魔王転生したけど女でした。
「…………はっ! なんだ、夢か。そ、そうだよな。あんな死に方あり得ないよな。いや〜、夢でよかった〜。」
「いやいや、あれは夢ではないぞ。現実じゃ。現実にお主は死んでおる。」
「…………マジ?」
「マジマジ。大マジじゃ。ちなみにお前誰だとか、ここどこだよとか、そういう疑問が浮かぶじゃろうから先に答えると儂は所謂神様的なアレで、ここは死んだ奴が来るハロワ的な場所じゃ。」
「アレとか的なとか曖昧すぎだろ!」
「そうは言うが、これが一番わかりやすい表現じゃしのぅ。儂は大抵のことは何でもできるし、ここは死んだ後の転生先を選ぶ場所じゃからある意味就職先を選ぶとも言えるからのぅ。」
マジでこいつ神なのか?
見た目ただのガキだけど。
つか、ポテチ食うなよな……………俺にもください。
というか、あれで死んだのか、俺。
あんな、トラックを避けたら階段を転がり落ちて、その先の道路で更にトラックに跳ねられてトリプルアクセル決めるなんて漫画みたいな死に方で。
「いや〜、あれは傑作だったのぅ。わしが見てきた中でも一二を争う死に方じゃ。」
「心の中読むなよ!」
「だって儂神じゃし。まあ、それは置いといて、お主の今後の事についてじゃが、とある世界で魔王をしてもう事になったから。」
「はぁ!? 魔王!?」
「うむ。実はの、とある世界には勇者と魔王が存在していて、その世界の魔王とは負のエネルギーの浄化装置の役割をしておるのじゃが、いかんせん、魔王が長いこと生まれず負のエネルギーが溜まりすぎてしもうた。そこで、丁度良くやってきた、面白く死んだお主を使っちゃえばよくね? と思ったのじゃ。」
「思ったのじゃ。じゃねぇーよ! なんでそこで俺なんだよ! 普通にその世界の人間でいいじゃん! 俺じゃなくていいじゃん!」
「言うたじゃろ。魔王が生まれないと。つまり魔王となるだけの器を持った者がおらんのじゃ。その点、お主ならば多少弄くれば十分に努めることができるわけじゃし。」
「ちょっと待て。今、弄くるって言ったか?」
「言ったのぅ。」
「ふざけんなよ! なんで俺がそんな事されきゃいけねぇんだよ!」
「というか、ぶっちゃけもう済んでおるぞ。」
「は?」
「後はお主をその世界に送るだけの状態じゃ。というわけで、行ってらっしゃい。」
「何がというわけだぁぁぁぁぁぁーー!!!」
そして俺は足下に突如出現した謎の穴に吸い込まれながら、意識を手放した。
◇
「だぁぁぁぁぁぁーー………あぶ? だぶだ、だぶ?」
あれ?
なんか、うまく喋れないような……それにこのぷにっとしてて小さな手はひょっとして、俺の手?
え?
ちょっと待って?
どういうこと?
なんで俺赤ん坊になってんの?
魔王になるって言ってたじゃん!
いや、魔王になるって認めたわけじゃないよ。
でも、なんで赤ん坊ーーー!?
「お目覚めですか、デスティナ様。」
「だぶだ!?」
「初めまして、デスティナ様。私は貴女のお世話係兼指導係を務めさせていただきます、主神アリアの僕 智天使ルナミリアと申します。気軽にミリアとお呼びください。」
「あいだぶ?」
「今はまだうまく喋れないでしょうから心の中で念話と強く念じてください。そうすれば私に意思を伝えられるはずです。」
「だぶ。」
念話〜、念話。
今は分からないことだらけなんだからこのルナミリアとかいう人から情報を集めないと。
その為にも念話とやらを使えるようにならないと。
何故か今はベ◯坊みたいにしか喋れないからな。
『こうか?』
「一度で成功するなんて。流石はデスティナ様。」
『さっきから言っているデスティナって誰のことだ?』
「あなたのことですよ、栗林弘樹さん。今は魔王デスティナ様ですけどね。」
名前まで変わってるのかよ。
……………ん?
なんか、名前の響きが女っぽくない?
いや〜、それは無いよね。
でも念のため、ちょっと確かめて〜……………無い。
何がとは言わないが、あるはずのものが、無い。
『あの、ひょっとして俺って今、女になってる?』
「はい。」
『嘘だろーーーーーー!!!』
「あいだぶーーーーーー!!!」
それから何やらルナミリアという天使がいろいろ説明していたが、絶望の淵にいた俺の耳には何も入ってはこなかった。
◇
それから16年。
俺は16歳になった。
あの後も色々あったがあまり語りたく無い。
詳しいことは言わないが、新生児が経験するあれこれがあったとか、地獄の訓練があったとだけ言わせてもらおう。
「そろそろですね。」
「………そうだな。」
そろそろというのは勇者の事。
そもそも魔王の浄化装置の役割というのはこの世界の人から出た負の感情と、それによって汚染された魔力を吸収し俺というフィルターを通して放出することで綺麗な魔力にして世界に還元するというものだ。
でも、ただ魔法を放ったりしてもその効率はあまり良くない。
しかし、そこに勇者という正の存在が関わると、効率が跳ね上がる。
文字通り桁違いに。
ぶっちゃけ効率は100倍良くなるそうだ。
勇者自体が浄化する効果があるものの勇者が正の存在であるために負のエネルギーが寄り付かない。
そこで負のエネルギーを集める魔王が勇者と戦い、ぶつかる事で魔王のフィルターとしての能力と勇者の浄化能力で負のエネルギーを浄化する。
それがこの世界の勇者と魔王というわけだ。
その役目を終えて尚生き延びていたらこの世界で自由に生きていいと、あのジジイ言葉のロリ女神と約束してある。
つまり、この一戦を終えて生き延びれば異世界ファンタジーを満喫できるというわけだ。
俺今女だけど。
「さあ、来い。勇者ーー!」
「え? あ、はい。分かりました。」
ん、んぅ?
なんか、声が返ってきたんだけど。
しかも聞いたことある声だった気がするんだけど。
今のって俺の、そしてクラスのヒロインだった姫野智花ちゃんの声じゃない?
いや〜、それは無いよね。
だってここ異世界だし。
日本で女子高生やっている、いや、今は主婦かな。
その姫野さんがこんなところにいるわけ無いよね。
うん。
多分声が似てるだけの他人だよ、きっと。
「あなたが、魔王ですか? あの、世界に破滅を齎すという。もしもそうなら、私が、勇者である私が、あなたを倒します。」
本物でした。
記憶の中にある姫野さんそのものでした。
でも、破滅なんて知らんよ。
そんな気さらさら無いよ。
「いや、確かに魔王だけど、でも、破滅とか、そんなの興味無いから。」
「そう、ですか。あなたが魔王でしたか。可愛い女の子だからあまり酷い目には合わせたくなかったのですが、魔王ならば仕方ないですね。世界の為、ひいては私の願いの為、あなたには死んでもらいます!」
「ちょっと待ってーーー!!」
「問答無用!」
そう言いながら姫野さんは斬りかかってくる。
死ぬわけにはいかないので、俺はとっさに愛剣である、魔力剣に魔力を流して受け止める。
この魔力剣は普段は鍔がデカイ細剣なんだけど、魔力を流すと魔力が刃となって片手剣や大剣になるという便利でかっこいい武器。
「随分と変わった武器を使うんですね。」
「自作だよ。かっこいいだろ。」
しかし、どうしたもんか。
片想いの相手を斬れるか? いや無理だろう。
となれば何か別の方法で無力化するしかない。
とりあえずは適当に打ち合って魔力を使っとくか。
まずは姫野さんの刀を弾く。
しかし、この世界にも刀ってあったんだな。
この戦いが終わったら買いに……っていかん。
この思考は死亡フラグになりかねないし、今は姫野さんの相手をする事に集中しよう。
「やあっ! はっ!」
「くっ!」
こちらから斬りかかる。
俺の振り下ろしを姫野さんは横に躱し、それを追いかけるように斬り払うと刀で受け止めた。
回転して反対側に斬りかかるとそれも刀で受け止め、そこから滑らせるようにして刀で突いてくるのでそれを半身になって躱す。
そのまま払ってくるのを魔力剣で防ぐ。
と、ここで左手をこちらに向けてきてその手に魔力が集中してくるのを感知する。
魔法か。
俺は魔力障壁を張りつつバックステップで離れる。
そして放たれた光の弾丸を魔力障壁が防ぐが、今のはただの牽制のようで姫野さんが詠唱を行っている。
魔力障壁の強度を上げて備える。
別に攻撃して詠唱を止めてもいいんだけど、傷つけたくないしね。
姫野さんの魔法は光属性上級魔法スターリィレイのようで上から降ってくる複数の光の流星の雨を障壁で全て防ぐ。
地獄の訓練のお陰で怪我一つする事なく済んだ。
「これも防ぐというの!? だ、だったらこれ……「そう何度も黙って食らうと思う?」 っ!?」
傷つける気はないけど攻撃して魔力を放出しないと、ロリ女神に不十分とか言われてお役目続行とかになったら困るからね。
「バットバレッツ。」
バットバレッツはコウモリ状の魔法の弾を飛ばす中級魔法。
こいつのいい所は軽い追尾性能があって魔力を吸収する効果がある事。
もっとも、俺に還元される事はないんだけどね。
これは俺のオリジナルで、魔王だしコウモリってなんか雰囲気あるよなって思って作った。
「何この魔法!? 障壁の魔力が!?」
まあ、敵の無力化を目的としてるし。
殺すなんてグロいことしたくないじゃん。
それに相手は姫野さんだし。
「なら、剣で倒せばいいだけ! エンチャント、ホーリーセイバー! 更にエンチャント、シャープエッジ! そして、エンチャント、アタック、スピード!」
あれは武器に光属性を持たせる中級魔法か。
こっちは魔力が剣になるからエンチャントする必要がないんだよね。
そしてシャープエッジは魔力で刃を補強して斬れ味を上げる魔法だ。
こっちは魔力が……以下略。
最後のは普通に身体能力を強化する魔法で、アタックとスピードはそのまんま、攻撃力と素早さを上げるやつ。
「行きます! デルタエッジ!」
3連撃を全て防ぐ。
その合間にもバットバレッツを撃ち込んでいく。
「くっ! ちゃんと戦いなさい! 魔力を奪ってばかりいて、どういうつもり!?」
「ちゃんと戦ってるじゃん。無力化も戦略の内だよ。」
「ふざけないで! 世界を破滅させる魔王のくせに、無力化なんて……戦う気がないなら、私に殺されなさいよ! 私の願いを叶えさせてよ!」
さっきも言っていたな。
姫野さんの願いって一体なんだろう?
そもそも願いってどういうことだろう?
家の、事か?
いや、今はもう良くなっているし………じゃあ、一体何だ?
「願いってなんの事だ。というか、世界の方はどうでもいいのか?」
「そんなのどうでもいいでしょ! あなたはここで私に殺されるんだから!」
「いやぁ、君程度の実力じゃ殺されるのも難しいよ。あ、でも事情を話したら同情なりして動きが鈍るかもよ?」
とりあえず挑発してみる。
ま、こんなんで話してくれるとも思わないけど。
それにしても、ここまで口調を荒げるなんてよっぽど叶えたい願いなんだな。
「うるさい! あなたには関係ないでしょう!」
「ごもっとも。」
さて、どうしたもんかね?
姫野さんの願いはすごく気になる。
でも、今の状況じゃ聞き出す自信なんてないしかといってすぐに無力化というのもまだすべきじゃない。
となれば、適当に挑発やらして情報を聞き出す努力をしつつ魔力をばらまくか。
「しかし、君は容姿も優れてるし、言葉遣いから育ちの良さがうかがえるからいいとこのお嬢様と見た。そんな君でも叶えられないの?」
「うるさい!! 黙って殺させろ!!」
「おお、怖っ!」
どうやら無理なようだ。
彼女の家は日本屈指の企業グループである姫野グループのトップだ。
それでも家柄やお金ではどうにもならないというのなら……つまりは物や権力ではない。
となると……………人の心、もしくは生命?
いや、心なんてのはこの異世界でどうにかなるものなのか?
そもそもなぜ彼女はここにいる。
………勇者なんてやってるんだから召喚されたのか?
なら彼女の望みは帰ることか?
「君は故郷に帰りたいのか?」
「そんなの、ここで死ぬあなたには関係ないでしょ!」
動揺してない。
つまりは………生命に関することか。
そんなのは俺にはどうすることもできないな。
というか、なんだかんだで分析できたよ。
俺すごい! ……………なんてやってる場合か。
…はぁ。
そこそこ魔力を使ったし、そろそろ終わらせるか。
「っ!? な、何、この強大な魔力は!?」
「ちょっと大きいのをお見舞いするから、全力で耐えてね?」
「っ! エンチャント、ディフェンス、マインド! ホーリーサークル! ウインドベール! それから、えと……」
「準備出来た? じゃあ、行くよ。」
「あと、魔力障壁全開ーー!!」
『超電・暗紫崩滅覇拳!』
「キャアアアァァァァァーーーー!!」
「やべっ! やり過ぎた?」
ホーリーサークルは対闇属性魔法だから闇を、ウインドベールは物理防御だけど風が密集するから空気の持つ絶縁性の関係でダメージを軽減できると思って雷属性を適当に混ぜて攻撃したんだけど………大丈夫だろうか?
なんか、凄い悲鳴だったんだけど。
「そんな、魔力切れ、だなんて………ごめんね……栗林……君……」
魔力を使い切ると気絶する。
魔力切れとはつまりそういうことだ。
だけど、なんで、最後に俺の名前を?
わからないけど、とりあえず彼女の介抱をしよう。
「ミリア、彼女を寝かせるからベッドの用意を頼む。」
「分かりました。………ところで私は2時間ほど席を外した方がいいでしょうか?」
「〜〜アホかっ! いらんわそんな気遣い!」
「ですが、彼女にHな事、するんでしょう?」
「誰がするか、このアホ天使っ!!」
こいつは智天使なんて言ってたがきっと痴天使の間違いだ。
◇
俺は姫野さんの看病をしながら、昔の……前世の事を思い出していた。
姫野さんとは小中高と一緒だった。
姫野グループが経営する国内でも一二を争う名門校、姫野園学院。
そこは将来の日本を背負って立つ人材を育成することを目的にしていながらも初等部、中等部の学費は普通の私立小学校や私立中学校とほとんど変わらないというなんとも太っ腹な学校だ。
高校も進学科や体育科、化学科などは高い物の普通科やとりわけ優秀な成績の者が入ることの出来る選進科はその辺の高校と変わらない。
その理由は門戸を広くしてより多くの人材を集め育成するというもの。
その為一般家庭生まれの俺も超お嬢様の姫野さんと同じ学校に通うことができたのだ。
といっても、クラスが同じになったのは初等部で6年の時の一回と、中等部の2、3年の計3回だけだからそれほど親しかったわけじゃないんだけどね。
で、だ。
その中等部1年の時に事件が起きた。
彼女の会社の重役の政治家との癒着が発覚した。
勿論すぐに捕まったけど、そんな不祥事があった為に業績が低下した。
高校に上がる頃には回復したものの当時はその事が原因で彼女の周りからは、親衛隊含め多くの人が離れていってしまった。
俺はその時既に片想いしていたこともあって距離感は変わらず、クラスが同じということで話す時は話すし(どもりながら)、班を一緒にしたりしたけどね。
「んっ、……ぅう………ここ、どこ?」
「おはよう、姫野さん。」
「あ、おはよう、ごじゃいましゅ。……………………………………………………………………………………………。」
「っ! 魔王!?」
どうやら寝起きはあまり良くないようで再起動するのに時間がかかってる。
それにしても、寝ぼけ眼で舌足らずな感じが可愛かったな。
「くっ!」
「わー! 待って待って。倒れたんだから無理しないで。」
「倒れ、た? ………そうだった。私はあの時魔力切れで倒れたんだった。………殺そうとした敵に介抱されるどころか、心配までされるなんて、こんなの勇者失格だわ。」
「姫野さんはこっちの世界とは関係ないんだから勇者を失格とか気にする必要ある?」
「そんなの、あなたには関係ないでしょう。」
「それに、最後に言っていた栗林ってのは?」
「そんなの、それこそあなたには関係ないでしょう。」
「か、関係なくは……ないよう「俺が勝ったんだから黙って言う事を聞いていればいいのだー。まずはその服を脱いでもらおうかー。」……な、って、なに勝手に台詞変えてんだよ!」
「あなたはいきなりなに「いやよー! 私が脱いでいいのは栗林君の前だけなんだからー。」……なにを言ってるのよーー!」
「ミリア! いきなり出てきてふざ「ぐへへー。俺がその栗林なんだからいいじゃないかー。」……マジでふざけるなこのバカ天使ーー!!」
「バカ天使じゃないですよ。智天使です。」
「最初の頃のあれはフリか!? なんちゃって真面目ちゃんか!?」
「いえね、私も最初は真面目にしようと思ってたんですよ。でも、ティナ様があまりにも可愛くてつい素が。」
「よだれを拭け、この、痴天使が!」
「むっ! 今嫌なニュアンスの“ち”でしたね。私のは智ですよ。叡智の智です。私、頭いいんですよ。それに天界での階級も天使の中では上から2番目ですし。」
「…………それはそのだらしなく緩んだ顔を見てから言え。」
本当に、最初の頃のあれは一体何だったのだろう。
元男だという事を気にしたそぶりもなく甲斐甲斐しく世話をしてくれて、その様たるや正しく天使だと思ったのに、蓋を開けてみればこんなアホだなんて……。
詐欺だろ、これ。
「あの、今天使って言った?」
「言いましたよ、享年16歳の栗林弘樹さんの事が好きでこの世界に召喚される際にアリア様に「私のぉ、だぁ〜い好きなぁ〜、栗林君を〜生き返らせて欲しいんですぅ〜♪」って言っていた姫野智花さん。」
「そんな事言ってないでしょーーーーーーーー!!! 私はただ、せめて想いだけは伝えたいって言ったの。」
「私もそう聞いています。」
「……………この…」
「それで、アリア様には魔王と戦えばその願いは叶えられるだろうって言われたんですよね。」
「〜〜! …………はぁ。そうです。だから私は訓練に励み魔王を倒す為にここを訪れました。結果は、散々でしたけどね。」
「アリア様は戦えとは言いましたが、倒せとは言ってませんよ。それに倒したら本当に想いを告げられませんし。」
「………え? それじゃ、さっき言ってたのは本当で、本当に、栗林君なの?」
「……本当だよ。本当に俺が栗林弘樹だよ。」
「嘘……そんな……だって、栗林君は私の家が大変な時も気遣ってくれるくらい、優しい人なのに、そんな…………………なんで、そんな人が魔王なんてして世界を滅ぼそうとしてるのよーー!!」
「あれぇーーーー!? なんでそうなるの!? ここは生きてて良かったとか、そういう流れじゃないの!?」
「えーと、では、後はお若い2人に任せて私はここで退散させていただきますね。」
「適当にかき回して逃げようとするなアホ天使ーーーーーー!!!」
◇
姫野さんを宥めながら事情を説明する。
「つ、つまり、魔王は負のエネルギーを浄化するために存在していて世界を滅ぼす存在じゃなくて、魔王が世界を滅ぼそうというのは人間側の勘違い?」
「そうなるな。」
多分だけど、負のエネルギーで世界のバランスが崩れて災いとか疫病とかが蔓延するけど、それを浄化する効果のある魔王はそういう時に現れるから魔王が元凶で世界を滅ぼそうとしているって思われたんだろうな。
「あの、その、ごめんなさい! 私、勘違いで殺そうとしちゃって。」
「気にしないで。どの道戦わないと浄化できないからさ。」
「本当に、ごめんなさい。それと、ありがとう。」
「それで、さ。その、姫野さんはさっき、想いを伝えたいって、言ってたよね。それって、さ、つまり、お、俺の、事が好きって、事、だよね?」
「っ!? えと、その、あの……………そ、そう、です。」
「………………………。」
「………………………。」
「あの、俺も、前から、姫野さんのことが、好きです。だから、俺と付き合ってください。」
「はい!」
やばい。
今絶対顔赤くなってる。
でも、スッゲー嬉しい!
『どうやら無事に願いは叶ったようじゃの。』
「この声はあのロリ女神か。」
「神様!?」
『うむ。みんなのアイドルアリア様じゃよ。』
「じじい言葉でアイドルて……」
『ダメかの? まあ、それはよい。それで、栗林弘樹、いや、デスティナよ。初戦の感想はどうかの?』
「どうもこうも、初恋の人と戦わな……ん? 初戦? これで終わりじゃないの?」
『当たり前じゃろう。最初に説明させたから知っている筈なのじゃが……まあ、昔の事じゃし忘れててもおかしくはないかの。』
最初?
そういえば、何か言っていた気がする。
その時は女になった事による衝撃と絶望で耳に入ってなかったけど。
『勇者は残り99人おるからの。一応気にかけておくが儂もこれでなかなか忙しい身での。そこの嫁と共に死なぬように頑張るようにの。では、儂はこれで。』
「えーと、い、一緒に頑張ろうね。」
「…………ゆ、勇者100人とか、ふざけんなぁーーーーーーー!!!!」
俺の魔王業はこうして始まった。
当初のタイトルは「魔王転生したけど、勇者多過ぎね?」でした。
これは学校の課題の資料として用意しようとして間に合わなかったんですけど、折角途中まで書いたんだしと思い、完成させた作品です。
設定は大分前に考えてあったんですけど。