アンの危惧 レンバート達の仕事
前回のあらすじ
少年は尻に敷かれているようだ
「レン達に出頭命令はだしたのかしら?」
翡翠のショートヘアの髪に鮮やかな緑で金の装飾がついたドレス、黒いボディに、ヘッドが緑の杖と全身を緑に彩った女性アン・レインはそう問いかけた。
「えぇ、レイン様。先ほど用書を私自らリーサ様にお渡しいたしました。」
老執事のニルヴェインはそう答える。
「そう。ならいいわ。」
生返事にそう返した。アンは窓の外に想いを馳せていた。
「アン様お気持ちは分かります。ですがこの後は、ヴァンダイン公爵様との会談がございます。もう少し、今のことを考えてくださいまし。」
ニルヴェインは注意を促す。今回の会談は大きく逃すわけにはいかない。
「言われなくてもわかってます。」
アンは苛立ちまじりにそう言い放ち、机の上の手紙を神経質に見やる。
一通の報告書。それがアンの心配の種だった。報告書にはこう書かれていた
二週間前、大切な友であるキッド・ジャクソンが行方を眩ませた。行方を眩ませた前後にかなりの数の飛竜の目撃情報が相次ぎ、目撃者の証言によるとフードを被った一人の不審な人間が立っていたということだった。
( キッドは私が知る限り、飛竜にやられるような者ではない。だけど、飛竜が現れだしたタイミングも気になる。それも相当数の。
あの辺りは飛竜が嫌うマナの流れがあったはず。そして、フード姿の人間。一体何者なのか。)
今一度空を見やる。
ねぇ、なにがあったのキッド———
「レン、手紙は後1軒。アインホーム塔だよ。」
少女リーサは言った。
「了解リサ。それが終わったら休憩にしようか。いい時間だ。」
少年レンバートは銀の懐中時計を確認し返事を返した。
午前の仕事である配達は終わりを迎えていた。
晴天で太陽はさんさんと緑を照らし、五月の心地よい風が吹きすさぶ。
そんな日の午前、装空機は重低音を轟かせるせながら走る。
少年と少女は街の空を駆ける。
レンバートはこの街で育った。
レンバートは母親と父親の顔を知らない。育ての親は若く飛空士、即ち『鳥』であった。幼い頃から装空機に乗せてもらい、風を感じながら一緒に走るのが大好きだった。
鳥は毎日のように空を駆け回っていて、レンバートもときたま乗せてもらっていた。
色んなことを教えてくれた。
今日のような晴天の心地よい風を感じさせてくれた。
嵐の後の遠くに架かる虹の煌めきを見せてくれた。
闇のとばりが降りる前の赤く染まった夕日の感動を教えてくれた。
時には飛竜を間近で見て、泣き叫んだこともあった。
暗く乱気流で機体が揺れる分厚い雲の中で必至にしがみついたこともあった。
美しくも厳しい、そんな空が大好きだった。
レンバートは鳥でいることに誇りを持っていた。
それは鳥の教えであり、今のレンバートを形成する大きな要員となるものだった。
しかし、鳥はレンバートのそばにはもういない。何故なら———
「あー!こっちこっちー‼︎。」
目の前の白く円筒型の建物から黄色いワンピースを着た少女が嬉しげに大声で呼んできた。装空機を少女のいるバルコニーの手前まで直進し、機体を直角に回転させ、ホバーリングする。
「こんにちはユリアちゃん。エリンさんは元気?」
「うん元気だよ。おかーさんもおねぇちゃん達のことを心配してた」
あっ、そうだと何かを思い出し、少女は家の中に入っていった。しばらくすると何やら容器に入った手料理を持ってきた。
「はいどうぞ!おかーさんがおねぇちゃん達にって。」
「わ、美味しそう。お母さんにいつもありがとうございます。ってお礼を言っておいてくれる?」
芋を使った手料理だ。蒸した芋がゴロゴロと入ってており、香辛料で味付けされていた。
見た目からして美味しそうだった。
昼食を前にしたレンバートは芋料理を凝視する。
「はい。これ手紙お母さんに渡してくれる?」
「うん。ありがとう!おねぇちゃん達もけがやびょうきにきをつけて!」
別れの挨拶を済ませた後、昼食を摂るために停留所へ向かうレンバート達。
少女とリーサはしばらくの間手を振りあっていた。