助けてくれぇぇ!」


 二人の男は物分かりがよく、半泣きで逃げて行った。これではまるで、僕が脅したみたいになってしまった。隣には、壁にめり込んだまま見捨てられた親分、何か可哀想。


「あの、ありがとうございます」


 声に気付いて振り向くと、後ろにいた少女はいつの間にかフードを外していたが、その顔にはまだ恐怖の感情が出ていた。あのチンピラ三人を一瞬で撃退する実力者。何を要求されるか怖い気持ちだってあるのは当然のこと。だからこそ、僕は精一杯の優しい笑顔で、


「心配ないさ。何もしたりしないよ」

「で、でしたら何か、お礼をさせてください!」

「え、いいよ。別に気にしなくて」

「駄目です。私がそれをしたいんです」


 言うと、少女は勝手に僕の手を握って歩き出した。恋人じゃないんだから外でこんなことしたらよくないと思うんだけど……でも、普通に可愛いから結果オーライ。ちなみに自己紹介をして、名前を知ることが出来た。

 王都ウィンディーの大通りは、沢山の人で賑わっていた。そんな中を手を繋いで歩く少年(しゅうと)少女(エレナ)。やけに周りからの視線が痛い。何か恨まれてる気がする。


「ここです!」

「ここは……って、何?」

「え……王都の有名店を知らないんですか?」

「あ、いや。僕は田舎のニホンって言う村から来たから、王都のことはよく知らないんだよ」


 咄嗟に思い付いた嘘をついてみたが、もしエレナが世界中の村を知り尽くしていたりでもしたら、対処しようがない。

 いまさら言い直せないなと悩んでいる僕に、エレナは首を傾げた。


「聞いたことない村ですね」

「今日から一人暮らし始めてさ、まだ宿が見つかってないんだよ」

「それなら、いい宿屋を知っていますよ。後で紹介してあげます」


 エレナはとても、実に親切だ。しかしそれ故詰み寸前。いや、宿屋代を持っていない時点でほぼ詰んでいる。権限の力は絶大だが、無から有は創り出せないという欠陥が存在する。

 そんな絶望を今は隅に置いて、エレナに連れられて来たレストランに足を踏み入れた。

 カランカランとドアベルが鳴るところはこっちの世界と変わらないみたいだ。店員に案内されて席につくと、エレナは早速メニュー表を見始めた。何か一気に異世界感が失われて悲しい。あ、マズイ。代金持ってない。

 不安が表情に出ていたらしく、向かい側に座るエレナに、


「私の奢りですから、気にしないで何でも好きなのを選んでください」


 何て言われてしまった。代金を持っていない今の状況にはとてもありがたい。メニュー表を見ると、沢山のスパタと呼ばれているらしい料理が載っていた。こっちの世界で言うところのパスタであろう。種類は一般的で、僕はアラビアータを選んだ。

 ベルで店員を呼ぶとこまでそっくりで、ちなみにエレナはカルボナーラを頼んでいた。(ちなみに、こっちではアラビアータはラビアアータ、カルボナーラはボラナルーカだった)


「私、後で姉に会いに行くんですが、一緒に来ては貰えないでしょうか?」

「いいよ。さっきみたいにガラの悪い奴らに襲われたら大変だからね」

「ありがとうございます。優しいんですね、宗土さんは」


 何だろう、このリア充オーラが爆発している会話は。気が付けば、周りの客からはまたも痛い視線を向けられている。

 その鋭い刃(しせん)は店を出るまで断たれることなく、僕の精神を切り刻んでいった。



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