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心強い共闘

「初めまして、マイと申します。あたしもこの世界の生存者です。今日の『解放』に力を貸していただく事、とても嬉しく思います。ココロ嬢、文歌嬢、どうぞよろしくお願いいたします」


 時刻は十三時十五分。秘密基地にて。

 マイは先に戻っていたココロと五十鈴に、丁寧に頭を下げ、丁寧に自己紹介をしていた。

 ……すんごい、嫌そうな顔で。


「……」

「……」 


 二人にもその雰囲気が伝わったのだろう。「新たな仲間が加わった」という事実に綻ばせかけた顔が引きつっていた。


「……あー」


 記憶のカケラが見つかった事にも喜んでくれていたのに、まさかすぐにこんな空気になってしまうとは。


 公園でのしつこい懇願というか説得というか、その末に何とか俺は「もういいです、勝手にしてください」と彼女の意地を折る事が出来た。

 ちなみにその間何度もマイから「変態、変態」と連呼され、俺の精神は何度もへし折られた。失ったものも大きい。

 本当は十四時にまたここに集合するという話だったが、十三時頃に(これも頑張って)グラウンドまで連れて来たマイにその事を説明すると「そんなに待っていられない」とどこからともなく取り出したのろしを上げてくれた。するとココロと五十鈴が、何事かと捜索を打ち切ってすぐにここへ戻って来てくれたというわけだ。

 こんな手段もあったのかと、彼女の強引さはともかく素直に感嘆した。記憶のカケラは見つかったというのに彼女達に捜索を続けさせるのは申し訳なかったし、この時間短縮はこちらとしてもありがたい。 


 そして、微妙な空気となった今に至る。

 しばらくするとココロは微妙な顔のまま、俺の方に近寄って耳打ちしてきた。


「……コウジ。ダメだよ、まだ幼い子を無理矢理さらってくるだなんて……」

「おい」


 こいつは何を言っているのだろう。嫌がる幼女を俺が無理矢理誘拐してきたとでも思っているのだろうか。なんともひどい誤解だ。あれでも絵面的にあながち間違っても……考えてはいけない、自殺行為だ。俺は変態などではない。

 あと騙されてはいけない。奴はただの幼女じゃない。何回も俺を(心も体も)殺しにかかってきた奴は、断じていたいけな幼女ではない。

 ちなみに、白い布で覆って担いで来ていた機関銃は今そばの壁に立てかけてある。

 これがなければ、格好が少々特殊だが確かにその姿は正真正銘可愛い少女だった。……あとは不機嫌そうな顔さえしていなければ完璧なのだが。

 残された五十鈴は、そんな彼女にめげずに接していた。


「こ、これはどうもご丁寧に、マイちゃん。私は五十鈴です。昨日は本当にありがとう。そして今日はよろしくね」

「あの、さっき述べた通りあなたの名前は知っています、文歌嬢。そちらの自己紹介など不要です」

「あはは……でも、マイちゃんも名乗ってくれたんだし。わたしも、ね? あと、『嬢』なんて付けなくていいよ。ちょっと照れくさいなぁ……」

「いえ。あなた達は目上の人ですので、そういうわけにもいきません」

(……じゃあ俺は?)


 これもあまり考えてはいけないのかもしれない。

 そんな俺の沽券にもかかわる疑問とは裏腹に、彼女達の話は進む。


「それと、ちゃん付けは止めて下さい。不快です。呼び捨てで構わないので」

「あ……そっか、ごめんね。でもわたし、相手を呼び捨てにするの好きじゃなくって。マイさん、はダメかな?」

「なんであたしが年上のあなたからさん呼ばわりされなくてはならないのですか。……ああ、もういいです、勝手にしてください」

「本当? ふふ……良かった」


 ぶっきらぼうな態度をとるマイに、それでも五十鈴はにっこりと笑って、どこまでも優しい。

 その身長差も相まって、その様子はまるでわがままな妹とそれに対して根気強く接してあげている心優しい姉のような絵面だった(もちろんこんな事をありのままに言ったらその妹に何をされるか)。


「……まあなんだココロ、見ての通りあいつは少々わけありなんだ。だが、昨日俺達をあいつが助けてくれた。気難しい奴だが、どうかよろしくしてやってはくれないだろうか……?」

「……なるほど。そう、だね……」


 こちらも耳打ちでそう言うと、ココロは思案する仕草を見せた後マイの方へ戻っていった。


「初めまして、マイ。私はココロ、君と同じ生存者だよ。今日はよろしくね。それと、昨日は私を助けてくれてありがとね」

「何度も言いますが、あたしは別にあなた達の自己紹介を聞きに来たわけでも、あなた達からお礼を聞きにきたわけでもないのですが。合流は果たしたので、行くのなら早く『解放』に行きましょう」

「まあまあ。されたら返すっていうのが自己紹介の様式美みたいなものだし。そしてこっちは、お礼を言いたかったがために君に会いたかったんだから。勿論そのお礼は今日の働きで返すつもりだけれどねー」

「……ふん。まあ、いいです。変な成り行きですが、共闘するというからにはあたしもあなた達に全面的に力を貸すことに――」

「ん、待った。その前に」


 と。何故か急にココロはマイの言葉を遮ると、ビシッと彼女を指さした。


「マイっ! 私と、勝負してもらうよっ!! 決闘じゃー!!」


「「「……は?」」」


 マイ、俺、そして五十鈴までもが、「こいつ何言ってんだ?」みたいな目をココロに向けた。

 そんな視線に動じる様子もなく、彼女は不敵に笑う。


「ふっ。分かって無いようだね、マイ。当然だろう、君は一応私達の『新入り』みたいなものなのだから!」

「俺にも分からないんだが」


 そんな俺の言葉を無視し、ココロは更にテンションを高くして語る。


「いい? 仲間が増えてくれるのは嬉しいけれど、ただ仲間を増やすというわけにもいかないんだよ。少数精鋭でやっている我らが世界救済うっかりどっきりやばいよ探検隊に、無駄な戦力はいらないからね」

「おい待ていつの間に命名した、そのくそださい上に名前の長さのわりに全然情報の詰まっていないチーム名」

「……だから仲間に引き込む前に、まず実力くらいは把握しておきたいってところ? つまり、これは君の力を図るためのものっ! 君の実力を見極める――いわゆる私達への『入団試験』というわけなのだよっ! おーけー?」


 理解する。これはまた――この馬鹿が暴走を始めた!


「いやいやいやいや!? お前はただの馬鹿か!? いや真正の馬鹿だ!!」

「ああっ! 馬鹿って言った、馬鹿って言った!! ダメだよコウジ、馬鹿って言う人の方が馬鹿なんだよ!!」


 ココロの幼稚な返しはスルーし、俺は突っ込む。


「違うから! 今日は俺達が昨日のお礼にマイを助けるって形だから! 『入団試験』とか何様だよ俺達!?」

「大丈夫大丈夫。こっちとしても不合格なんて望んでいないからね。合格条件は『この試験を受けてくれたら』という比較的楽なものにするから」

「『比較的』どころか最早最低条件なんだがそれ!? 合格率百パーセントだわ! 試験とやらをする気すらねえだろお前!! 要するにマイとただ遊びたいだけなんだな!? そうなんだな!?」

「ち、違うよっ! これは私達の将来に関わるうんぬんかんぬんなあれにのっとったあれ的なそれなやつで!!」


 ぎゃーぎゃーと俺とココロが言いあっていると、マイが呆れたように溜息をついた。


「……くだらない。話になりません。やはり『解放』はあたし一人で……」


 そしてこちらに背を向けて秘密基地を出ていこうとする。


「マ、マイ……!」


 悲壮な声で彼女の背中に呼びかけるが、その足は止まらない。


(ああ、そりゃそうなるわな。せっかくマイが俺達に協力してくれる気になったのに、台無しだ……ココロのあほ……)


 彼女には後でお説教確定である。

 しかしマイが入口の階段を上り始めようとした時、ココロが口を開いた。


「おやおやー? マイ、ひょっとして私に負けるのが怖いのかなー? まあしょうがないか、私のほうが強いもんねー」

「……うわぁ」


 何とも分かりやすすぎる挑発にドン引きする。そんなものに誰も乗るわけが――


「……何ですって?」


 ――乗るんかい。


 口元まで出かかったその突っ込みを辛うじて抑える。

 マイはぴくぴくと眉を動かしながら、こちらを睨みつけていた。


「このあたしが、あなた達よりも弱い? ご冗談を。いくら昨日の『解放』はそちらに助けてもらったとはいえ、調子に乗らないでいただきたいものです」


 そんなマイに対して、ココロはこれまた挑発的な笑みを浮かべる。


「ふふん。なら――その実力、是非とも見せていただきたいものだね?」

「上等です。あとでほえ面かくんじゃないぞ、ですよ」


 二人の視線がぶつかり、火花が上がったように見えた。

 五十鈴はもう終始苦笑いに徹していた。

 最早俺も何も言えない。


 ……マイ。この子は意外と扱いやすい子なのかもしれない。




 真っ白に染まったグラウンド。そこに二人が沈痛な面持ちで立つ。


「いいかいマイ? 勝負は『かけっこ』だよ。ここから『解放』現場である公園までどっちが先に着くのかという単純なもの。だがしかし、今は雪が積もっている。これがただの『かけっこ』にはならない事をゆめゆめ忘れない事だね」

「笑止。雪道の走行など、あたしには他愛の無い事。負けるはずもありません」


 一瞬の沈黙。何とも言えない緊張感が、こちらにも伝わってきて――


「ス、スタート!!」

「「うおおおおおおおおおっっ!!」」


 任されていた俺のスタートの掛け声と共に、ココロとマイが雪を蹴散らしながらの爆走を始める。

 雪の中だというのに二人とも凄いスピードだ。あっという間にグラウンドを出て、そしてあっという間にその姿が見えなくなった。


 再び訪れた静けさの中に、俺と五十鈴だけが取り残される。


「……俺達はのんびり行くか」

「そうだね……」


 俺達は、あの二人が走った跡に沿って歩き始めた。雪を蹴散らしてくれたおかげでだいぶ歩きやすくなっているのは助かった、と思いながら。




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「終末へのココロギフト」を読んでいただきありがとうございます!よろしければこちらより、現在連載中のファンタジー 「そして勇者は、引き金を引く〜引きこもり少年と怪物少女の、異世界反逆譚〜」 も読んでいただけるととても嬉しいです!よろしくお願いします…!
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